人と成りて~これから先~
何日掛かったのだろう?ブレイクは己の一部を犠牲にして時間を戻す事が出来る代物らしく帰路の道中に検証の為に何度か使いながら来たために大小様々な負傷を起こしながら魔族の少年はようやく住処に戻って来た。
「さて、村にあの時見た町・・・この世界の記憶を探っても機械的な物は無く建築技術も低い・・・なのにここは一体・・・」
所々壊れてはいるが巨大な城とも言えるこの世界では、いや一番の建設技術であったであろう引き籠り世界でも見た事のない正にファンタジーな建物。だが機械的な物が壊れた個所から見える。分からないけど何か凄い物とだけ思い中へ入って行く。
中はいくつかの通路があり大小様々な部屋がある。中には勿論魔族や魔物達が自由に跋扈している。
外装より内装の方が酷く壊れているのは勿論魔物どうし暴れるからである・・・。基本的な弱肉強食のここでは魔物より魔族の方が強いので滅多に襲われる事は無いのだがとにかく怖い!魔族で強いからと言って価値観や感覚は人なのである。全身頑丈な鎧を着ても野生の熊やライオンの住処を歩いてるようなものだ。精神的な恐怖耐性や意識がハッキリして間もない自分には怖すぎる!!
足早に自分が普段から寝ている部屋へと避難する。そこにはベッドがあるので早速横になった。
「はぁ、これからどうしよう」
狂乱の泉に落ちて以降、服を探し兄妹を助けてと思い立った目標?は終わった。課せられた使命も無く今はこれと言った目的も目標も無い。ブレイク等の検証はしていたがいざこうして横になって考えているとやりたい事が無い。ニートまっしぐらである。
「ニート。はは、てか魔族って何年生きるの?パソコン無いし暇死にするかも。魔族だし世界征服?でも人殺すとか他の種族とか面倒なだけで楽しいわけでもないしなぁ・・・あかん」
成程、狂乱の泉に入ると本当の出来事かどうかは別としてその感覚と今の世界と今の自分のギャップにおかしくなるのも納得だ。て事はこの建物は昔に何処かの誰かが何かの目的を持って建てたのだろうな等と今後の自分がどうするかは考えずあちこちボロボロなので寝ることにして逃避した。
食事は部屋の一画に溜まっている不思議な液体を飲めばいいようだ。栄養価が高く他に食べなくてもそれだけで餓死はしないらしい。自己再生能力は割と高いらしい三日程寝たらもう何ともない。窓の外をみると飛行系魔族が喧嘩なのか訓練なのか相変わらず戦っている。その先はひたすらに森と山々の景色。何者もこの部屋に来る事も無く、探索しようにも魔物達が怖くてここから出たくない。うん。引き籠りです。
とは言え狂乱の泉での記憶とこの世界での記憶の整理はしていた。
この世界は様々な種族が居てその全てが友好的ではなく基本的には敵対、奴隷等があり魔法やスキルがあるファンタジー世界。そして俺は魔族で悪食の王と言われる魔王の息子と、兄妹は今も尚増え続けてるようだ・・・。とは言え兄妹と呼ぶには魔族である事が前提で大体がスライムだったり悪魔族と言われるのが生まれるらしい。魔族と認められるのは滅多に見られない姿形で且つ強い者らしい。つまり俺は強い側に分類されていると。こうして準備期間と己を言い聞かせて数日引き籠る俺に来訪者が
「若、戻っておられたのですね」
骸骨司祭ことギュスターだ。そしてやはり怖い。
「ん?あぁ数日前にね」
「!!ッ若!もしや狂乱の泉に入られたので!?」
?なぜわかったのだろう。あ、そう言えば前は虚ろな感じで返事とかしなかったな。そしてこれはまずい、ギュスターは異常なまでに人族を恨みにも似た感じで嫌いらしい。事と次第によっては非常にやばい・・・。慎重に会話をしなければ・・・。
「声が聞こえた気がして気付いたら入っていたようだ」
「左様ですか。で?何を見て何が変わりましたかな?」
やはり多少は狂乱の泉に入ると何が起こるのかは知っているみたいだ
「何か色々な幻覚を見たよ。この世界ではない様々な幻覚を。変わったと言うなら意識がハッキリしてこうして言葉を話す事を覚えたのと魔族である事への戸惑いかな。」
「ふむ、では他種族の兄妹は殺せるようになりましたかな?そしてどのような効果のある能力を身に付けましたかな?」
泉に入った時には薄っすらとしか浮かばなかったブレイクの事だろう。しかしそこから人の味方に成り得る危険があると判断されるのは厄介だ・・・ここは
「んー、妹は分かんないかな。幻覚の中に妹を溺愛したのがあったから兄の言葉が出なきゃただの雌としては殺せると思うよ。能力はガーディアンシールドだよ。説明するより見てくれ。【ガーディアンシールド】」
