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どうして奴隷を買うことに

 翌日、荷物をすべて背負って宿を出た俺は剣を預けた鍛冶屋へとやってきたのだが。

「まだできてないのか」

「はい、まことにすみません。お客様の剣はなにぶん扱いがひどかったのか時間がかかるようで……」

 昨日と同じ店員が手をすり合わせながら謝った。

「どれくらいかかるんだ?」

「それが、ちょっと、ひと月はかからないと思いますが」

 少し考える様子で発された言葉に耳を疑う。

「ひと月!?本気で言ってるのか?」

「いえ、いえ、それほどにはかかりませんよ、と」

 それから何を言ってもあいまいな言葉しか吐かない店員に嫌気がさして店を出た。

 剣が返ってくるまでにひと月かかると仮定すると、一泊が3000ルクだから、宿代だけで8万と1000か。

 財布の口を開けてのぞき込むと大金貨が7枚、金貨が3枚。小銭入れは大銀貨以下の硬貨だから数える必要はないな。問題はなさそうだが、迷宮に入れないのは嫌だ。先ほどの店は気に入らないからどこか適当な鍛冶屋で武器を調達しよう。


 一件目

「いらっしゃいませ!」

「なんでもいいから剣をくれ」

「はぁ、何でもいいといわれますとこちらも……」

「振れれば何でもいい」

「おいおいおい!あんちゃん、奥から聞いてればいいかげんなこといってくれるじゃねーか!!オレが鍛えた剣には適当なんてもんはねーんだよ!!とっとと出て行け!」

 二件目

「おう、らっしゃ……あぁん?帰んな」

「何を言っているんだ?ここは鍛冶屋だろう」

「うるっせぇよぃ!お前みたいなやつにうちの武器は勿体ねーんだよ!!」

 三件目

「いらっしゃいませ~」

「剣をくれ」

「まことにすみませんがすべて売り切れております~」

「は?そこの棚に……」

「すべて売り切れております~」


「おとといのご来店誠にお待ち申し上げております」

 俺が知っている一番最後の店先で、店員が深々と頭を下げた。

 言っていることはよく解らないが俺に剣を売りたくないことだけは伝わった。

 どこかほかに武器屋はないものかと、大通りから離れて今まで通ったことのない道を歩いていると、次第に道の幅が狭くなり、人通りも少なくなってきた。

 建物の隙間からのぞく壁と今までの道のりで、ここが迷宮都市エガシュソードの中心にある貴族街を取り囲む街壁の外側、南西辺りだとわかる。もう少し進めば街壁の南門が見えるだろう。門のすぐそばには貴族やそれにかかわるものを目当てとした露店が少しあるのだが、たまに子供を目当てとした鋳物の剣を扱っている店があることを思い出し、立ち寄ってみることにした。

「一本、いちまん……」

 両刃の剣身には種類の違う銀箔が張られており波のような刃紋が浮かび上がっていて、柄は色鮮やかに染色された革ひもを編み込んだもので包まれている。木でできた鞘には繊細な染色と、カットされた理力石のかけらが埋め込まれていてきらびやかだ。1万ルクという金額もうなずける。

「お子様にいかがですか?きっと喜ばれますよ」

 俺は応じずに店を離れた。

 すぐ隣にあった使用人用であろう工具の店を何の気なしにのぞいていると、一本の棒が目に留まった。

 腕ほどの長さで途中からわずかに斜めになっている。先端は指二本分の幅が平たくつぶされている。釘で打たれた板同士の隙間に差し込んでこじ開けるための道具だ。手に取ると確かな重さを感じた。

「これはいくらだ?」

「へぇ、はち……じゃなくて900ルクです」

 俺は店員の手のひらに大銀貨を一枚のせ、銀貨と棒を受け取った。棒は入りきらなかったので背負い袋から長く飛び出ている。結構丈夫そうだし、剣が戻ってくるまでは使えるだろう。


