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反逆正義(リベリオン・ジャスティス)Phase One——Ten days in heaven(or in hell)  作者: 九十九 零
第4章 怒りの反撃編・信念の分岐点
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リボルト#14 自由を縛る秩序の鎖 Part1 小手調べ

アバン


秀和「よっしゃ! 装備も改良したことだし、今度こそ恋蛇団(ウロボロス)の連中を叩き潰してやるぜ!」

千恵子「ええ、そうですね。菜摘さんにあんな酷いことを……本当に許せません」

美穂「もう本っ当にアタマ来た! 特にあの赤い目の子、好き勝手やってくれちゃって!」

冴香「そうですね……もうこれ以上は見過ごすわけにはいけません!」

宵夜「我が同盟(どうめい)を傷付ける暴挙(ぼうきょ)……地獄の業火に焼かれるがいい!」

優奈「ドライヤーだよね、それ?」

聡「ええい、この際ドライヤーでもオーブンでもなんだっていいぜ! オレたちの恐ろしさを思い知らせてやるぅ!」

広多「あれだけダメージを与えたというのに、まだ元気に動けるとはな……どうやら、もっと痛い目に遭わないと気が済まないらしいな」

哲也「仏の顔も三度……さすがにこの僕は、黙っていられないな」


土具魔「ヒャーハー! だったら余計なことばっか言ってねえでさっさとかかってこいや、この無能どもがぁ゛! ハッハッハッハッハッハァー!!」

秀和「望むところだぁ、土具魔ぁぁぁぁぁー!!! てっめえぜってえ許さねええええー!!! 千里の一本槍ぃぃぃ!!!」

土具魔「へっ、そうこなくちゃなぁ゛! 絶世の黒炎(エルスラグマ)ァァァァ!!!」


十守「もはや様式美なのね、これ……」

静琉「あら、いいんじゃないかしら? これでこそ青春、っていうんでしょう?」

十守「ま、まあね……」

リボルト#14 自由を縛る秩序の鎖

The chains of order which bind the freedom


 静かな空に、小鳥たちのさえずりが響く。

 なんて平和な光景だ。これから熾烈な戦いが繰り広げられることを、誰が想像できるだろうか。

 昨日は絶え間なく装備の強化に励んでいたから、気が付けば日付が変わり、ベッドに入った時はすでに夜中のことだった。

 だがたくさんの出来事が頭の中で付きまとっていたせいで、なかなか寝付けなかった。今にも頭痛が続いてやがるぜ。


「秀和君、大丈夫なの? 今日はもう休んだほうが……」

 そんな俺を見て、側にいる千恵子は心配そうに俺を無理させまいとする。

 だが復讐を決心したあの頃の俺は、自分のことなんてどうでもよかった。

「いや、ダメだ。あいつらに一刻も早く、俺たちを見下ろしたことを後悔させねえとな」

「でも……」

「千恵子だって、昨日は危うく殺されるハメになっただろう? 君もある意味被害者なんだぞ」

「それは、そうだけど……」

 千恵子は俺の投げかけた返事にぎこちなく応答したことから、どうやら反論の糸口が見つからないようだ。


「あーったく、こうしちゃいられねーぜ! アイツらいつもいつも調子に乗りやがって、もう本当にウンザリだぜ!」

 聡の荒々しい声が、寮の玄関で響き渡っている。俺と千恵子は振り向くと、そこには改良した車椅子を押している聡がいる。もちろん、そこに座っているのは百華だ。

「よう聡。どうだ、テストの調子は?」

「バッチリだぜ! この世間知らずのお嬢さんにも使いやすくするよう、色々工夫したぜ!」

 製作者である聡は自信満々の笑顔を浮かべ、この車椅子の品質を保証できるようだ。

「そうなのか、百華?」

 だが聡が自分の腕を過大評価する可能性もあるから、念のため使用者にも訊いておかねえとな。

「はい、その通りでございます。ほら、こちらのボタンを押しますと……」

