修学旅行バス渋滞の悲劇~委員長女子がトイレ我慢の限界なのに……
エンジンのアイドリングが止まり、空気の抜けるような音と共に前方のドアが開く。
10月の少々肌寒い空気が車内に流れ込むと、乗客である学生達は、皆疲れを吐き出すような息を溢した。
時刻は15時45分。
国立律修館高校の修学旅行の帰路を担う大型バスは、最後の休憩となるサービスエリアに到着した。
長時間座っていた生徒達は、こりを解すように大きく体を伸ばす。
また数人はトイレに行きたいのだろう。
落ち着きなく身を揺すっており、特に女子1名は特にまずい状態なのか、息を荒くして脚を擦り合わせている。
「えー、このサービスエリアで15分休憩する。この先休憩はないから、トイレに行きたい者は必ず済ませておくように」
担任教師からの注意事項が終わると、生徒達の一部が一斉に席を立ち上がる。
先陣を切ってバスの外へ飛び出していくのは、やはり猛烈にトイレを我慢していたあの女子だ。
「あぁぁぁっ……漏れるっ、漏れるぅっ……!」
「はははっ! あんたジュース飲み過ぎだって。さっきのコーラが入ってるのはここかぁ?」
「んんぁぁっ!? や、やめてっ……! 本気でヤバいのっ……あぁぁっ……!」
「ご、ごめんっ……! さすがにそこまでとは思わなくて……急ごうっ!」
突然の喘ぎ声に男子達の視線を集めながら、バタバタと駆けていく我慢女子と付き添いの友人。
その他、身を揺すっていた者達も急ぎ足でバスを降り、それ以外の者もバラバラと談笑しながら外に出ていった。
担任、ガイド、運転手も思い思いに休憩へ。
そんな中、まだバスの中に残る女子生徒が2人。
「彩月……本当に、休憩いいの……?」
「うん。私は大丈夫だから、裕子は行ってきて。裕子だって、結構我慢してたんでしょ?」
裕子と呼ばれた女子は、実際かなりトイレに行きたいのだろう。
座ったままの友人を気にかけつつも、その場で忙しなく足踏みをしている。
視線も、友人、バスの出口、そして遥か前方のトイレと落ち着きがない。
「う、うん……じゃあ、ごめんね彩月………んぅぅ……っ」
「ううん。気遣ってくれて、ありがとね。ほら、急いでっ」
やがて、少女は若干腰を揺すりながら、バスの外へと駆け出していった。
これで、残されたのは1人だけ。
「ふぅ………」
河村彩月。
黒髪を肩で切り揃えた、吊り目気味だが大きな瞳が可愛らしい、学年を越えて名前を知られる美少女だ。
性格は真面目で、どちらかと言えば明るい方。
少々堅いところはあるが人当たりもいい彼女は、当然の如く人気もあり、他のクラスの男子や上級生からも告白を受けることがある。
そんな彩月だが、今はヨロヨロとトイレに向かう友人に、羨望の眼差しを向けていた。
「大丈夫………よね………」
そう言いながら、無意識に下腹をさする彩月。
本当は、彼女もトイレに行きたいのだ。
友人――裕子や、真っ先にバスを飛び出した少女のような緊急状態ではないが、普段ならトイレに向かう程度の尿意を催している。
(やっぱりトイレに………あぁ、でも………)
だが皐月には、バスの外に出るのを躊躇う理由があった。
(だめ……やっぱり出られない……っ)
――こんな格好じゃ。
彩月は、その脚を付け根まで露出させる、ブルマ姿を晒していた。
◆◆
高校2年の修学旅行……その最後の予定が、なんちゃらシーワールドだったことが、彩月の不幸の始まりだった。
初めは仲のいいメンバーと中を見て回っていた彩月だったが、途中男子グループと合流。
そのままイルカショーを見に行くことになる。
修学旅行テンションで、カッパも着ずに最前列に座った彩月達は、案の定バンドウイルカの全身ダイヴの餌食となった。
他の女子達は上手く男子を盾にしたのだが、逃げ遅れた彩月は下着までずぶ濡れになる大惨事。
当然、このままバスに乗ることはできない。
間の悪いことにバスの貨物室が使えなくなっていて、旅の着替えも郵送で送ってしまっている。
