古い唄
夢のうつつに、想い人に、添い寝をしてもらった夢を見る。
それが、真っ赤な毬がそこら中に零れ落ちて居たり、つるし雛がばらばらになって散らばっていたり、
西陣織の着物が天井から沢山蔓下げられていたり、そんな中二人で寝ていたから、落ち着かなかった。
恋人の横顔に真っ白な舟虫が這っていた。
夏の呼び声は、古き鼓動を呼び覚ます。
甦れ、陽炎と蜃気楼。
すべての人々の魂を守って、
あの入道雲も、いらかの群れも、低く飛ぶ燕も、サイダーを飲む子供たちも、
大切な古き鼓動を蘇らせる夏の季節。
「鬼」の文字は、大切ななにか、古い獣の心を呼び起こす。
どくんどくんと、脈打つ掌にマントラの幻。
昏い夜の散歩道。
信号機のお化けが、赤い色のまま点灯を繰り返している。
あの世と此の世の狭間で僕らはいつも救いを求めている。
ご覧、星が仏様の眼の様に輝いているよ。蠍の赤い眼。
夏はすぐ終わってしまうけど、僕らの人生はどこまでも長い。
ぷん、と線香の香りがした気がして、祖母の背中を想い出す
何億もの星が、夜空から僕らを見下ろしている。
人は、死ぬと夜空の星になるんだって。
そんな、小さな町の内緒話は、街の秘密事。
小さな骨を格子模様の匣に隠しこんで、反魂の秘法を、唱えて夏に消えてゆく。
姉の神隠しは罪人隠し。罪と罰と、ささやかな彼岸花の、毒。
君の瞳が獣のように輝いて瞬く。
昔、どこかで会いましたね。
街角の影法師の言葉。秋の月は朧で、遠くの海はざざんざざん、茫洋と満ち潮。
僕らは、過去の想い出を探して旅するストレンジャー。ノスタルジアの煙がゆらり。
甘い宝石のようなサイダーを喫茶店で食べる頃には、また、ゆらり。影も形も見えぬ幽霊に戻ってる。
夜の帳。父親が還ってきました。
迎え火を焚きます。もう、そんな季節ですか。
おばあちゃんはな、そりゃあ若い頃は美人だった…
そう云いながら、背中を押してくれる父親。
今はもういないその影。
今年もまた迎え火の季節です。
家の前の外灯と、迎え火の炎を、繰り返し、燈篭のように思ひ出します。