 帰り道、一人の男に呼び止められた。

「そこの旦那、人手はいりようでありませんか?」

 今まで聞いたことのない呼び込みの口上に足を止める。

「人手?」

「そうですよ、見たところどこかのお屋敷にお勤めですかね?」

「いや、勤め先?は迷宮だ」

 首をかしげながらも答えたが、迷宮が勤め先、間違ってはいないのだろうが自身の言葉には違和感しかない。

「となると、探索者様で!?いやぁ、通りで、まとう空気が一味違いますなぁ」

 ふむ、探索者と町民の違いが判るとなるとこの男も見た目によらず高い実力があるのかもしれない。引退した探索者か何かだろうか。

「迷宮探索に人出は足りていらっしゃいますか?恐れながら何人で迷宮に?」

 人手人手と言っているのだから何かしら伝手があるのだろうか?元探索者のつながりを生かして探索者の紹介なんてことを生業にしているのならぜひ手を借りたい。

「それが、つい先日に仲間がいなくなってしまってなかなか人員が集まらず、今は一人なんだ」

「そうですか、そーですか、でしたらぜひこちらに。ご予算はいかほどでしょうか?」

 店の中へと通されてすぐにある布張りの椅子をすすめられた。予算を聞かれて目の前のテーブルへと財布を置いた。

「今のところはこれだけだ。金額で何か変わるのか?」

「変わりますとも、お客様、奴隷を買われるのは初めてですか?」

 財布の中身を覗いた男は満足げに笑みを浮かべてからうなずいた。

 奴隷?奴隷か、なるほど、そんな手もあったな。ここは奴隷商だったのか。

「ああ、奴隷を買ったことはない。どんな奴がいるんだ?」

「いえ、いえ、ご案内する前にお客様にぴったりの奴隷がいるかまずはお話を伺わせていただきたく。お客様は奴隷にどのような働きをお望みですか?」

 働き、働きか、働きねぇ?

 迷宮のことを考える。魔物を倒すのは……俺がするな。そうだ、怪我したとき!

「治癒術が使えるといいな」

「ははは、ご冗談を。治癒術は教会の管轄ですよ。奴隷が使えるわけないでしょう」

「そうなのか!?」

 それ以外……それ以外でぇ?

「うぅむ、お客様は空間収納はおできになりますか?」

 空間収納、あると便利な力だが俺にはその才能がなかったらしくて全く使えるようにならなかった。

「訓練したが無駄だったな」

「そうですか!では、ぴったりの奴隷がいますよ!!」

 そうして案内された地下の奴隷部屋には一人の子供がうずくまっていた。

 鉄格子がはまって小さく区切られた部屋のひとつ、から出された子供はたまに口に手を当ててこん、こん、と咳をしている。

 生成りの簡素な服に短く刈り込まれた茶色い髪。子供と接したことなどほとんどないから歳などわからない。

「こちらは空間収納持ちで、年も若いので将来有望な奴隷ですよ。今は少し風邪をひいていますが、すぐに良くなるでしょう。そうですな、本当は100万ルクはするのですが……」

 子供を連れて上がってきた元の部屋で男は何やら困った顔をしている。

「100万ルクは持っていないな」

「あぁ、分かっております、そうですな……そう、本日はお客様と出会えた記念です、70万ルクにいたしましょう!」

 おぉ、30万ルクも値引いてくれた。しかし70万ルクか、所持金のほとんどが無くなってしまうな。

「まことにすみませんが空間収納持ちは人気が高くて、30万の値引きができるのは今日だけなのです、いかがでしょうか?」

 今日だけか、今日を逃したら30万ルクを貯めてこないといけない、どうしたものか。

 悩んでいると突然に店の扉が開かれた。

「店長!空間収納持ちの子供を200万ルクで売ってほしいというお客様が……」

 体格のいい割には高い声の男が俺の目の前で奴隷商の男に報告を始めた。

 200万!?この子供にそんな価値があるのか!?

「少し静かにしなさい、どうでしょうか、お客様、もちろん必要ないというのならば無理に進めたりは……」

「あ、か、買う!売ってくれ!!


 奴隷店にて

 大男と小男は互いの両手を何度も打ち合わせては喝采を叫んでいた。

「いや~、うまくいったね~」

「店長もやり手ですね~70万でしょ!?どう処分するかで困ってた奴隷をよくもまあ売りさばけたもんですよ」

 お盆の上にのせられた大金貨を眺めて大男は改めて店長への畏敬の念を深くした。

「まぁねぇ、ぼくにかかればこんなもんさぁ。肺病の初期症状は風邪と見分けがつかないから」

「店長だって騙されてましたもんね」

「それは言わない話だろ?」

『アッハッハッハ~』

 そんな一幕があったとかなかったとか

勇者パーティ

勇者 ハッシュ=ダナン ステータス異常 人望低下

所持金 46450ルク 称号 勇者・かもねぎ

装備 町民の服 武器 バールのようなもの


奴隷の少女 ステータス異常 肺病(初期)

装備 粗末な服 武器 装備していません


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