男子達と彩月は、手荷物として唯一残った着替えである、体育着を着ることになった。
男子達の体育着は、半袖の白Tシャツと膝上ハーフパンツ。
この時期少々肌寒いが、人前に出れない格好ではない。
だが彩月達女子の体育着のボトムスは、未だ時代の流れに取り残された、肌に張り付く紺色のブルマだった。
小学校の中学年くらいならまだしも、彩月は『女の体』が出来上がった高校2年生。
尻から太股にかけてのラインはむっちりと肉の魅力を撒き散らし、胸も人によっては巨乳グループに入れる程度には大きく発育している。
そんな彩月の体が、体育着の胸部を窮屈そうに盛り上げ、ブルマの締め付けが下半身の肉付きを更に強調する
水着OKのアイドルでも、『清純派』を売りにしていたら敬遠してしまうレベルの卑猥さだ。
少々恥じらいが強めな彩月には、男女別の体育の授業で精一杯。
とても外を歩けるような格好ではない。
水族館のトイレで着替えた後は、友人女子達に周囲から隠してもらい、逃げるようにバスの中へ。
このサービスエリアでも降りることが出来ず、縮こまったまま15分の休憩を終えようとしていた。
やがて出発の時間が近付き、サービスエリアに出ていた生徒達が戻ってくる。
帰ってきた男子達の視線はやはり、じっと座ったままの彩月に吸い込まれていく。
制服の時より形が浮き出た胸に。
付け根まで露出した太股に。
ブルマしか纏うもののない、何とも艶かしい腰回りに。
「くっ……!」
両手で体を隠したい衝動を、彩月はグッと堪える。
そんなことをすれば、自分が恥ずかしがっていることが知れ渡り、より恥ずかしい思いをすることになる。
「あ、ナッパ! トイレ凄い行列だったけど、間に合った?」
「だから菜花だってーの! トイレは、も、もちろん間に合ったわよ……!」
「おやおやぁ? 泣きながら傍の茂みに――」
「おわあああぁぁぁっっ!!!」
真っ先にトイレに駆け出していった2人組も戻ってきた。
どうやら我慢少女は、イレギュラーな方法で大ピンチを乗り切ったらしい。
「それ以上言ったら、アンタの最後のお漏らし校内放送で流すかんね!? 小6の運動会で――」
「ごめんごめんごめんてぇぇぇぇっ!!?」
少々騒ぎすぎて、不必要な恥まで晒してしまっているが。
コントのような暴露合戦に、戻ってきている生徒達から笑いが巻き起こる。
そんな中、一人深刻な表情を浮かべる彩月。
(お、お漏ら…………だめっ……! 考えたら、引っ張られてっ……!)
「うっ………んふぅっ………」
菜花が口走った『お漏らし』という単語に、下腹が反応してしまったのだ。
ブルマの締め付けが、更にきつくなったように感じた。
(結局………トイレ、行けなかった。学校まで、我慢できるよね……?)
膀胱は、サービスエリアに着いた時より明らかに重くなっていた。
――16時00分。
不安に苛まれる彩月を乗せたまま、バスは残り2時間の、休憩のない道のりを走り出した。
◆◆
――16時25分。
「んん…………んっ………んぅ………っ」
サービスエリア出発から僅か25分で、彩月の不安は的中してしまった。
長時間トイレに行けないという不安のせいか、下腹の水位は急激に上昇。
チャポチャポと揺れる体液が、彩月に重たい苦痛を与えてくる。
(どうしよう………もう、凄くトイレに行きたい…………まだ、走り出したばっかりなのに………っ)
まだ、今すぐに漏らしてしまうというわけではない。
先ほどの菜花や裕子に比べれば、おそらくかなり余裕はあるはずだ。
だが、あの時の彼女達はトイレ目前。
行列を加味しても十数分で個室に辿り着けるし、最悪菜花のような『緊急避難』に及ぶこともできた。
対して今は、逃げ場のないバスの中。
彩月が下腹の廃水を解き放つには、あと1時間半以上は高まっていく尿意を耐え続けなければならない。
(これじゃ、すぐに我慢できなくなって………あぁぁっ……! そしたら私、どうしたらいいの………!?)
