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寺生まれのTさん(但しパチもん)

作者: benibuta

真夏の深夜、肝試しと称してC県にある保養所に周辺を散策している。


「先輩、本当にに行かなきゃ駄目っすか?」


 くじ引きでペアになった浅沼が子犬のような目を向けながらこっちを見つめてくる。

 化粧っ気がないからあれだが、ちゃんと身だしなみを整えれば化けるタイプだ。垢抜けてない今の格好も駄弁りやすくて俺は好きだ。


「軽く周辺を散策するだけだから安心しろって」

「はぁ……、まぁ先輩だったら怪異の一つ出てもやっつけちそうですよね。寺生まれでしたよね?」

「ん、霊感はないから期待するな」


 浅沼の言う通り、俺の生家は寺だ。寺生まれで寺田といいう姓だから親しい者からは寺生まれのTさんと呼ばれてる。


 目的地を目指して俺達は明かりのない田んぼ道を懐中電灯の明かりだけを頼りに進む。道幅が広くないため軽自動車しか通れないような狭い道路。その両脇には夏草が生い茂っており、月明りすら遮っているため真っ暗である。

時折、虫の声だけが辺りを支配しており、それ以外は静寂に包まれていた。


「あー……なんつぅか雰囲気ありますねぇ……」

「お前ビビリすぎだって」

「いや、普通怖くないですか? こんな真夜中に人気の無い山奥なんて……」

「それじゃ今度心霊スポットでも行くか?」

「えぇ……。それはちょっと勘弁して欲しいです」


そんな他愛もない会話をしながら歩くこと数分。

目的の建物が見えてきた。木造の二階建ての旅館を思わせる建築物だ。

どうせならもっとオシャレな建物が良かったのだが、旅行会社のミスなのかそれともこの土地の風習なのか知らないが何故かこの廃墟が選ばれたのだ。


「ここですか?」

「そうだよ。ここが今回の肝試しの舞台だ」

「おぉ……なんかいかにも出そうな建物ですね」

「おいおい、さっきまでビビッてたくせによく言うぜ」

「そりゃそうですけど……」


浅沼が何か言いたげだったが気にせず俺は建物の中へと入っていく。

窓という窓から光が漏れていないところを見るとまだ営業していないようだ。

受付カウンターらしき場所へ行ってみるものの、当然のように無人であり電気すら点かない。


「鍵開いてるみたいだぞ」

「マジっすかね? 不用心にも程があるんじゃないでしょうか?」

「とりあえず入るぞ」


玄関の扉を開いてみるとギィイイっと不気味な音を立てて開く。

そのまま薄暗いロビーを抜けていくと客室がいくつか並んでいるようで廊下に沿って襖戸が続いている。

一番手近にあった客室に入ってみたが特に変わった様子はなく押し入れや机などが置いてあるだけだった。


「ここはハズレか……」

「あの……先輩……」

「なんだ? もう怖くなったのか?」

「いえ、そうじゃないんですけど……」


歯切れの悪い返事をする浅沼に首を傾げる。


「どうかしたか?」

「……なんか聞こえませんか?」


言われてから耳を澄ましてみたものの何も聞こえなかった。

しかし、浅沼の顔色は青ざめており尋常ではない怯え方をしている。


「……誰かいるのか?」

「ひぃ!? やっぱり聞こえる! 女みたいな声が!」

「落ち着けって、誰もいないから……」

「嘘つかないでくださいよ! 絶対いますって!!」


半狂乱になりながら叫ぶ浅沼を見てため息をつく。

(これは本格的にまずいな)

このままだとパニックを起こしてとんでもないことになりかねないと思い、俺は浅沼の手を引いて外に出ることにした。

外は既に明るくなっており、蝉の声が響き渡っていた。


「ほら見ろ。朝になってるじゃないか」

「……ほんとうだ。いつの間に夜が明けたんでしょうね」


先ほどまでの錯乱状態が嘘だったかのように落ち着いた様子で呟く。

その顔はどこか虚ろな表情をしており、まるで夢遊病者のような感じだった。


「……なぁ浅沼、お前本当に大丈夫か?」

「はい、平気ですよ。先輩こそ足元気を付けてくださいね」


気遣うような言葉とは裏腹に、俺を見る眼差しは冷たかった。

それが何を意味しているか分からず、ただ困惑することしかできない。

その後、俺達は車に乗り込んで帰路についた。

道中はお互いに無言のまま過ぎ去り、車はあっという間に家に到着した。

車を降りて玄関に入ると母さんが出迎えてくれた。


「おかえりなさい。あら、随分早い帰りだったわね。もう少しゆっくりしてきてもよかったのに……」

「うん、まぁちょっと色々あって……」


言葉を濁しながら靴を脱いでいると、ふいに背筋がゾクリとした。

嫌な予感を覚えつつ振り返ると、そこには冷たい瞳で俺を見つめている浅沼の姿があった。


「……浅沼?」


思わず名前を呼んでしまったが、彼女は反応しない。

その目は感情が消え失せたように暗く澱んでおり、何を考えているか分からない。


「……先輩、私疲れちゃったから部屋に戻りますね」


それだけ言って階段を上がっていった。

明らかに様子がおかしい。


「どうしたの? 何かあったの?」

「いや別に……」

「そう? ならいいんだけど……」


俺の様子を不審に思ったようだけど深く追求することはなかった。

それから部屋に戻ろうとして、ようやく異変に気づく。


「あれ?なんだろうこれ……」


机の上に一枚の写真が置かれていたのだ。

見たことのない女の子が写っている。

長い黒髪に赤い着物を着た可愛らしい少女だが、どこか違和感を覚えた。


「なんだろうこの子、初めて見るはずなのになんか懐かしく感じる……」


自分でもよくわからない感覚に戸惑いつつも、俺は写真を手に取って眺め続けた。

自分で掌編書いてた時には、深夜のバス停で八尺様と遭遇して、何らかのトラブルに主人公とヒロインは巻き込まれるという展開を想像していた。


AIの出した回答は、廃ホテルに肝試しで潜入して、ヒロインが悪霊に取り憑かれるという内容だった。

AIの提示した内容の方が面白いと思った。

深夜のバス停より、廃ホテルの方がそれっぽい。話の整合性とれてると思う。

主要キャラが悪霊に取り憑かれるという展開もお約束だと思う。


成仏出来ない霊から何か依頼されて、それを叶えて成仏する展開とかも妄想したけど、手っ取り早く悪霊に襲われて退散させる流れが正解だと思う。

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