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 次の日。

 少年を守る任務に就いたアキが最初に確かめたのは、あの荒んだ町でアキが買ったチョコレートバーが、ダンが使っているクッション横の直方体のテーブルの上に置かれていること。昨日から黙りこくったままのダンだが、怒っているというわけではないらしい。良かった。右頬の引き攣れを覚えながら、アキはダンの、クッションに埋もれた背にゆっくりと、微笑んだ。

 その時。不意に、部屋が薄暗くなる。

 全身を研ぎ澄ませたアキの目の端に、明るくなったスクリーンが映った。

「……」

 圧倒する感情を、飲み込む。

 スクリーンに映るのは、間違いなく、かつて探索していた、緑豊かな惑星。地球からは失われつつある木々や草花、そして動物や昆虫が豊かに暮らしている、場所。抽象的な幾何図形で表されていても、スケッチブックで何度も見た光景だから、アキにはその場所がすぐに分かった。

 知的生命体は居なかった、その豊かな惑星に好感を覚えたから、そしてこの惑星を壊したくないと思ったから、アキは、「この惑星には地球には有害なものしか無い」と報告書に記した。実際に地球に有用なものは何もなかったから、嘘を付くのに躊躇いは無かった。スクリーンから目を逸らし、息を吐く。有用なものが無くても、貪欲な人々は、この美しい地を壊す可能性が高い。ゲストハウス周辺に広がる、かつては大草原だった場所を無理な灌漑で壊した結果である不毛の地を見るだけでも、アキの推測は外れているとは言えないだろう。だから、アキは、……嘘を付いた。そして。次に向かった惑星で、試掘の際に可燃性のガスを掘り当ててしまい、アキは右手を失った。

 しかしながら。何故ダンは、アキに、現在ダンが試運転の遠隔操作で探索している場所をアキに見せたのだろう? 疑問のままに、ダンの背を睨む。

「これ」

 次の瞬間。アキの方を振り返ったダンが示した、小さな物体に、アキの全身は硬直した。上着のポケットに入れていたはずのスケッチブックが無くなってしまったことを知ったのは、眠るために着替えている時。ゲストハウス内には無かったから、あの荒んだ町か、町から帰る途中で落としたのかと思っていたのに。

「これ、ここ、でしょ?」

 スケッチブックの始めの方のページを開いたダンの声が、遠くに響く。右腕を失うことになった爆発で付着した血と煤の黒が端に付いたページに、アキはようやくのことで頷いた。

「大丈夫」

 断罪の言葉を待つアキの耳に、微笑む声が響く。

「再調査しろ、って言われてたけど、この星、本当に何も無いから」

 あの隊長さんにもそう言う。ダンの言葉に、何とか、息を吐く。

「もうそろそろ、向こうにある機器の電池が切れるから」

 一瞬にして暗くなったスクリーンを、アキはただただ見つめた。

 まだプロジェクターが動いているのだろう、微かな機械音とともにスクリーンが少しだけ明るくなる。この模様のパターンは、あの荒んだ町に何となく似ている。ダンの操作によってゆっくりと動くスクリーン上の幾何図形に目眩を覚え、アキはゆっくりと、目を閉じた。

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