人と成りて~探し物は見つかった?~
森の中を駆け抜けながら思う。近くの出来ればそれなりに大きな村、いや町が望ましいけど見つかるかな?
取り敢えず視界が悪いし飛ぶか、両足に力を込めて飛び上がる。すると思った以上に高くまだ止まらない。あれ?これ着地やばいような?まだ灯りがある時間か分からないが辺りを見渡しながら跳躍力のすごさを改めて実感しつつ着地の心配をする。まぁ魔族の体だし?きっと大丈・・・まだ止まらない。あれれ?雲に届いた・・・こんなに高い位置からの落下なんて経験無いな、やっちまった。と後悔したとこで落下が始まる。手を合わせながら垂直に落ちていく中で何かが頭を過った!【スカイウォーク】落下速度が落ちて何やら踏み締めるようにするとポーンと跳ね上がる、足を止めると落ちるが歩く様にすると上下左右自由に移動は出来た。
「おぉ、これが叡智の本領か?」
空中を歩きながら目を凝らすと他方にいくつかの灯りが見えた。
「んー多分あれが近くの大きそうなとこだなぁ、距離は分かんないけど他に行って治療系統ありませんでしたよりはましだろうな。明るくなったらあの兄妹抱えて行くか」
重傷者を何日掛かるか分からない町へ抱えて行こうと危険な事を言いながら魔族の少年は兄妹の居る廃村へと戻った。
朝日が昇り始めた頃に魔族の少年はせっせと動いている。小屋の中も静かに色々と漁っている。
「これでよし」
包帯や綺麗な布等を探していたようだ。思ったより数はある、まぁ魔物とかにとっては包帯なんて意味無いしな・・・等と思いながら重傷者の包帯を取り替える。残りの包帯なんかを大きな布で纏めて少女を兄のベッドに移しベッド事縛った。次はベッドに射角を付けて木の板を上に取り付け、鋭くした爪で小屋の壁を切り裂いた。天気は良好済んだ空だと頷きながらベッドの下へと潜り持ち上げた。そして大きな町を目指して搬送が開始されたのだった。
道中木は邪魔なので昨晩身に付けた【スカイウォーク】で運ぶが遅い。地面と違い強く踏み締めれる限界があるようで従来の半分も速く進めない。記憶とも呼べる幻覚と同時に脳裏に浮かぶ一人の引き籠りをしている唯一妹の居ない記憶。今の人としての考え方や知識の大半はそこからの影響が強いようだ。そんな訳でこの世界は俺に優しくない、魔法とか色々あって便利と言えば便利だ。だがしかしチートでもなければ最強でもない、運が悪ければ勇者なんて居てここで遭遇してバッドエンドとか有り得る・・・この兄妹送り終わったら取り敢えず住処に戻ってこの世界の知識を得なければ!魔族って段階で最早楽な人生?いや魔族生か?は望めないのだろうと溜息を付きながら空を歩いて行く魔族の少年。
少女は爽やかな風の中気持ちのいい朝日で目が覚めたのだが
「あれ?いつ寝たんだろう?てか何か動けない?・・・縛られてる!?そして何で空に居るの!?」
ベッドに縛られてる自分の体と横を見ると下に木々が見える。
「あ、これ夢だ、うん夢。」
光を失った目でこれ以上は考える事を止めてある種の諦めを感じて流れに身を任せた。暫くすると少し開けた場所にゆっくりとベッドは着地した。そして顔を覗かせる予想通りの魔族の少年、やっぱりかと得心のいく少女。シュルシュルと縛られてた体は開放され近くにある木の果実を投げ渡された。隣に寝ている兄の包帯は新しくどうやら悪意のある行動では無いのだろうと少女は受け取った果実を口にした。
ベッドに取り付けられてる木の板は多分風避けなんだろうなぁと思い、少年ではあるが魔族、魔族が人を助ける?烙印された手の甲を見つめながら思いに耽る少女。すると
ドカッと音がした。少女がその音に目をやると土下座してる魔族の少年が・・・何で?
