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反逆正義(リベリオン・ジャスティス)Phase One——Ten days in heaven(or in hell)  作者: 九十九 零
第3章 兎蛇の戦編・激化する衝突
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リボルト#13 傷ついた兎と砕けたダイヤモンド Part5 揺れ動く絆

「ククククク……ザマァないわね」

 菜摘の中に侵入していたそれが、徐々に形が人間のように変わっていった。赤く光る二つの瞳から放つ殺気が、俺たちを戦慄(せんりつ)させる。

「て、てめえは……!!」

 確かあいつは、俺の部屋に忍び込んでいた赤目少女だ。やはり菜摘がおかしくなったのは、こいつのせいなのか!

「……何しにここにいらっしゃったのですか?」

 自分の仲間が弄ばれて怒りを覚えたのか、千恵子も血相を変えて目つきが険しくなる。

「あらぁ、こんなことをされてまだ分からないのかしら? やっぱりアナタのような無駄にチチがデカい女は、男をたぶらかすことしかできないの?」

「てめえ、言わせておけば……!」

 ゴミを見るような目で千恵子を見下ろす赤目少女に対して、俺は怒りに任せて奴に怒鳴りつける。


「分かり切ったことを……僕たちを仲間割れさせるに決まっているさ」

 いつも冷静だった哲也も、さすがにこの状況の前では落ち着いていられないようだ。

「へ~、よく分かってるじゃない、そこのメガネくぅん。でも、それだけじゃないわよん」

「……なんだと?」

 赤目少女の意味深な返答を聞いた俺は、全身に悪寒が走る。なにやらイヤな予感がするぜ。

「正直、ワタシはずっとず~と、そこのデカチチ女が気に入らないわよ」

「わたくしのこと……ですか」

「あら、ちゃんと自覚があるじゃない。そうよ、アンタのことなのよっ!!」

 赤目少女はそう言うと、千恵子をギロリと睨みつける。そう、まるで仇敵を見ているかのように。

「ちょっと顔がキレイで、料理ができて、そのいやらしい体で男を誘惑しまくって! ああ、感じ悪すぎて鳥肌が出ちゃうわっ!」

 嫌悪の満ちた目つきで千恵子を見やりつつ、赤目少女は自分の体を抱えて寒がったふりをしやがる。

 ここまで露骨な演技をされると、俺の感情は怒りを通り越して呆れに変わる。それって単なる嫉妬じゃねえかよ。


「だから菜摘を利用して、千恵子を殺そうとしたってわけか。大した魂胆じゃねえか」

「ええ、その通りよ。ほんっと、人気者は辛いわねぇ~」

「てめえには言われたかねえよ」

 皮肉にしか聞こえないその言葉を耳にして、実にしゃくに障る。だが、奴の悪言はこれだけで終わりじゃなかった。

「それにしても、本当に弱いわね、アナタたち」

「……どういう意味だ?」

 またしても意味深な言葉をかけた赤目少女に、俺は怒りを抑えながら奴に質問する。

「アナタたちは昨日、ワタシたちのゴールデン・オアシスを破壊してさぞ気分がよかったでしょうね。まさか自分のことを、『世界無敵』とでも思っているんじゃないかしら」

「だからどうしたってんだよ」

 世界無敵は少し大げさだが、まあ戦いに勝って気分が悪くなるような奴はほとんどいないだろう。

「昨日協力し合って一緒に戦っていた仲間は、今日はこうして仲間割れ。皮肉なことだと思わない?」

「皮肉も何も、全部てめえのせいだろうが!」

 赤目少女の得意げなニヤケ顔が、俺の怒りを更に煽り立てた。目の前にいる憎き敵を睨みつけ、気が付けば今にも奴を切り裂こうと、両手の指が野獣の爪のように曲がっている。

「いやぁん、怖いわぁ~でもその方が、ゾクゾクするわねぇ! アハハハハハ!」

 赤目少女はぶるぶると震え上がり、変態のような笑顔を浮かべた。一体何を喜んでやがるんだ、こいつ。

「まあ、今のうちにせいぜい足掻いてなさい。どうせウサギは、ヘビに勝てるわけがないのだからねっ! ハハハハハハハ……」

 俺たちを翻弄(ほんろう)できていい気になったのか、赤目少女は頭を上げながら高らかに笑っていやがる。その醜い姿を目撃した全員は、呆気に取られて返す言葉が見つからない。