 そう言うと、百華は手元にあるデカくて赤いボタンをポチった。


 するとどうだろう。なんと車椅子の後部からバルカン砲が伸びて、百華の頭上に移動した。そして枕から耳当てが姿を現し、彼女の耳を覆う。

「んで、そこの右側のレバーで照準を定めると、てっぺんに突き出るボタンを押して発射だぜ。結構音がデケーから、二人とも少し離れたほうがいいぜ」

 聡の注意に従い、俺と千恵子は下がった。

「それでは、参りま~す」

 呑気な掛け声と共に、百華はレバーに付いているボタンを押した。俺と千恵子は無意識に耳を塞ぐ。

「バンバンバンバンバン!」

 雷鳴のような銃声が、絶え間なく轟く。直線に飛ぶ弾が容易く木を貫き、それを倒した。


「ストップストォォォープ!!! これ以上やると被害が……!!」

 俺は慌てて百華を止めようとするが、無情にも銃撃の騒音が俺の声をかき消した。

 彼女に接近しようとするも、流れ弾に当たらないか心配で、一歩前に踏み出すことすらできない。

 こうして彼女を見守っている間に、無実の犠牲者が一本ずつ倒されていく。うわ、なんて無惨(むざん)な光景だ。

 そしてついに彼女は攻撃の手を止め、嬉しそうな表情を浮かべる。

「ふぅ~、とっても楽しかったです」

 楽しいだと!? よくすがすがしい顔であんなことが言えるんだな……天然って恐るべし。

 っていうか、さっきの騒音のせいで、頭痛がもっとひどく感じてきたぜ……ああ、泣けてくるな、こいつは。

 俺たちが怖い思いをしている中、またしてもこいつが熱い一面を見せる。


「うおっ! 予想以上の効果じゃないか、これ!」

 この声、正人だな。彼は煙が立ちこめる樹木を見て、興奮の声を上げている。

「まあ、これはこれは……抜群の破壊力ですわね」

 その傍らにいる雅美も、目を見開いて感想を述べる。

「Wow,excellent! これなら、あのbad guysをやっつけるのもすごくeasyだよね!」

 帰国子女の絵梨香は、いつものハイテンションで英語の混ざった言葉を叫ぶ。

 ところが、一人だけ浮かない顔をしている。


「ちょっと、何なのよこれ……本当に百華にこれを使わせる気?」

 百華の親友である友美佳は、何やら納得しない様子だった。やはり、百華を危ない目に遭わせるのが怖いだろうか。

「まだ心配してるのか、友美佳。昨日も言っただろう、百華だって一人になることもあるかもしれない。自分の身を守るぐらいできなければ、後で大変なことになるかもしれないんだぜ?」

「そうね、これからも色々戦うことになるでしょうし……仕方ないわ」

 まだ少し腑に落ちないものの、友美佳は一応俺の意見に賛成してくれたみたいだ。

「あら、友美佳さんも使ってみてはいかがですか? 楽しいですよ」

 友美佳の気配に気付いた百華は、満面に微笑みを浮かべて友美佳にバルカン砲を勧めはじめた。

「あんたね……まあ、本人が楽しんでればいいけど」

 そんな楽天的な百華を見て、友美佳は思わずため息を大きくついたが、彼女の笑顔を見ると、怒るに怒れなかったようだ。

 そしてこんな他愛ない話に時間を潰していると、玄関からあの二人が姿を現した。


「………………」

「やあ、おはよう秀和。今日もいい朝だね」

 黙り込む菜摘と、苦し紛れに挨拶をする哲也。昨日の辛い記憶が一気に脳裏に蘇ってしまう。

「ああ、おはよう、哲也、菜摘。なんでそんな暗い顔をしてるんだよ?」

 理由は分かっているが、口が勝手に動いて無意味な質問をしてしまう。

「だって、昨日はあんなひどいことをしちゃったから……」

 菜摘は俯きながら、蚊が鳴るような小さな声で返答する。やはりまだ罪悪感に(さいな)まれているのか。

「だから言っただろう、菜摘は悪くないって。すべては恋蛇団(ウロボロス)の連中がいけねえんだ。それを思い知らせるためにも、今はこうしてあいつらに殴り込みをかけに行くじゃねえか」

