リボルト#14 自由を縛る秩序の鎖 Part3 神の使者たちとのいがみ合い
「俺の怒りの業火を喰らうがいい、正義の使者気取りどもめ!」
拓磨の叫び声に応じて、彼の背中に生えている九つの竜の首が一斉に大きな口を開き、内蔵している砲台を伸ばす。
よく見ると、その九つの砲台は形が異なっている。そういえば拓磨も色んな銃を使っているし、まさか……
「行くぞ! 九の襲撃嵐!」
拓磨の掛け声と共に、九つの竜の首がほぼ同時に攻撃を仕掛けた。マシンガン、レーザー、ミサイルに爆弾……もはや重火器のオンパレードだな。
だが神威隊の連中も、俺たちの情報を調べておいたはず。きっと何か対策を考えてあるだろう。
「こんな危険な兵器を使って、多くの命を奪い取る……本当に腐っていますね、あなた方は」
神崎はまたしても嫌そうな表情を浮かべ、拓磨の放つ攻撃を睨みつける。
「神床さん、防御はお願いします」
「はっ、はい!」
神床と呼ばれた白髪の女の子は慌てて応答すると、一歩前に踏み出す。そして彼女はしゃがんで、何やら技を繰り出そうとしているようだ。
っていうか彼女たちは、全員頭文字は「神」なのか。これは偶然か、それとも意図的に名前を変えたのか。まあ、今はそんなことはどうでもいいか。
「神木・杉森!」
神床は手のひらを地面に置くと、なんと瞬く間にそこからビルの高さもある巨大な木が姿を現し、拓磨の攻撃をすべて防いだ。
「ちっ、姑息な手を……!!」
自分の攻撃が通らなかったため、拓磨は物凄く悔しそうな顔を浮かべる。
だが、その木の強さはそれだけではなかった。
「サササササ……」
風が吹いているわけでもないのに、何故か巨大な木が独りでに揺れて、葉っぱも動き出す。
するとどうだろう。針状の葉っぱは雨のように、こっちに向かって降り注いでくる。
「な、何だこれは……!!」
「神様のお怒りです。あなた方の不謹慎な行動がもたらした災いです」
「って、聞こえはいいけどよ、お前らがその木を盾にしたじゃねーのかよ!」
神崎の言い訳に、聡がいつも通りにツッコミを入れた。
「いいえ、神聖な神木に攻撃したあなた方がいけないのです」
あくまで白を切るつもりか。図々しいにも程があるぜ。
さて、どうする? 早くしねえと、葉っぱが肌に刺さってしまうぞ……!
「まあ、どうやらここはワタクシの出番でございますね」
うん? この安心させるような声は……
俺は振り向くと、そこにいるのは余裕そうな顔を浮かべている百華だった。
そうか、あのバルカン砲の連写能力を駆使すれば、何とかなるかもしれない!
「ああ、頼んだぜ百華! みんな、下がってくれ!」
またあの騒音に耳をやられたらまずいと思うので、俺は仲間たちを撤退するよう指示した。
「バンバンバンバンバン!」
バルカン砲は依然として大きな咆哮を発しながら、絶え間なく弾丸を撃ち込む。弾幕は雨のように激しく突進して、向こう側の針状の葉っぱと相打ちになる。
「そ、そんなの嘘でしょう……」
予想外の事態に、神崎の顔色が豹変した。へっ、いいザマだな。
「百華、あんたすごいわね! まさかここまで上手く扱えるなんて!」
一方友美佳は、百華の華麗なテクニックに驚き、称賛の声を上げる。
「まあ、ありがとうございます、友美佳さん。長い間車椅子に座っているのですから、相性がよいのかもしれませんね」
百華は片手で頬を当てると、照れ笑いを浮かべた。
「今度こそ、この攻撃を通してみせてやる! 破滅の火焔!」
そして拓磨もさっきの攻撃が防がれた腹いせに、もう一度攻撃を仕掛けた。今度は九つの竜の口から青い炎が放射され、巨大な木を燃やし尽くす。
「な、何てことを……よくも神の化身である、この神聖な神木を……!!」
想像すらしなかった光景を目の当たりして、神崎は怒りに満ちた顔を浮かべる。
「はっ、思い知ったか、正義の使者気取りが! 所詮お前たちの信念は、これぐらいしかないってことをな!」
そんな神崎を見て、拓磨は大喜びする。どうやら彼は力の強さと、自分の主張の説得力を混同したらしい。まあ、本人がそう思うのなら、俺も他人のことをとやかく言えないか。