あぁまだ幼気な少女の手に烙印をして傷物にして奴隷とかあの時までは人の心を知らなかったからなんて言い訳はしません。許して下さいとも思いません。ですがせめてお兄さんを助けるためこの最低な僕と今はまだ行動を共にして下さいと悲痛とも言える思いで土下座した魔族の少年。
「はっ!?これが噂の拝み倒し!?私ここで」
「違うだろ」
一人変な事を口走る少女にストップをかけたのは重傷で伏している兄だった。
「兄さん!良かった意識が戻ったのね!!」
「あぁ、それより今の状況を説明してくれ」
涙を浮かばせながら歓喜と安堵の妹を前に冷静な兄の言葉に昨夜から魔族の少年が起こした行動を知っている限り話した。
「なるほど、魔族が・・・ね。恐らくこいつは兄妹、妹に何かしらの思いがあるんだろう。烙印された時に骸骨の司祭が言った言葉は本当でこの魔族に関しては俺達に危害は加えないと判断して良さそうだ。そして今はお前の兄である俺の為に何処かに向かってるのだろう、どうせ俺は動けないしこのまま成り行きに任せよう」
今の状況と今後について妹と話した兄。すると話が終わったのかと判断した魔族の少年から少女へ皮が剥かれ食べやすい大きさに切られた果実が渡され兄を指差しながら口をパクパクさせた。あぁ、兄にも食べさせろとそう素直に受け取って笑顔でありがとう。と魔族の少年の頭を撫でたのだった。
魔族の少年は気恥ずかしそうにもじもじしながら笑い返す。だが突如吐血する兄、やはり容体は良くないらしい自分一人ならあの町へ早く着けるが魔族であるため戦いになるのは必然で時間の掛かる空からの搬送は兄の容体がこれ以上悪化しない保証も無い状況に歯痒い思いをする魔族の少年。
布袋から綺麗な布を取り出し兄の口元を拭くと少女に布袋を渡し手を握って兄を縛ってる物を掴ませた。
ベッドの下へ潜り持ち上げると再び空へと町へ向かい移動を開始する。
速く、速く、もっと速くと焦りを感じながら懸命に今出せる速度で急いでいる。そこへ何処からか矢が射掛けられた!森の中から何者で何が目的か分からないが沢山の矢が飛んでくる、人数はそこそこ居るようだ。どうする!?戦う!?逃げる!?場所も人数も分からない、この速度じゃかわしきれないしそもそも過度な揺れは怪我の悪化を招く!なんで!?どうして!?守りたいのに!もう失いたくなのに!!焦りと人格が変貌してから日が浅いせいか自分の妹と重なり危機感だけが積もりながら逃げるが矢は無情なまでに射掛けられる。幸い風避け用の板で兄妹はまだ大丈夫そうだ。
「少しでも反撃して攻撃を収めなきゃ!」
少女は弓を構え森に矢を射掛ける!それでも焼け石に水、矢が飛んでくる数は減ることも無く遂には少女へと矢が襲い掛かった!矢が刺さりベッドから落ちる少女。その姿を目にする魔族の少年。溢れる涙と
【まただ、また守れなかった】【守れなかった】【守れなかった】絶望する心と狂乱の泉でみた幻覚が蘇る・・・ピシっ
魔族の少年の手から世界に亀裂が走る!幻覚から目覚める前に微かに浮かんだ言葉【ブレイク】そう発すると世界は鏡の様に砕け魔族の少年は同時に吐血し世界は少女に矢が刺さる前まで戻った!!理解するよりも状況を把握するよりもただその矢が刺さらない為に魔族の少年はベッドを傾け先程の結果を回避した。
何がどうなったかは今はいい、守れた。だが内臓がどうにかなった!?痛い、辛い、でも速くこの場を逃げなければ何度も使える能力ではなさそうだ。
歩くのを止め一時的に落下する。そう少女に落ちないよう何かに掴まらせる為に、そして閃きが起きた
【ガーディアンシールド】本来は攻撃から身を守る結界なのだが足元に展開して全力で踏み締めた!そう地上と変わらない速度で見事に戦線離脱。したがはて?怪我人に過度な衝撃を与えずどうやって速度落とそう?行き当たりばったり多いよなぁなんて今更反省しつつ、だが完璧じゃないからしょうがないのだ。うんうんと開き直りもした。
徐々に速度と高度が下がって来た、うん、町が見えてきたし結果オーライ!さてと【スカイウォーク】で軽く速度をおとしながら上昇。適度な踏み締め以外は足場となる物は突き抜けるので案外衝撃が無く徐々に良い感じだ。町からそう遠くない森の終わり近くの街道に到着。
兄妹の様子をひょこっと見ると見事に気絶していた。兄は顔面血だらけだがまぁ吐血したのが風圧で掛かっただけっぽい。心臓は動いてる、少しそっとして置きたいけど手早く束縛していたものを外し少女の頬をペチペチと叩いて起こした。
「あ、私生きてる。」
青ざめた表情で涙を浮かべている。ベッドから降りると近くに町があった。すごいと驚愕している間に魔族の少年から何やらロープを握らされた・・・その先にはいつの間に改造したのかベッドに車輪が付いて引いて移動できるようになっていた。
ただただ驚く少女を他所に魔族の少年は森の中へ入って行った。
「なんか色々大変だったけどありがとう。優しい魔族の少年くん」
もう聞こえないし言葉も通じないのだが不思議とそう囁いていた。
「色々ありすぎて疲れた・・・一旦住処に戻ろう・・・てか、結局ブランケット一枚腰に巻いただけとか・・・」
この先、不安しか無い現状に肩を落としながらとぼとぼと帰路する魔族の少年であった。