24.雨の館
「一晩経っても虹かかったままなんだね♪」
「普通の現象としての虹じゃなくて術だったからじゃない?」
「なぁるほどっ」
「じゃ、行きますよ。気配はないけど、開けた瞬間何かあってもいいように警戒してくださいね。特にライラ。術飛んできたら即無効化」
「勿論です」
ギギギ……と重い音を立てながら扉は開いた。なんか見た目より重かった気がするけど……油差してないの?
ま、そんなのどうでもいいけど。
が、歩き出して三十秒後。
「ん」
「あ」
「!」
「「「「???」」」」」
私も紅兎もライラも気配を察知した。ライラがキャンセルしようとしたけれど、一瞬だけ相手が早かった。
パチン。
「っち……」
「っ!」
「うわわっ」
「きゃあっ」
「だめっ主ー!」
スナップ音と共に床に開いた穴に、全員落ちた。いや、私たちはとどまれるけど、あえて一緒に落ちた。せっかく歓迎してくれるようだし? 連れて行ってもらおうじゃないの。
大広間っぽいところに到着。ノルンとルノンは大きくなって体で二人をキャッチ。怜音も慌てて羽を出して飛ぶ。雨以名と死遼虹はそろって尻餅。あ、ちょっと痛そう……
「いったーい!」
だろうね。
「なんなのもう!」
「申し訳ありません……気がつきはしたのですが、キャンセルが間に合いませんでした」
「ライラ……まだ寝惚けてるんじゃないのー? カン鈍ってない?」
「面目ない」
「いいよ。私が気づくの遅れた。一回見てるのにドジった」
「え?」
「紅兎も見てるでしょ」
「んん……?」
おい。この娘、忘れたの……?
その時。くすくすくす……と馬鹿にするような嗤い声が聞こえてきた。やっぱり。
「だっさーい! あははは!」
「はぁ……気配には気づいたのに、ドジったわ。フェレス、あんたの主人を呼びなさい」
「んっ、強……はぁい、わかったわ」
そう、そこにいたのは少女の星霊。みんなキョトンとしていた。そうか、見た目が。
あの時見たのとは少し違うから。気配だけは一緒だから、私だけ気づいた。そして今言霊を使って主人を呼ばせている。
「さーでぃんさまぁ。ばれちゃった」
「やれやれ……女王相手では仕方ありませんか」
「ん? なんか聞いたことある声じゃない?」
はい、雨以名、正解。サーディンという名前は知らないけど、その声にも、そして気配にも、覚えがある。
髪を高く一つ結びにして、仮面をつけた女性。顔は見えてないけど、そいつは紛れもなく。
「何のつもり? 公爵」
「一応顔は隠していたんですが……無駄でしたね。さすが女王」
「えっ、公爵ってあいつじゃん! あたしたちに星霊くれた!」
「そうですね。強くなっているようで何よりです。麗しき星霊姫たち」
「あんた、ビシソワーズ家のものだったの!?」
「はい、申し遅れました。六女にあたります、サーディンと申します。ビシソワーズの者は全員が爵位を持っているので、公爵と名乗ったのも嘘ではないですよ」
しれっと自己紹介してくるし……
「で?」
「何がでしょう」
「目的は?」
「私のですか?」
「あんたら全員」
「女王シャトラン……いえ、今は咲闌様ですね。あなたを女王にした星霊王国ヴァランシアの復活です。そのために我がビシソワーズ家は存在します。そして……我が主も、この子たちもそれを望んでいます」
公爵……いや、サーディンが手を上げると、フェレスのスナップ音。そして、無数の星霊たちが現れた。
「契約……はしてないね。この子たち、どうしたの」
「星霊はシャトラン様が好きということですよ」
「ああそう、じゃあそこはいいわ。じゃあ私以外の……繭さん需璃さん雨以名怜音を招いたのはどうして?」
「人間がお一人じゃ寂しいかと。というのが表向きです」
「じゃない方は?」
「星霊姫の資格があるので、咲闌様の側近ないし配偶者になっていただこうというのが我が主のご意向です。とはいえ、私も知ってる人間がいないのは寂しそうだと思いましたので、賛成いたしましたよ?」
額を押さえて大きなため息。はぁぁぁ……こいつら、いや、主がバカ?
人の世界ぶっ壊しておいて自分の世界の女王になれって言われて素直にはいそうですかわかりましたとか言うと本気で思ってんの?
だとしたら、正気疑う。
「咲闌ちゃん……? 大丈夫ですか?」
「……頭、痛い」
繭さんが俯いたままの私の頭を撫でてくれている。気持ちいいんだけど、それどころじゃないんだ。
「早く残りもぶっ飛ばして霧の館行かなきゃ」
「同感。何こいつら。人の都合も考えないで……!」
「ういなの活動に支障出るんだけど!」
「僕にも……大切な人たちがいたのに……」
「おやおや……我が主に言えば似たような存在は作っていただけますのに……おしゃれでも、アイドル活動? とやらも好きにできますよ? 大切な人がいるなら、その人を混ぜた近しい人を作っていただけるでしょう。我が主はお優しいですから。招いたあなた方の願いなら叶えてくれますよ」
ぶちっ。あまりにもズレた自分勝手な主張に、私がもう耐えられなかった。
「紅兎。ライラ」
「うん」
「はい」
「フェレスとサーディン以外を引きつけて。あの子たちには罪はない。傷つけちゃだめ」
「わかった!」
「かしこまりました」
「えっ、ちょっと咲闌何を」
時属性を持つ雨以名より、死遼虹よりもずっとずっと速く。
超加速をした私は、ただ真っ直ぐに突っ込んでサーディンに右ストレート。加速分も含まれた重い拳は、サーディンを壁にめり込ませた。
「がは……っ!!」
「サーディン様! この……」
何かしそうなフェレスの方を見ずに無詠唱で星霊術を発動。業火が彼女を焼く。
「きゃああああああ! 熱い! 熱いよ!!!」
悲鳴を無視してサーディンに近寄って胸ぐらを掴み上げる。
「鍵」
「なん、て……お強い……」
「無駄口叩くな。鍵寄越しなさい」
「仰せの、ままに……」
震える手で出された鍵をもぎ取って、サーディンを未だ火傷で熱がるフェレスの方に放り投げた。
「失せなさい。後でまたぶっ飛ばしに行ってあげるから。それが望みでしょ?」
「ぅ……ぐ……ふぇれす」
「うう……」
パチン。二人の姿は消えた。
「紅兎、ライラ。いいよ」
「あ、終わった? いやぁ……シャトランでも咲闌ちゃんでもいいけど見事にブチ切れてたねー」
「主が怒ると天災並のことが起きると言われ恐れられた方です……少しでもその素質が残っていたなら、あれでも生温いかと」
「さ、咲闌ちゃん……?」
優しいその声はキレていた私を引き戻した。
そちらに顔を向ける。でも自分でもどんな表情かわかっている。
能面レベルの無表情。辛うじて今目に光くらい戻ったかもしれない。
全員がへたり込んで、なんとか支え合いながら震えていた。
怖い思いさせて申し訳ない。よく繭さんは私に声かけれたね……
「すいません」
「大丈夫、ですか……」
「一応。むしろ、みんなの方が大丈夫ですか」
「怖かったです……」
はい、どうもすいません。反省……はあんまりしてないです。霧の館行っても同じようにキレる気がします。