「ふんっ、俺も黙って見ていられないな」
百華と拓磨の活躍を見てやる気が出たのか、広多も体を動かし、迎撃に転じることにするみたいだ。
「神など、そんな存在しないものに縋ることがいかに愚かか、身をもって教えてやる」
広多は大鎌を手に持ち、冷ややかな口調でそう言った。まあ、彼ならきっとそう言うと思った。
「ならば、神様の罰を受けて、その偉大なる存在を胸に刻んでおくがよいのです! 神宮寺さん!」
神崎は再び後ろに向き、別の仲間に指令を下す。
こいつ、俺よりリーダーとしての風格が漂ってるけど、やっぱどこか固いイメージがするんだよな……
「アバアバ! よーし、みーんなやっつけちゃうアバ!」
両手に空っぽのバケツを持っている子は、やけにテンションが高そうだ。見た目も小学生っぽいけど、一体どういう経緯でここにいるんだ? って、今は考えてもしょうがないか。
アバ子、じゃなくて神宮寺は手中のバケツをグルグル回すと、それを地面に強く叩きつけた。
「神山・ヒグマの爪!」
すると、何もなかったはずのバケツから水が竜巻のように飛び出て、無数の魚を巻き上げる。そして地面から一匹の大きな熊が姿を現し、魚に向かって跳んでいく。
「な、なんじゃそりゃー!?」
このあまりにも突然すぎる展開に、直己は驚きの声を上げた。正直俺も同じ気持ちだ。
空中にいる熊は口で魚をキャッチすると、鋼のような鋭い爪を剥き出しにしてこっちに向かってくる。
だがそれでも、広多の意志は揺れることはなかった。
「ふんっ、何を驚いている。たかが熊だ、前の蠍よりは楽に倒せるに違いない」
そう言うと広多は大鎌を構え、P2をチャージし始めた。やがて鎌の鋭い刃の周りに紫色のオーラが漂い、それを包み込む。
「行くぞ……暗獄大刃!」
広多はサイズが倍加した鎌を振りかざして、何の躊躇いもなく熊に攻撃を仕掛けた。
これで熊の行動をある程度牽制できるかと思ったが、現実はそううまく行かなかった。
何故かというと、それは襲いかかってきた熊が真剣白刃取りで受け止めたからだ。
しかもそれだけではない。なんとその熊が口を開くと、広多の鎌に纏っていたP2を吸い込みやがった!
「何だとっ……!」
この予想外の光景に、さすがにいつもクールな広多も驚きを隠せなかったようだ。
だが驚くべきことはまだある。それは広多のP2を吸い込んだ熊の姿が変化し、体の色も茶色から黒に変わった!
「ガアアアアアァァァ……!!!」
更にその性格も凶暴化し、さっきより好戦的な感じになった。
「アバアバ! よこしまな考えを持つやつのエネルギーは、『テディーちゃん』の餌食になって、その力を強くするアバ!」
状況が有利になっていい気になったのか、神宮寺はまた変な声を発しながら、その熊の特殊能力を紹介した。
資質を持つ本人だけじゃなく、呼び出したものまで資質を持つとは……なかなか手強いな。
だが熱い闘志を燃やしている広多にとって、それだけでは彼の攻撃をやめさせられるはずがない。
「ふんっ、俺の力を逆手に取ったか……だがこれほどの戦法で、俺は心が折れると思ったら大間違いだ」
たとえ逆境に陥ったとしても、一度戦った相手を決して最後まで放さないのはこの男だ。彼は凶暴化した熊と距離を離し、もう一度大鎌にP2を注ぎ込んだ。
「アバアバ! いくらやってもむだアバ!」
さっきのアレで味を占めたのか、神宮寺は得意げに笑っている。
へっ、俺たち脱兎組をなめてもらっちゃ困るぜ。広多は同じミスを繰り返すようなバカじゃないからな。
「ふんっ、あまり調子に乗らないことだ。俺には同じ手が二度と通用すると思うな」
広多の眼光が鋭くなった。そして大鎌を握っていない片手もその柄にかけ、それを強く引っ張り出して長くした。
「行くぞ! 無尽鞭撻!」
掛け声と共に、広多は大鎌を鞭のように振り回している。そのスピードがあまりにも速く、熊は対応する術もなく、ただひたすら攻撃を受けている。
「アバアバ!! 熊吉のテディーちゃんがアバァ~!!」
形勢が逆転したことで、神宮寺の表情は笑顔から一転して、可哀想な涙目になる。
っていうか熊吉って誰? まさかこいつの名前か?