「ふぅぅっ………ふぅぅっ………んんっ………んんっ………」
不安が体を萎縮させ、小水の波打つ膀胱が縮こまる。
すると尿意は更に強まり、その欲求が不安を更に助長させる。
逃れられない、負の悪循環。
「んんぅっ………んんっ………ふぅっ……ふぅっ…………んんっ……!」
「河村さん……どうしたの? 酔った……?」
「えっ? あ、う、ううんっ……大丈夫。何でも無いから……」
不安と尿意に耐えきれず、溢れた声が大きすぎたらしい。
隣の席の男子に苦悶の吐息に気付かれてしまい、慌てて取り繕う彩月。
この修学旅行、席次はくじ引きになっており、彩月の隣は花岡という、あまり接点のない男子だった。
花岡は、どちらかと言うと大人しい方だが、だからと言って男子に尿意を我慢していることを知られるなど、彩月には耐えられない。
彩月は居住まいを正し、呼吸を落ち着ける。
「ちょっと、冷えちゃったかな……って。本当に、それだけだから……気にしないで」
自身の差し迫った内情を隠そうと、彩月はできる限りの平静を装い、花岡との会話を切り上げた。
そして、そのまま通路側の様子を伺う。
彩月が気にしなければいけないのは、花岡だけではない。
彩月の席は後方の通路側で、かなり多くの生徒から見えてしまう位置にいるのだ。
周囲を伺うと案の定、彩月のブルマ姿を拝もうと、何人もの男子がチラチラと視線を向けてきていた。
(もう、見ないでよっ……! こ、こんな時に……っ)
これでは下手に我慢の仕草を取ることもできない。
ただでさえ、学校まで我慢できるか怪しいと言うのに……。
貼り付けた澄まし顔の裏で、本当の彩月は今にも泣き出しそうになっていた。
(お願いっ……もうこれ以上、したくならないで……! 学校まで、我慢をさせて……!)
◆◆
――16時45分
「はぁっ……! はぁっ……! んっ……くっ……! くふぅぅ………うっ!」
学校まで、凡そあと1時間15分。
彩月の願いも虚しく、下腹を襲う生理的欲求は順調に強まっていった。
我慢の辛さにこめかみから汗が滴り、不安がフロントガラスを睨む瞳を潤ませる。
(トイレっ……トイレに行きたい……! 最後にトイレに行ったの、いつだっけ? 確か、水族館に入ってすぐだったから………)
彩月が最後にトイレに行けたのは、水族館に入った直後の、女子グループでの連れションだ。
そこからイルカショーでずぶ濡れになり、見学時間の終わりまではバスの中。
サービスエリアまでの移動と休憩、そしてここまでで、もう3時間以上が過ぎている。
水族館に着くまで、そして中を回っている間も、友人達に釣られてかなり飲み物を飲んでしまった彩月が、膀胱をなみなみとさせてしまうには十分な時間だ。
(弱気になっちゃだめっ! 私、もう……高校2年なんだからっ……! 4時間半、トイレを我慢するくらいっ………で、でも……我慢、できなかったら……?)
心の中で己を鼓舞し、挫けそうになる下半身を奮い立たせる。
だがどうしても、胸に渦巻く不安を拭うことができない。
彩月は、過去に一度お漏らしをしている。
それも、もう体は殆ど大人になっていた、中学3年の時に。
屈辱の記憶が彩月から自信を奪い、考えたくもない『もしも』を突きつける。
嫌な想像から逃れようと、腰が、脚が、無意識に動き出した。
マップアプリ上の、現在地を示すカーソルの動きが、やけに遅い。
「はぁぁっ……! はぁぁっ……! んんっ……! んっ……あぅ……くっ……! はぁっ……! はぁっ……!」
(我慢、しないと……! 高2にもなって、トイレが我慢できなくてバスを止めるなんてっ………そんなの……できない……!)
