意外とうまくやれている1
一日目
東門に近いところにある目についた宿をとったのだが、部屋に入って手を離すと奴隷が動かなくなった。
窓際の寝台へと腰掛けてからそれに気づいて尋ねる。
「どうしたんだ?お前の寝台はそっちな、俺はこっち」
そう言っても動こうとしない。
通りに面した窓から見慣れない景色を眺めていると小さく声がした。
「あの、廊下とか、床じゃないんですか?」
「廊下?床?何がだ?」
「その、私が寝る場所、です」
言われて考えたが廊下は論外だ。買ったばかりの奴隷に何かあったら大損害だしな。
床も無いな。明日も迷宮に行く予定だし、体調でも崩して空間収納が使えなかったりしたら困る。
「お前の寝る場所はそっち、何で廊下とか床とか言い出したんだ?」
「あの、奴隷商の方が、奴隷とはそういうものだって……だから覚悟はしておけと」
んん?奴隷ってそういうものなのか、厄介だな。寝台の布団を床に使ったら宿屋に悪いし、床用の布団をどこかで買ってくるべきか?
「困ったな、寝台で寝ると何かまずいことでも起きるのか?」
「いえ、そういうわけでは……」
「どういうことだ?床で寝ないと衛兵につかまるとか?」
「そんなことはありませんが……」
そんなやり取りを何度も行い頭がこんがらがってきたが、結局寝台で寝ることに問題はないらしい。よくわからんが、そういうことらしい。
ようやく奴隷が寝台へと腰掛けたときに部屋の戸が叩かれて声がした。
「湯桶をお持ちしました!」
「入ってくれ」
鍵のかかっていない戸を引き開けた宿の男が手提げの木桶を部屋に置いて去って行った。手提げ部分には体を拭く用の布がかけられて湯から立ち上る湯気を受け止めている。
「おい」
「は、はいっ!」
「体拭くから俺の荷物出してくれ。着替えがいる」
宿屋と提携しているという食事処で割引をしてくれるという割符を持って食事に来たのだが、ここでも奴隷は席につこうとしなかった。
「あ、ああ、あの、ご主人様と同じ席という訳には……」
「あのな、店のことも考えろ。別々の席なんて取ったら机を二つも使うことになって迷惑だろうが」
「ゆ、床で……」
その場でしゃがみこもうとする奴隷の襟をつかみ上げて席へとかけさせる。せっかく湯で体を清めたというのにまた汚したらさらに湯桶代がかかってしまう。ここでの食事代のことも考えるとそんなことになったら明日の朝食抜きは避けられない。
奴隷の向かいへと腰掛けて壁にずらりとかけられた木札に目をやった。
今日は酒を飲む余裕はないな。
注文を取りに来た店員へパンとスープを頼み、何か一品適当につけてくれと告げたのち。
「おい、早く決めろ」
奴隷は俺と店員の顔を交互に見ながら口をパクパクさせている。
俺もだんだんと慣れてきた、これはまたよくわからないことをぶつぶつ言って何もできないやつだ。
「こいつにも俺と同じ注文で頼む、それと、水を」
「あいよ」
安易に奴隷を買ってしまったが、よくわからない決まりのようなものがあるみたいだし、少し面倒かもしれないな。
勇者パーティ
勇者 ハッシュ=ダナン ステータス異常 人望低下・貧乏
所持金 400ルク 称号 勇者・すなお・奴隷初心者
装備 町民の服 武器 バールのようなもの
奴隷の少女 名前を聞いてください ステータス異常 混乱・満腹(行動力鈍化)
装備 子供用探索服 武器 装備していません
仲間の名前を入れてください
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