「くっ、何故大人しく引き下がらないのですか……!! どうやら、私が自ら動かないといけないようですね」
戦況が自分の思う通りに進まなくて焦ったのか、神崎は手中の杖を握り締め、俺たちに反撃しようとしている。
ところが、そのセリフはいかにも悪者のボスっぽいな。勝利は俺たちのもんだぜ、へへっ。
だが油断は禁物だ。何しろ奴らも、ただ俺たちにやられるためにここに来たわけじゃないからな。
神崎は杖を地面に叩き込むと、彼女は片手を高く上げて、何やら口上を述べ始めたようだ。
「太陽より生まれし崇高なる光の使者よ、至誠の信者にその偉大なる力を授けたまえ! ペケレチュプカムイ様!」
本来ならこれだけ長いセリフを口にすると、大きな隙ができてしまい襲撃されてもおかしくないのに、奴の仲間たちがいるせいでそれを許してしまう。
すると、神崎の体から後光が差して、その眩しさに俺たちは思わず目を逸らす。
「さあ、汚らわしき魂を持つ者どもよ、この秩序の光を浴びて浄化されるのです!」
浄化? 何のことだ? 日差しに晒されて灰になるのか、それとも洗脳されて奴らの思う通りになるのか? まあ、どの道いいことじゃないだろうな。
あっちはリーダーが動いた以上、脱兎組のリーダーであるこの俺も突っ立ってる場合じゃねえな。さて、鋼の金剛石のチームワークを、見せてやるぜ!
「哲也! 何をすればいいか、言われなくても分かるよな?」
「ああ、もちろんさ! 行くぞ!」
哲也は改良されたバックラーを構え、P2をチャージし始めた。ただ今回は光の円が盾の縁まで届かず、途中までしか伸びなかった。
「溢流環!」
哲也は盾を付けている腕を大きく振り、光の円環を神崎のほうへ飛ばす。なるほど、これなら味方を巻き込むことなく、より的確に目標を攻撃できるというわけか。
「そんな攻撃で、私を牽制できるとでも思っているのですか? 何という安易な考え……」
神崎は蔑んだ目で哲也の攻撃を見ると、何やらポケットから札のようなものを取り出す。
「ですが、油断は禁物です。その最後の希望を、私が潰して差し上げましょう……式神召喚!」
神崎は札を投げると、それが人間のようなものに変化した。そいつも神崎の後光のように眩しい光を放ち、凄まじい威厳感を漂わせる。
「神様の強さ、教えて差し上げます! 大神・日火砲!」
神崎は人差し指をビシッと前を差し、奴が召喚した式神に攻撃の指示を出した。
だが、こっちもまだ全力を出し尽くしていないぜ。
「残念だけど、そうはいかないよ!」
菜摘は哲也に気を取られている隙に、腕に装着している円盤で丸のこを発射した。すると、先ほど俺たちが体験していた強い嵐が、またしてもリミッターが外されて暴れ出す。
「くう……! また卑怯な手を……!!」
強風に干渉された神崎は式神の操作に集中できず、かろうじて杖で自分の体を支えている。そのため彼女は、自由に身動きが取れなくなった。
そして哲也が発射していた光の円環が神崎の式神に命中し、その式神がP2の集合体となり霧のように砕け散った。
「あっ……!! ペケレチュプカムイ様!!」
自分の信仰の権化が消えたことによって、神崎の表情は再び絶望に染まった顔になる。
だがそんなことで動揺していると、すぐ次の攻撃を喰らっちまうぞ、神崎?
