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裏 勇者はひどいやつらしい

勇者がパーティから追い出される前だったり後だったりの時系列バラバラ三人称話です。

 ある日の迷宮都市、エガシュソードにて。

 ここで迷宮に挑み始めてからずっとひいきにしてくれている青年が浮かない顔をしているのを見て、雑貨屋の店員は軽い気持ちで声をかけた。

「どうしたんだシヨルク、またパーティでもめたのか?」

 するとシヨルクと呼ばれた青年ははっとした顔になり口元を隠す。聖職者として人々の心の支えであるべき自身がたやすく感情をあらわにしていたことを恥じたのだ。

「いえ、そんなことは……迷宮から出てきたばかりなので少し疲れていたようです」

 買い物を終え店を去って行くその背中を眺めながら、店員はつぶやいた。

「あんな真面目な助祭様なのになぁ、やっぱりハッシュってぇ勇者はとんでもないやつみたいだな」


 夕方、まだ少し早い時間だが、開店したばかりの酒場に二人はいた。

「ほんっとうにやになるよ、ボクが命はって先行したって意味ないんだもん。迷宮の奥へ進むならもっと体力とか温存しないとダメだってシヨルクが言ってるのにさぁ……今回だって途中で筒灯の燃料が尽きて戻ってきたんだよ?あいつが勝手なことせずに一番近い道で降りてれば絶対にもっと進めたのに!」

 また・・そうだったのかと迷協の受付嬢であるキティは納得した。迷宮に挑み始めた当初は順調に到達階数を伸ばしていた勇者パーティだったが、最近は足踏みが続いている。

 戻ってくる理由にほかのパーティでよくある怪我や人員の欠けなどは滅多になく、物資の不足が主であった。

 それに伴い勇者パーティの、特に勇者ハッシュの評判が下がり気味なのが最近の迷協長の悩みの種である。

「まあ確かに、ディニちゃんたちの実力ならもっと下の階層でもやっていけそうよね」

 今回持ち帰られた理力石の質や数を思い返してキティはうなずいた。それほどの魔物を倒してさらには誰一人傷を負うこともせずに帰ってくるのだから、さらに五階は下でも問題なく探索ができるだろう。

「そうなの!認めるのはやだけど、あいつは確かに強いんだ。シヨルクは治癒術自体はほとんど使うことがないけど、迷宮についてすっごく勉強して、魔物のことだって詳しくて、ジーフォスの理術は広い部屋一面の魔物だって相手にならない。ボクだって、ボクが……一番安全に、速く先導できるはずなのに……ボクが一番……役になってない」

 キティは妹よりも年下である少女の頭をそっと撫でてやった。

「まったく、こんなに頑張り屋のディニちゃんを泣かせるなんて、勇者ってサイテー!」

 その声に応じていつの間にか店に集まって二人の話を耳にしていた客たちは、大きく何度もうなずいた。


 とある鍛冶屋にて、接客を任せられている見習いは一人の客を見送ってほっと息を吐いた。

「なんだ、客だったか?」

 奥からぬっと顔を出した店長に慌てて手を振る。

「いやいや、すぐ帰りました。冷やかしだったみたいで」

「ふ、ん。そうか、お、そうだ、例の剣が仕上がったから引き渡し品の倉庫に置いてある。ハッシュが来たらオレを呼ぶように」

 そういって店の奥にある鍛冶場へと戻りかけた店長へと見習いが声をかけた。

「呼ぶようにって、鍛冶の最中でもですか?」

 いつも作業を邪魔されることを嫌う店長への確認だ。

『鍛冶の最中は声かけるなって言ってあるだろ!』

 などと怒鳴りつけられることを覚悟しての問いかけだったが、意外にも店長はうなずいた。

「ああ、剣があいつの腕に釣り合わなくなってきてる。次のを打たにゃいかんからな」

 師事している店長が先ほどのいけ好かない客、ハッシュを褒めるのを聞いて、店員はなにやらもやもやとしたものが胸にたまるのを感じていた。

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