リボルト#14 自由を縛る秩序の鎖 Part2 ぶつかり合う正義たち
※このパートにはネタバレが含まれております。ご注意ください。
「誰だ、今叫んだの? 千恵子か?」
俺は千恵子を見つめて、彼女に質問を投げる。
「いいえ、わたくしではありませんが……」
しかし千恵子は首を横に振り、否定の答えを出した。
「じゃあ、一体誰なんだ?」
俺はあちこち見渡して、声の正体を突き止めようとする。
「ここにいますよ! 前を見てください!」
俺たちの会話に気付いたのか、凛々しい声が再び聞こえる。
そして言われた通りに前を見ると、とんでもない光景が俺たちの目の前に現れる。
そこには、見覚えのない少女たちがいる。彼女たちは全員真っ白な衣装を身に包み、すさまじい視線で俺たちを睨みつけている。
ぱっと見だとおよそ八人ぐらいか。人数はこっちのほうが上だ、恐れるに足りねえな。
「誰だお前ら? 見た感じだと、俺たちに協力してくれてるようには見えねえが」
俺の乱暴な言葉遣いに呆れたのか、一番前に出ている白い髪の少女は大きなため息をついた。
「お前とは失礼ですね……話は聞いていましたが、まさかここまで乱暴な方だなんて」
「話? 誰かの差し金か?」
その話を聞いた俺は、思わず眉をひそめる。そういえば、ブラック・オーダーは長い間に動きはなかったし、もしかしたら奴らの仕業かもしれない。
「差し金とは、随分と人聞きの悪い言い方ね。私たちは神の意思を受け、あなたたちを止めに来たのよ」
白い髪の少女の近くにいる小柄で緑色のツインテールの子は、何やら訳の分からないことを言い出した。
「神の意思? 何じゃそりゃ? それよりお前ら、さっさと名乗ったらどうなんだ? 今の俺は最高に機嫌が悪いからな!」
俺の恋蛇団に復讐したい気持ちが、正体不明の少女たちに邪魔されたことにより更に強まり、苛立ちが募る一方だ。
「人の話も聞けないなんて、本当に質が悪すぎますね……いいでしょう、答えて差し上げます」
白い髪の少女はまたしても大きくため息をつき、自己紹介を始めた。
「私は神崎 祭と言います。『神威隊』のリーダーを務めています」
そして緑色のツインテールの子も、一歩前に出て名乗り始めた。
「神代 美世子よ。祭の右腕、とだけは言っておこうかしら」
「狛幸秀和だ。脱兎組のリーダーは、この俺のことだ」
「やはり貴方がリーダーでしたか。そのだらしない身なりからすると、先生方に反抗するような不埒なことを考えられるのも頷けますね」
神崎と名乗った少女は、冷ややかな眼差しで俺を見つめながら、勝手に俺のことを評価し始めた。
「貴方、人間として最低ですね。神の意思を無視した上に先生という尊い職業を踏みにじり、自分の汚い欲望のために先生を全員倒すことまでもくろむ……」
神崎の表情は怒りによって、みるみる歪んでいる。その目はまるで、自分の親を殺した仇敵を見ているかのようだ。
いきなり初対面の人にこんなこと言われて、俺も黙っていられるはずがない。だが、俺より先に不満の意を表明してくれる人がいた。
「いい加減にしてください! 秀和君は、貴女方が思っているような方ではありません!」
「そうだよ! 秀和くんはみんなのために色々頑張ってるのに、なんで何も分からないあなたたちがそんなひどいことが言えるの!」
「千恵子……菜摘……」
もうこのような事態は初めてじゃないが、やはり味方が自分の気持ちを代弁してくれるのは素直に嬉しい。
だが、向こうも決してこれぐらいで引き下がるわけがないだろう。
「これはこれは、随分と熱い声援じゃない。あなたたちは見た目はいい子なのに、なんでこんな野蛮な人の肩を持つの? さては変な思想でも吹き込まれたんじゃないかしら? この世も末ね……」
神代も軽蔑の目で千恵子と菜摘を見下ろして、とんでもないことを口にする。
「……御託はもういいだろう。そろそろここに来た目的を教えてもらおうか」
時間が一刻も惜しいと思った俺は、いつものように無駄口を叩く余裕がなくなり、更なる話題を切り出させるよう促した。
「一々うるさいですね……まあいいでしょう。私たち神威隊は、神の意思によってここに集まりました。そしてあなた方もここに来たのも、神の意思でしょう」
「だからさっきから何なんだよ、その神の意思って奴は! 俺たちはな、親に無理矢理にここに送り込まれてきたんだぜ!」
相変わらず意味不明の言葉に俺は怒りを爆発させ、神崎に怒鳴りつける。すると神崎は、何やら耳障りな音を発した。まさか舌打ちか?