「花鳥風月・一の舞! 白糸!」
強化された剣を手にした千恵子は、刀身に滝のような激しい水流を纏わせ、後ろから神崎に近寄って攻撃を仕掛けた。
だが、どうやら神崎はそう簡単に諦めないようだ。
「神託護盾!」
神崎は後ろを振り向くと、杖を持っていない手を開き、そこから光の盾が現れて千恵子の攻撃を防いだ。
これで神崎の背中はがら空きだぜ。さて、次は俺がこの手でトドメを刺してやろうか!
俺は右手にP2をチャージすると、いつもより電気による刺激が強く感じる。それだけ興奮してるってわけか、俺は。
しかし、俺たちの相手は神崎だけではない。もちろん彼女の仲間はこの形勢を見て、かばいに入らないわけがない。
「行け、カンナカムイ! 我が盟友を護る盾となれ!」
凛とした男勝りな女性は、いきなり黄色の稲妻を体に纏っている巨人を召喚し、俺の邪魔に入る。
へっ、よりによって俺と同じ属性とはな。だが電気勝負なら、お前に勝ち目はねえぜ!
そして巨人は大きな拳で地面を叩き込み、地割れを起こしやがった。おい、俺たちの縄張りで何をしやがる!
「てめえ、調子に乗りやがってっ!」
いきり立った俺は助走ジャンプで巨人の放った稲妻を避け、頭上から奴にパンチを一発喰らわせた。バランスを崩した巨人は、足がふらつく。
ふんっ、とんだ見かけ倒しだぜ。式神の割には大したことねえじゃねえか。心配して損したぜ。
さて、二度と立てないようにしてやるか!
「千里の一本槍・霊魂気砲!」
俺は電気を二つの拳に纏わせると、絶え間なく巨人の腹にパンチを浴びせる。うわっ、コンクリートのように硬えぜ、こいつ。
「あたたたたたたっ!」
「グオオオオオオオ……!?」
マトモに俺の攻撃を喰らった巨人は、うなり声を立てながら倒れていく。
「くっ、なかなかやるなっ……! ならばこの私が相手……」
「悪いけどよ、お前の出る幕がねえぞ!」
「うわあああっ!?」
男勝りな女性は俺の烈風爆裂を喰らい、明後日の方向へと吹き飛ばされる。
これ以上持久戦に持ち込むのはまっぴらごめんだ。先にリーダーである神崎を倒して、奴ら全員の戦意を喪失させねえと。
「千里の一本槍・極!」
いつもの細い奴と違い、今回俺は強化された激太レーザーを発射した。これなら向こう側がシールドを張っていても、そう簡単に防がれることはないだろう。
「くっ……! どこまで汚い手を使えば気が済むのですかっ!」
俺の攻撃を感知した神崎は明らかに機嫌悪そうな顔を浮かべ、千恵子の刃を受け止めている手を大きく振ると、俺の放つレーザーへの抵抗に転じた。
だがそのシールドの強度は、俺のレーザーに比べればあまりにも脆く、あっけなく砕けてしまう。そしてその衝撃を受ける神崎は遠くまで飛ばされ、地面に転がる。
「神崎さん!」
「祭! 大丈夫か!?」
「アバアバ! りーだーがやられちゃったアバ!」
他のメンバーたちは攻撃を喰らった神崎の無様な姿を見て、心配の声を上げる。冷血な恋蛇団と違って、仲間への思いやりはちゃんと持ってるようだな。
「大丈夫、です……これぐらいの攻撃では、私は倒れません……!!」
震えながら立ち上がる神崎は、どこか力の抜けた声で返事をした。何を格好付けてやがる。
「おいおい、随分と苦しそうじゃねえか? さっさと諦めて帰ったらどうなんだ?」
俺たちの目的は、あくまで恋蛇団を潰すことだ。こいつらは見た感じだと悪い奴じゃなさそうだし、説得すれば無意味な戦いを避けられるかもしれない。
「いいえ、そういう訳には、いきません! 世界の均衡を守るために、多少の苦痛は、厭いません!」
やれやれ、息を切らしやがって。戦闘力は俺たちと比べて大したものじゃないのに、その信仰心だけは見上げたものだな。
「だったらさ、こっちじゃなくて恋蛇団のところに行けよ。あっちが先に喧嘩を売ってきて、俺たちを怒らせたんだ。昨日奴らは、俺たちの大切な仲間を操り、仲間割れをさせたんだぜ。あんなド腐れのクズどもを、見過ごせると思うか?」
俺はなるべく怒りを抑えながら、分かりやすく俺たちが行動する理由を述べた。これなら、奴らも理解してくれるだろう。
だが、俺の考えがあまりにも甘すぎた。
「ですが、あなた方が新たな戦いを引き起こすことに変わりはありません。そうなる前に、私たちはここへ来たのです」
「あのな、人の話を聞いてんのかよ!? あいつらが先にやったから、こっちが自衛のためにやり返してんだよ!」
「ひどいことをされたからと言って、暴力で解決していいという訳ではありません」
「じゃあ、どうしろって言うんだよ!」
ったく、人事だと思いやがって! こっちがどれだけイライラしてるのか分からねえのか!
