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エピローグ

 王都キャピケイルのギルドに入ると、騒がしさが波状に静まっていった。

 二週間ぶりの王都だ。

 開拓村の一件はすでに周知の事実。それに関与した冒険者が今更姿を見せた事に驚き、静かになったんだろう。

 そう判断して受付へと歩き出したものの、こそこそ話が聞こえてきた。

『鬼畜クズのサガラだ』

『やべぇ。鬼畜クズでロリコンのサガラじゃねぇか』

 こそこそ話ではあるのだが、あえて聞こえる声量で話すその二人をにらみ付ける。

 見知った二人組だ。

 にらまれた二人は声を殺して笑い、親指を立ててくるが……あーいう中堅どころが一番タチが悪いのだ。

 あれぐらいの中堅どころが面白半分で広めるから、下は信じるし、上は面白がって冗談交じりに絡んでくる。冒険者の害悪はああいう中堅どころだと思う。

「はぁ……」

 鬼畜クズとかロリコンとか、普通に広がりそうでマジで嫌だ。

 そんな事を思いつつ、相変わらず空いている端の受付へ。

 近付くまでも無く聞こえてきたいびきに眉間のしわを深め、俺は受付前に立つなりそのスキンヘッドをひっぱたいた。

「あいっ! ……って、なんだサガラかよ」

「何だじゃねーよ。仕事しろや」

「なんで不機嫌なんだよ」

 チラリと俺の右手を見て、マグはにやりと笑った。

「仲直り出来たみたいだし、不機嫌の理由はねぇだろ?」

 その言葉に触発しょくはつされたのか、つないだ右手がギュッと握られる。

 視線を落とせば、まだ怒ってますよとばかりに頰をふくらませて見上げてくるリム。

 仕方なく左手で頭を撫でてやるだけでご機嫌は直る。扱いが楽と言えば楽なのだが、この様子を見た冒険者が何というかは想像にかたくない。

(ロリコンより、クズの方がマシだよなぁ)

 そうは思うが、撫でる手は止めない。リムが本気で怒るとどうなるか、目の当たりにした今となっては素直になだめる以外の手が無いのだ。

 リムリスでやる事をやって、開拓村に戻ったのが五日前。

 村に着いた俺を出迎でむかえたのは、泣き叫んでしがみついてくるリムだった。泣きながら怒り、『なんで置いていったの』とそりゃあ五月蠅かった。

 一時ひとときも離れようとはせず、テントも一緒。定期的に怒ってるアピールはするし、それを無視したら『なんで撫でてくれないのっ!』と怒鳴るのだ。王都から派遣された正規兵の前でそれをやられたときは、穴を掘って入りたいほどに恥ずかしかった。

