第十・五話 クログの叫び
私はついに取返しのつかない事をした。 捕らえた男二人を連れて、今にも城を抜け出そうとしているのだ。 これは明らかな王への背信行為だ。 しかし、最近の王は明らかに様子がおかしかった。 いつからだろう、表向きに変化はなかったが、王の動向を探るうちにまるで別人のような行動を目の当りにしてしまったのだ。
あの男、宗月との取引もそうだし、大統領であるブレンとも怪しやり取りをしていた。 そして何よりおかしかったのは、纏っている雰囲気が別人だったのである。 父の代から近衛隊の隊長を務めているが、父の日記からもそのような行動をする王でなかったのは間違いない。 だからこそ私は、真実が知りたいのだ。
「このまま裏口から抜ければ、無事に首都から抜け出せるはずだ。」
互いに顔を隠し、夜の街を駆ける。 ある程度離れてしまえば、この翡翠という男の背にのって飛んでいけばいい。 間違いなく追手は振り切れる。
しかし、南門の前でとある男が立ちはだかった。
「隊長、どこに行かれるんですか?」
「クログ……」
「分かってるんですか、これは明らかに背信行為ですよ! どうしてこんな事を……」
「クログ聞いてくれ、私は王の真意が知りたい。 今の王は私達の知っている王とは何かが違うんだ。」
「そんな話は聞きたくない!」
クログは剣を抜き放ち、アフラムに向けて構える。
「クログ!」
「戻ってきてくださいよ! 今なら目撃者は僕だけだ、罪に問われる事はないんですよ!」
「クログ、どいてくれ。」
「貴方は僕の憧れなんです、だから僕の夢をこれ以上汚さないで下さいよ。 僕に貴方を斬るなんて事させないでください!」
「そうか、お前の気持ちはわかった。」
アフラムも槍斧を抜き構える。 ――三呼吸程の沈黙の後、二人は交差した。 倒れたのはクログの方であった。
「殺したのか?」
「いや、峰打ちだ。」
「そうか。」
私達は門を潜る。 振り返ると、クログは倒れたまま動かなかった。
「この、裏切りものぉぉ!」
その言葉だけが、私の耳に反響していた。