第十三話 得たモノの代償
「行くぞお前達!」
既に龍の姿で待機していた銀華達は次々と飛び立つ。 彼女が先頭なり、玉座のあるフロアへと突撃を仕掛ける。 彼女を阻むものは何もなく、簡単に窓ガラスを突き破る事に成功した。
「やはりいたか!」
人の姿に戻って城の内部へと入り込んだ。 そこで玉座に座り込んでいたのは――
「……久しぶりですね、姫様。」
「宗月っ!」
あの日以来の再会だった。 宗月が麗明と繋がっている事には気づいていた、だからこそ首都ではなくこちらにいるであろう事も予想出来た。 コイツはそういうタイプなのだ、自分は表舞台には立たずに裏で暗躍する。 表面上では父の死を悲しむフリをして、私を女王にして自分が実権を握る。 そういう計画なのだろう。
「父を殺した罪、お前の命で支払ってもらう!」
「やはり気づいていましたか。 だからこそ彼に貴女の捕獲をお願いしていたんですがね。」
「それで私の周りの人間は全て排除するつもりだったの――だろう!」
右手に魔力を込めて思いっきり振り下ろす。 拳は宗月の頬を捉え、玉座ごと壁際まで吹き飛ぶ。
「そうやって! 自分が一番上に――立って! 全てを見下してっ!」
右、左、右、何度も宗月の顔面を殴り続ける。 しかし余裕の笑みを崩してはいない。
「時空龍としての力を出し切る事が出来る新世代の龍……素晴らしい。」
「黙れっ!」
「我々第一世代のデータを元に改良された第二世代……」
口を閉じない宗月に向かって、もう一度強く拳を振り下ろす……
「その力が欲しくてたまらない!」
「コイツ!」
先程まで無抵抗だったのに、急にその拳を片手で受け止めたのだ。
「姫様!」
晧月が遅れて玉座の間へ乗り込んでくる。
「だから、その力を頂こう……」
「何を――かはっ!」
銀華にも多少の油断はあった。 計略を巡らせても、所詮宗月など取るに足らない相手だと考えていたのだ。 その油断が宗月にとっての好機となった。
突き出した手刀は、銀華の胸深く突き刺さっていた。
「貴様ぁぁ!」
晧月は刀を激しく縦に振り下ろした。 巻き起こった突風は宗月だけを吹き飛ばす。
「姫様! 大丈夫ですか!?」
「……油断した。」
銀華は魔力を込めて傷口を治そうするが、何故か魔源を上手く収束させる事が出来ない。
「なんだ、これは……」
「姫様!」
代わりに晧月が治療を始める。 宗月は身体を起こすとニヤリと笑みを浮かべた。
「私は少々特殊な第一世代でね、神によって特殊な力を与えられているんですよ姫様。」
「なにを……した?」
「貴女の力を吸収させていただきました。 素晴らしいですね、第二世代の力は!」
「そんなバカな事が……」
「あるんですよ! 私には特別にねぇ!」
宗月の魔力が異常に膨れ上がる。 それに合わせて大気が振動を始める。
「変身出来ない第一世代、変身する力を封じられた第三世代。 そして唯一龍となれる第二世代。 私はそんな社会構成が大っ嫌いでね! この力を使って私が時空龍の王になってあげますよ!」
「まずい…… 晧月、私の事はいいから奴を止めろ……!」
「しかしそれでは姫様が!」
「――それは私に任せてもらおう。」
「黒翼……」
玉座の間に現れたのは、返り血まみれの黒翼であった。 その顔や腕にはいくつもの傷が見える。
「お前が仲間達をあんな姿にしたのか……」
「ふん、まだ変化していない雑兵がいたのか。」
「……それが答えか。」
黒翼は槍斧を構えて宗月を見据える。 その瞳は怒りで燃えていた。
「劣化品が、真の時空龍たる我に挑もうというのか!」
「安心しろ、一撃で終わらせてやる。」
「ふん、何をふざけた――は?」
勝負は確かに、一撃で決まっていた。 一瞬で間合いを詰めた黒翼は、その得物で宗月の胸を貫いていたのだ。
「そのちから、我らと同種の……」
「もう喋るな。」
そのまま横薙ぎに切り捨てた。 宗月は身体が上下に分かれて床へと落ちた。
「銀華!」
「……よくやったな黒翼。」
「大人しくしているんだ、傷口が開くぞ。」
「よく……アイツを殺してくれた。 これで私は……」
