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第1話 女神、重い腰を上げる

「女神様!どうか我々に救いの手をっ!」 

 

 ぷかぷかと宙に浮かぶいくつもの光の球。その淡く暖かな光に包まれた広々とした空間。その広い空間において、異物感を放つ真っ赤な布地に綺羅びやかな装飾の大型のソファ。

 その上に肘掛けに背を預け、足を投げ出してくつろいでいる女神がいた。

 

 名をレフィーリアという。

 

 快適な空間で優雅な涼しい顔を作ってくつろいでいるレフィーリアであったが、内心では我慢と焦りが限界に達する寸前であった。

 ここ1週間、彼女を悩ませている問題、それは騒音問題である。

 

 地上とを繋ぐ青白い光が渦巻くゲートからは、引っ切り無しに同じ文句が聞こえてきていた。

 

「女神様!どうか我々に救いの手をっ!」

 

 数人の神官達が交代しながらゲートをこじ開け、24時間懇願し続けているのである。

 

「だーっ!!わかった、わかった!すぐに行くから大人しく待っておれ!!」

 

 跳ねるようにソファから飛び降りながらゲートに向かって大声で叫ぶと、懇願の声はピタリと止み、慌ただしく人を集める声が微かに聞こえ始めた。

 

「やはりこの手しか残されておらぬか……よしっ!」 

 

 言ってしまったからにはやるしかない、と覚悟を決めて女神レフィーリアは魔法の力で瞬時に支度を整え、ゲートを潜った。

 

 

 ※ 

 

 

 若干13歳にして神官長であるアーナは自室の机の上に広げた地図を見て頭を抱えていた。

 

 この世界を脅かしている4大勢力の1つ、盗賊ギルドが西隣の大都市ラグロックを陥落させた、との報告があったのが1週間前の事。

 そして都市で悪逆の限りを尽くした盗賊ギルドがこの世界『レゾン』の中枢であるここ神都レゾダリアへと迫りつつある、という報告が入ったのが3日前の事である。もはや今この時敵襲の知らせがあったとしても不思議ではない状況だった。

 

 他の地に逃げようにも四方を残りの勢力に囲まれているうえ、そもそもこの地にある世界樹を奪われる事はこの世界を掌握される事を意味していた。そのため、逃げるという選択肢は残されていないのである。

 

 アーナは胃に穴が空きそうな痛みを覚えて薬草を煎じたお茶を啜った。その時、ノックもそこそこに興奮気味の強面髭面な副神官長のヴィルが部屋に飛び込んできた。

 

「アーナ殿、ついに女神が応えてくれた!すぐに降りてくるとの事だ!」

「ほんとですかっ!?すぐにおもてなしと話し合いの準備を!逃げ帰らないように好物の焼菓子を大量に用意して下さいね!」

 

 了解の旨を伝えながら急いで走り去っていくヴィルを横目で見ながら、アーナも傍らに置いておいた縦長の帽子をわしづかみ、胃をさすりながら廊下へと飛び出した。

 

 

 アーナが世界樹のある大広間、世界樹の間に着いたときには既に神官達が集まっており、大人の背丈に神官帽がプラスされたその集団は、背の低いアーナにとってはまさに壁だった。

 

 声を張り上げ存在を主張すると、気づいた後列の人達はサッと道を作ってくれたが、前の方では何やら騒がしくなってきていて、声が届かなかったようである。

 前方に夢中になっている神官達の裾を引っ張り少しずつ道を開拓しながら進んでいくと、次第に声が聞こえ始めた。

 

「あの〜、女神様はこちらに降りてこないんでしょうか?すぐに向かうと言っておられたのですが」

「目の前にいるだろう!不届き者め!」

「いやでもその格好はどう見てもかの有名なアマゾネス……」

 