「簡単なことです。現実を受け入れればいいのです」
「何だと……?」
「先程も言ったはずです。あなた方がここにいるのは神の意思であると。最初は慣れていなくても、ここに暮らしていけば、そのうちにここのいいところも分かってくるはずです」
またそれかよ。一体こいつらは、ブラック・オーダーに何を吹き込まれたんだ?
「そもそも恋蛇団があなた方に抗議をしたのは、この学校の先生方を全員倒せば、この学校がなくなるからではないのですか? 最初からこのような恐ろしい反逆を企てた、あなた方がいけないのでは?」
……何言ってんだこいつ。結局俺たちが悪いってのか? ふざけやがって!
「納得できない、と言っているような顔ですね。まあいいでしょう。こんなこともあろうかと思いましたので、これを用意しておきました」
そう言うと神崎は杖を掲げて、プロジェクターのように何やら映像を映し出す。
ふん、どんな手を使っても無駄だ……なっ!?
映し出された映像は、生徒たちが無惨に死んでいく姿だ。その中の大半は、この前のサバイバルバトルで殺された者だった。
「こんなものを見せて、何のつもりだ?」
悪意しか感じられない神崎の行為に、俺は思わず眉を顰める。
「まだ理解できないのですか? この方々が亡くなったのも、あなた方のせいなのですよ」
「おい、言いがかりにも程があるぞ! 俺たちが殺したわけでもないのに、何で俺たちのせいにするんだよ!」
マジで意味が分からねえ。こいつらは一体何が言いたいんだ?
「確かに、あなた方は直接に手を下した訳ではありません。ですが、あなた方が反逆を起こすことによって、彼らに『希望』を与えてしまいました」
「希望……だと?」
「はい。『もしかしたら、自分もこの人達のように成功できるかもしれない』という儚い希望を」
「希望を与えることも、いけないというのですか!?」
いつも冷静な千恵子も、落ち着きを失い大声で反論する。
「その通りです。無力な人間は危機に直面すると、逃げるのが普通です。しかしあなた方が希望を与えたことにより、彼らは自分の判断力を鈍らせ、自分の命を守るより犬死にすることを選びました」
「俺達が強制したわけではあるまい。高校生になれば、自分の選択に責任を持つべきだ」
腕を組んでいる広多は、冷ややかに神崎を反論する。すると、またしても舌打ちのような声が聞こえる。
「先程も言ったはずです……あなた方のせいで、彼らの判断力が鈍ったのだと! まあいいでしょう、これを見るのです!」
神崎は再び杖を地面に叩きつけると、映像が変化して別の場所を映す。
これは……墓地か? 何て不気味で重苦しい雰囲気なんだ……
「これは『犠牲者の墓場』です。この学校で亡くなった者達は、すべてここに埋葬されるのです」
「なにっ!?」
神崎の口から飛び出た、衝撃の事実。それを聞いた俺は、さすがに驚きを隠せなかった。
「そして何を隠そう、その場所はあなたたちの寮の向こう側にあるわよ。まあ、遠いから行かないでしょうけど」
神代は何故か、俺たちに得意げに墓地の場所を教えた。
「ただ墓石を並べるだけではありません。犠牲者の名前、生没、死因もしっかりと書かれています。それだけ命の重みが重大だということです」
神崎は少し間を置くと、話を続けた。
「いいですか? この世界は、あなた方だけのものではありません。この犠牲者の中にはあなた方のような夢や理想を持つ者がいれば、ただ平穏を望んで争いのない人生を過ごそうとする者もいます。その尊い思いをあなた方が無視し、自分のわがままで踏みにじったのです」
そして神崎に続いて、神代は俺たちを怒鳴りつけた。
「見なさいよ、この墓石の数を! 彼らはこれから立派な人間になって社会に貢献するというのに、あなたたちの気まぐれ一つであの世行きよ! 私からすれば、あなたたちがあの墓場に埋まったほうがよほどマシよ」
うわっ、いくら何でもそれは言いすぎだろう。これはある意味呪いと変わらないよな?