「ねえ、河村さん……もしかして、トイレ我慢してる……?」
「っ!?」
その動きは、乙女の秘め事を隠すには、少々露骨だったようだ。
脚や腰が丸見えのブルマ姿も災いしたのだろう。
とうとう隣の花岡が、彩月の窮地に気付いてしまった。
「ち、違うから……!」
「でも……」
「本当に違っ、うぅっ!?」
恥ずかしさから、咄嗟に尿意を否定する彩月。
だが慌てて声を出したせいで、お腹に余計な、『出す』方の力が入ってしまった。
瞬間的に高まる排尿の衝動に、彩月は小さな悲鳴を上げ、宥めるように下腹をさすり出す。
「か、河村さん……!」
「はぁぁっ……! はぁぁっ……! ふぅぅ……本当に、何でもないから……! お願いっ……構わないで……っ」
『何でもない』と言う言葉を証明するように、下腹をさすっていた手を離し、前屈みになっていた姿勢を戻す。
だが、所詮は虚勢だ。
膝の上に置いた手はギュッと握り拳を作り、ぴったりと閉じ合わせた脚は、人目を気にしながらもゆっくりと擦り合わされていた。
(が、我慢、できないかもっ………やっぱりどこか、途中のトイレに……あぁぁっ、でも……!)
もう膀胱はパンパンなのに、羞恥心が邪魔をして、どうしても『トイレに行きたい』と言い出せない。
中年男性の担任に伝えるだけでも相当な覚悟がいるのに、彩月の席はバスの後方。
担任のところに行くためには、大勢の生徒の横を通り、間近でブルマ姿を晒すことになる。
バス内を前後を往復することになるから、見られる時間も長い。
何度も腰を浮かせては、道のりの過酷さに尻込みし、また座り直してしまう。
(トイレ………トイレ………トイレっ………どうしようっ……トイレっ……! どうしようっ……!)
過ぎていく時間に、強まっていく下腹の欲求。
込み上げる尿意に、両手で太股を鷲掴み、全身を捩らせる彩月。
脳裏に浮かぶのは、あの日の大失態。
トイレを目前にして不良生徒数人に行手を遮られ、廊下を水浸しにしてしまった惨めな姿。
その日も彩月は、体育着でブルマを穿いていた。
屈辱の記憶が、鮮明に蘇る。
少し厚手の紺のショーツ擬きに、生温かい水気が広がるあの情けない感覚が。
(誰かっ……助けて………っ)
「大丈夫……? おトイレよね……?」
――16時55分。
サービスエリアを出てから55分。
彩月が全身から発していた声にならないSOSに、とうとうバスガイドが気付いた。
「…………っ………っ………」
俯いて口をつぐんだまま、コク、コクと2回頷く彩月。
バスガイドは『少し待っていて』とだけ告げ、前の座席に戻っていく。
そして担任教師、運転手と二、三言葉を交わすと、マイクを持って彩月達に向き直った。
『この先、一路学校へと向かう予定でしたが、予定を変更して次のパーキングエリアで停車致します』
「あぁぁ………んっ、んくぅっ……!」
安堵のあまり括約筋が緩みそうになり、彩月は慌てて気を締め直す。
次のパーキングまでは、あと15分。
それでも今の彩月には気の遠くなるような時間だが、学校までの1時間以上の道のりに比べれば遥かに希望がある。
(我慢っ……我慢よ、私っ……! あと15分……絶対に、我慢………が、まん………!)