「……所詮、あなた方のような凡人には理解できないでしょう。その上に何度も他人に喧嘩を売り、世界の均衡を崩壊させるような暴行までしました」
神崎は首を横に振りながら、またしても上から目線で俺たちを批判する。
へっ、よく言うぜ。先に喧嘩を売ってきたのは恋蛇団のくせに。
そして彼女は、ついにここに来た理由を伝えた。
「このままでは、世界が滅びるのも時間の問題でしょう。つきましては本日より、あなた方の行動範囲を学生寮及び校舎のみとし、毎日の行動を監視させて頂きます」
…………………………ああ、なるほど、そういうことかよ。ブラック・オーダーの連中は俺たちが自由に暴れ回るのを見かねたから、こうやってくだらねえルールを作って俺たちの行動を制限しようってわけか! どこまで汚えんだ、あいつら……!!
一度治まりかけた怒りは、再びマグマのように滾り出す。だがどうせ反論しても聞く耳を持ってはくれないだろうから、ここは奴らを無視して正面突破するしかなさそうだな。
「おい、ふざけんじゃねーぞ! なんでオレたちはそんなことをしなきゃなんねーんだよ!」
「だからさっき言ったのではありませんか。はぁ……あなた方は人の話も聞けないのですか?」
あーあ、また始まったぜ。聡の奴、すぐ興奮しやがって……
いや、待てよ? 聡が神威隊の注意を引きつけてる間に奇襲を仕掛ければ、逃げ道を作れるかもしれないぞ!
「おい正人、お前のその義手で煙玉を発射できたりする?」
奴らに気付かれないよう、俺は小さな声で正人に耳打ちをする。
「ああ、できるぜ! どうした、あいつらを撒くつもりか?」
「その通りだ。もうこれ以上時間を無駄にしたくないからな」
「もう少し話し合ってみないか? もしかしたら話が通じるかもしれないぜ?」
「お前だって見ただろう? あいつらはどう見ても俺たちの話を聞いてくれそうにないぜ! ここはやっぱ正面突破するしかない!」
「それもそうだな! よしっ、オレに任せてくれ!」
正人は何の躊躇いもなく、右手のひらを開いた。するとそこから黒い玉が、神威隊の連中に向かって吹き飛んだ。
やがて黒い玉が爆発し、白い煙が立ちこめはじめた。
「な、何ですかこれは……!! ごほっごほっ……」
「汚いわよあなたたち! 正々堂々勝負しなさいよ!」
俺たちの奇襲を予想できずまともに喰らった神威隊の連中は、咳をしながら悶えるしかなかった。へっ、ざま見やがれってんだ。
「わりぃな、お前らと遊んでる暇はねえんだよ! よし、今のうちに奴らを振り切るんだ!」
高ぶる気持ちが抑えきれず、俺は急いで正人を催促する。そして正人は慣れた手付きでバイクを動かし、煙を避けながら前進する。
よし、これでやっとこのうるさい連中とおさらばだ……ん!?
突然、どこからともなく大波が発生し、煙をかき消した。
「これで逃げられるとでも思っていたのかしら? 甘いわね」
またしても聞き覚えのない声だ。まさか神威隊の三人目のメンバーがやったのか?
やがて大波が魚の形に変わり、また少しずつ消えていき、一筋の光と化して飛んでいった。飛んだ先には、一枚の札を持っている青い髪の少女がいた。
「どうやら本気を出さないと、私たちがどれほど怒っているのかが分からないようね」
青い髪の少女も神崎のように、鋭い目つきで俺たちを睨みつける。ったく、どいつもこいつも狂ってやがるぜ。
「ああもう、ドイツもコイツも邪魔しやがって! 早く戦いを終わらせてゲームしようってんのに!」
聡は昨日の装備改良に集中していたため遊べなかったからか、彼もまた苛立ちを露わにした。
だがその一言が、また新たな衝突をもたらしてしまう。
「……何ですって? 今、ゲームと言ってなかったかしら?」
青い髪の少女の目線はさっきより険しくなり、青筋を立てたその顔も人を寄せ付けない雰囲気が漂う。おお、怖い怖い。
「そ、それがどうしたってんだよ?」
聡はその気迫に圧倒され、声も震えている。女性相手にビビってんじゃねえよ。
「ゲームなんか、そんな人を堕落させるような何の価値もないものを触るなんて……万死に値するわ!」
突然青い髪の少女が叫び出した。まるでゲームが、彼女の人生を狂わせた忌むべき存在のように。
