第十二話 潜入、レクテン城
黒翼達は無事にレクテン城の前へと辿り着いた。 彼らは森に軍を潜ませ、作戦会議をしていた。
「レクテン城は崖の上に建てられ、その周りは森で覆われている。 言わば自然の城塞だ。 」
「ふむ、それでどう攻める?」
「普通ならばこの門のある道を進まなければならない。 しかし、こちらには唯一無二の武器がある。」
「成程、飛んでいくという事だな?」
「その通りだ。 それを向こうも読んでいる可能性は高いが――」
「問題ない、私が先導して罠ごと潰す。」
銀華は自信に満ちた表情だ。 それを拒否できるわけもなく、黙って頷くしかなかった。
「では、銀華と風の谷から派遣された奏者達は、城後方から攻める。 地上部隊は私と共に正門から敵戦力を炙り出すぞ。」
「ならば俺は姫様の傍に行かせてもらう。」
「お前は心配性だな、私だけでも十分だというのに。」
「ともかく、作戦は以上だ。 航空部隊は今の内に移動して待機、夜明けと共に私達地上部隊は進軍する。」
「……合図は?」
「分かりやすい花火を打ち上げる。」
「それは楽しみだな。 風の民達よ、私に続け!」
地上部隊を残して行動を始める。 ――私達も正門側に移動しておこうか。
「私の読みが正しければ、アイツは必ずいるはずだ。」
おそらく、レクテン城に拠点としての価値はもうないだろう。 奴の目的が不明瞭とはいえ、黒竜達を守る気が無いのならここを死守する必要はない。 だからこそ私は兵達を救いたい。 そうしなければ、おそらくは……
「使い捨ての駒……か。」
元より死ぬ覚悟は出来ていた、本来の仕えるべき王であるならばという前提だが。 この城を守る兵達も、きっと同じ思いでいるのだろう。 誰も王の正体に気づいていない、それはアイツも同じだ。
「アイツの目を覚まさせる。 そうすれば無駄な血は流れずに済む。」
城に向けて歩みを進める……決戦の時間は近い。
―――
――
―
正門の前に展開されていた軍の先頭には……やはりアイツがいた。
「クログ……」
「来たな、裏切り者が!」
彼は剣を抜き、今にも飛び掛かってきそうな殺気を放っていた。
「どの面を下げてこの城に来た!」
「聞いてくれクログ! お前達は騙されているんだ!」
「この期に及んで言い訳とは、騎士の誇りも失ったかアフラム!」
「違うんだ! 頼むから聞いてくれ!」
「やめろ! これ以上……僕の理想を汚さないでくれ! 理想だった貴方のそんな姿を見たくない!」
クログは涙を流しながらそう叫んだ。 彼が私に憧れを抱いているのは知っていた。
”本日から近衛隊に配属になったクログです! よろしくお願いします!”
彼の初々しい姿は今でも瞼に浮かぶ。 あの小さかった子供が立派になって自分の元まで辿り着いたのだ。 こんなに嬉しい事はない。
「どうしても、聞いてくれないと?」
「当然だ!」
俺はゆっくりと槍斧を構える。 クログをそれに合わせるように長剣を正眼に構えた。
「お前達手を出すな! 決着は僕がつける!」
「お前ならそう言うと期待していた。」
「くっ、馬鹿にしてぇ!」
真っすぐにこちらに突っ込んでくる。 その踏み込み速度はかつてのソレを軽く上回っている。
「だが……素直すぎる!」
――ガキン!
