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16 家庭教師はやばいです②




お祖父様に新しい家庭教師がつくと紹介された翌週。その人はやってきた。初めての授業は、午後の部の後半、夕方に近い時刻だった。


「はじめまして。ヴラド=ウラルと申します。浅学の身で僭越ながら、リュミフォンセ様の魔法の手ほどきの任を承りました。以後お見知りおきを」


丁寧な挨拶に、わたしも淑女式の礼を返す。ヴラドは白皙の青年だった。一眼鏡(モノクル)の奥の瞳はペールブルー。背は高く、わたしは自然と見上げる格好になる。教養科目を受け持ってくれるグレイ先生に雰囲気が少し似ている。


そのあと、二、三言、言葉を交わす。お祖父様の紹介通り、本職は王都の魔法学者らしい。今回は家庭教師の任のためにロンファに居を移してきてくれたらしい。若いが魔法学の理論と実践に優れており、学会でも碩学に認められているらしい・・・お祖父様はこういうタイプの人がお好きよね。


余談なんだけれど、お祖父様はこうして若く優秀な人材を見つけては、パトロン役を申し出ることで、領地の人材育成を強化しているらしい。ただのパトロンでは支援も限られるので、こうして肉親の教育係に任命することで、拠点を移らせ、地縁を作らせようとしているんですって。支援している分野は学術や魔法に限らず、芸術や冒険者にも及んでいる。・・・と、グレイ先生が教えてくれた。


授業に入る。お屋敷の部屋の一室、ヴラド先生と長机に向かい合って座る。部屋の隅には護衛役として騎士がひとり。家庭教師といえども、不届き者がいないとも限らないので、授業の最初の数回はこのように護衛が立つことになっている。


「リュミフォンセ様は、素晴らしい才能をお持ちだと伺いました。最初は属性の適性をはかりますが、その前に、すでに使える魔法があるのでは?」


いよいよ、質問が来た!


わたしは表面上はおっとりと微笑みながら、内心では背筋を伸ばす。




■□■




数日まえ、今のわたしのちからをオリジンのステイタスカードで計測したところ、このようになっていた。



リュミフォンセ=ラ=ロンファーレンス

レベル:81

ステイタス:『公爵令嬢』 『転生者』 『魔王の落とし子』

      『暗黒狼の使役者』 『古代守護者の破壊者』

ジョブ:  黒色魔法師



位階(レベル)40以上がこの世界で一流とみなされる目安らしい。なので、わたしは現時点で一流のラインを軽く越えていることになる。あと、余計な肩書きが増えて、本当のステイタスはますますオモテに出せなくなっている。


わたしが求めるのは平穏な暮らしだ。


だから過剰な魔法力を持っていると周囲に知られたくない。過剰な魔法力は、魔王の落とし子だと知られてしまうきっかけになってしまうかも知れない。


わたしが求めるのは、あくまでも人間的な範囲での優秀さである。


この魔法の授業でもし全力を出したら、わたしが人外のちからを持っていることがばれてしまう。けれど、うまくやれば、望み通り人間の範囲で、優秀と評価してもらい、公爵令嬢としての人生がきれいに開けていくかも知れない。けれど、授業でそう評価されるのは、どうしたらいいか・・・。おそらく、一番最初にわたしの適性をはかることになるだろう。そこが最初のヤマだ。

いまでは偵察のためにお屋敷の外に出る習慣がついて、週に1回しか定期報告に戻ってこない黒狼のバウに、わたしはめちゃくちゃ相談した。あとは、騎士団の人たちにそれとなく聞いた。


わたしの武器はたったこれだけ。


けれど、わたしはこれで! この窮地を! 乗り切ってみせる!




■□■




わたしは新たに着任したヴラド先生を前にして、静かに深く呼吸をして、心を落ち着かせる。最初の質問は、学習前にすでに使える魔法があるか、だ。


「わたしは騎士団のみなさまの訓練をよくみておりますので、お恥ずかしいはなしですが、見よう見まねで魔法をためしています。そのときに出来たのが・・・火の玉と、風の盾です」


初心者向けの魔法はできることにしておく。どうだ!


「ほう、ほう! それは素晴らしい! 理論を学ばず見ただけで魔法が使えるというのは本来ありえませんが、しかし少ないですが実例あります。リュミフォンセ様は間違いなく天才ですな! しかし、実践に理論が伴えば、さらにその才能を伸ばすことができるでしょう!」


ヴラド先生はなんども頷きながら、にっこりと犬歯を向いて笑顔になる。よし、セーフ!