「ふぅぅぅっ……! ふぅぅぅっ……! くぅっ……! んっ……! あぁぁぁ……っ」
全身を震わせながら、最後の力を振り絞って括約筋を締め上げる彩月。
顔面は脂汗に塗れ、目の端に溜まった涙を拭う余裕すらない。
だが、そんな死ぬ思いで我慢を続ける彩月に、周囲から心無い囁きが聞こえて来る。
「これってさ、委員長のトイレ休憩だよな?」
「間違いねぇよ。大分前から、ずっとモジモジしてるし」
「うぉっ、マジだ。見るからに漏らしそうになってんじゃん……っ」
「次のパーキングって、あと何分?」
「15分、ワンチャンお漏らしあるかも……やっべぇ、興奮してきた……!」
(やめてっ……! やめてぇぇっ……! そんな、言い方……!)
実際は、かなり前から隠せていなかった苦悶に、バスガイドが声をかけた直後の予定変更。
もうクラスの大半に、彩月が漏らしそうになっていることが気付かれてしまった。
そして男子達は、窮地に陥った彩月を気遣うどころか、あまつさえ漏らすことを期待するような言葉で、自覚なしに彩月の心を嬲る。
「んんっ……! んぅっ……あぁっ……! あぁっ……!」
彩月を追い詰めるのは、視線や言葉という、形無いものだけでは無い。
彩月の席は後輪の後側で、バスの中でも特に上下動の強い位置だ。
休みない振動が床や座席から伝わり、もう満タンになってしまった膀胱を激しく揺らす。
波打つ隙間もない膀胱内の小水は、内壁や出口を全力で押し込み、その度に強烈な排尿の欲求が彩月に襲いかかる。
(だめっ……お腹、揺らさないでっ………! そんなに、されたら…………漏れちゃうっ……!!)
さらに、そんなギリギリの状態の下腹を、肌に食い込むブルマが強く締め付ける。
尿意の辛さと、もうバレてしまっているという諦めに、彩月の体が激しくくねる。
「んぅっ……! ぐぅぁっ……! あぁっ……! んむぅっ……! あぁぁっ……!!」
(漏れるっ……! 漏れるぅぅ……! あと少しなのにっ……おしっこ、漏れちゃうぅぅっ……!!)
「あ、あの、河村さん……僕に、何かできることとか……」
「じ、時間……!」
「え?」
「時間をっ、んんぁっ! じ、時間を、教えて……! パー、キング、までの……!」
心配そうに声をかけてきた隣の花岡に、彩月は時計役を願った。
もう、スマホを手に持つことすらできないのだ。
……花岡が、尿意に悶える自分を見て、股間を膨らませていることは知っている。
気持ちが悪いとも思う。
だが、そんな男にすら頼らなければならないほど、彩月は追い込まれているのだ。
「はぁぁっ……! はぁぁっ……! はぁぁっ……うぅっ!! あ、後、何分……!?」
「9分だよ、河村さん……っ」
「あぁっ……! あぁぁぁっ……!」
(ま、まだ、9分も……!? あぁぁぁっ……早く、トイレにっ……! お願いっ……もう、出ちゃう……! 早くっ……早くっ……早くぅぅっ……!!)
クラス中からの憐れみや好奇の視線に、真隣からの心配の皮を被った劣情。
膀胱を締め付けるブルマに、突き上げる振動。
地獄のような時間を、それでも括約筋だけは緩めずに、必死に耐え続ける彩月。
だが、休憩のアナウンスから8分が過ぎた頃、彩月の逸る思いを嘲笑うように、バスが徐々に速度を落とし始めた。
このバスだけではない。
よく見ると、同じ方向に進む周囲の車も、揃って速度を落としている。
不安から、フロントガラスに目を向ける彩月。
その目に映ったのは、車、車、車。
遥か彼方まで続く、高速道路を埋め尽くす車の列。
「あ…………あぁ…………あぁぁっ………!!」
――17時3分。
もう一刻の猶予もない彩月を乗せた修学旅行バスは、終わりの見えない大渋滞に突入してしまった。
「はぁっ……! はぁっ……! はぁっ……! あぁぁっ! あっ! あぁっ! はぁっ! はぁっ! はぁっ! はぁっ!」
(そんなっ………嘘っ……こんなのっ………! あぁぁっ………どうしようっ………どうしたらいいのっ………!?)
