第十四・五話 ”覚醒” ~用意されていたモノ~
おそらく、何も変わったようには見えないだろう。 もし違うとすれあば、泣き叫ぶ少女が急に静かになった事だ。 しかし、麗明にとって、少女が変わったという事はすぐに理解出来た。 それと同時に、自分に沸き上がる感情の意味も……
「……はっ!」
麗明は続けざまに魔法を放つ。 その顔は満面の笑みを浮かべている。
「……」
少女は男に刺さっている刀を抜き取り、それと同時に治癒魔法を施す。 刀を横に一振り――それだけで魔法は掻き消えた。
「天之尾羽張の贋作かと思ったけど、まさか天羽々斬とはね……」
「君は、一体”誰”だい?」
「そんな事はどうでもいい。 私は大事な客人に恩返しに来ただけ。」
少女は天羽々斬を正眼に構える。 放たれる殺気に、麗明は笑顔で答える。 互いの距離は10m程だが、この二人にとっては間合いにすらならない。
――少女は身を屈めて一気に詰め寄る。
「”桜花夢幻刃”」
「”コールダークネス”」
互いの技と魔法がぶつかり合う。 麗明は剣を受け流し、少女は魔法を断ち切る。 互いの力は均衡し、決着は永遠に付かない。
「ははっ、久しぶりだよ! こんなに楽しいゲームは!」
「そうする事でしか自我を保てない可哀想な人。」
「それの……何が悪いっ!」
麗明は連続魔法を叩き込む。 少女はまるでダンスでも踊るかのように、全ての攻撃を避けながら距離を縮めていく。
「貴方は分かっているはず、自分の終焉に。」
「そんな事はない! これから僕の時代が来るんだ! アイツも倒して、僕だけの世界を創世する!」
「あの時教えてあげたじゃない、”悲惨な最後を迎える”って。」
「……なんだって!?」
その時には、既に少女の剣は麗明の喉元にあてがわれていた。
「ただ、それは今じゃない。 お前の死に場所は未来に用意されている。」
「へぇ、是非とも教えてもらいたいものだね。」
「教えてしまったら面白くないと思わない? まぁ一つ言うなら、火雷を奴の所に戻したのが一つ目のミス。」
「ふーん、それで?」
「そして二つ目は、この少女を甘く見過ぎていた事。」
そう言って少女は自身を指差した。
「それは、”君”がいるからじゃないのかい?」
「そう思うならそれでいいんじゃない? 私は私の用事を済ませるから。」
少女は一気に距離をとると、倒れている男性を抱え上げる。
「逃げるのかい?」
「ほんと物分かりの悪い子。 貴方の処刑場はココじゃないって事よ。」
そう言って窓ガラスを割って外へと飛び去った。
「もう2度と会う事がないと言いながら、随分な仕掛けを用意していたじゃないか……綾香。」
麗明は落ちている生首を拾い上げると、バルコニーへ向けて歩き出した。




