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第十話 花束を君に/ある少女の残影

 不治の病の九歳の少女がいた。その少女は『歌ダ41』の大ファンであるらしい。


 そして歌番組の企画なのだが、少女が入院する病院の屋上で、歌ダ41がライブパフォーマンスをすることになった。


 当日、昼過ぎから音響やセット、撮影機材を病院の屋上に上げて、さらにパイプ椅子を並べて会場を設営する。観客は入院患者と医師、看護師などの病院関係者だ。


 会場の準備をしている間に、歌ダ41のメンバーと、その少女が面会している場面が撮影された。


 主要メンバー数人が病室に入ると、


「うあぁっ、本当に来てくれたんだ」


 と、ベッドに横たわる少女は、感激を爆発させる。そのベッドに絵葉えばリリスが近づいて、


「体調はどう。大丈夫?」

「元気です。ありがとう」


「そう、良かった。今夜のライブパフォーマンスを楽しみにしていてね」


「はい。待ち切れないな。よろしくお願いします」


 その後、慌ただしい準備が整い、いよいよ夜になった。


 後は放送時間に合わせて、歌ダ41の登場を待つだけだ。あの少女も、母親と看護師に付き添われ、屋上に出てパイプ椅子の客席に座っている。


 目をキラキラとさせて、歌ダ41の登場を待つ少女。


 俺も屋上の会場で警備をしていると、スマホに着信があり、


「旦那、そちらに、ヨレンジャーが向かっていますぜ」


 それは情報屋からの密告たれこみだった。


 その『ヨレンジャー』とは、歌ダ41の熱狂的なファンの四人組なのだが、


 最近はイベントの妨害や、メンバーへの嫌がらせなど、過剰な迷惑行為をくり返している。


 もちろん警察に捕まることも、一度や二度ではない。ただ微罪なので刑務所に入れられることはなかった。


 そういった連中は、大抵、社会的な弱者だ。彼らのように社会に不満や恨みのある連中は、往々にして社会に対する復讐を企てる。


 それならば、政治家や英雄的な人物を狙えばいいのだが、彼らは、


『自らの愛するアイドルを標的にするのだ』


 この歪んだ心理や行動も、この時代の一つの象徴だろう。


 情報屋の密告を聞いた俺は、夜の闇に紛れて、病院の駐車場の車の陰に身を隠した。


 しばらくして、屋上でのライブパフォーマンスの音が聞こえだした頃に、四人の人影が急ぎ足で、この病院に向かって来る。


 奴らはヨレンジャーだ。


 車の陰から俺は、大型のリボルバー拳銃を構えて、


 ドオォン!

 ドオォン!

 ドオォン!

 ドオォン!


 四連射。バタバタと路上に倒れる、ヨレンジャーの四人。こんな奴らを始末することは、俺にとっては一瞬の仕事だ。


 その時、病院の屋上では、まだ歌ダ41の歌声が続いていた。


 

 この放送は視聴者にも感動を与えたようで、大きな反響があったのだが、その二日後、不治の病の女の子は病状が悪化して死んでしまう。


 そして翌週の歌番組に急遽、絵葉リリスが出演することになった。リリスは涙が流れるのを堪えながら、


「皆様に、悲しい報告があります。実は……」


 と、その少女の死を視聴者に報告する。


「それでは私は、この曲が天国に届くように、心を込めて歌います」


 そう言って、リリスは少女の追悼のための歌を熱唱するのだった。

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