花岡から時間を聞き、自身も指折り数えながら、彩月はパーキング到着までの道のりを必死に耐えていた。
もう、いつ自分の意思を離れ、限界を超えてしまうかもしれない下腹に怯えながら。
後少し、ほんの少しなんだと。
だが今、彩月が強いられる苦悶の時間は、計測不能になった。
動揺、困惑、そして絶望……制御不能の感情に、彩月の呼吸が荒くなっていく。
「うっそ、渋滞?」
「最悪……」
「てかさ、これ……委員長、大丈夫なん?」
「いや……さすがに高2にもなって……とは思うけど……」
「でも……無理だろ………もうあんな震えてんのに………」
「漏らすのか……河村が……? マジで……!?」
「やめなよアンタ達! 彩月の身にもなって!」
「委員長が………漏らす………!」
バスの中の話題も、ほぼ彩月のトイレ事情一色だ。
特に、男子達。
彼らの大半は、ノーマルから逸脱し過ぎない性癖の持ち主で、尿意を堪える女性に興奮する者は少数派だ。
だが今、クラスの男子全員が一度はオカズにしたことのある河村彩月が、露出度の高いブルマ姿で、艶かしく全身をくねらせている。
股から溢れた体液で下腹に食い込むブルマをびしょ濡れにする、もう17歳の少女としてあり得ない失態を晒そうとしている。
崩壊寸前の彩月の放つ強烈な『女』の叫びが、倫理観や世間体を吹き飛ばし、どうしようもなく性を滾らせる。
今、バスに乗る男子達は1人残らず、彩月が苦悶の果てに晒す断末魔を心待ちにしていた。
「はぁぁーっ! はぁぁーっ! はぁぁーっ! 嫌ぁぁ……! あぁっ! あぁぁっ……! い、やぁぁぁ……!」
股間を硬くした男子達からの、嬲るような視線。
それが、恐らくもうバスの中で漏らすしかなくなってしまった、憐れな少女に突き刺さる。
(私………漏らすの………? 本当に………バスの中で………もう、高校生なのに………みんなの前で、漏らすの………!?)
「い、嫌ぁぁぁっ……! うぁっ! あっ! あぁぁっ……! 嫌ぁぁぁっ……!」
もう、彩月に手を差し伸べられる者はいない。
女子達も、先程希望を見せたバスガイドも、憐れみと、何もできない悔しさを込めた視線を送るだけ。
目の前に迫った最悪の結末と、今にも溢れてしまいそうな生理現象に、彩月が悲壮な声を上げるだけの時間が過ぎていく。
――それから、約10分。
現在時刻は17時15分。
本来なら、パーキングに着いているはずの時間から、更に5分が過ぎた。
「んんっ! んっ! ああぁっ……! はぁぁーっ! はぁぁーっ! ああぁっ……で、出ちゃうっ……んぁっ! あぁぁっ……!」
(げ……限界………もう……限界っ……! 我慢………もう………でき、ない………!)
彩月は、椅子から伝わるアイドリングの振動にすら耐えられなくなり、腰を浮かせ、前の座席のグリップに頭から縋り付いていた。
左手でグリップを掴み、右手は温めるように下腹をさする。
かなり前から満タンだった膀胱は、そこから更に小水を捩じ込まれ続け、完全に膨らみきっている。
本当にもう、一滴分の余地もない。
にも関わらず、腎臓からはまだ小水が送り込まれ、物理的に入らなくなった分が尿道に染み出していく。
彩月の下着の股部分には、汗ではない染みが広がっていた。
「んっ……! あぁっ……! あっ!? い、嫌っ、出ちゃうっ……! 嫌っ、嫌っ、嫌ぁっ!」
苦悶一色だった呻き声を、突如狼狽の色に変える彩月。
合わせて、腰がビクビクと上下に跳ねる。
「だめっ! だ――ああああぁぁっっ!!!」
ショビビビッ! ショビッ! ジョビィィィッ!
