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クレッシェンドの花  作者: 合歓野白雪
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03.入口も出口もゼロのお屋敷

午後十一時三十分。こっそりと外に出る。雨以名と二人で根回しして寮長拝み倒しておいたのでそうそう騒ぎにはならないだろう。もちろん消灯時間はとっくにすぎている。


「ねー、何があると思う? ういな結構ワクワクしてるんだけど」

「何があるかはわかんないけど。いきなり自分が人間じゃないとか言われたらどうする? 実例がここにいるんだし」

「それわたしのこと?」

「他に誰がいるの」


ちょっとした馬鹿話をしながら薔薇庭園へ。ガゼボに腰掛けて残りの三人を待つ。

さぁ……っ。風に吹かれて薔薇の香りがする。まだ咲ききってなさそうだけどいい匂い。深く吸いこんで味わう。満開になった時の香りはどこか紅兎にも似てるんだよね。


「寮抜け出して来れるのかな?」

「それは誰のことを言ってるの?」

「んー、残り全員♪」

「モモ寮二人はなんとかなるんじゃない?」

「えー? だって繭さん早寝する人だから……寝ちゃってないかなって」

「そっちの心配か! 寝ててもさすがに需璃さんが起こしてるでしょ。別に寝起きそこまで悪いわけじゃないから、大丈夫……だと……」

「自信ないんじゃーん」

「ちょっとなくなってきた……」


パタパタ……軽い足音が静まりかえった薔薇園に響く。思わずそちらに注目すると、そこに居たのはなんと一番抜け出すのが大変と思われた怜音だった。今日もロリータ服がよく似合う。この学校も制服は可愛いんだけどね。


「あれっ、三人だけですか?」

「よく抜け出せたねー。年長組の方が遅いのは意外だったね……まだ時間十分前だけど。あ、来た」

「間に合ったー! お姉パジャマに着替えてすやすや寝てるんだもん。慌てて起こしたわ」

「……」

「……寝てたみたいだね」

「結構ガチで、ね」

「ま、間に合いましたよね……?」


そう言いながらも繭さんはしっかりメイクまでしている。身支度よく間に合ったね……何時に起こされたのか知らないけど。需璃さんはグッジョブ。拍手。


懐中時計で時間を確認。毎日時報で合わせてるから狂いはないよ。

スマホもあるけど私はファッションの一つとして私は懐中時計を愛用している。モチーフはスチームパンク調の不思議の国のアリス。可愛くてお気に入り。

と、時間だ。でも何も起こらない。みんな周りをキョロキョロと見渡してる。

その時。

──パチン。

誰かが指を鳴らした。同時に濃厚な薔薇の香りが色となって視界に入りそうなくらい広がった。

どうして……! そんなに香るほど咲いてないのに……!

思わず吸ってしまってくらりと意識が遠のく。ダメだ、瞼が、重くて……視界の端に人影が見えた。

『指の音鳴らせば夜闇の空の下咲いてもいない薔薇が香る』

『甘い華やかな香りがひんやりとした空気と意識を塗りつぶす』

いやだから歌なんて詠んでる場合じゃないってのに……! そこで意識がシャットダウンした。


✿❀ - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -❀✿


パチッと唐突に覚醒した。どうやら一人がけのソファに座らされて眠っていたらしい。紅兎が横から抱きついている。守ってくれてるみたい。


「紅兎? いつから起きてたの?」

「ずっと。わたし眠ってないもん。みんなが運ばれたの見て慌てて追いかけてきたんだよ」

「みんな……そうだみんなは!?」

「まだ寝てる。ほら」


周りを見ると同じようにソファに座らされて寝ているみんなが見える。一応無事みたい。ホッとした。


「ああ、起きられましたか。さっきからそのお嬢さんに睨まれていたのでどうしようか困っていたのですよね」

「……誰?」


正面に一際豪華な椅子があり、そこにゆったりとかけている人物が目に入った。部屋が薄暗くて人相がわからないけど長い髪を頭の上部で縛っているのはわかった。


「あなたまで睨まないでください。まずは他のお嬢さん方も起こしましょう。フェレス」

「はぁい。みんな疲れてるの? なかなか起きないから術効きすぎたんじゃないかって心配だったのよ?」


──パチン。フェレスと呼ばれた少女が指を鳴らすと、周りで声がした。みんなが目を覚ましたようだ。


「え! ここどこ?」

「みなさん大丈夫ですか……」

「大丈夫です! 寝ちゃってましたけど……」

「ういなも平気!」


大丈夫そう。良かった……

改めて正面に座る相手を睨む。


「見目麗しいお嬢さん方にそんなに注目されると照れてしまいますね。……ンンッ、失礼。まずは自己紹介を致しましょう。私は公爵(デューク)。名前は一応ありますが誰にでもこう名乗っていますのでお気になさらず」

「公爵さまが私たちに何のご用ですか……? 私たちに貴族の知り合いはいないはずですし。私たちの真実とは?」


繭さんが思いっきり警戒心たっぷりに聞いてくれた。だって怪しさ満点じゃない?


「つーかここどこなの!」

「私のお屋敷です」

「薔薇庭園からどうやってこの人数移動したの」

「星霊魔術で」

「は?」


噛みつかんばかりに質問していた需璃さんがそこで止まってしまった。

聞きなれない言葉。星霊魔術。


「星霊魔術って何?」

「星霊と契約することで使える力です。私の契約星霊はこちらのフェレス。人の精神に作用する力を持ちます。あと近距離なら瞬間移動も。あなた方を移動させた方法はこれで説明がつきましたね。そして星霊術を使える人のことを星霊姫(レジーナ)と呼びます。私はもちろんそうですし、本来あなた方もそう呼ばれるものなんです」


……ダメだ胡散臭い。帰りたいけどこれ帰してくれなさそう。出口どこかわかんないし。さっき周りを見た時に気づいた。この部屋ドアも窓もない。


「特に白桜咲闌さん。あなたは現にもう星霊と契約なさっているではありませんか」


突然指名されると言葉が出ないね。なんだって? 私がもう星霊と契約してる?


「そちらのサキュバスのお嬢さん、彼女があなたの契約星霊ですよ。最高位の闇星霊のようです。私のフェレスよりも余程強い。羨ましい限りです」

「何が目的?」

「私の目的は五人の星霊姫を集めることです。近く来たる災厄に備えて」

「災厄?」

「はい。みなさんは、世界が一度滅亡していることを知っていますか?」

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