前半
かつて、幾つかの国々が、まとまって大きな戦争をした事があった。
戦費債権は史上類を見ない程に、莫大な額となり、その戦争が終わった時には、勝った国も、負けた国にも、支払える能力は残っていなかった。
全ての債権を、無理矢理、敗戦国に押しつける形になった、その戦後処理の会議に参加した戦勝国側の30代のとある大蔵省の首席代表官僚は、このような非現実的な賠償案は、この地域の平和を脅かす物になるだろうと、批判した。
この戦争とは、皆さんご存知、世界大戦です。
戦勝国側とは、他にも幾つかありますが、イギリスの事で、その大蔵官僚は、出身もイギリス、経済学者とも知られるジョン・メイナード・ケインズ。
非現実的な賠償はベルサイユ条約で、ドイツナチスを予測したとも言われる同条約への批判として出版されたのは、ケインズ著「平和の経済的帰結」です。
皆さんこんにちは、ふりがなです。
今回は、欧州で台頭する右派政党の原因を、ケインズの平和の経済的帰結と合わせて紹介したいと思います。
EUの右派政党の台頭の理由は色々言われておりますが、ケインズの組み合わせは中々無いのでは無いでしょうか。
さて、冒頭でケインズや世界大戦の名を敢えて書かなかった理由は、類推を全面に押し出した作品になるからです。
類推、アナロジー。
不必要な要素を排除して、他の事柄との共通性を見出す推測方法です。
もし、冒頭に書いた戦争が世界大戦でなかったら?
批判したのがケインズでは無かったら?
ケインズの予測は、重要な教訓として現代まで残って居たのでしょうか。
ベルサイユ条約で得られた教訓とは、当然の事ながら、他国を非現実的なレベルで酷い目に合わせると、結果として本当に録な事にならない、という事です。
最も、それまでの時代に、あらゆる世界で他の民族がされたように、ドイツ人を立ち上がれない程に徹底して、苦しめて滅ぼすくらいの事をしたのなら、ナチスドイツは誕生しませんでした。
欧州の同族意識をして、当時は民族を滅ぼせる時代ではなかったのですが、ナチスドイツを生み出したためベルサイユ条約は中途半端な条約だったとも言われます。
ドイツの経済を崩壊させた、非現実的な初期のベルサイユ条約は、その後、賠償金の支払いの滞りから、石炭などの現物押収、遂にはルール工業地帯の軍事占領、ハイパーインフレーション、ミュンヘン一揆を経て、ある程度の譲歩へと至ります。
しかし、世界恐慌によって、再度ドイツ経済は再び崩壊。
それによって、ナチスドイツは誕生します。
戦争を反省すべきと良く聞きますが、ケインズのベルサイユ条約への批判を教訓とした場合には、類推として、例えば、戦後アフリカ諸国での飢餓輸出は、その教訓に反する事になります。
債務の減免さえあれば防げたハズの数多くの飢餓輸出によって、アフリカに大戦を生み出すナチスドイツが生まれなかったのは、単にそれらの国が、大戦を起こすような近代国家として、力を持ち得ない後進国だったからです。
もしくは、水道民営化に失敗し、貧困者が雨水さえ使用出来ずに、泥水を啜るしかなかったボリビアもそうでしょうか。
このような例を踏まえ、ケインズの第二次大戦の教訓は、現代に活かされていると言えるのでしょうか?
今日、我が国日本で、一般的に紹介されている反戦への教訓は、ケインズによるベルサイユ条約への批判ではなく、ブロック経済の教訓です。
曰く、1929-1933の世界恐慌で、各国がブロック経済政策を取ったために、世界の貿易総量は7割も減少し、植民地を持つ側のイギリス・フランス・アメリカの「持てる国」と、植民地を持たないドイツ・イタリア・日本の「持たざる国」の勢力争いが第二次大戦の切っ掛けとなった。
この教訓は、残念ながら典型的な過去の自由経済のプロパガンダであり、ケインズの予測とは違い、間違いだらけの教訓の好例となります。
関連した話では、昨今の米中貿易戦争では、アメリカの保護貿易は戦争の切っ掛けになるだろうという論調です。
この論調も、経済政策と貿易論の一般常識を学んで居ない層向けのプロパガンダなのですが、最低限の経験を持った知識層は、米中貿易戦争と書く情報媒体は、軒並み質の悪いタブロイド紙で、米中貿易摩擦という呼び名が正しいと指摘できるでしょう。
何故ここで、経験が出てくるかというと、米中貿易摩擦は、戦争などではなく、かつての日米貿易摩擦と全く同じ物だからです。
悪感情を生む貿易摩擦は必ず解消しなければならない!
