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クレッシェンドの花  作者: 合歓野白雪
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20.檻の館(表向き)

「二人ともちゃんと体休めましたか?」

「バッチリよ。ひっさしぶりにあんなぐっすり寝たわー」

「それはよろしいことで。繭さんは?」

「私も……結構な時間眠っていたんじゃないかと……」


仕方のないことなのかも。二人は戦闘において、覚醒ともいえるべきことが起きている。

今まで使えなかった、いや、使っていなかった力を突然引っ張り出したのだ。体に負担がかかっていないわけがない。星霊側が特に変わっていないことが気になるけど……

双子猫ノルンとルノンが覚醒したならば人型をとっているはず。私がシャトランの時はそうだった。今のこの可愛い猫状態ということは真の覚醒はしていなくて、あくまで繭さんと需璃さんが星霊の力を使うことに慣れた────という意味での覚醒だったのだろう。

もちろんあの程度で疲れてもらっては困るので、これからもガンガン使っていってほしい。もちろん猫たちも覚醒してもらっていいので頑張れ、繭さんと需璃さん。

星霊そのものの覚醒と考えると、実を言えばもう一パターン考えられる。怜音のてゅろだ。小さな妖精の姿をしているけど、普通に紅兎と変わらないくらいに大きくなれたはず。むしろ私が知っているのはそっちの姿。星霊というのは高位になるほど人に近い姿になるので、今の状態だと紅兎と死遼虹(しんりこう)>てゅろ>ノルンとルノンかな? まあ、ちゃんとすれば全員人型なので、位としては差はない。シャトランの最高位の星霊たちをなめてもらっては困る。厳密には私のことじゃないけど、そこはしっかり主張したい。


「次は……ん? なんだ、この館の裏にあるじゃない」

「移動の手間省けたねー」

「それは楽だけど……あ、なるほど。『法の館』で、『檻の館』ってこと」

「なんか変なキメラみたいな星霊獣とか飼われてそうだねー」

「危なそうな犯罪者とかもいそうですよね」

「……不吉な予言みたいなこと言わないでよ」


法の館の裏へぐるりと迂回して行く。じっと檻の館を見ていた紅兎がぽそっと呟いた。


「変な気配……ねぇ、咲闌ちゃん。キメラとか、あながち間違ってないかも」

「それあいつらが作ったってことよね。なにがヴァランシアの民よ。そういう研究は全面禁止してたっての……そのぐらい知っておきなさいよ。ムカつく」

「咲闌ちゃん、女王様のシャトランの思考が混ざってますよ……?」

「ああ、いけない。つい」


私は咲闌。女王シャトランじゃない。それは私のことじゃない。別人。

定期的にこう思っておかないとシャトランに引っ張られそう……

繭さんがポンポンと背中を叩いてくれる。ん、よし。


「ありがと、繭さん」

「どういたしまして」


後ろから紅兎が抱きついてくる。

甘えているのもあるけど、多分繭さんが優位なのが気に入らないんだろう。


「わたしとしては咲闌ちゃんもシャトランも同じようなものだから、あんま気にしないけど」

「私が嫌なの。記憶を持ってても、私は私、白桜咲闌なんだから。シャトランですって言っちゃったら、みんなとの、もちろん紅兎との思い出だって否定しちゃうことになるんだからね。それでいいの?」

「……やぁだぁ」

「でしょ? で、私は誰?」

「咲闌ちゃんです」

「いいこ」


優しく頭を撫でてやる。同じようなものなんて言ったって、紅兎として好きなのは咲闌のはずなのだ。そっちの方がいいに決まって……決まってるよね?

微妙に自信が無くなるのが嫌だ。たとえ魂が一緒でも、記憶を有していても、私は咲闌であってシャトランじゃない。そして紅兎は咲闌が名前を与えて契約しているんだから、咲闌を好きでいてくれないと困る。愛し過ぎて繭さんに敵意を向けるのも困るんだけど。正直この旅が始まってからの一番の悩みじゃなかろうか。

撫でられて上機嫌の紅兎をそのまま引きずって、館の入り口へ。ところが扉の前には鉄格子が。


「入り口まで徹底してるんだねー。檻の館って感じー」

「中の物を外に出さないための措置なんじゃ?」

「はぁ……多分怜音が正解。ここの主人はマジでしばく。あと中の変な奴は完全掃討。これだけは決定事項で。じゃ、紅兎。よろしく」

「はいはーい。えいやっ」


────バキョッ。

見た目は可愛らしい少女の紅兎だけど、腕力は正直な話結構なゴリラである。契約している私もある程度恩恵は得ているけど、こんなちゃちい鉄格子などわざわざ私が頑張らなくても任せてしまう方が力のロスもない上に手っ取り早い。

……あれ、みんな目が点だけど。知らなかったっけ。ま、いいか。今覚えといてよ。


「入るだけで無駄な手間かかるような館なんか作らないでよね……中の住人はどうせ転移で出入りしてるんだろうし」

「もうドアから壊しちゃう?」

「んー、最終的に館吹っ飛ばそうかなって思ってたし、そうしてもいいかな」

「いいね! 咲闌ちゃん、一緒にやろっ?」

「はいはい。じゃやるよ」

「「ヴォーパルブラスト」」


二人分の術を受けた扉は木っ端微塵……というか塵芥まで残らないレベルで吹っ飛んだ。なんだ、もうちょっと丈夫だと思ってたのに、拍子抜けだわ。


「なんだぁ、もっと手応えあるかと思ったのにぃ……」

「同感」

「えーどうしよう、この二人怖いんだけど」

「なんか鬱憤溜まってるのを晴らしてやろうって感じでしたね」

「ていうか扉なくなった瞬間にヤバいの出てきたらどうすんのよ」

「扉壊した勢いのままの術を受けてそのまま倒せたんじゃないかと思いますが……」


何もいないって気配でわかってましたし、いても繭さんの言った通り扉のついでに吹っ飛ばせましたのでご心配なく。ていうか全部聞こえてるから。声潜めてる意味ないから。

気にせず知らん顔して中に入る。なんか薄暗い。……そうか、窓にまで鉄格子があるのか。窓自体もはめ殺しのようだし、息が詰まりそう。


「誰も出てきませんね……?」

「研究施設が地下なんだと思います。下に空洞がある」


コンコン。ちょっとした反響を感じる。


「地下に行く通路とかあるのかしら……?」

「転移の術で出入りしてるだろうってことを考えるとないかなと」

「じゃあやっぱり……」

「どのみちこんな館跡形もなくするつもりでしたし、景気よくパーッといっちゃいましょう。紅兎ー。需璃さんと雨以名支えててね」

「あー、ずるーい……わかってるけどぉ」

「怜音は自分で飛んでね」

「なんでお姉だけ咲闌なの」

「今一番近くにいるからです。いきますよ、バーガトリウムフレイム」


漆黒の炎球を床に叩きつける。どうせ後で壊すので窓ガラスがちょっと溶けようと天井が焦げてようと崩れてこようとお構いなし。


「わっ」

「はい、キャッチ」

「結構な広さの地下……」

「ねぇ、咲闌ちゃん」

「わかってる」


ある意味一番役得な繭さんを抱っこしながら降りていく私の顔は思いっきり不快そうに眉間に皺が寄っていた。

ここの檻に入っている星霊獣は全てキメラだ。しかも素材に低位とはいえ()()()使()()()()()()

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