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私の義姉は異世界人

ー結婚したい人がいるー


それは皆が揃った晩餐の席での事。兄が発した思いもよらぬ言葉にミレーア・エディータは目を瞬く。そして失礼な事に酷く驚いた。


“兄上にも結婚を考えていた人がいたのね…”


あまりに縁談を断り続けていたのと、同性だけに囲まれた旅に出て帰って来たことからは…令嬢の中で“その道に走った”のではないかと不名誉な噂も出ていたぐらいだ。命をかけて旅に出た兄に対して失礼だが、それぐらいミレーアにとって兄はよく分からない人だった。小さい頃は一緒に遊んでもらったが、五つ離れた兄がその武勇を見込まれて異国の王を倒すために旅立ってからはあまり関わりのない人になっていたのだ。


“英雄だ!”


“勇者だ!”


と兄への称賛の声は日に日に高くなっていたがミレーアにとって兄は兄でそんなに偉い人には思えなかった。


“ただいま、ミレーア”


だから兄の凱旋を聞きつけて駆けつけた自分の頭を撫でる優しい表情にむしろ驚いたぐらいだ。すぐ上の兄ライはいつも優しくしてくれたが、一番上の兄ロイはいつもつまらぬ表情で勉強と公爵家を継ぐための勉強に明け暮れていた。その横顔は酷く寂しそうで、幼いながらに兄を笑顔にしたいと思ってたものだ。


“あんなに素晴らしいご兄弟がいらっしゃるミレーア様にはアドレ様では物足りないのでは?”


兄に相手にしてもらえなかった女性達が顔面平均値は普通の婚約者と婚約した時にそう言われるがむしろ逆だと思ったぐらいだ。自分としては夫となる人には常に笑顔で居て欲しいと思ったものだ。とにかく、居並ぶ女性を押し退けて兄の心を勝ち取った令嬢に興味が湧く。


「兄様、どんな方ですの?」


純粋な疑問を抱いてそう問いかける横で向かいに座っていたライ兄様が“兄上、良かったですね”と告げている。自分も含めた三人の問いかけを受けた兄が“ふわり”と今までに見たこともないぐらい優しく笑う。


そして発された一言に私の心は撃ち抜かれることになる。


「彼女は私の人生に灯りを灯してくれる人です」


そんな言葉をかけてくれる相手と結婚したいと思うほどに…。





「ミレーア様、皆様お待ちです」


その声にぼんやりと窓から空を見上げていたミレーアは自分を呼びにきた侍女に笑いかける。どうやら早めに身支度が終わったので待っている間に過去を思い出していたようだ。


「ありがとう。すぐに行くわ」


「かしこまりました」


そう声をかけると自分の言葉を受けた侍女がサッと身を翻すのを見送り、ミレーアは身重の体を動かす。その仕草に横に控えていた侍女がサッと自分を支えてくれる。


「ありがとう」


「お気をつけて」


「わかっているわ」


身重の体で向かうのはようやく結ばれることになった兄と義姉の結婚式だ。まだ臨月ではないが、それなりに動きに気を使う体を動かして玄関に向かう。周りの侍女が自分よりも心配気にするのにクスリと笑ってしまう。自分が年の離れた兄が結婚するよりも早く、自分の方が家を出るとは思っていなかった。結婚適齢期を過ぎない時期に嫁いだ。もちろん兄と義姉のような大恋愛の末の結婚ではないがそれなり穏やかな気性の婚約者に恵まれ、ようやく子供に恵まれたのだ。ゆっくりと体を気遣って玄関に向かうとそこには準備を終えた旦那様が待つのが見えた。


「ごめんなさい。お待たせして」


「気にしないで。さぁ、行こう」


「はい」


自分の言葉に旦那様が優しく首を振るのに笑みが溢れる。そのまま旦那様にエスコートされて馬車に乗り込みと窓から見える凄まじく晴れた青空に目をやる。



ーあの驚愕の発言から四年の月日が経った…


ちなみに義姉となる人と初めて話したのは兄の結婚宣言から二月後。


「初めてお目にかかります。お兄様とお付き合いさせて頂いてます長津灯です」


黒髪に意思の強そうな瞳をしつつも、浮かべた笑顔が可愛い人だった。


「初めましてミレーア・エディータと申します」


兄からの紹介に淑女の礼を返す。そうすると義姉になる人は“ほう”と息を吐いた。


「綺麗…」


その言葉に目を瞬かせると兄がその仕草に苦笑する。


「君は本当に可愛いものが好きだね」


「当たり前よ!かわいいは正義なの!」


自分とは違う綺麗な装飾品をつけ、騎士のようなズボンを履いた義姉が拳を握って力説する姿に私の警戒心は解けた。兄が義姉となる人のどこに惚れたのか分かった気がした。


もちろん…文化の違いに彼女が苦労していたことも…兄の妻としてふさわしいように努力していた姿も知っている。


“うーん”


屋敷の全てを取り仕切る侍女長を前にテーブルマナーに渋面を作って唸っていた姿もあった。


“文字が…”


異世界から嫁ぐというまさかの事態でも言葉は通じていたので彼女がまさか読み書きが出来ないとは思わず、公爵家の図書室で頭を抱えていた姿に驚愕した。


“やるなら楽しくよ!”


最後の試験として夜会の計画を任せられた時も楽しげに努力していた。


“いつもありがとう”


なにかを使用人達がしてくれる度にお礼を言う姿に好感を抱いた。彼女の見せる姿に自分も努力しようと思った。


“さぁ、行くわよ!”


知らず知らずのうちに使用人達と仲良くなった彼女は夜会の朝、なぜか使用人ダイニングで様々な面々と肩を組んで丸くなっていた。目にした数々の義姉の姿を思いだし笑いすれば旦那様が“どうしたの?”と聞いて来るのに何でもないわと首を振る。だが、そんな彼女の姿を見て自分は初めて知った。どれだけ恵まれた環境だったとしても何も努力しなければどんな関係でも容易く崩れてしまうのだと。それからは当時は婚約者であった旦那様に対して自ら好きになって貰えるように努力した。彼女の努力を知らない周りの令嬢達は彼女のことをまるで玉の輿と言うがそれは決して違う。またもや旦那様にエスコートとしてもらい、結婚式の式場である教会に馬車から降り立つと私は旦那様の手を借りて義姉の控え室に急ぐ。


“気をつけて”という声を背に控え室の扉の前に辿り着くとノックをする。


「どうぞ~」


ノックすると同時に返った明るい声に私は笑いながら扉を開ける。するとそこには純白の衣装に身を包んだ美しい女性が椅子に座っていた。その姿に口元を綻ばせながら私は万感の思いを込めてこう告げる。


「お義姉様、今日はおめでとうございます」


「ありがとう」


そう言って私の言葉に“大輪の花”が咲いたように笑う彼女はまさしく“花嫁”だった。

いつもお読み頂きましてありがとうございます。誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

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