「で、でも……」

「でもじゃない! いいか、俺は菜摘のそんな暗い顔が見たくねえんだ!」

 苛立つ俺は両手を菜摘の肩に置き、大声で彼女の心を動かそうとする。

「えっ……」

「菜摘の一番の魅力は、その誰よりも負けない優しい笑顔なんだ! それが見られないと思うと、どれほど残念なことか!」

「そ、そうなの?」

「ああ、そうだ! 菜摘が笑わなくなってから、みんなが寂しいって言ってたぜ!」

「そ、そうなんだ……」

「特に美穂は、一晩中に泣いてたぜ」

「ええっ、美穂ちゃんが?」

「ちょっと! それは言わない約束でしょう!」

 秘密を暴かれて、赤面する美穂。彼女は大声でごまかそうとしているが、それが叶うはずもなく、かえって逆効果になった。


「美穂ちゃん、私のことをこんなふうに思ってくれてるんだ……そうだね、私もしっかりしないとね!」

「菜摘……アンタ……」

 さっきまでどんよりしていた菜摘の目付きが、急に明るくなった。彼女の立ち直りっぷりを見た美穂は、思わず驚きの色を見せた。

「ありがとう、美穂ちゃん、秀和くん、そしてみんなも! そうだね、ずっとくよくよしてもしょうがないよね! 私たちは、ここから脱出しないといけないんだから!」

 本調子に戻った菜摘は、普段通りの元気な声を出している。聞いているこっちまで元気になるぐらいだ。


「よかったぁ、いつもの菜摘さんに戻ったみたいですね」

 発言したのは冴香だった。彼女もまたいつもと変わらない笑顔を浮かべている。菜摘と同じ志を目指す仲間だからか。

「菜摘ぃ~!!! アンタってなんていい子なのぉ~!!!」

 菜摘の言葉に感動した美穂は、涙を流しながら彼女を抱きしめる。

「ちょっと美穂ちゃん、くすぐったいよ~」

 相変わらず美穂の激しいスキンシップに抵抗できない菜摘は、恥ずかしそうに苦笑している。

「よかったな、秀和。いつもの光景が見られて」

 俺と同じくこの微笑ましい場面を見守っている哲也も、久しぶりに笑顔を見せる。

「ああ、そうだな」

 やっぱり、脱兎組(ランニング・ラビット)はこうでないとな。

 俺は菜摘に近寄って、彼女に大切なことを伝えた。


「これで分かっただろう、菜摘。君が壊れると、全員にまで影響が及ぶんだ。だから、もうこれ以上卑屈にならないでくれ」

「う、うん……そうだよね」

 菜摘は何かを考え込んでいるように、少し俯いた。が、すぐさま頭を上げて、俺の目を真っ直ぐ見た。

「だから私は、これからもみんなと戦うよ! 小春さんから新しい武器ももらったんだし、きっと勝てるに違いない!」

 そう言うと、菜摘は左腕を上げて、小春が作った装備を見せびらかす。

 それは緑色の宝石をあしらった金色の円盤(えんばん)のようなもので、外側に黒い切り口がある。

「まあ、とってもキレイですね。小春さん、それは何でしょうか?」

 初めてその装備を見た千恵子は、小春に質問をする。

「手首にあるボタンを押して、切断面から様々な罠を飛ばすことができるものです。名付けて、『トラップディスク』です」

「へー、試しに使ってみたらどうだ、菜摘?」

「うん! いっくよ~、えい!」

 元気でかわいらしい掛け声を発し、菜摘は言われた通りに手首の赤いボタンを押した。


 するとどうだろう。切り口から小さな丸のこのようなものが飛び出る。その真ん中には、緑色の宝石がはまっている。

「なーんだ、オレのスパイク・チャクラムに似てるようなもんじゃねーか」

 期待がはずれたのか、聡はもの凄く退屈そうな目を浮かべた。

「うふふっ、本番はこれからですよ」

 だが小春は、なにやら意味深な笑い声を漏らした。一体どういうことなのか?

