プロローグ
ありがちな異世界ものです。多分。
さて寝るかと明かりを消し、ベットに腰掛けたところでまばゆい光に包まれた。
声すら上げられずに、ぎゅっと瞼を閉じる。
暫くして恐る恐る瞼を開けば、景色は一変していた。
「……は?」
足下は土に変わり、こちらを遠巻きに囲んでいる人、人、人。
その誰もがいかにも高そうな服を纏っていて、例外は自分を含めた三人だけ。
学生服を着た美男美女。そしてジャージでうんこ座りの俺。
ベットに腰掛けていたのだ。当然そんな姿勢になる。
対して美男子は左腕にしがみついた美女を庇うように立ち、険しい視線で周囲を伺っている。
そんな男子学生に視線が集まるのは当然だろう。
でもってこの状況。
俺はもうおっさんと呼べる年齢で、アニメも見ないし漫画も読まない。だが小説は少女向けから純文学まで読むタイプだ。
だからこそ、大体は把握した。
把握してしまったからこそ、月のような衛星を二つも携えた太陽を見上げて、深々と息を吐いた。
冠を付け、赤いマントにふわっふわの白いファー、宝石がちりばめられた高そうな杖を突いた如何にもな王様が歩み出てきて、口を開く。
「ようこそ来てくれた、勇者よ」
どうやら俺は、あの異世界に召喚とか言うのをされたらしい。
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わずかな期待はしたものの、案の定俺はおまけだった。
あんな美男美女がおまけな筈も無いので、妥当な結果といえるだろう。
だが、いくつか救いはあった。
一つは、世界を渡った時点で並以上の才能は得られると言う点。
とはいえチートにはほど遠く、「多分迷い人としては最低ラインでしょうねー」とは指導に当たってくれた副団長の台詞だ。
身体能力、魔力共にこちらの世界では平均以上だが、魔術を使うために必要な放出器官が閉じているらしい。要するに、魔術は使えないと言うことだ。
まぁでも、普通以上というのはかなりありがたい。何よりもありがたかったのは、慢性的な腰痛が無くなったことだ。
そしてもう一つありがたかったのは、召喚された国がまともだったと言う点。
神託があって初めて召喚が出来るらしく、勇者がまともな国に召喚されるのは当然のことらしいが、おまけに過ぎないおっさんにとっては非常にありがたいことだった。
王城の客室に泊めて貰え、騎士団や近衛に訓練を付けて貰える。更にこの世界の常識や歴史などの授業まで。
至れり尽くせりとはまさにこの事だろう。更に給料まで貰えた。
ただ、残念なことにその期間も終わる。
召喚に巻き込まれた日から丸一年。
正直短いと言う感想しか無いが、一年も養ってくれたのだ。感謝以外の感想を抱くのは失礼というものだろう。
ちなみに、本来なら迷い人の時点で一定以上の能力は保証されている為国に仕官するらしいが、副団長をはじめとした一部の騎士や、勇者と一緒に召喚された女子高生、奄美ユイナが否定したらしい。
ユイナは兎も角、騎士団の人とはそれなりに良い関係を築けてるつもりだったので、その話を聞いたときはそれなりにへこんだ。
「サガラさん。ホントに行くんですか?」
「俺じゃあ役にたてないみたいだしな」
「そんなことは無いですよ。山賊の件だって、確かにやり過ぎだったとは思いますけど、間違ったことだとは思いません」
「まぁ、うん。俺はそう思ってるけど、普通だと違うみたいだしな。これ以上世話になるわけにもいかないし」
「なら、僕のパーティーに」
「それだと役立たずどころか足手まといだ。気持ちだけで十分だよ、セイギ」
勇者パーティー。
勇者のセイギに、魔法の適性が抜群だったユイナ。更に国が選んだ一流の人材が二人。
そんなところに俺が加わっても、幸せになれる奴は誰一人いない。
だと言うのに本気で誘ってくれるのがこのセイギという奴だ。
どうしようもない程に善人で、美形。そりゃあ神様だって勇者にしてやりたくもなるだろう。
「ま、生きていけるように冒険者としてのランクもCまで上げてある。一緒に召喚されておいて何の役にも立てないのは悪いと思うけど、ここでお別れだ」
「サガラさん……。何かあったら、いつでもここに来てください。王様にも、その辺りの許可は貰ってありますから」
「気持ちだけで十分だよ」
ぽんぽんとセイギの肩をたたいて、一歩離れる。
王城を背にしたセイギは、まるでこの城の主だ。質素ながらも高級な服に身を包んだイケメン。王女との仲も良いようだし、王になるなんて未来もあるんだろう。
「じゃあな、セイギ。勇者だからって無茶するなよ」
「サガラさんこそ。部位欠損を治せる人なんて滅多にいないんですから、無茶はダメですよ?」
「そんな心配そうな目で見なくたって大丈夫だって」
「サガラさんは、普通にしでかすから心配なんです」
「あのな。一応おまえの倍は生きてるからな?」
「おかんかお前は」とぼやくと、セイギはクスリと笑い、つられるようにして俺も笑った。
一回り以上年の差はあるが、一番気の許せる友人。
だが実力だけで言えば真逆。大人として、友人として手を貸したい所ではあるが、手伝い所か足手まといにしかならないのだからどーしようもない。
「じゃあな」
「うん。それじゃあ、また」
見送ってくれるセイギに手を振って、俺は城下町へと歩き出した。