表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

姉が魔女なら……

作者: 瀬嵐しるん
掲載日:2023/08/27


さあどうぞ、おかけになって。


紅茶はお好きでしたでしょう?

いい茶葉が手に入りましたのよ。


心が落ち着く香りでしょう?

気に入っていただけてよかったわ。



今日は、少しお話がしたくてお招きしましたの。

一週間前のわたしの結婚式では、少しも時間がありませんでしたから。


貴女は、なにか仰りたそうでしたのにね。

でも、とりあえず、先にわたしの話を聞いていただけるかしら。



わたしには魔女の姉がおりまして。

とても優秀で、古今東西のほとんどの魔法を習得しておりました。

勉強熱心というよりは貪欲で、何でも欲しがる人だったのね。


優秀なことを鼻にかけた姉は、とある縁談を断りました。

相手を無能な男だと断じて袖にしたのですわ。

それで、年子のわたしが代わりに嫁ぐことになったのです。


ええ、今のわたしの夫のことですわ。


わたしが見たところ、彼は貴族にしては素直で真面目過ぎたのね。

そのせいで、あまり社交界にも馴染まなかったようで。

でも、そんな彼だからこそ、わたしの助言にも耳を傾けてくれたの。


彼は、わたしのちょっとした助言でどんどん成長していきました。

彼の魅力を引き出せるテーラーを見つけて紹介したら、見た目だって、びっくりするほど変わったわ。


結婚して一年が過ぎる頃には、彼は夜会でも声を掛けられないことがないほど、注目されていました。


わたしたちは心から愛し合い、お腹の中には小さな命が宿ったのです。



ところが、すっかり素敵になった夫を見て、姉は彼のことが欲しくなったらしくて。

なんと、そのために縁談が来た頃まで時を戻してしまいました。


ええ、時戻しは珍しい魔法ですからね。

それなりに苦労して、お金もかけて、彼女は時の魔法書を手に入れたのです。



首尾よく、姉は彼と結婚しました。


そして、素敵な夫を見せびらかすために、毎週のように夜会に出かけたのです。

ところが姉の側では、彼は少しも素敵になっていかなかったわ。


それはそうでしょう。

わたしは彼と一緒になってから、彼のために情報を集め、行動し、努力したのですもの。

彼に寄り添って、彼を大切にしてきたのですもの。


姉は彼のことを、少しも見ていなかった。

苦労して手に入れた玩具なのに、ただ放置しただけ。

そもそも愛してすらいなかったわ。




その日、姉は里帰りしていました。

家で暮らすままのわたしは、お茶を勧めましたわ。


「あんたは気楽でいいわね。

私はこんなに苦労しているのに」


思った結果が出ないことに、姉は焦っているようでした。


「何のお話ですの?」


「……何でもないわよ」


姉はわたしのことを、やり直した物語の一登場人物だと思っていたのね。

でも、それは間違いでした。




その夜のこと、姉は生家の自室で、再び時を戻しました。


その途端、時の魔王が現れ、彼女は捉えられてしまった。


『時戻しは一度だけ。二度目は無い』


姉は知らなかったのです。

それもそのはず。

彼女が手に入れた時の魔法の書から、注意書きを消したのはわたし。


時戻しの魔法は、同じ時間には一度しか戻れないというルールがあるのです。


廊下から、そっと覗いていたわたしは、姉を連れ去る魔王と一瞬目が合いました。

でも、呆れ顔をされただけ。

わたしは、何もルールに触れることはしていないのですもの。



姉が魔女なら、わたしにも魔女の素質があるのではないかしら。


物心ついた頃、ふとそう思いましたの。

それで、姉には知られないよう、密かに勉強してきました。


残念ながら、わたしには大掛かりな魔法を使うような才能はありませんでした。

けれど、勉強は無駄にはならなかったわ。


やっと習得できた魔法は二つ。

隠蔽と消去。


小さな魔法だけれど、効果は使い方次第ですわ。


姉のやり口を見て来たわたしは、念のため意に副わぬ状況になった時、記憶を奪われぬよう隠蔽する術をかけておいたのです。


時の戻った世界で、わたしは時の魔法の書と姉の記憶から、注意書きを消しました。

姉は思った通り、もう一度時を戻そうとして、この世界から消えてしまった。


世界は、あるべき姿に戻ったのですわ。




紅茶のお代わりはいかが?


あら、顔色がすぐれませんわね。

部屋を暖めましょうか?


ええ、何でも仰って。

そうよ、わたしには姉が居ました。

貴女は、結婚式の時、わたしに姉がいたはずだと思ったのでしょう?


やはりね。


ああ、いいえ、そんなに心配しなくても大丈夫。

時の魔王は、簡単には現れないわ。

彼の支配下に入った時間軸の世界に、重大な綻びやルール破りがなければね。


記憶の消去をして欲しいですって?

その小さな違和感を消したいのね?


ええ、もちろんよ。喜んで。


貴女とはずっとお友達でいたいですもの。

あの姉がいない、この素敵な世界を壊したくないし。


もうじき、わたしのお腹に帰ってくる大切なあの子。

あの子のためにも、この世界を守らなくては。


ほんの一瞬で済むわ。


さあ、目を開けて。




ええ、結婚式ではお話しできなくてごめんなさいね。

素敵なお祝いをありがとう。


これからも、良いお友達でいてね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 時の魔王、現れたのが二回目の時戻しの直後なんですかね。それとも時戻しされる前なのか。どちらにしても幸せな家庭を築けるよう心よりお祈りいたします。 [一言] 人の口に戸はたてられぬと申します…
[良い点] 恐ろしい魔女である姉に、とても正面から太刀打ちはできないけれど、 ほんの少しの工夫で…。 ぞわりとしつつ、不思議と爽快感もある作品でした。
[一言] ナニかあれば、消せる。と知ったまま友達続けるのは大変ですよね。疑心暗鬼にならないように過ごすとか、危機回避の本能という生き物の性を押さえ込んでまで楽しく時を過ごすなんて、どっか情緒壊れてない…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