 そして丸のこが地面に落ちた瞬間に、とんでもないことが起きた。

 なんと丸のこの真ん中にはまっている宝石から、凄まじい乱気流が発生した! それが竜巻のように、俺たちを吹き飛ばそうとする。

「うわっ! なんじゃこりゃっ!」

 予想外のことに、聡の顔色が一変して慌て出す。

「もう、いつまでそれを出してるつもりなの! 早くしまいなさいよ!」

 名雪は強風の中で、スカートを押さえながら叫ぶ。相変わらずこういうことに固いんだな。

「おっ、どれどれ……今日の名雪のパンツは……ぐわっ!」

 直己も直己で、こんな時もスケベ根性を遺憾なく発揮する。もちろん結果はいつもと同じだけどな。

「わわっ、ごめんね! すぐやるから!」

 菜摘は慌てて反対側の黒いボタンを押すと、強風を放つ丸のこが動作を停止させ、彼女の腕に装着している円盤に戻った。


「これは『サイクロンカッター』です。どうやら、開発に成功したみたいですね」

 小春は自信作の効果を見て、満足そうに頷いている。

「ありがとう、小春さん! これさえあれば、重いバッグを持ち歩かなくても済むよ!」

「うふふっ、ワタシはあくまでアイテムを作っただけです。アイデアを出してくれたのは、秀和さんなのですよ」

「えっ、そうなの?」

「ええ、そうなのですよ。昨日の件で秀和さんは居ても立ってもいられず、菜摘さんの戦い方に合わせた装備を開発して欲しいと、ワタシにお願いしたのです」

 小春は何食わぬ顔で、菜摘の質問に答えた。ったく、そんな恥ずかしいことを言うなよ……!!

「そうなんだー! ありがとう秀和くん、そこまで私のことを考えてくれて……!」

 俺の気持ちに気付いた菜摘は、ものすごく嬉しそうな表情を浮かべて俺を見つめる。

「た、大したことじゃねえよ、これぐらい。大体こいつを作ってくれたのは小春だし」

 こそばゆい思いをした俺は、顔を赤くして目を逸らす。

「でも、これも秀和くんが考えてくれたおかげでしょう? 感謝……してるからね」

 菜摘の明るい声が、なぜか震えているように聞こえる。もしかして、泣いてるのを抑えているのか? まったく、相変わらずセンチメンタルな子だな。

「ほら、せっかく元気になったのに、泣いてどうすんだよ」

 俺は菜摘の頭をポンポンと軽く叩き、彼女を励まそうとする。

「う、うん……そうだよね」

 菜摘は涙を拭くと、またしても元気な笑顔を見せてくれた。


「さて、それじゃさっさと行くとするかっ! 打倒、恋蛇団!」

 俺は指を鳴らし、恋蛇団への復讐を改めて決意する。

「「「おおおおおおー!!!」」」

 仲間たちも武器を振りかざして、雄叫びを上げた。そしてちょうどその時、正人たちもバイクを回してきた。

「さあ、乗った乗った! もう一度あいつらに、オレたちの強さを見せてやろうぜ!」

「ああ、やってやろうぜ!」

 俺は正人のバイクに近付き、復讐を果たそうとするその時だった。


「そこまでです! 邪悪なる者達よ!」

 どこからともなく響いた、凛とした一喝(いっかつ)。それを聞いた俺たちは思わず硬直し、目を見開く。

 その声の持ち主が、後に俺たちと対立することも知らずに。

秀和「ああったく、またお前かよ! 勝手に邪魔をすんじゃねえって!」

???「だから『お前』ではありません! 私は……って、今はまだ名乗ってはいけませんね」

千恵子「どちら様でしょうか? 何故、わたくし達を呼び止めたのですか?」

???「分かりきったことを……それは、この世界の均衡(きんこう)を守るためです!」


聡「まーた、ワケわかんねーことを言ってるヤツが出てくるぞ」

広多「ふんっ、それはお前の知能が低すぎるからだ」

聡「てめー! またムカつくようなことを……! そこを動くな、今すぐ泣かせてやる!」

広多「ふんっ、やれるものならやってみるがいい」


???「はぁ……呆れました。秩序の欠片も感じられません」

直己「痴女? 君そういう趣味だったの? ぐわっ!」

名雪「『秩序』よ、『秩序』! 本当、あんたら気が緩みすぎよ……」

???「そういう気の緩みすぎたあなた方の軌道を修正するために、私達がここへ来たのです」

優奈「えっ、『私達』? それって……」

哲也「一人だけじゃない、ってことかい……まあ、論理的にはそうなるか」

美穂「ふざけるじゃないわよ! アタシたちは忙しいわよ!」

???「私達も遊びに来たわけではありません。では、覚悟してください」(ゴゴゴゴゴ)


秀和(ちっ……これもブラック・オーダーの陰謀か……!? だとしたらまずいな……)

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