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異世界に嫁ぐ娘に

「まさかあんたが結婚するなんてお母さん思わなかったわ」


部屋の荷物を整理する娘に通りがかった母親はそう口にする。その言葉に振り返った私はそれはないんじゃないかと眉を潜める。


「私だって女の端くれよ。結婚ぐらいするでしょう」


「アニメや漫画が好きなオタクなあんたが結婚するって言い出した時はどれだけ驚いたと思ってんの」


だが、生まれた時から付き合いのある母親はいつもながらに容赦ない。


「だってあんたが部屋に貼ってた写真だってコスプレーヤの人との写真だと思ってたぐらいなんだから」


その言葉に私はつい、遠い目をする。週に一回は異世界でデートし、月二回は夕食を共にしていた彼を拝み倒して撮った写真を引き延ばして貼っていたのがどうやらコスプレーヤと撮った写真だと思われていたらしい。あんなに私が満面の笑みを浮かべているのに失礼な!……と思う反面。


「なんか反論は出来ないかも……」


はっきり言おう。私はファンタジーが好きだ。金髪碧眼。ばっち来い。魔法や竜と言った空想常上の生き物が大好き。悪いか……社会人になったら時間はないが金はある。荒んだ心は好きなものに囲まれて癒されるのだ。


「昔から魔法とか大好きだったものね」


私が目をそらす横で母は寂しそうに写真に手をあてる。


「残念だわ。彼、イケメンなのに」


母親の発言に抱いていた物悲しい思いが霧散する。なんとか聖子さんの母親を見習って欲しい。明日嫁ぐ訳ではないが嫁ぐ娘にそれはない。


「お母さん、酷くない?」


不機嫌に睨むと母が肩を竦める。


「だって、こんなイケメン普通ならお目にかかれないじゃない」


「まぁそれは確かにそうだけど……」


確かに銀髪、碧眼のイケメンな恋人は性格もいい。確かにメンクイだけど顔だけで結婚を決めた訳じゃない。


「言っとくけど、顔で結婚決めた訳じゃないから」


「そりゃそうでしょ。あんたがこの世界を離れても一緒に居たいと思った相手なんだから」


「うん……そう」


「ならいいじゃない。幸せになりなさい。お父さんとお母さんは灯が幸せなら異世界でもたとえ結婚の挨拶が携帯電話でも気にしないわ」


普通なら手をかけて育てた娘が二度と会えない訳ではないが両親が行く事が出来ない場所に嫁ぐのは不安だろう。初めて、異世界トリップを見せたら目が落ちそうなぐらい驚いていた。最初は反対されていた。しかし、とある偶然から彼が電話で挨拶してくれてから態度が軟化した。電波が世界の壁を越えると知ったのは仕事先からの電話。彼とデート中にいつもの感覚で携帯電話を鞄に入れていたのが偶然。突然の音になんだろう?と思いながら端によっていつもの感覚で電話に出たのが始まり。


「はい、永津です」


『先輩、助けて下さい』


半泣きの後輩にどうしたの?と苦笑する。半泣きの後輩を宥めてトラブルの内容を確認し、指示を出す。


「またなんかあったら連絡頂戴」


『はい!』


そんなやり取りを終えて彼に視線を移すと彼が驚いた表情をしていた。


「それは通信機なのか」


「ん~まぁそんな感じかな?こっちの予定に関係なく休みでもかかってくるものよ」


そう言って通話を終えて鞄にしまう。今、世間では“繋がらない権利”が主張されているが雇われ会社員はいつでも繋がれる権利を主張される。まぁそれぐらいは構わんが……。初めての文明の利器に顎に手をあてて考え込んでいた彼は私を見つめるとこう言ってくれた。


「それを使えば灯のご家族に挨拶出来るか?」


もうその言葉に惚れ直したね!だって、彼は私と私に繋がるものまで大事に思ってくれるんだよ?結婚を決めてから彼は私の両親に挨拶出来ない事に罪悪感を感じていたらしい。家に帰ってその話をし、彼と両親の時間が会うときに電話での挨拶をしてくれた。それから両親はこの結婚に前向きになってくれた。弟からはこの事実に姉貴からは変な電波でも発してるのかと嫌疑をかけられたので教育的指導をした。一人、その時の事を思いだして身悶えていると彼の写真から視線を私に移した母が寂しそうに微笑む。


「勝手が違うから大変だろうけど身体を大事にするのよ」


「……うん」


その言葉に母からの言い知れない寂しさを感じとり、私は頷く。私は両親に生の晴れ姿を見せることも子供を見せることも出来ない。でも、彼と一緒に居たいのだ。


「お母さん」


「なぁに?」


改まった声を出すと母が小首を傾げる。その姿に年をとったなぁと思う。


「今まで育ててくれてありがとう」


そう口にすると母が驚いたように目を見開いてそれから今にも泣き出しそうな顔で笑う。


「これからもよろしくを忘れてるわよ」


「うん」


母の今にも泣き出しそうな顔はあまり見た事がない。母はそれだけ異世界に嫁ぐ私を心配してくれている。


「お母さん、これからもよろしくね。2日に一回ぐらいは帰って来るから!」


「それは止めて頂戴。お母さんだって忙しいわ」


「いきなり拒否しないでよ」


冗談っぽく首を振る母に顔をしかめつつも私は両親に感謝する。異世界に嫁ぐ私には親が見たいであろう晴れ姿を見せることが出来ない。それでも私が幸せになるのならと送り出してくれる家族。


「お母さん、私幸せになるね」


「ええ」


だからせめて私は目一杯幸せになろうと思う。

いつもお読み頂きましてありがとうございます。誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。


仕事の波が激しくてユークリッドの手綱を握ってやれないのでこちらを更新です。明日が決戦日!今日も今日とて頑張ります!

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