大根人形の想い出 ~突然思い出してこみあげる笑い~
面白いってなんだろう。
最近、そんなことばかり考えてるたらこです。
みなさまは幼いころ、大切にしていた人形とかぬいぐるみってありますか?
たらこの家にはぬいぐるみが結構あったんですけどね。
毎晩一緒に寝るくらい好きだったんですけど、気づいたらみんないなくなっていました。
みんな一体どこへ行ったのでしょう。
そんないつの間にか消えていたぬいぐるみの中に、ひと際変わったタイプのものがありました。
タイトルにもある大根人形です。
もこもこした白いボディにフェルトの葉っぱが付いているだけの、大根の形をしたぬいぐるみ。
人形ではないんですね。
でも、幼いころのたらこには「ぬいぐるみ=人形」というイメージが何故か定着しており、兄弟でそのぬいぐるみのことを大根人形と呼んでいました。
このぬいぐるみがどのような経緯で我が家にやって来たのかは知らないのですが、親の仕事の都合で家に出入りする人がたくさんいたので、その中の一人がプレゼントしてくれたのでしょう。
白いもこもこしたボディには、葉っぱと同じ緑色のフェルトで、何故か「M」の文字が縫い付けられていました。
なんでMなのか全く分かりません。
大根だったら普通「Radish」のRでしょうに。
とまぁ、我が家にやって来た「M」の字が縫い付けられた大根人形ですが、途端にたらこたちの人気者になりました。
何故なら「人形なのに大根」という意味不明なネーミングの響きがとても面白かったからです。
「大根人形! 大根人形! ぎゃははははは!」
大笑いしながら大根人形を振り回したのを今でも覚えています。
バカかな??
しかし、幼い子供だったらたらこにとって大根人形は存在自体が面白い存在で、それはもう滅茶苦茶笑いました。
人形なのに大根。大根なのに人形。
という、わけのわからない面白さがあったんですね。
兄弟たちと大笑いしながら大根人形で遊んでいたわけですが、その面白さがずっと続くわけでもなく、次第にブームが落ち着いて、他のぬいぐるみたちと同じ扱いになりました。
しかし、それでも「大根人形」の名前の持つアンバランスな笑いは健在で、しばらくその存在を思い出すだけで笑えました。
それはもう腹を抱えて笑えるくらいに。
月日が流れ、たらこは大人になりました。
どんなに時間がたっても記憶という奴は不思議なもので、時たま不意に過去の出来事を思い出してしまうのです。
例えば、過去の嫌な出来事について思い出して落ち込むってことありませんか?
トラウマ級の記憶が不意によみがえって「うわあああああああ!」ってなる奴。
また、イライラした想い出がよみがえると怒りのあまりに「うわああああああああ!」ってなったりもしませんか?
まぁ、ここまで極端な人はそういないでしょうけど、過去の出来事に悩まされているのはたらこだけではないはず。
いつまでたっても忘れられない出来事ってあると思うのです。
それは楽しかった記憶や、面白かった出来事についても同様かと思います。
昔のことを思い出してつい吹き出しちゃうことってありますよね。
そう……思い出してしまうのです。
例の大根人形のことも。
大根人形がたらこに与えたインパクトはすさまじいものでした。
想像を絶する破壊力があります。
大根人形のことを思い出すと今でも笑ってしまうのです。
普段通り日常生活を送っていて、大根人形のことを思い出すことはありません。
スーパーで買い物をしている時に大根を見ても思い出しません。
しかし……特定の条件が重なった時にのみ、この記憶が掘り起こされるのです。
皆様はスーパーで何を買うでしょうか?
食材を買い集めるために行くと思うのですが……定番の食材ってありますよね。
大根も定番の一つだと思うのですが、他にもいろいろありますよね。
野菜にお肉にお魚、フルーツに調味料。
そして……たまご。
たまごにはサイズがありますよね。
SとかLとか……Mとか。
そうMサイズのたまご。
たまご売り場にはMの文字があるのです。
たまたま大根を籠に入れてから、Mサイズのたまごを買い求めた時に、不意にMの文字と大根が脳内でリンクされる時があります。
大根とMの文字が脳内で重なる時、大根人形の記憶が無意識のうちに掘り起こされるのです。
不意に思い出した大根人形の記憶はたらこを爆笑の渦に巻き込みます。
別に大根人形自体が面白いわけではないです。
幼かったころの笑いについての記憶が掘り起こされることで、唐突に噴き出してしまうのです。
「ぷぷっ……うぷぷ」
一人で買い物をしながら笑いをこらえる水産加工食品。
はたから見ていて不気味でしかありません。
んなもん、すぐにおさまるだろうと思われるかもしれませんが、笑ってはいけない状態で笑いをこらえるとどうしても笑いたくなってしまうのです。
(ダメだ……まだ笑うな……こらえるんだ……しかし)
笑いたくて仕方がないたらこは必死にこらえます。
『大根人形! 大根人形 ぎゃはははは!』
幼いたらこが脳内で笑い転げます。
これはもう我慢できない!
笑いをこらえながら会計を済ませ、駐車場の車までダッシュ!
運転席に駆け込むと途端に力が抜けてふぅとため息をつきます。
すると、笑いが収まるんですよね、急に。
笑ってもいい状況になると、笑いが収まってしまう。
なんとも不可解ですが、そういうものだと受け入れるようにしています。
記憶というのはよくわからないもので、別に面白くもなんともなくても笑いたくなってしまったり、急に収まったりするものです。
そういうものなのでしょう。
たらこは車を発進させ、自宅へと帰ります。
令和の時代になってもいまだにMTに乗るたらこ。
夜中の道路を走っていると、ふと昔のことを思い出してしまいます。
絶対に思い出したくない後悔の塊みたいな記憶。
そんな時、思わず卑猥な単語を連呼してしまいます。
いい大人が運転しながら小学生みたいに卑猥な言葉を叫んで、過去の嫌な思い出を取り払おうとする光景は、はたから見て地獄でしょうね。
誰か助けて下さい。
脳内に保存されている様々な記憶。
思い出したい記憶ばかりではなく、嫌な思い出や思い出したらダメなやつが残っていたりします。
楽しい思い出だけでは人生はつまらないですし、何より反省に繋がらない。
大人として生きるには嫌な記憶とも上手に付き合っていかなければならないのです。
思い出したくない記憶も含めて、今のたらこの人格を作っているのだと思います。