第三話 Movin' on without you スケベなだけで金がない
ヘイジという男はプロデューサーの見習いで、こいつは『スケベなだけで金がない』奴だった。
「お前、スケベなのは仕方がないが、歌ダ41の女の子には手をだすなよ」
だが俺とヘイジは、なぜか気が合い、時々、ヘイジの友達が経営する『甚兵衛』という居酒屋で飲む仲だ。
「そんな事をしたら、過激なファンに殺されますよ」
「いや、ファンが殺す前に俺が殺す」
「止めてください。アニキ、マジで怖いッス」
ヘイジは、どちらかというと、だらしないダメ人間だが、愛嬌があり憎めない。そんなヘイジが、
「実は俺、春元麻冬と付き合っているんです」
「えっ、本当に!」
春元麻冬とは歌ダ41の卒業生で、今は女優として活躍している。アイドルグループは卒業しているので『恋愛禁止』ではないが、
「まさか、あの春元麻冬とヘイジが」
恋人同士とは信じられない。
「自分でも驚きッス。必死になって口説いていたら、なんとかなっちゃいまして」
そして、この夜は朝まで、俺とヘイジは飲み明かした。
だが、その一週間後のことだ。テレビ局の楽屋の前で歌ダ41の警備をしていると、春元麻冬が駆け寄ってきた。俺は右手を挙げて、
「久しぶり。ヘイジから聞いたよ」
「そのヘイジが今、大変なんです」
麻冬の話によると、ヘイジは違法カジノに出入りしていて、ギャンブルで多額の借金をつくったらしい。
そして借金を返せなくなったヘイジは、カジノを運営するマフィアに拉致された。
そのマフィアはヘイジの命と引換えに、麻冬に違法アダルトビデオへの出演を要求してきたそうだ。
その話を聞いた俺は、麻冬と共にタクシーに乗り、ヘイジの救出に走る。
「歌ダ41の警備は大丈夫なんですか?」
「情報屋からの連絡もないし、今夜は、彼女たちは安全だろう」
タクシーで向かった先は湾岸のビルだ。その一室にカジノはあった。カジノの入口に立つ大柄の男は、
「ようこそ、超大物AV女優さん」
と、麻冬と俺をビルの地下にある、マフィアのアジトに案内する。そのアジトの中には、この大柄な男を含めて、五人の男たちがいた。
ヘイジはボコボコにぶん殴られて、床に正座させられている。
「ま、麻冬、それにアニキも……」
奥のソファーに座る中年の男が、たぶんボスだ。そのボスは俺の姿を見て、
「あんたは事務所の人?」
「俺は、こういう者だよ」
と、大型のリボルバー拳銃を抜き、ボスに銃口を向ける俺。
周りの男たちは、一斉に拳銃を出し、
「テメェ、何のつもりだ!」
「ふざけるな、ブチ殺すぞ」
怒鳴り声をあげたが、ボスが静かな声で男たちを制した。
「止めておけ、この人は、お前たちの勝てる相手ではないよ」
俺はニヤリと口元だけで笑い。
「あんたは少しは『人を見る目』があるようだな」
「その男は解放する。それでいいだろう。引いてくれ」
「物わかりのいいボスだな」
「これくらいの状況判断ができないとな、裏社会では長生きできないのだよ。あんたも、そのへんは良く知っているだろう」
こうして俺は、アッサリとヘイジの救出に成功した。
「アニキは命の恩人です」
「本当に、助かりました」
帰りのタクシーの中で、ヘイジと麻冬は、泣きながら俺に礼を言った。
第三話まで、お付き合い頂き、ありがとうございます。今回は全十二話になる予定です。よろしくお願いします。