もちろん、そんなひどいことを聞いて黙る聡じゃない。
「あぁん!? なに言ってんだおまえは! この崇高な芸術品を、何の価値もないものだと……!!」
さっきまでビビっていた聡は、急に血相を変えて反論に転じた。
っていうか「崇高」って言葉を知ってるんだ、聡は。これが底力って奴か。
しかも、反論するのは聡だけではなかった。
「聡さんのおっしゃる通りです! ゲームを蔑むような発言など、失礼にもほどがあります! 今すぐ取り消してください!」
まさか、千恵子まで反対の声を上げると思わなかった。けどまあ、彼女もゲームが好きだから、おかしくはないか。
「嫌よ。だってあれのせいで、多くの若者がひきこもっているじゃない。本当、汚らわしいわね」
うわ~、いるなこういうの。上辺の現象に惑われて、何もかもゲームのせいにする奴。
「言いがかりも大概にしろ! 大体ああいうヤツは、夢も希望もない現実に絶望してるからさ!」
「本末転倒ですよ! ゲームに夢中になってひきこもっているのではなく、現実に幻滅してひきこもっているから、ゲームに夢中になったのです!」
聡と千恵子は、依然として負けじと青い髪の少女と言い争っている。
そして見兼ねたこの男が、ついに口を挟む。
「盛り上がってる途中で悪いけどさ、いつから弁論大会になったんだ?」
「拓磨!」
普段は滅多に喋らない拓磨の声が正人の耳に入り、彼は驚く。
「神の意思だの世界の均衡だのって聞こえはいいが、お前たちはただ俺たちのやり方が気に食わないだけなんじゃないのか?」
拓磨の言葉に、何やら冷たい態度が感じる。その蔑んだ目も、それを物語っている。
「そ、そんな勝手なことを言わないでくださいっ! これは正義のためです!」
痛いところを突かれたのか、神崎は急に吃り始めた。
しかし彼女のその苦し紛れに出た答えが、この口舌の争いを更に激化させる。
「……今、なんて言った?」
何故か拓磨の声が急に低くなり、怒りがこもっているように感じる。
「えっ? 正義のためですが……」
「はっ、正義だと!? バカバカしい! 正義を振りかざすやつ程、愚かな者はいない!」
拓磨は笑顔を浮かべているが、どう見ても正気の沙汰じゃない。あれはまるで、獲物を狩るような目だ。
「どうしたのですか? 正義のために動くのが、何がいけないのですか!」
そんな拓磨を見て、神崎は目を見開く。まさか自分の発言がこのような事態を招くとは思わなかっただろう。
それにしても、何なんだあの豹変っぷりは。もしかして、彼は自分の悪い過去を思い出したとでもいうのか?
「ふんっ、お前たちのような正義のヒーロー気取りのせいで、俺のお袋が死んでしまったんだ!」
やっぱりそうか。となると、彼がああなった経緯も簡単に想像できるだろう。
まあ、無闇に彼の過去を想像するより、やっぱり本人から直接に話を聞いたほうが一番だな。
「どういうことですか? 説明してください!」
「ああ、言われなくてもそうするぜ! 俺のお袋はな、ある日買い物から帰ったら、どこのどいつかが勝手にお袋が子供を轢いた写真をでっち上げて、ネットに拡散しやがった!」
「えっ!? それじゃ……」
その衝撃の事実を聞いた菜摘は、思わず大声を上げた。
「ああ、そうだ! ネットの連中は何も知らないで、勝手にお袋を犯人だと決めつけている! しまいには住所までバラされて、マスコミの記者が押し寄せてきた! そして一週間後……」
拓磨は話の途中で目を閉じ、黙り込んだ。ここまで来ると、この後の内容は大体想像がつくな。
そして拓磨は閉じていた目を開き、怒りを胸に叫び出す。
「ネットとマスコミからのプレッシャーに耐えられなかったお袋は、首吊り自殺したんだぁっ! 何も悪いことをしてないのにもかかわらず!」
この時、拓磨の両目から涙が溢れ出して、頬を伝う。
まさかあのクールな拓磨も、こんな涙ぐましい一面があるとは。現に一部の仲間たちも、拓磨の話を聞いて泣いてるし。
「……………………」
広多は涙こそ出ないものの、彼はいつものように他人を嘲笑うことなく、ただ腕を組みながら俯いている。目を閉じているようだが、まさか寝てるじゃないだろうな?