穏便に済ませたかったら、ホンダの自動車工場をアメリカにつくるのだ!
ジャパンバッシングを受け入れろ!
そもそも、基礎的な貿易論において、二国間の感情を悪化させる原因は、保護貿易には限りません。
原因は、全て、貿易摩擦問題にあるからです。
自由貿易で二国間の格差が拡大した結果であろうと、保護貿易で是正を図ろうとした結果であろうと、貿易摩擦問題が拡大すれば、どの道、二国間の感情は悪化するのです。
かつて、ボーンチャイナや茶葉、絹を求めて阿片を交換に出し続けようとした、イギリスの汚点、阿片戦争は、保護貿易にも自由貿易にも属さない典型的な貿易摩擦問題でした。
保護貿易も自由貿易もない、全て貿易摩擦の話だ、この当たり前過ぎる常識を知らない、経験も無い層に、反戦というキーワードを混ぜて、自由貿易主義というイデオロギーを吹き込んでいるだけのデマゴーグというのが、このブロック経済の教訓の正体となります。
さて、経済政策の常識の一例ですが、米中貿易摩擦に対しては、2000年代の初頭には、先進国の雇用が途上国に流れているから、先進国は成長出来ないのだという指摘が既にありました。
特にデフレの続く日本では、各国に先立ってこの認識がありました。
この反論には、シュンペーターのイノベーション理論、ドラッカーの知的産業の発掘を通して、先進国がスタートアップ企業を生み出せば、途上国と先進国の成長は両立出来る、むしろ歓迎すべきだとの論調が使われ続けます。
流れが変わったのは、先進国の所得の伸び悩みを示したエレファントカーブや、2010年代の中頃、アメリカのスタートアップ企業の雇用は、先進国の20倍以上が、中国に流れているとデータで示された事でした。
そうして2018年夏から秋、おおよそ認識から15年超、明確な根拠が示されてから、数年をかけ、アメリカは中国との貿易摩擦問題に取りかかります。
この例のように、即応性を求められる金融政策を除いて、経済政策の転換は、基本的に、長い長い時間がかかります。
これは、地方の流行が、東京より1年遅れていたり、欧州のミュージックシーンが日本に来るのが半年遅れたりするのと同じで、情報の伝播には意外と時間がかかるという事です。
2008リーマンショックに対して、遅すぎたとも言われる金融政策が日本で取られたのは、アメリカに遅れる事4年後の2012年です。
ですから、日本の対中政策の転換は、アメリカに遅れる事、これから3年後から4年後に起こりえるかもしれません。
経済政策のきっかけとなる原因は、少なくとも3年遅れで見る物なのです。
経済政策に拘わらず、あらゆる政策は、そういう物ですが。
ブロック経済的への転換に、世界恐慌は関係があるのか?
経済政策への時間軸の一般常識があれば、何故、悪名高い高関税政策、スムート・ホーリー法は「暗黒の木曜日」から、僅か半年で執行されたのだろうか。
本当に高関税政策は、果たして世界恐慌対策なのか、一般常識を持つ層は、疑問に持てるハズなのです。
スムート・ホーリー法は、世界恐慌ではなく、1922年から始まった農作物の価格下落を切っ掛けとする米農業恐慌への対策です。
各国の対策を見れば解りますが、混乱期への対策として関税政策を施行するには、あまりにも対応が早すぎます。
実は、後にブロック経済へと発展する貿易摩擦問題は、世界恐慌が始まる前からとっくに暴発する寸前だったと見るのが自然なのです。
米農業恐慌を考えるに、近い所では、日本の経済政策の汚点とも呼べる、米価暴落が挙げられます。
これは、官憲が政商と一緒になって、所得格差の大きい大陸産の米を、自分達だけが儲けるために、せっせと日本国内に輸入した結果、米価暴落によって国内の農家を困窮させ、果てには、それを憂いた陸軍による226事件を招いてしまったという物です。
話は逸れますが、この官憲の汚職、ドイツのハイパーインフレーションでは、某有名人の大蔵省の同僚がみんなで揃って汚職をして、金儲けに走っていて絶望したとか、同じくハイパーインフレーションで有名なジンバブエのムガベ大統領は、それを利用した資産家だとか、教科書には書かれませんが、政策の失敗の裏には、大抵官憲の汚職が出て来ます。
経済は直ぐ暴走して、絶対に統制出来ないと主張する人が稀に居ますが、反面で近代の経済統制は、戦中のアメリカ、恐慌での日本やソ連など、そこそこ成功例がありますから、それは明確に間違えです。
もしかしたら、統制出来ずに暴走して経済を破綻させる本当の原因は、古来から、当局の汚職が主な原因というのが、実情なのかもしないなと、私は思っています。
ソ連崩壊前の汚職も、ご存知の方は多いと思います。
教科書が、全く教科書してないという話ですね。
げに恐ろしきは、経済にはなく、人の業なのかもしれない。
話は戻しまして、類推だけでは、推測として不完全なので、自分が当局ならどうするか?