だが俺の胸のモヤモヤがまだ解消されていないうちに、神崎が再び俺たちに問いつめる。
「答えてください。何故大人しく自分の運命に従わずに、こうして無駄な抵抗を試みるのですか? このような不自由のない環境の中で、ここから出ようとする人はいると思いませんが」
運命に従う、だと……? ふざけやがって。自分の運命は、自分で決めるものだろうが!
「分からねえのか、ああ? だろうな、てめえのような頭の出来が悪いバカには、分かんねえだろうな!」
ずっと神崎に勝手なことを言われて、さすがに俺の怒りも限界まで達した。
「なんて失礼な……! はぐらかさないで、早く答えてください!」
「いいぜ、教えてやるよ! それはな……俺たちは、誰かが敷いたレールに歩かされるのが嫌いだからなぁ!」
胸に溜まっているストレスを発散しようと、俺は大声で叫ぶ。ふう、清々しい気分だぜ。
「そうよ、アタシたちはアンタらのようなロボットと違って、ちゃんとした人間なんだからっ!」
「ふんっ、自分の運命を自分で決めずに他人に任せるような愚か者になった覚えはないぞ」
「こんなところで、何も変わらない人生を過ごすのはイヤ! まだ私たちの帰りを待っている人がいるから!」
俺の声に応じるかのように、仲間たちも俺に賛成した意見を口にする。これほど心強いことはないだろう。
だが石頭の神崎には、そう簡単に納得するわけにはいかなかったようだ。
「なんて身勝手な……! そういう道徳を無視し、自分さえよければいいという安易な発想が世界を滅ぼすということを、何故理解できないのですか!?」
「そういうのは恋蛇団の連中に言えよ! 自由を求める俺たちより、混沌を好むあいつらのほうがよっぽど質が悪いぞ!」
「そうよ! 犯罪さえしなければ、好きなことをやってなにがいけないのよ!」
「あっちのリーダーは、平気で人を殺すんだぜ! なんでアイツらじゃなくて、オレたちの邪魔しにくるんだよ!」
聡の質問はもっともだ。そしてその質問に答えたのは、またしてもこの男だった。
「へっ、そんなの決まってるじゃないか! 俺たちのほうがあのイカレた連中より人数が少ないから、やりやすいと思ってるだろう!」
まだ昔のトラウマから抜け出せなかった拓磨は、荒々しい口調で神威隊を軽蔑する。
「……何が言いたいですか?」
「お前は、最後まで言われないと気が済まないドMなのか? それはな、お前たちはただ俺たちという仮想敵を作り上げて、言いがかりをつけに来たに過ぎない! 要するに弱いものいじめだ!」
「なっ……! 黙って聞いてれば、調子に乗って……!!」
神崎の右腕である神代は拓磨の言葉を聞いて、思わず拳を震わせる。自分の正義を信じてやっていることがあんな風に言われると、誰でも怒るよな。
「違うか? みんな忘れていたかもしれないけど、この学校にいる生徒たちは、親が自分の子供に失望してここに送り込まれたんだぞ?」
「と、いうことは……」
「そうだ、お前たちもまたその中の一部だ、いわば『失敗者』だ! だから俺たちを不満のはけ口にして、八つ当たりをしているんだ!」
「うっ……ち、違います! 私は決してそんな理由で……!」
口では否定しているが、その明らかに不自然な表情が神崎の複雑な心境を物語っている。
もちろん、狙撃が得意な拓磨にはそれを見逃すことはなかった。そして彼が反撃は、まだ終わりじゃない。
「何を焦っている。もしかして図星か?」
「そ、それは……」
「ふん、やはりか。何が世界の均衡だ、バカバカしい。聞こえのいい口実で自分の非常識な行動を正当化して、所詮お前たちも、自分の利益しか考えていない下劣な存在に過ぎない」
「あっ……あああ……」