雌、如何にも魔族らしい表現で戸惑いはあるが魔族と自覚していると思わせる言葉。そして自分の周りに見ない結界障壁を張り
「何を何処まで防げるか分からないけど俺の周りには見えない結界が今はあるよ」
そう言うとギュスターは近付き錫杖で薙ぎ払った。が途中で錫杖は何かにぶつかり弾かれた。
「確かに、今度は魔法を試してもよろしいでしょうか?」
「いいよ」
「では、失礼して【ヘルフレイム】」
!?ちょっ!?炎系上位魔法とか殺す気ですか!?そんな焦りを他所に周りは灼熱の業火が渦巻いている。数秒後に炎は消えギュスターはカカカカと満足気だ
「いやはや、素晴らしいですな。しかし若の肉体は既に並大抵の攻撃は効きませんので何とも・・・これは他者や複数展開出来たりするのですかな?」
んー、どんどん質問してくるけどあまり言いたくないし何より面倒だな。色々怖いし・・・
「知らん!」
不機嫌そうに言い放つ
「これは失礼致しました。最後に一つだけよろしいでしょうか?」
ふむ、流石は魔族なだけあってギュスターも引いたな。グッジョブ魔族な俺!最後に何が聞きたいのだろうか?怖いけど答えたくない事ならまだ分からないで済ませよう。
「何だ?」
「はっ、名を名乗られるのでしょうか?」
名前?そう言えばそうか俺には名前が無い。と、言うよりは名前を付ける習慣が無いしそれでも特に困らないので誰かが畏怖の言葉や表現が元になってるのが大半だ。悪食の王もその一つだな。
それ以外は自分で勝手に名乗るのだが・・・空、勿論妹は・・・いや、リ〇ル・・・いやいや、お兄にすれば皆が妹に・・・あ、ギュスターが弟に グハッ!
どんどん変な方向に思考が進む中、自然に
「では、アレクと名乗ろう」
「かしこまりました。アレク様、それではこれにて失礼致します。」
そう言ってギュスターは静かに去って行った。
アレクはなぜそう名乗ったのか釈然としなかったが、まぁ変じゃないだろうし思い付く主人公キャラの名前を語った所でその通り行動出来る訳でもないので後から後悔しかしないだろうと、そもそもこの世界は、いや少なくともこの場所は残酷なのだから・・・。
次の日もギュスターは来た。
「アレク様、近々近隣の村を襲撃しまがすがいかがいたしますか?」
「俺は暫く参加しないよ。それよりこの世界の知識が欲しいのだがここにめぼしい物はあるか?」
「それでしたら私の書庫へご案内いたしましょう。アレク様のお暇な時にお声かけ下さい。」
「そうか、なら今からそこへ案内を頼む」
「かしこまりました。それではこれよりご案内させていただきます。」
助かった。この建物は広いし何より魔物が徘徊してるので怖くてどうやって探索しようか悩んでいたからだ。見慣れるまで時間もかかるし何処に何が居たり危険な物があったりするかもしれない。これ幸いにとギュスターに着いて行く。
「ここには寝床以外は何があるんだ?」
「そうですね。まずは今ご案内している書庫、貴重とされる物が保管されている宝物庫、捕まえた奴隷の収容所、王への供物収容所、地下深くには扉があるのですが壊せないので何があるかは分かっておりません。」
ほうほう、宝物庫ねぇ。
「あ、知識も欲しいのだが衣服はあるのか?」
「ございますがどの様なご所望ですか?何分衣類を纏めた場所は無く各魔物や魔族の方々が気に入った物を所有しているので魔族の方々とは交渉となりますのが今のアレク様の大きさですと背丈の似た魔物から取り上げるしかございませんのであまりご期待にはそえないかもしれません」
「構わん、衣類に慣れておきたいだけなのでな」
恥ずかしいからなんて言ったら良くない気がするのでこれでいいだろう。
「調度近くに人狼の住処がございますので寄ってみましょう」
人狼ってでかくないか?あぁでも幼い人狼も居るか。部屋に入ると沢山の人狼が居る。ギュスターはその中から俺とにた大きさの人狼へ向かう。しかし待て、服着てないじゃん?
「喜べ、貴様はこれより偉大なる魔族のお傍に仕えれるのだ。」
あ、これ見ちゃ駄目なやつだ・・・。案の定魔法で首と手足の先を刎ね腹を裂き胴を裂き血肉は綺麗に削ぎ取り水魔法で汚れを落とし火×風魔法で乾かし衣類が出来上がった。正に職人芸、まさか命も奪い取る対象とは思ってもみなかった・・・。間違ってるとは言わないがこの世界の常識とまだずれがあるのは確認出来たよ。ここでは命を奪わなくて済む技術が無いからしょうがないのだと自信を納得させた。
そしてふかふか毛皮を着て書庫へと向かう。