大きな金属音。 振り下ろされた斬撃を柄の部分で受ける。 しかし逆らおうとはせず、そのまま相手の勢いを利用して武器を反時計回りに回転させる。
「くっ!」
クログは慌てて剣で攻撃を受け止める。 しかし、勢いを殺しきれずに数歩後ろに下がる。
「お前は変わらないな。」
「くそぉぉ!」
クログが剣に雷を纏わせる。 ――彼の得意な魔法剣だ。
「うぁぁぁぁ!」
今度は横薙ぎ、そして次は袈裟、魔法の付加でリーチは伸びていても、私に触れる事は一度もない。
「このっ! なんで!」
「……」
本来の彼ならば、もっと鋭い剣技を見せてくれる。 今の彼は怒りに飲まれ、剣先は乱れている。 そんな技で私を倒す事は……絶対に出来ない。
「そうしてしまったのは私か。」
「何を言っている!」
「ならば責任を取らせて……もらう!」
剣先を絡めとり、斧の根本部分で刀身を叩き折る。 その瞬間、クログの表情は驚愕へと変わる。
「あぁ……」
絶対的な敗北。 最早彼に戦う気力は――
「ぁぁああ!!」
折れた剣で尚も向かって来た。
「それまでに、私が憎いか……クログ!」
「勝つのは僕だぁぁぁぁ!!」
私は、折れた剣先を右手で握って止めた。
「くぅ! 何故動かないぃ!」
「……」
クログはそのまま剣を振り下ろそうとするが、一ミリも動く気配が無い。 手のひらからは血がポタポタと垂れている。
「受け入れろ、己の敗北を。」
「僕は、ぼくがぁ!」
「もういいんだ!」
「ぁぁ……」
そのまま優しく彼の身体を抱きしめる。 金属が床に落ちる乾いた音が聞こえた。
「すまなかったな、お前を一人にして。」
「あぁぁあ! 体長ぅぅ!」
その瞬間だけは、彼は昔の子供に戻ったかのようだった。
「ここにいる黒竜の兵士達よ、私の話を聞いて欲しい! 王は我々を騙していたのだ!」
辺りが騒めき始める。 それに構わずに言葉を続ける。
「王は黒竜の解放など望んでいない! 自らの私欲のためだけに動いているのだ! その真の姿を見たからこそ、私は王の元を去った!」
誰もがアフラムの言葉に耳を傾けている。 そこに彼を攻撃しようとする者は一人もいない。
「私の敵は王のみだ、お前達同胞とは戦いたくない! どうか城への道を開けてはくれまいか!」
「隊長! 自分は隊長について行きます!」
「俺もです!」
「お前達……」
一人、また一人と名乗り出る。 気づけば、敵だったはずの兵は全て彼の味方となっていた。
「ありがとう……」
「確かに最近の王はおかしかった!」
「そうだそうだ! 守り石を運び出すなんて禁忌をやらされたりもした!」
「なんだって!? 守り石をどこに運んだんだ!」
「そ、それは……メルキデスにですけど……」
なんという事だ! 黒竜の守り石を運び出すなど! あれは古くから守られてきた大事なものであったはずだ! 言い伝えでも絶対に触れてはならぬと……
「アレを持ち出して何を企んでいる…… 何か意味があるのか?」
何か嫌な予感がする、急いで城内を占拠し行動に移った方が――
「ぎゃぁぁ!」
「ぐぁぁぁぁ!」
「お前達どうした!」
突然兵士達が苦しみだす。 頭を抱えながら、この世のものとは思えない唸り声を上げている。
……変化はすぐに訪れた。 全身鱗で覆われ、鋭く伸びた爪と牙、それはまるで人間サイズの時空龍のようだった。
「どうしたお前達!」
「うがぁぁぁ!」
その鋭い爪を振り下ろしてくる。 明らかに正気ではなかった。
「やめるんだ! 一体何が起きたんだ!?」
気絶させようと峰内をするが、強固な鱗に阻まれてしまう。
「守り石を運び出した呪いか、はたまた何かの魔法か……」
どうやら、もう一つの作戦を使うしかないらしい。
「”花火”を頼む!」
「了解です!」
加勢に来た地上部隊に指示を出す。 魔法使い達が空にむかって両手を掲げる。
『フレイムグライド!』
空に大きな爆炎が広がる。
「よし、やっと出番か!」
銀華は空を見上げながら、不敵に笑った。
~レクテン城~
スケルスの最奥にある黒竜族の城。
城下町から城に向かうには険しい崖があり、簡単に城の中には入れないようになっている。
周りも木々で囲まれているため、まさに自然が作り出した城壁と呼べるだろう。
かつての四聖大戦でも、四聖獣達を苦しめたと言われている。