 いいぜ、てめえは俺を本気で怒らせた。その結果がどうなるか、教えてやろうじゃねえか!


「とっとと消えろ、このくそビッチがっ!」

 とうに怒りが我慢の限界まで来て、俺は千里の一本槍でこの赤目少女、いやくそビッチの分身を容赦なく消してやった。

 黒い霧へと化したそれが、風と共に消え去っていった。ふんっ、口程にもねえな。

 そんなことより、菜摘のことが心配だ。俺は黒い霧を一瞥すると、菜摘のところに近づく。

「菜摘、大丈夫か?」

 俺は弱っている彼女の前でしゃがむと、その様子を尋ねる。

「あっ、秀和くん……もう、大丈夫だよ」

「そうか、よかった。んで、いきなりだけどさ、一体何があったのか教えてくれないか?」

 菜摘が元に戻ったことだし、きっと本当のことを教えてくれるはずだ。

「うん……あのね、今朝起きたら、廊下の曲がり角であの赤い目の子とバッタリ出会って、そしていきなりキスをされちゃったんだ……そしたら、頭の中がおかしくなっちゃって、耳元にもときどき変な声がささやいて……」

「変な声?」

「うん……千恵子ちゃんのせいで秀和くんが奪われたとか、千恵子ちゃんは悪いやつとか……」

「なるほど、道理であんな風になっていたのか」

 俺は眉をひそめ、さっきくそビッチが言ってたことを思い出す。確かに辻褄(つじつま)が合うな。

 しかし突然、菜摘は泣き崩れ出した。


「うう……ううううう……」

「どうした、菜摘!?」

 そんな彼女の泣き声を聞いて、俺は思わず慌てて声をかける。

「ごめん、ごめんね……私があんなひどいこと言って、みんなに迷惑をかけて……きっと秀和くんも千恵子ちゃんも、私のことが大っ嫌いになっちゃったよね……」

 いつもの明るい菜摘と違って、彼女は悲しみのあまりにネガティブな言葉を口にする。またしてもナイフで心を刺されたような気分だ。

「菜摘……アンタ……」

 その光景を見た美穂は、冗談で彼女を励ます余裕もなく、ただ名前を呼ぶことしかできなかった。

「何言ってんだよ、菜摘! お前のせいじゃねえだろう! 何もそこまで言うことは……」

 俺は必死に菜摘を慰めようとするが、菜摘はただひたすら頭を横に振る。

「ううん、全部私が悪いのっ! 心の弱みを利用されちゃったから……私が千恵子ちゃんのようにもう少し意志が強かったら、こんなことにならなかったのに!」

 罪悪感に(さいな)まれているのか、菜摘は取り乱して自分の過ちを否定しようとしない。やはり純粋な菜摘には、この出来事が辛すぎるようだ。

 だが、辛いのは俺も同じだ。お互いを苦しませないためにも、リーダーとして何とかしねえと。

「もうやめるんだ菜摘! これ以上自分を責めないでくれ!」

「そんなの無理だよっ! 私、あんなひどいことをしたんだよ? 一歩間違えたら、危うく千恵子ちゃんを殺すところだったんだよ?」

 ダメだ、責任を強く感じすぎてる。このままじゃ菜摘の精神が持たねえ……! 一体どうしたらいいんだ?