本人は精一杯の愛想の良い笑顔だろうが、もともとの顔つきが鋭い感じなので、子供視点から見るとちょっと怖い。でも女性で野性的だとかでこういうのが好きな人はいると思う。


そんなことを考えていると、ヴラド先生はことりと水杯を長机の中央に置き、ぽとぽとと8種類の染料を水の中に落とした。水の中で8つの色がうごめいている。


「これは色見(あらた)めと呼ばれる手法です。リュミフォンセ様、こちらの水杯に、ご自身の魂力(エテルナ)を注いでください」


これは、落とした魔染料がエテルナに反応して広がり、得意な属性、使える属性を判別するものだ。魔法の力量はこの方式ではわからないため、わたしは安心して判別に臨む。


両手の指先をほんの少し水杯に触れさせ、ゆっくりとエテルナを注ぐ。すると、水中の魔染料が反応し、水面に浮かび上がり表面を覆っていく。8種類の染料が混ざりあって、まるで虹のマーブル模様のような複雑な模様を描いている。黒の面積が広いから、あんまり見た目はきれいじゃないね。


「おお・・・黒を基調として、赤、青、緑、黄、紫、紺、白・・・。全属性ですな。素晴らしい」

おっと、全属性? これは予想外だ。てっきり闇属性である黒に加えて3,4個ぐらいだと思っていたのに・・・。こうして授業を受けると、意外な発見があるものだね。


「闇属性の黒色魔法は、強い力を持ち、精神やエテルナに作用する種類の魔法を多く備えています。リュミフォンセ様はこの種類の魔法が得意になるはずです。その他の属性の魔法もそれぞれ特徴があるのですが、これはこの先の講義でお伝えしましょう」


ほうほう。そうだったのか。やっぱり知識は大事だね。


わたしが頷くと、ヴラド先生は話を次に進めた。


「次は魂力(エテルナ)量を測定します。魂力(エテルナ)の量は、魔法の強さに直結するもの。この魔道具の中央にある石に、3つ数えるあいだに、全力でエテルナを注いでください」


ヴラド先生は魔法袋から枕ほどの大きさの板を取り出した。板の中央にはこぶしほどの石がはめられ、さらにその周囲にはその半分以下の石が放射状に埋め込まれている。


わたしは、緊張にひゅっと息を吸い込む。


これが、話に聞いていた魂力(エテルナ)量測定器。対象者のエテルナの総量を計測するもので、つまりはこれで対象の魔法の強さ、潜在力を測ることができるもの。つまりこの計測を無事に乗り越えれば、わたしの勝ちだ・・・!


魂力(エテルナ)量測定器には二種類ある。対象者のエテルナの総量を探る探知型と、一定時間出力した量から測る出力型のふたつ。


探知型は設備が大掛かりになり神殿に備え付けるようなものであるのに対し、出力したエテルナ量をはかるだけのものは持ち運べる測定器に多い。話に聞いていただけど、これは出力型で間違いない!


つまり、全力を出すフリをしながら、実際は適度に抑えたエテルナを流せばいいということ! ならば、目の前のヴラド先生に、わたしが全力を出せたと思い込ませれば、わたしの勝ちだ!


高まれ、わたしの女優力!


「まいります。・・・はぁぁぁっ!」


生まれて初めて出すであろう気合の声とともに、わたしは測定器中央の石に触れると、全力でエテルナを出す! フリをする!


ヴラド先生の3つ数え終えたその瞬間に手を放し、肩で大きく息をつく・・・フリをする。だが気がつくと、額にじっとりと汗を感じていた。演技にかなり熱が入ってしまったらしい。


測定器の半分ほどの石が、エテルナを流したことで点灯していた。これがいいのかどうかわからない。そしてわたしの演技が通じたかどうかも・・・。


わたしは顔をあげて監督ーーではなかった、ヴラド先生を見る。軽く首をかしげていた彼は、わたしの視線を感じ、表情を微笑みへと変えた。


「ご年齢を考えれば、かなりのものです。エテルナの上手な引き出し方はこれから学べますし、扱う量もこれからも増やせます。なに、ご心配には及びません。リュミフォンセ様が魔法の才をお持ちであることは、疑いようもありません」


あれ? 注いだエテルナの量がちょっと少なかった? まあ、この場を乗り切れたので、よしとしよう。


「これからごべんたつのほど、よろしくおねがいします」


わたしはほっとして教師に頭を下げた。視界は自然と長机にのみになる。


そのため、機器を片付けるときにヴラド先生が見せた、歓喜で目をむいた異様な表情を、窺うことはできなかった。









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