10.夜の内緒話
こんこんこん。
「はい……あら、咲闌ちゃん? どうしたんですか?」
開いた扉の隙間からするっと部屋に入る。
入浴したばっかりだったのかな。頬がほんのり赤い。そして私を見る目はどこまでも優しい。繭さんは誰にでもそうだけど、ね。
「うん、ちょっと。繭さんもう体痛かったりしない?」
「心配して来てくれたんですか? ふふ、大丈夫ですよ。怜音ちゃんが治してくれたの見てたでしょう?」
「そうですけど……」
「私より咲闌ちゃんの方が……いいだけ需璃に暴行受けてたでしょう」
「いいの。あれは戒めだし、私普通の人より治り早いから」
「ごめんなさいね……」
そっ。なでなで……頭を撫でてもらう。気持ちいいな。昔から繭さんはこうして頭を撫でてくれる(同い歳なのに需璃さんから頭を撫でてもらった記憶はない)。
治りが早いのは本当。さすが不死鳥。
「私こそごめんね。紅兎止められなくて」
「大丈夫ですよ」
ふわっ。すとんと繭さんの腕に包まれる。ああ、繭さんの匂いだ。落ち着く。やっぱり繭さんの前だと子供になっちゃうな……昔からそうだもんね。
自分の頭よりちょっと上にある繭さんの顔を見る。綺麗だな……視線に気がついた繭さんが「なぁに?」というように微笑んでこっちを見返してくる。あなたに見惚れてました……なんて言えないので気まずくて目をそらす。
「まっ、繭さん」
「はい?」
「座って。大丈夫なのはわかってるけど……私がなんか嫌だから。特別」
大人しく私の言葉に従って離れてベッドに腰かけてくれた。
変なことするわけじゃないから! 治療!
ばさっ。翼を出して癒しの炎を燃やす。ふわふわと炎が舞う。橙色の火の粉が綺麗。
「ふふ、あったかいですね。これが咲闌ちゃんの本質ですか?」
「ん……どうだろ。もっと攻撃的なのかもよ?」
「そうかしら。こんなに優しくてあったかいのに……でも攻撃的というのなら、それは守る炎なのかもしれませんね?」
「それは……あるかもしれない。守るのが私の仕事だったもん。今だってそのつもりだけど。みんなのこと守りたい」
「あら」
ぐいっ。え?
ぎゅーっ。抱きしめられた。翼出しっぱなしなんだけど邪魔じゃないのかな。
「一人で抱え込む必要はないんですよ。前の時は誰もいなかったかもしれませんが、今は私たちがいるでしょう? もっと周りに頼って甘えていいんですよ」
「でも」
「私たちだって頼ってもらえて方が嬉しいです……咲闌ちゃん一人が頑張らなくてもいいんです。みんなで頑張ればいいんですから」
「……うん」
「そうは言ってもいざとなったら自分が前に出ちゃうんでしょうね。ダメですよって言ってもやめないんでしょうから、私が止めてあげます……ね?」
「……守られててよ」
「嫌ですよ。少なくとも私は嫌だし他の人だってそんなこと望んでませんよ」
中途半端で抱きしめられた形のまま繭さんは後ろにゆっくり倒れる。ちょ、ちょっとこれじゃ押し倒したみたいじゃ……!
なんか気恥しい。いや子供は作れるけどそうじゃなくて!
こんなドサマギしたら需璃さんに殺されるよ! 繭さんももっと気にしてよ……今日のタコ殴りより怖い展開が見えちゃったから。
……妹みたいにしか見られてないと思ったけど、違うのかな?
繭さん好きな人とかいないのかな。……ずき。なんか胸が痛い。ずっとそばにいた人だから、離したくない。私のものにしてしまえば、一緒にいてくれるかな。
はっ、とした。やだ、何考えてた? 私こんなに独占欲強かったんだな……恥ずかしい。絶対今顔赤い。見られたくないな。
「咲闌ちゃん?」
「何?」
顔を見られないようにちょっと視線を外して返事をする。髪を梳かれてる手が心地良いな、と思う。でもこのままでいたら流されちゃうから。
翼をしまって隣に座りなおす。ふっと舞っていた炎が消える。そうしたら繭さんも起き上がってまたぎゅってされた。
「繭さんわざとやってない?」
「どうでしょう……? ふふ、別に私のことは如何様にもして構わないのに……咲闌ちゃんは自制心強いのね……♪」
「わ、わざとじゃん……! 私まだ需璃さんに殺されたくないんだけど」
「需璃だって私が決めたことなら何も言わないと思うけど……」
「絶対違う」
「あら」
多分素性調査して何重にも試験してそれ突破しないと認めないと思う。くすくす笑ってますけど繭さん、あなたの妹がどれだけ重度のシスコンだと思ってるんですか。今日の見てたでしょう。あれでも生ぬるいくらいなのに。手を出したら世界の破滅より先に私が殺されるって。やめてよ怖い想像させないで。
「甘えたくなったらまた来ていいですよ?」
「そうする」
「お部屋戻りますか?」
「うん……眠い、し……」
「一緒に寝ましょうか?」
「朝血を見る展開が怖いから遠慮しとく……繭さんももう寝なよ。疲れてるでしょ」
「さっきの炎でだいぶ回復してもらいましたけど。でもそうですね、いい子はそろそろおやすみなさい。またいつでもいらっしゃい」
──ちゅ。
前髪をちょっと上げて額へのキス。昔から私がぐずった時にはこうしてよしよしってしてくれてたね。
でも……さすがに今はもう……ちょっと恥ずかしいよ……
うっかり手を出しそうだし。
よからぬことをする前におやすみを言って部屋を出た。
「もう……誘い上手なんだから」
扉を背にしてつい呟いた口角がちょっと上がってたのは、内緒。