これも、思考するときは重要な作業となります。
農作物の暴落に対して、あなたがもし米当局なら、スムート・ホーリー法以外の何を用いるでしょうか。
日本ならそうですね、テレビで見るキャベツの価格維持では、出来すぎたキャベツは潰していますが。
さらに補足しておくと、世界恐慌はデフレ恐慌とも言われます。
不当廉売という言葉は、一般には聞き慣れない物かもしれませんが、貿易では、ダンピングとして反ダンピング関税、国内では公正取引委員会が受け持つ、明確な不正です。
要は自分が損をしてでも、人に物を売ると、周りに迷惑だからやめてね、経済が健全でなくなるから、安定供給出来なくなるからという話ですね。
ですから、ブロック経済が、デフレ恐慌にどう作用したのか、この手の現代の知識に置き換えると、むしろ普通にプラスだったという説があります。
むしろ、プラスだったというのは、今では主流と呼べる論調でしょう。
では、経済にプラスのハズのブロック経済をしたのに、何故世界の貿易は世界恐慌で、7割も落ち込んだのか?
その理由とは、世界恐慌で、世界中の銀行がぶっ潰れたからです。
当時、株式投資に利用する商用の銀行は決まっていましたが、米当局の金融政策の失敗もあり、不安が不安を呼び、他の銀行へ取り付け騒ぎが波及しました。
アメリカの各銀行は、復興中の欧州から資本を引き上げ、恐慌は世界中に波及したのです。
この流れは、アメリカの金利政策を切っ掛けにした、資本の引き上げで起こったアジア通貨危機と全く同じです。
身近な例に置き換えると、消費税が20パーセント上がるのに対して、自分の勤め先の企業のメインバンクが潰れて保証も出ない、かつ、普段買い物をしている店のメインバンクも潰れた。
消費増税と、銀行の多発連動型破綻、どちらの方が、あなたの生活に影響が大きいのかという話になります。
世界中の銀行が潰れたら、貿易しようが無いですよね。
そりゃ様子見で7割減るわという話なのです。
きちんと情報を与えられて、貿易が7割も減ったのは、ブロック経済のせいだと思う人なんて、果たして存在するのでしょうか。
さて、あなたが当局なら、どのようにして、日本の米価暴落、もしくは米農業恐慌の対策をするのか。
まともに考る材料があれば、ブロック経済でよく謳われるプロパガンダには、まず引っかからない物なのです。
このようにして、イデオロギーは、経験や、その手の分野の基礎的な一般常識という判断材料の無い人を標的に、まるで自然界であらゆる生物の幼体が捕食の標的になるように、狙い打ちにします。
資本主義では、頼りにしているハズの情報が、生きたまま腐り落ちる。
※一方、他の主義では始めから死んでいると言える
ここまでの総論は、現実路線で考えると、戦争の反省と称しながら、結局経済の分野では、誰一人として教訓を活かして反省などしていないし、欧州の右派の台頭について危機感も抱いていない。
自分の金儲けのためなら弱者に嘘を流し続ける、という物になります。
まぁ、少しですが、我々も気持ちは解りますよね、そもそも世代的に、してもいない戦争に反省なんて出来る層は少ないのですから。
どの国も戦争を、やめてもいませんし。
反戦というパワーワードは、経済界においては、不正利用の温床なのかもしれません。
ですので、如何にも的外れな自由貿易プロパガンダを流されている我々日本人は、ケインズの事など詳しく知らされてもいないので、右派の台頭が欧州に混乱をもたらすかもしれないとの、危機感を持ちようが無かったりします。
でたらめな仮説を元に、まともな推論が出来たら驚きですよね。
長くなりましたので、ケインズの教訓と右派の台頭本編は次回に持ち越します。
汚職関連作品を書いたら、燃え尽きたので、後半を書き終えるまでは長い予定です。