 そんなわけで、王都に連れて来たのも置いてこうとしたらどんな目に遭うのか予想できてしまったからだ。

 もう十歳も育っててくれれば、俺としても大喜びだったんだが。

「……報酬は?」

「あぁ、ディモンシ絡みの。……ほれ、これだ」

 トンと受付に革袋が置かれるが、小さい。

 開いて中を確認してみれば、やっぱり少なかった。

「大金貨六枚って……安すぎね?」

 開拓村で倒したオークだけでこれ以上の金額にはなるだろう。あれだけの事があった報酬としては、しょぼすぎる。

「あー、開拓村に関してはオークやら領軍もどきの装備やらは復興ふっこうに使うって話になってな。国から復興ふっこうとは別の手当として一人大金貨五枚出た」

「ケチくせぇなあ。って、豚の方は大金貨一枚かよっ」

「そりゃあやらんでいいことやったんだから、報酬が出るだけマシだろ? スゲェ別嬪ぺっぴんさんを救出してたから、その報酬ってだけだ」

「えー。豚の資産とかは?」

「国の金を横領おうりょうしてたわけだからな。領軍の編成とかもあるし、基本はそっちだ。被害者の女性には十分な額が支払われているがな」

「……まぁ、なら良しとしとくか」

 それなら高く売れそうな物でも物色しとけば良かった。

 実際、愛人として囲われていた他二人は金目の物を持って逃げ出したのだ。子爵がただの豚になったって言う情報料として、そこそこ分けて貰えば良かった。

「あ、ただ≪紫翼の空≫には蒼貨そうか五枚支払われてるな」

「はぁっ!? 何だそれおかしすぎるだろっ!」

 思わず声を上げたのも仕方が無いだろう。

 確かに彼らの方がリスクは高かったが、報酬が五百倍も違うってのはさすがにおかしいと思う。

「いや、あいつらは長年領主が手を抜いてた部分を埋めてくれてたわけだからな。私兵を捕縛してくれていたおかげで、正規軍の負傷者も無かったし。国から、次期領主の為にもよろしく頼むって意味合いがあったんだろ」

「……納得いかねぇ」

 報酬目当てで行ったわけでは無いが、そこまで報酬に差があるとさすがにムカつく。

「いっその事あのクランに混ぜて貰うかな」

「あー、無理無理。私的な目的で使える金じゃねぇってのもあるが、お前じゃ加えて貰えねぇよ」

「何でだよ。っつーか、なんでお前が断言するんだ」

「そりゃあ一度顔出したからな。で、救われた別嬪ぺっぴんさんがお前をめちぎってるから、クランにはまずは入れねぇ。男同士の殺し合いが始まるだろうな」

 ニヤニヤと笑みを浮かべるマグはムカつくが、納得出来てしまって口をつぐむ。

 それがミールの処世術しょせいじゅつなんだろう。ちょっと離れた場所に好きな男がいる、みたいに言っておけば男のアプローチをかわしやすいし、円滑な人間関係を築きやすい。

 賢い事だ。下手に近寄ったら利用されそうなので、出来るだけあそこには向かわないようにしよう。

「で? 依頼でも受けてくか?」

「いや帰ってきたばっかだし」

「やるのっ!」

 背伸びをして、どうにか受付に顔だけを出したリムが、目を輝かせてそう声を上げた。

 マグがだらしなく頰をゆるめ、受付の下から一枚の紙を取り出した。

「おすすめはこの、レムリ草採取だな。提示型常駐依頼だから単価は高めだし、失敗してもリスクが無い」

「はいっ! 頑張りますっ!」

「あぁ、よろしく頼む」

 マグを含め誰も彼もが頰をゆるめているが、俺は眉間に皺を寄せてマグをにらんだ。

「なぁおい。俺はそんな美味しそうな依頼を見た事無いんだが」

「当たり前だろ? 優秀な新人向けの仕事だ」

 他の受付嬢へと顔を向ければ、さっと視線をらされる。

 要するに、お気に入り冒険者用の特別依頼なんだろう。どうやら俺は、受付嬢にもクズと認識されているらしい。

 普通にへこむ。

 視線を落とすと、リムが笑顔で見上げてきた。

「頑張る」

「おう、頑張れ」

「うんっ!」

 大きく頷いて、俺の右手を取って歩き出すリム。

 俺がクズ認定されてるのは、そこそこ理解している。だから『めろよ』と周囲を見回して見るも、知り合いから知らない奴まで微笑ましい光景を見るように目を細めているだけ。

 こいつらの、俺に対する評価がマジで分からない。

 そんな俺の心境を知ってか知らずか、『鬼畜クズのロリコン』なんて言ってた奴が「頑張れよ~」と笑顔で手を振ってきたりする。 

 こいつら、ホント何を考えてんだろうか。

 ギルドから出ると、リムは足を止めて見上げてきた。

「サガラ」

「ん?」

「リム、頑張るから」

「……おう、期待してる」

「うんっ!」

 リムが走り出し、それに引っ張られて俺も小走りで進み出した。

 生きる為に今日もお仕事。

 クズって呼ばれるなりに楽な生活をしたいもんである。

読んでくれている人が居るっ!

普通にびっくりでした。ありがとうございます。

『評価付けてくれた人が居ました』とかメール無いんですね……。

兎に角、ホントに嬉しかったです。

読んでくれてありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
本人の決めている道理を破り敵対すると惨たらしく苦しめられるのが周りで分かってるから善良ならクズと言う人には関わらず、悪人とかはクズと呼ばれる人がいれば接触し勝手に近寄ってサガラに破滅させられるからいい…
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