長々と続く拓磨の批判の前で、神崎は反論の糸口が掴めず、ついに膝を屈めた。
「祭! おのれお前達、この神槌 伊佐実が、相手になってやる……!」
先ほど稲妻の巨人を呼び出した男勝りな女性は、怒りに満ちた声を発して再び俺たちに戦いを挑もうとする。
まだ諦めないのか。往生際が悪いな。
しかし状況は、思いもしなかった方向へと展開する。
「いえ、待ってください神槌さん!」
「祭!? しかし奴らは……」
神崎に呼び止められた神槌は、意外そうな顔を浮かべた。
「今日はこれぐらいにしておきましょう。いずれまた会うことになるでしょう」
「おいおい、逃げるのかよ! それも神の意思ってヤツか?」
身を翻す神崎を見て、聡は調子に乗って挑発する。しかし神崎は答えるどころか、振り返って俺をギラリと睨みつける。
「狛幸秀和……これで終わりだと思わないでください。そのような不埒な行為を続ける限り、私たちはあなた方を監視する役目を果たし尽くします」
ふん、この期に及んで負け惜しみかよ。そんなことを言って、俺はビビるとでも思ってるのか?
「ひえ~、そいつは怖えな。まさか俺がお風呂に入る時の裸も見られちまうのか?」
俺は冗談半分でそう答えると、予想通りに神崎は頬を赤く染めてそそくさと逃げ出した。へっ、チョロいもんだぜ。
「無神論者どもめ……あなた方の身には、いずれ天罰が下るのでしょう! さあ皆さん、早く行きますよ!」
「次は手加減しないからな! 覚えておけ!」
「今度こそ、テディーちゃんでみんなをコテンパンにやっつけちゃうんだから! アバアバアバ!」
「ゲームなんてつまらないものは、さっさと捨てたほうがいいわよ。それじゃ」
神威隊のメンバーたちは捨て台詞を残すと、この場を後にした。
もうこれで大丈夫なのか? これ以上無駄な戦いをしなくてもいいってことでいいんだよな?
「ふう~、やっと消えてくれたわね。もう何なのよ、あの子たちは!」
邪魔が入ったことによって不快感を覚えているのか、美穂はさっきから苛立っている。
「さあな……それにしても驚いたぜ! まさかこの時代にも、自分のルールで他人を縛ろうとするやつがいるとは……なぁ、拓磨?」
肩を揉みながら首を動かしている正人は、拓磨に声をかけた。
「何で俺に振るんだよ……あんな自分勝手な奴は、いくらでもいてもおかしくはないだろう?」
一方変身を解除した拓磨は、まだ不機嫌そうに不満を漏らしている。どうやら彼は自分が受け入れがたい観点を持つ相手に、敵意を抱いたようだ。
「あっ……」
二人の会話を聞いた千恵子は、突然俯いて落ち込んだ。もしかして過去の自分の面影が浮かんだのか?
「気にするな。千恵子のことを言ってるわけじゃないから」
そんな千恵子を励まそうと、俺は後ろから軽く手を彼女の肩に置いた。
「はい……分かっています。ありがとうございます、秀和君」
彼女は俺の気配に気付くと、俺のいる方向に振り返って、にっこりと微笑みを浮かべた。
だがすぐに哲也は俺の側に近付き、俺はそっちに注意を払う。
「ところで、これからどうする? 彼女達は一時撤退してくれたのは助かるけど、これで諦めるとは思わないぞ」
「簡単なことだろう? 奴らが諦めるまでに何度も叩きのめしてやればいいさ。どうせあんな実力じゃ、俺たちの相手じゃないし」
「まさか、殺すってことは……ないよね?」
俺の口調が少し乱暴だったからか、友美佳は少しビビりながら俺に質問する。
「んなわけないだろう。俺たちは恋蛇団のような人殺しじゃねえんだぞ? それに、神威隊の連中も恋蛇団とは性質が違うし」
「まあ、それもそうよね……」
友美佳は安心したかのように、大きく息を吐いた。一体何を心配してるんだ?