「いや、それより許せないことがある!」
てっきり静かになったと思いきや、拓磨はまたしても大声を出して、俺たちを驚かせる。
「人を殺したやつは有罪で、監獄にぶち込まれるのが常識だよな?」
「ええ、その通りですが……」
「だが! 俺のお袋を殺したあいつらはどうだ? やつらは何事もなかったかのように、また新しい獲物を吊し上げている!」
「それは……とても酷い話ですね」
家族を大事に思う千恵子は、複雑な表情を浮かべている。
「そこで俺はやつらに問った、何故そんなことをしたのかと。なんて答えられたか分かるか?」
拓磨の震えている声で、俺たちに詰問した。さっきの会話から、俺には何となく分かる気がする。
「『それが正義だから』……とか?」
「ああ、そうだ! 法廷や警察の人間でもないのに、よくもあんなことが言えたな! 図々しいにも程がある!」
しかし一方的に展開された拓磨の愚痴も、ここで遮られてしまう。
「ふんっ、何かと思えば、そんなことだったの。いい加減、被害者面をするのも止めなさいよね」
発言したのは神代だった。その「どうでもいい」といわんばかりの目つきは、拓磨の傷ついた心をズタズタにする。
「お前、自分が何を言ってるのか分かってるのか?」
拓磨は唇を噛み締めながら、両手を震わせている。
「ええ、分かってるわよ。もしあんたのお母さんが子供を轢いたことが事実だとしたら?」
「バカな、そんなはずがない! 俺のお袋は轢き逃げをするような人じゃないし、家に帰った時は何もぶつからなかったと言った!」
「信用できないわね。子供が親を庇っているようにしか見えないわよ」
「子供が自分の親も信用できないというのか!」
「勘違いしないで欲しいわね。犯人は罪を背負わないために、言い訳をしたって言いたいだけよ」
「言い訳だと!? ふざけるのもいい加減にしろ!」
「ふざけてなんかないわよ。実際に証拠写真も出てるわけだし」
「だから、あれは合成で……」
「合成である証拠は? あんたは真実から目を背けただけなんじゃないの?」
「くっ……!!」
論破された拓磨は、とても苦しそうな顔をする。
「ほーらやっぱり。結局あんたのお母さんは警察に捕まるのが怖くて、この世界から逃げただけ。あ~あ、この世も末ね」
神代は両手を開いて、やれやれと首を横に振る。
確かに辻褄が合うかもしれないが、拓磨はそれで納得するはずがないだろう。
「ふざ……けるな……」
「あん? 何か言った?」
「ふざけるなと言っている! もうこうなったら、お前らをまとめてぶっ潰してやるっ!」
つい理性を失った拓磨は、自分の首に付けているドッグタグを握り締めた。するとそこから青い光が現れ、やがて拓磨の全身を包んだ。
「はああああああああーー!!!」
まるで強い力でも得たかのように、拓磨は雄叫びを上げる。
「おい、落ち着け拓磨! やべえ、『アレ』を使う気なのか……!」
そんな拓磨を見て、正人は焦った顔をする。
「『アレ』? 『アレ』ってなんだ?」
「フォース・クリスタルですわ……わたくしたちの宝石グループが偶然開発した、とてつもなく強い力を秘めた水晶ですわよ」
正人に代わって、雅美が俺の質問に返答した。ひえー、さすがお金持ち、やることはでけえぜ。
「青藍の九頭龍!」
そして言うがはやいか、青い光がますます眩しくなり、周囲にほとばしった。
するとどうだろう。俺たちの前に現れたのは、背中に龍の首を九つ生やしている拓磨だった。
「さあ、証明してやるよ! お前たちの信念がどれだけ強くても、この俺の力の前にひれ伏すしかないってことをな!」
怒りに満ちた拓磨は、禁断の力を解放したことによって満面に笑みを湛える。
どうやら、本当の戦いはこれからみてえだな……
秀和「ったく、やらなきゃならねえことがあるってのに、いきなりこんな奴らに邪魔されるなんて……ムカつくぜ!」
聡「まったくだぜ! しかもオレが大好きなゲームまでボロクソ言われて、ワケわかんねーぜ!」
直己「ああ、どうやら痛い目に遭わせないとダメみたいだな!」
千恵子「いいえ、よく考えてみてください。彼女達はきっと、わたくしたちが理解できないような悲惨な人生を送ってきたはずです。ここは優しい目で見守りましょう」
祭「あなた方の同情は必要ありません。神の意思をもって、絶対にこの世界の穢れを浄化して、均衡を取り戻してみせます」
美世子「この世も末ね……まさか自ら堕落しようとするやつは、これだけいるなんてね」
拓磨「ふんっ、何とでも言うがいい! その偽りの正義を、この俺が滅ぼしてやる!」
正人「おい、落ち着くんだ拓磨! こんなの全然お前らしくねえぞ!」
雅美「そうですわよ! フォース・クリスタルは、そんなことに使うものではありませんわ!」
拓磨「黙れ! お前たちには、俺の気持ちが分かるものか!」
祭「なんて醜いでしょう……憎しみに染まった、その顔は」
美世子「ふんっ、あんたも人のことを言えないわね」
拓磨「そんなことを言ってられるのも今のうちだ! すぐに俺の強さを思い知らせてやる!」
祭「調子に乗らないでください。私達もまだ、本当の実力を出し切っていませんよ」
秀和(さて、どうしたものか……)