続けて口から溢れる、今までより大きな悲鳴。
とうとう生理的欲求が彩月の限界を超え、小水が溢れ出してしまったのだ。
「んんっ!! んんんっ!! ああぁぁっ、止まってっ……! んむぅぅっ!!」
ジョビッ、ジョッ、ジョッ………。
死に物狂いで括約筋を締め直し、恥を承知で右手で出口を押さえこみ、何とか本格的な決壊の前に放水を止めた彩月。
だが、一瞬の敗北は、隠し切れない染みとなってブルマに刻まれてしまった。
「はぁぁーーっ! はぁぁーーっ! ああぁぁっ!! あぁっ! 嫌っ、嫌ぁぁっ!! はぁぁーーっ! はぁぁーーっ!」
ジョッ、ジョロロッ、ジョロロロッ……!
そして、一度開いてしまった水門を完全に閉め直すチカラは、もう彩月には残されていない。
解放を願う大量の廃水が出口に押し寄せ、手にも出口にも必死に力をこめているのに、少しずつ外に溢れ出してしまう。
「あああっ! あああっ!」
ジョッ! ジョビッ!
「あああっ、嫌っ、出ちゃうっ!」
ジョジョッ! シュビビッ!
「はぁっ! はぁっ! はぁっ! ああああぁぁーーっ!!」
ジョォォッ! ジョジョッ! ショビィィッ!
バスは一向に動かない。度重なる暴発で、ブルマはもうびしょ濡れだ。
仮に今すぐバスが動き出したとしても、サービスエリアまではあと7分弱。
もう溢れ始めた排尿衝動を我慢し続けるなど不可能だ。
それどころかおそらく、走り出す時の加速だけで――
(あぁぁぁ………私、漏らすんだ………みんなの前で………おしっこ……漏らすんだ………っ)
「んんんっ!! んぁっ!! ああぁぁっ!! ごめんっ、なさいっ……! えぐっ……! う゛ぁぁっ……! ごめん、なさいっ……でちゃうっ……! あああぁーーっ!!」
ジョジョォォッ! ジョォォォッ!
彩月の目から、ボロボロと涙が溢れ出る。
零れた謝罪は、バスを汚してしまうことについてか、17歳にもなって漏らしてしまうことへの罪の意識か。
とうとう額を前の座席に預け、両手で出口を押さえこみ、全身をブルブルと震わせる彩月。
それでもブルマの染みはじわじわと広がり、そこから溢れた雫が、ぴったりと閉じた太股を伝い落ちる。
「あああぁっ!! あっ!! んぁぁっ!! 嫌ああぁぁっ!!」
ジョジョジョッ! ジョッ! シュビィィッ!
つい数時間前まで、楽しい修学旅行だった。
3泊4日の泊まり込みで、普段はお堅い彩月も、少しだけ羽目を外して、友人達と見知らぬ街を楽しんだ。
もしかすると、一生の思い出になるんじゃないか――なんてことまで思っていた。
今から、全部台無しになる。
「嫌ああああぁぁっ……!! ああああぁぁっ……!!」
ジョォォォォッ! ジョォォォォッ!
震えの止まらない尻を、もう半分近く濡れたブルマを、雫の滴る脚を見せつけながら、最後は股の間から小水をぶち撒ける最悪の姿を晒してしまう。
みんなに一生物の恥を晒して、心に一生物の傷を負う。
「ああぁっ!!? あっ、あっ、あっ!!? やだっ、あぁ、やだ、やだやだっ!」
ジョ、ジョビッ、ジョジョジョッ! ジョジョッ! ジョジョジョッ!
(ああぁぁっ、止まって!! お願い止まってえええぇぇっ!!)
ジョォォォッ、ジョォォォッ、ジョォォォォッ!!
あんなに飲み物を飲まなければよかった。
調子に乗って、イルカショーの最前列になど行かなければよかった。
恥ずかしくても、サービスエリアのトイレに行けばよかった。
もっと早く、トイレに行きたいと言えばよかった。
もう、全てが手遅れだ。
ジョビビビッ! ジョビビッ! ジョビビビビッ!!
「あああぁっ、だめっ!! ああっ! ああっ! ああぁっ!!」
(出ちゃうっ! ああぁっ、出ちゃうっ! 出ちゃうぅぅっ!!)