「さて、邪魔も消えたことだし、そろそろ恋蛇団に殴り込みに行くわよ!」
美穂は両手を腰に当てながら、仁王立ちしている。その瞳が放つ輝きは、まるでエメラルドのように眩しい。
「いや、それなんだけどさ……」
「ん? どったの秀和くん?」
俺の意味ありげな言葉を聞いて、美穂はこっちを振り向く。
「水を差すようで悪いけど、気が変わった。部屋に帰って休むことにするぜ」
俺は手を振りながら、寮へと帰ろうとする。
「はあああああ!? ちょっと、菜摘の仇はどうすんの! 一番乗り気だったのは秀和くんでしょう!」
突然告げられた俺の決断に、美穂は大声で疑問を示す。まあ、気持ちは分からなくもないが。
「悪い、さっきあいつらに色々言われて、頭が混乱してるんだ。ただでさえ頭が痛いのに、ますます痛くなってきた。この調子だと、まともに戦えないぜ」
「じゃあ、菜摘の仇はどうするのよ?」
「明日に延ばす。恋蛇団のことだ、最善の状態で奴らに臨まなければならない。菜摘もそれでいいよな?」
「うん……私は大丈夫だよ。秀和くんが無理して倒れたら、私もイヤだもん」
菜摘は心配そうに俺を見つめながら、こくりと頷いた。うん、やっぱり菜摘は話が分かる子だな。
「もう、つまんないわね……しょうがない、今日は退屈しのぎに何しようかしらね……そうだ聡くん、なんかいいゲームがない? 敵をボコボコにするヤツ!」
「おっ、いい質問だな! それならこの『暴力部隊』がオススメだぜ! 好きな武器を選んで、敵の大群を一掃する場面がたまんねーぞ!」
「なんだか刺激的でいいわね! よし、早く寮に戻ってやっちゃうわよ~」
こうして俺たちは一旦恋蛇団への復讐を止め、寮に戻ることにした。
部屋に帰った俺は体をベッドに投げて、疲れた体を癒す。
美穂「ああもう、イライラが収まらないわよ! さあ聡くん、さっさと始めるわよ!」
聡「おうよ! よーし、それじゃ早速、ゲームスター……」
祭「お待ちください。そのゲーム、内容があまりにも暴力的なので没収させて頂きます」
聡「っておおい! またおまえらかよ!」
美穂「なによいきなり! もう帰っちゃったんじゃないの!?」
祭「言ったはずです、あなた方を監視する役目を果たし尽くすと。ゲームをやるのでしたら、『ほっこりケロケロランド』のような全年齢向けのものに限ります。あと、ゲーム時間は1日1時間……」
直己「そんなことどうでもいいって! 好きなだけやるのは一番……ぐわっ!」
祭「だらけすぎます! これだからあなた方のことが……」
直己「ううう……名雪にしか殴られたことないのに……」
拓磨「おい、何をやっている! ここはお前たちがいていい場所じゃないぞ」
美世子「あなたが決める権利はないでしょう。こうでもしないと、あなたたちが何をやってるか分からないじゃない」
拓磨「……随分と勝手な言い分だな、おい」
千恵子「あの……もしよろしければ、こちらのお菓子はいかがでしょうか? わたくしと菜摘さんの手作りです」
祭「せっかくなので、頂きます」
美世子「もぐもぐ……あら、案外いけてるじゃない、この味」
広多「すっかり馴染んでいるじゃないか、おい」
拓磨「こんなのおかしいぞ……こんなのおかしいぞ……!!」
秀和「うるせえ。そんなに騒いでたら寝れねえぞ」




