第四話 First love 人生は一箱のマッチ
毎日、読んでいただき、ありがとうございます。
その日、歌ダ41のマネージャー氏から電話があった。
「ウチの山上が、あなたに相談事があるそうなんですが」
山上美陽は歌ダ41のエースで、グループ内では一番人気のアイドルだ。その美陽が俺に何の相談だろうか。
こうして、この日の夕方。俺は芸能プロダクションの応接室で、美陽と二人きりで面会することになった。
「あのう、私の友達のお兄さんが行方不明になってしまって、捜してもらいたいんですけど」
「それは警察に相談するか、私立探偵に依頼する事だよね。俺はボディガードであって探偵ではないから」
「駄目ですか」
美陽はガッカリとした表情で俺を見た後、とても言いにくそうな口調で、
「でも、彼は私の初恋の人なんです」
「そう。でもまあ。そうだとしても」
それは関係ないだろう。と、俺は思ったが口には出さず、
「いいよ。知り合いの探偵に頼んでみるから」
と、美陽の頼み事を受けることにした。彼女たちアイドルは今だに『恋愛禁止』だ。美陽が昔の初恋を美化して、その男に執着するのも仕方がない。
「そうだな、彼について知っていることを、その電話の横にあるメモ用紙に、何でもいいから書き出してみて」
「はい。ちょっと待って下さい」
美陽は一心不乱になり、メモ用紙に色々と書き込んでいる。その彼の事が心配でたまらないのだろう。
それに今の美陽にとっては、こんな頼み事をできるのは、俺しかいないのかもしれない。
その後、俺が美陽と別れ、芸能プロダクションのビルから出ると、マネージャー氏が待ち伏せしていて、
「山上の相談って、何の話でした?」
「まあ、なんか不安な事があるみたいだけど。たぶんね、取り越し苦労じゃないかな」
と、俺は適当な事を言って誤魔化した。
その夜、俺は例の情報屋に電話して、その彼氏の捜索を依頼すると、翌日には、早くも報告の電話が入った。
「旦那、あの男はヤバいですぜ」
「ヤバいって、どうヤバいの?」
「あの男は国際犯罪組織の構成員で、内部でトラブルがあったみたいなんですよ」
「それは事実なのか?」
「はい。これは正確な情報でして、それに妹のほうも組織に深く関わっているみたいですよ」
「わかった。もう調査は中止してくれ。ありがとう」
俺は早々にマネージャー氏に電話して、美陽との面会を求めると、その日の夜、テレビ局の楽屋で美陽と会うことができた。
そこで俺は、情報屋からの話を美陽に伝え、
「そういう事なんで、あの彼氏とは、もう関わらないほうがいい。それに妹のほうとも縁を切るんだ」
美陽は何も言わず、ただ無言のまま下を向いている。
そして三日後、テレビのニュースで、その彼氏が漁港で変死体として発見されたと報道された。さらに妹も情報屋の話によれば、
「どうやら、海外に売り飛ばされたらしいですぜ」
普通に暮らしていた若い兄妹が国際犯罪組織と関わり、気がつけば、取り返しのつかないことになっている。
これが現代社会の恐ろしさだ。確か芥川龍之介の言葉だったと思うのだが、
「人生は一箱のマッチに似ている。重大に扱うには馬鹿馬鹿しい。重大に扱わなければ危険である」
これからも、最終十二話まで、毎日、投稿できるように頑張ります。