「このっ……!」
「っ!」
あまりにも言う事を聞かない銀華に対して、黒翼は強硬手段に出た。 それは自らの唇で彼女の口を塞ぐという奇策であった。 治療に専念していた晧月もさすがに顔を青くした。
「そのまま黙っていろ、いいな?」
「……コクン。」
「最初からそう素直にしていればいいんだ……」
その直後、城が激しく揺れ始める。
「今度はなんだ!?」
「まずい、城が崩れるぞ!」
「俺が姫様を運ぶ! 援護を頼む!」
「わかった!」
ロキア歴630年、雪降る中レクテン城は崩れた。
―――
――
―
一方首都メルキデス空域では、フォルカ・ウェントゥス率いる風の民達が戦いを繰り広げていた。
「敵戦力を引きつけられればいい! 無理はするな!」
相手は戦闘機と呼ばれる機械仕掛けの鳥だ。 速度、火力、どれを比較しても負ける事はありえない。 それだけ龍というのは強力な生き物なのだ。
『フォルカ、これ以上の戦いは貴方の身体が!』
「大丈夫、まだもつさ。」
琥珀の心配は分かる、しかし今はそんな甘えを出せる状況ではないのだ。 確実に麗明暗殺を成功させなければならないからだ。
「よし、あと残り3機。」
すれ違いざまに金属の羽を切り落とす。 あれならば乗っている人間も脱出出来るだろう。
『待ってフォルカ! 何か来るわ!』
「――あぁ、とてつもない魔力だ。」
肌にピリピリとくる感覚、遺伝子に刻まれた情報が警告を発するように背筋に寒気がして体が震える。
どうやら予定外の者を引き寄せてしまったらしい。
「お主らか、我の計画の邪魔をするのは。」
「取り繕う必要はないぞ麗明、もう正体は分かっているからな。」
「――なんだぁ、つまらない。」
皺枯れた老人の声から、急に少年のものへと変化する。 無邪気そうに笑うが、僕達には恐怖の対象でしかない。 実際数人の奏者達は動きが止まってしまっている。
「それで、分かってるんだよね? 僕の邪魔をするって事が何を意味するのか?」
「分かっていて、それでも刃向かうと言ったら?」
「とーぜん――皆殺しさ!」
強大な魔力が爆ぜる。 その直後、一組の奏者が跡形もなく消え去った。
「スバル! コイツよくも!」
「やめろ! お前達が敵う相手じゃない!」
「次は君達ね。」
麗明が手を前に構えると、極大のレーザーのようなものが放出される。 突撃した者はその直撃で消し炭になった。
「……貴様っ!」
「お兄さんはもう少し楽しめそうだね。」
「琥珀っ!」
自身の魔力と琥珀の魔力を一つに重ねる。 完全なる一心同体、奏者としての究極の状態――同調 これでも勝てるかは分からない。
「うぉぉぉ!」
「温いなぁ。 おかえしっ!」
振り下ろした鉤爪を指一本で受け止め、琥珀の腹部を蹴り飛ばす。 そのダメージは奏者にもダイレクトに伝わってしまう……これが同調のデメリットでもある。
「次は何がいい? 炎でも水でも雷でも、好きな攻撃を使ってあげるよ。」
「化け物め……」
「さあ、僕をもっと楽しませてくれよ!」
「琥珀、分かっているな?」
『当然よ!』
「……すまないな。」
ありったけの力を収束させる。 今ここで奴を討たねば未来はない。 そのためならば……
「この命!」
『惜しくはない!』
収束させた魔力を口から吐き出す。 虹色の光線は麗明の身体を包み込む。
「すごい、やれば出来るじゃないかぁ!」
「うぉぉぉ!」
右腕が吹き飛び、左足が融解する。 麗明の空が崩れていくのがはっきりと見える。
「はぁ……はぁ……」
「いやぁすごいよ、ここまでの破壊力があるなんて想像できなかった。」
頭部だけになった麗明が喜びの声を上げる。
「流石に、まともじゃないな。」
『ほんと、化け物……!』
一瞬で身体を再生させた麗明が、無邪気に微笑んでいた。
「じゃあ、第二ラウンド開始だ。」
~同調~
奏者達が目指す究極の状態。
奏者の龍の意識と魔力が完全にシンクロし、一体化した状態の事を指す。
この状態になれる使い手は過去に数名いた程度で、基本的に辿りつける領域ではない。
現在で同調出来るのはフォルカ・琥珀ペアだけである。