 ようやく最前列へと辿り着き、状況を確認することが出来た。アーナに背を向け、ゲートに向かって立っているのは先程まで当番として呼びかけ続けていた若手の神官3人。

 そして彼等の影に隠れてよく見えなかったが対峙して立っている人影がちらりと見えた。

 

 ちらりと聞こえた会話の内容から女神ではなく、召喚された転移者が現れたのだと思ったアーナは3人の神官の横へと並び、にこやかに挨拶をした。

 

「お待たせしました〜!私がこの世界の神官長、アーナで……す……」

 

 言いながら眼前の者の姿を足元から観察して言葉が詰まった。

 

 暗い色の革のブーツに木の膝当て。

 あらわになっているふとももを視線が通過した先には迷彩柄の腰布。

 またしても顕になっている腹部には腰布と同じ迷彩柄が肌の上にペイントされていた。

 その上には豊満な胸部を最低限だけ覆い隠している金属製の胸当て。

 

 しかし言葉を詰まらせたのはこの大広間に似つかわしくないその装いではなく、その格好をしているのが見知った顔だったからである。

 

「め、女神様、その格好はなんですか!?」

「やあやあ、久しいなアーナ。何って戦闘の装いであろう。妾自らが出向くためのなっ!……しっかし、ここの神官達は女神様の顔すらわからんのか」

 

 無理もない、と思った。若い神官は引き篭もりがちである女神を見るのは始めてだろうし、何より顔にまで迷彩柄が施されていては、いくら美貌があろうとまさか女神だとは思わないだろう。

 

 そしてこの装いに加え、戦闘に出向くという言葉。とりあえず一連の流れを無かったことにして話しを進めた。

 

「ささ、久しぶりの地上です。おもてなしの準備もたっぷりしてありますので、こちらでごゆるりと今後の召喚計画を――」

「これこれ、神官長が女神の話しを聴き流してどうする。仕方ない、手短に現在のコスト状況と妾の作戦を説明しよう」

 

 手短と言いつつ好物が用意された卓を見つけたレフィーリアはしれっと座り、焼菓子をむさぼりながら説明を始めた。

 

 4大勢力を前に太刀打ちできる戦力はもう残っていない。となれば女神の秘術、召喚魔法で異世界から太刀打ちできる即戦力を転移召喚するしかない。

 

 しかし異世界から魂を引っ張ってくるのには限度があった。

 ひとつの世界が抱えられる魂の量には上限があり、ソウルキャパシティと呼ばれているその容量を超える召喚はできないのであった。

 

 1人で勢力を壊滅させうるSSランクの魂保持者ともなれば、当然コストは桁違いに高い。

 現状を確実に打破するにはその下のSランクが欲しい所であったが、今の残りキャパシティではSランクの召喚もできない。


 そこで魂のコストを見ることができる女神直々に戦闘に出向き、最小限の戦闘で必要分のコストを空ける、という作戦だった。

 

「幸い、神都に迫っている盗賊ギルドのほとんどは造反した転生者、転移者じゃ。妾の隠密スキルによる不意打ちでAランクを1人消せれば、狙っているSランク異世界人を召喚する余裕が生まれるのじゃ!」

 

「な、ならせめて護衛を――」

「いらぬ。隠密と言ったろう、それに残っているのはせいぜいBランク、目立つだけで足手まといじゃ。主らは神殿の護りを固めておくのじゃ」

 

 そう言ってレフィーリアは席を立ち、腰まで伸びる絹のような金髪をたなびかせて広間の出口へと向かって歩き出した。そこへ息を切らした衛兵が駆け込んできた。

 

「西区にてギルドの偵察部隊を発見!戦闘に突入しました!」

「よしっ!偵察部隊とは好都合じゃ、逃げられる前に行かねば!」

  

 自信満々に歩みを早めるその背中を見てアーナは諦めとともに、こんな台詞しか出てこなかった。

 

「そんな装備で……大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃ、問題無い」

 

 肩越しにこちらを見ながら女神は不敵な笑みを浮かべてそう言った。

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