最終話 Automatic 真夜中の決闘
ネオ・ドームのコンサートが近づいていたため、アイドルグループ・歌ダ41は体育館を借り切っての稽古を行っていた。
だが最近、人気急上昇中の彼女たちはテレビ出演などの仕事が忙しく、コンサートの稽古は、夜、遅くにやらざるを得ない。
メンバーの中でも、最も熱心に稽古に取り組んでいるのは、絵葉リリスだ。
「最後の最後、全力で頑張って、最高のパフォーマンスをファンの皆に見せたいんです」
リリスにとっては、これが最後の『歌ダ41』としての舞台となる。
リリス以外のメンバーも、懸命に稽古をしていた。彼女たちは皆、このネオ・ドームでのコンサートを成功させたいのだ。
そんな彼女たちの身体のことも心配だが、俺が最も心配することは身の安全だ。
なにせ凄腕の殺し屋が、彼女たちの命を狙っているのだから。しかも、この件には、俺の『個人的な確執』が絡んでいた。
真夜中の体育館の周辺を、一人で警戒する俺。その俺に向かって、一つの影が近づいてくる。
「石男か!」
影の主は長身で、右手にはオートマチック拳銃を握っていた。間違いない、石男だ。奴は真正面から来たのか。
石男は悠然と歩きながら、静かな声で、
「どうした、なぜ、撃たない。腑抜けたのか?」
約十メートルの距離。石男が足を止め、俺と対峙する。
「決闘は受けるよ。だから関係のない彼女たちには、手をだすな」
「そうは、いかないな。歌ダ41の命が、かかっているからこそ、お前は本気になる」
「本気の俺だと」
「そうだ。この国で腑抜けた、お前に勝ったところで何の自慢にもならない」
奴は心底、ヨーロッパ最強の称号を欲しているようだ。石男は俺をジッと凝視しながら、
「そろそろ、始めようか」
俺は覚悟を決めて、大型のリボルバー拳銃を抜く。それを見た石男は侮蔑するような口調で、
「まだ、そんな時代遅れのオーバーパワーの銃を使っているのか?」
「確実に、獲物を仕留めるためさ」
「人を殺すなら九ミリ弾で充分だ」
そう言った石男は、俺に銃口を向け、言葉を続けた。
「銃には用途に合った機能が重要だ」
「プロの銃にはな、美学も必要だぜ」
俺も拳銃の狙いを定める。
そして、一瞬の沈黙の後、
バアァーン!
ドオォーン!
二発の銃声が闇夜に響いた。石男の放った銃弾は、俺の頭をかすめたが、
俺の銃弾は石男の心臓を、ぶち抜いたようだ。
「う、うがぁ」
真後ろに倒れ、微かに呻く石男。死に往く奴に向けて、
「お前のオートマチック拳銃は機能的だろうが……」
俺は最後の言葉を吐き捨てた。
「俺から見れば『迫力不足』だ」
その後、いつかの違法カジノのマフィアのボスに、俺は電話をする。
「すまないが仕事を頼みたい。死体の処理なんだが、もちろん金は支払うよ」
すぐにマフィアの手下が車で現れ、俺から相場の料金を徴収してから、石男の死体を回収した。
すでに時間は深夜になっている。それでもまだ、体育館では歌ダ41が稽古を続けていた。
後日、六万人の大観衆を集めて、歌ダ41のネオ・ドームでのコンサートは大成功する。
これが卒業公演となった絵葉リリスは、大歓声の中、最後に、
「私は、これで卒業します。でも『歌ダ41』は永遠に不滅です!」
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。これからも、よろしくお願いします。