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Dragons Heart  作者: 空野 流星
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第一話 お転婆姫と半人前の奏者

「うーん、楽しかったぁ!」



 私は翡翠の背中から飛び降り、大きく伸びをする。 日は暮れ始め、オレンジ色の草原がとても綺麗だ。



「エリカ、もう少しお前は限度ってものを知るべきだ……」


「なによ?」



 人の姿に戻った翡翠は、頭を掻きながら不満を述べる。 一体何が不満だと言うのだ。 私は両手を腰に当てて身構える。



「だからお前は半人前なんだ、乗り回される俺の身にもなってくれ。」


「また半人前って言った! 私は立派な奏者だってば! 試験だって一緒にクリアしたじゃない。」


「あぁ、あれか……」



 翡翠は思い出したくないとでも言いたげに頭を抱えた。 私には理解不能な翡翠の態度に、段々と怒りがこみあげてくる。


 ”半人前”


 翡翠はいつも私の事をそう呼ぶ。 確かに私は新米の奏者(そうしゃ)だ。

 奏者とは龍の乗り手の事であり、生涯の伴侶でもある。 生まれた時、永久の誓約でその相手が決められるのだ。 その相手から半人前と呼ばれ、文句が無いはずがない!



「あんたねぇ、いつも半人前って言うけど文句があるなら言いなさいよ!」


「真の奏者は、龍と乗り手が完全に一つの生命へと昇華する。」


「そ、そんな事知ってるわよ。」


「俺達はどうだ? 一つになる一体感なんて感じるか?」


「それは……」



 私は、ただ飛ぶ楽しさを感じているだけだ。 全てのものから解放されるあの感覚、自分は自由なのだと体感できる。 翡翠も、同じ気持ちで飛んでいると思ってた。



「とりあえず村に戻るぞ。」



 大量の荷物を抱えながら、翡翠は私の脇を通り村の方へと歩いて行く。

 私は、何も返す言葉がなかった。



――




「なんだこれは……」



 村人達がこぞって私の家に集まっていた。 玄関には見知らぬ男が立っていた。



「エリカ様ですね?」


「え? そうですけど……」



 見知らぬ男は私を見つけると、そう声をかけてきた。 私の名前を知っているという事は、兄の知り合いだろうか?



「貴女の兄上が呼んでいます、中へお入りください。」


「うん。」



 正直、状況が掴めない。 翡翠も荷を降ろして家の中へと入る。 居間を抜け、兄の寝ている部屋へと足を進める。 翡翠も、その私の背にぴったりついてくる。 ――何か表情が硬い。



「おかえり、ご苦労だったな。」


「翡翠もお疲れ様。」



 いつも通り、兄のフォルカと翡翠の双子の姉である琥珀(こはく)さんがいた。

 琥珀さんは身体の弱い兄の看病をしてくれている。



「やっと来たか!」



 そして、見慣れない女性もそこにいた。



「何、お兄ちゃん浮気でもしたの?」


「――今は大事な話の最中だから族長と呼べ。」


「ごめんんさい、族長。」



 いつもの軽口のつもりだったが、どうやらあまり宜しくなかったようだ。 翡翠も横で呆れている。



「気にしなくてもいい、私もお忍びでの訪問だ。 で、この小娘が護衛の任務を行うと?」


「その通りです銀華(ぎんか)様。」


「ほほう……?」



 銀華と呼ばれた女性は、おもむろに私に近づくと値踏みするような視線で全体を舐めまわした。 正直気分が悪いが、顔は美人だ。 着ている服が私達の物に似ているから、多分首都の人達ではない事は予想できる。



「大丈夫なのか? まだ子供だろ?」


「しかし将来を期待出来る若者です。」


「結構、ではお願いしよう。」


「琥珀、銀華様と、付き人の晧月(こうげつ)殿を部屋に案内してあげなさい。」


「御意――」



 琥珀さんに案内されて、その女性は部屋を出ていく。



「また会おう小娘。」



 去り際にそう言われた。



「ねぇお兄ちゃん、さっきの人誰?」


「あの方は、時空龍の王女だ。」


「――うわぁ。」



 想像以上の大物だった。



―――


――




 朝早く、私達は飛び立つ準備をしていた。 あの王女様は、スケルスの視察が目的らしい。

 禁断の地スケルス――かつて私達のご先祖様が暮らした土地だ。


 遥か昔に大きな戦いがあって、その結果私達のご先祖様達は2つに分かれた。 その片割れの一族がスケルスに隔離され、もう半分が私達のように監視の任についたのだ。

 そんな場所に興味を持つなんて、王女様は何を考えているのかよく分からない。



「よく眠れたか小娘。」



 村の方から軽くジャンプしてこの草原へと現れた王女。 やはり身体能力は人間とはかけ離れている。



「――エリカ。」


「む?」


「私の名前はエリカ、小娘じゃない。」


「くくっ、成程面白いなお前!」



 心底可笑しいと言わんばかりに笑顔を見せる。 背筋にゾクっとくる。



「分かったら名前で呼びなさい!」


「いいだろうエリカ、護衛と案内の任務をしっかり果たせよ。」


「それはいいけど、あんたの付き人はどうしたっけ?」


「あぁ、邪魔だから置いてきた。」



 うわぁ、この人……



「さて行くぞ!」



 光を発し、銀色の龍へと変身する。 同じように翡翠も龍へと変身した。 私はその翡翠の背に乗り、しっかりと掴まる。


 この時の私は気づいていなかった。 これが、全てを狂わせる始まりだったという事に――

~スケルス~

ロキアの北東の位置する森林地帯。 禁断の地と呼ばれ忌み嫌われている。

かつての戦犯である黒竜族を隔離している地域である。

片割れである白竜族が、彼らを監視する任務を与えられている。

それは今でも続いており、風の谷の村もその一つである。

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