07.実戦に勝る経験は無し
「ほっ」
「よっと」
「んしょっ」
「きゃっ」
「うわっ」
順に雨以名、私、怜音、繭さん、需璃さん。
ステージ上に開いた星霊の森への入口に飛び込んだのだ。着地にそれぞれの運動神経が出てしまったのは内緒。ちなみに紅兎は飛べるのでふんわり着地。
「最初の館に行く前に星霊魔術の練習しなきゃですね。まあどっちみち道中星霊獣出てくるでしょうからそれも倒しながら行かなきゃ行けませんし」
「そうは言うけどどうすればいいの? さっき咲闌がぶっぱなしてたようなことをしろってことだよね?」
「あれは私の契約星霊の属性によるものです。みんなはみんななりの技があると思いますよ。みんな、自分のご主人様に自分がどんなことできるのか教えてあげなよ」
そう言ってそれぞれの契約星霊に丸投げする。理論とかいちいち教えてらんないよ。私がシャトランだった時代にも自分の星霊に教えてもらいながら星霊魔術覚えてたんだから。
そんな簡単なことに時間はかけていられない。最初の館に着く頃には使いこなせてもらわないと困る。ビシソワーズ家の姉妹がどれほど強いのかは知らないけど、仮にもヴァランシアの民を名乗ってくるくらいなんだから星霊魔術くらいぽんぽん使ってくるだろう。それにたしか九人と言っていた。こっちは五人。一つの館で一人ずつ相手にするにしても、ちゃんと術を使えないと全滅して向こうの侵略完了……ってストーリーになってしまう。
「あれ?」
「どうしたんですか?」
「ルノンとノルンの力ってそっくりなんだなって思って」
「ああ……双子猫ですからね。だから私二人がその子たちを選んだ時さすが双子だなって感心しましたよ」
「使える技も一緒?」
「大体一緒じゃないかと。シャトランの時はそもそも両方と契約してたから別々になったらどうかはちょっとわかんないですけど」
「ふーん」
そう、黒猫ノルンと白猫ルノンは双子猫の星霊だ。とはいえどちらが先に生まれたのかは知らないし、本人たちだってわからないだろう。見た目は色以外そっくりだし、属性だって同じだ。
他の二人と私と紅兎を入れたパーティと考えると、まあまあバランスが取れてるような気はする。紅兎は紅兎で一人で闇属性の術使えちゃうからね。もちろん契約してる私だって使える。
「咲闌ちゃん」
「ん?」
「なんか集まってきてるよ」
「本当だ」
「蹴散らす?」
「そんな強そうでもないから練習台にしちゃおう。はーい、みなさーん、敵来ますんで戦闘態勢とってー!」
はっとなったみんなが周りを見渡して警戒する。本当は囲まれてるならもうちょっと違う位置にいた方がいいんだけど……この際スパルタ式ってことで実体験で覚えてもらおう。
「紅兎。何か言うまで手出ししないでね」
「はーい」
二人で飛び近くの枝に腰掛ける。それを目で追ったみんながちょっと不安そうにしてるけど、大丈夫です。さすがにヤバかったら助けるから。
ガサガサッ!
草むらが揺れて星霊獣が出てくる。一、二、三……ほら、角うさぎ三匹。そんな怖いものじゃないよ。ちょっと普通のうさぎより大きいし角もあるけど毒とかないし。
「先手必勝! アクセルワンダー!」
げしっ。一番に術を発動した雨以名がそのままの勢いで一匹蹴飛ばす。雨以名の契約星霊は死遼虹。彼女は時属性というちょっとレアな属性だ。今の技もただ加速して勢いで蹴り入れただけ。使い勝手は難しいけど慣れれば強力な戦力として頼りになる。
「雨以名だけにやらせるか! サイレントスコア!」
需璃さんもイケイケなタイプだもんねー。双子猫の属性は氷。この技も氷の散弾といったところだろうか。あ、残り倒しちゃった。まだあと二人は術使ってなかったのに……
「初手としてはいい感じですかね。でももっと慣れてもらわなきゃいけませんし、模擬戦でもしましょうか」
「ねぇ、それわたしも混ざっていい?」
「紅兎も戦いたいの?」
「うん、わたしも戦うのっていつぶりって感じだから」
「それもそうだね。じゃあうまいことシャッフルしながらやろう。紅兎は本気出しちゃダメだよ」
「ダメなの?」
「当たり前でしょ!」
むしろなぜ純粋な星霊の紅兎が星霊姫とはいえ人間相手に本気出せると思ったんだ。私が相手するんじゃないんだから。いやシャトラン時代ならともかく不死鳥しかいない今だったらやっぱり嫌だわ。ビシソワーズ家の館に昔使役してた子とか眠ってないかな。いたら強奪してこようかしら……
で、第一試合。まずはやる気らしいので紅兎に手加減してもらいながら星霊魔術とはこうだというものを見せてもらえばいいだろう。相手……どうしようかな。
「誰か相手したい人いるー? いなかったら適当に決めちゃうけど。ちなみに最終的には全員とあたってもらうからパスしたからって意味はないですよー?」
「じゃあういな出よ「私が……出てもいいですか……?」あれっ?」
雨以名がビックリして声の方を振り向く。雨以名だけじゃなく需璃さんと怜音もだ。
控えめで穏やかな声の主──そう、繭さんだ。
私としては繭さんは戦うの嫌いそうだったからその姿勢を見せてくれて嬉しいし、紅兎はなんだか楽しそうだ。
「へぇ? 繭が相手してくれるの? うふふっ、じゃあちょっと頑張っちゃおうかなー?」
……なんか笑顔に悪意を感じるんだけど。すっごく不安になってきた。
「紅兎? 手加減は、するんだよ?」
「えー? ふふっ、どうかなぁ」
ニコニコ、ニコニコ。満面の笑顔を浮かべているけどどう見たって邪悪……ていうか悪意隠そうともしてないね?
周りから邪魔が入ったら全力で止める気だったけど、これは紅兎を全力で止める可能性もありそうだ。え、ていうか紅兎は繭さん嫌いなわけ?
だって小さい頃から姿見せて一緒に遊んでたでしょ? それが実は嫌いでしたーとかある?
「……まぁ、とりあえずやってみようか。他の三人は下がっててね」
「お姉……」
「危なかったら止めますから。見守ってて、ね?」
「わかった……」
需璃さん納得いかない顔してるなー。繭さんが怪我でもしようものならそのまま戦闘入っていっちゃいそう……色々注意して見てなきゃダメそうな試合……あれ、繭さん最初にしたのマズかった……?
いやでもこれから命の危険がある戦いしに行くんだから怪我くらいは治せるんだし多目に見てもらおう。あとは紅兎の匙加減がおかしかったら即止めよう。
「はい、じゃあ始めまーす。繭さん頑張ってね」
「わたしはぁ?」
「紅兎は手加減を頑張ってね」
「むぅ……」
「試合開始!!」
ついやけくそ気味に開始を宣言したのは私悪くない。はず。