ジョビィィィィッ!! シュビィィィィィッ!!
「あ゛あ゛あぁぁぁぁっーー!! あ゛あ゛あぁぁぁぁっーー!!」
(終わっちゃうっ!! 私の高校生活っ、終わっちゃう!! 嫌ぁぁっ!! 嫌ああああああああああぁぁぁっっ!!!)
「あ゛あ゛っっ!!!!?」
――17時17分。
――と、43秒。
「あ゛あ゛あああああぁぁぁぁぁぁぁ――」
壮絶な我慢の終わりを告げる悲鳴が、大きく開いた口から迸った。
ジョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!
ジョビイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッ!!!!!
ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!
ブルマに広がる染みに沿ってジュワッと水気が湧き上がり、直後に夥しい量の小水が溢れ出した。
小水は押さえた手の隙間という隙間から溢れ、何本もの水流となって彩月の股から下に撒き散らされていく。
その半分はシートに吸い込まれ、残りは逸れて床で跳ね回った。
ビシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッッッ!!!!!
バシャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャッッッ!!!!!
「あぁ……! あぁぁ……! あぁぁぁ……嫌っ……! あぁぁぁ………!」
(で……ちゃっ、た………おしっこ……バスの、中なのに………私……………おも、らし………)
悪い夢だと思いたかった。
目を覚ましたらまだ宿で、これから本当の最終日が始まるんだと。
最悪、修学旅行初日の家のベッドで、おねしょに気付いて飛び起きるのでもいいと。
だが、脚を駆け下る生温かい現実が、彩月に妄想に逃げることを許さない。
肌に張り付くブルマの不快さと、足元から響くバシャバシャという音が、『お前はお漏らしをしたんだ』と伝えてくる。
もう高校2年にもなって、クラスメイト全員の前で、ブルマをぐっしょりと濡らしながら。
(みんな………見てる………私のお漏らし………見てる………!)
「あぁぁぁ………あぁぁ………! い……い、や………ひっぐ………う゛ぅ………み、なぃで………う゛ぁぁ………えぅ………っ」
ビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャッッッ!!!!!
誰も、何も喋らない。
バスの中に響くのは、重たいエンジン音と、彩月の啜り泣く声。
そして、それらをかき消すような、けたたましい水音だけ。
あれだけ興味津々だった男子達まで、彩月の壮絶なお漏らしに一言も発せないでいる。
だが、その気押されたような沈黙が、彩月に自分が、取り返しのつかない失態を犯してしまったことを突きつけるのだ。
(私………終わった………こんな、お漏らしなんて…………もう………学校、行けないっ………)
「う゛ぁぁっ……ひっぐ………う゛ぁぁぁっ………! ぐすっ………あ゛ぁ………う゛っ………う゛ぁぁぁっ………!!」
ジョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!
少女の尊厳と、残りの高校生活と、思い出を賭けた壮絶な戦い。
その結末は、少女が股の間から黄金の滝をぶち撒ける、目を覆わんばかりの惨敗に終わった。
◆◆
その後、最後の一滴まで出し尽くした彩月は、グリップにしがみ付いたまま号泣。
あまりの悲痛さに男子達は引き続き何も言えず、担任の教師まで、彩月の後始末をする女子達と、バスガイドに言われるがままの人形と化した。
次のパーキングで替えの下着を買い、男性全員を追い出しての着替えを済ませ、まだ濡れたままの制服のスカートを穿いた彩月は最前列の席へ。
そのまま、他の生徒に先んじて家に戻った。
失意の中で休みを過ごした彩月は、それでも休み明けには尻込みしつつも登校。
女子達は何事もなかったように迎えたが、男子の間で自分のお漏らし動画が広まっていることに気付いてしまう。
3時間目後の休みに嗚咽を上げながら学校から逃げ出した彩月は、それからしばらくの間、中学3年以来の不登校になった。
彼女が学校に戻るのは、クラスメイト女子総出による、変態男子達への大粛清が終わった後になる。