 その時、後ろから足音が聞こえる。振り向くと、千恵子がこっちに近付いてくるのが見える。

 まさか……さっき菜摘にひどいことをされて、ついに怒りが爆発して菜摘に仕返しを……!? いや、そんなバカな……


「やっぱり怒っちゃうんだよね、千恵子ちゃん……いいよ、全部私が悪いから、煮るなり焼くなり好きにしていいよ」

 すさまじい剣幕を見せる千恵子を前に、菜摘は逃げも隠れもせず、ただその場に止まる。

「は、早まるな千恵子……!」

 俺の緊張のあまりに全身が固まり、思うまま体を動かすことができない。

 見る見る千恵子と菜摘の距離が縮まっていく。一体何が起きるというのか……?

 しかし千恵子は菜摘に仕返しをするどころか、彼女を優しく抱きしめた。

「えっ……? 千恵子……ちゃん?」

 予想外の反応に、菜摘は目を見開く。そしてこの場にいる俺たちも、驚きの色が隠させなかった。


「……ごめんなさい、菜摘さん。貴女のお気持ちに気付いてあげられなくて」

「どうして、千恵子ちゃんが謝るの? どうして、こんなに優しくしてくれるの……私は千恵子ちゃんに、あんなひどいことをしたのに……なんで怒らないの?」

 戸惑う菜摘は、千恵子に質問を連発する。その声がかなり震えていて、動揺しているのが明らかだ。

「簡単なことです。菜摘さんは、あんなひどいことをなさるような方ではないと信じていますから」

「で、でも……!」

「菜摘さんは悪い人に利用されました。ただそれだけのことです。それに、わたくしが菜摘さんに怒りをぶつけたとしても、相手の思う(つぼ)にはまるだけでしょう。そんなことはさせません」

 千恵子は冷静さを保ちつつも、どことなく熱い感情をこめて自分の考えを述べる。そこまで考えてたとは大したものだな。

「でも、でも……!」

 それでも菜摘は納得しなかったみたいで、ひたすら首を横に振り続ける。まだ罪悪感にとらわれて、怒られないと気が済まないのか。

「もう大丈夫ですよ、菜摘さん。悪夢はもう終わりましたから。これ以上ご自分のことを責めたら、わたくしは本気で怒りますからね?」

 千恵子も千恵子で、意地でも菜摘に自分を苦しませないようにする。そのわざとらしい膨れ顔も、なぜか笑えてしまう。

 そして、ついにその時が来た。


「うわああああああああ~ん!!!」

 疲れた心が制御できなくなった菜摘は、顔を千恵子の胸に埋めると泣き崩れた。千恵子は何も言わず、ただ微笑みながら菜摘を抱きしめる体勢を維持している。

「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい……しくっ……」

 静まりかえったこの空間の中で、泣き声が混じった菜摘の謝罪が響き渡っている。その心が痛む光景を見ている俺たちは、口をつぐむしかなかった。

 そんな胸を切り裂くような声が響く中、俺も耐えきれず、目を逸らそうと窓際に移動した。

 しかし光の反射によって、菜摘と千恵子二人の姿が窓に映って、俺の目に届いてしまう。そして、自分のやつれた情けない顔も。

 なんてダメな奴だろう、俺は……大切な仲間たちを守れない上に、これぐらいのことで狼狽えるなんて、全然リーダーらしくねえぜ……


 どれぐらい時間が経ったのだろうか。1分が1時間のように感じてしまう。それでも菜摘は、泣き止む様子がまったくない。

 くそっ……もらい泣きしそうになっちまうじゃねえかよ!

「くっ……うぐ……」

 俺は泣き声を噛み殺そうとするが、不器用にも涙が溢れてしまう。

 突然、肩には暖かい感触が感じる。振り向くと、そこには哲也がいる。言葉こそないものの、彼の表情から言いたいことが伝わってくる。もちろん念話(テレパシー)とかじゃなく、俺たちの友情がなせる業だ。

 そして意外なことに、食堂に漂う沈黙を破ったのは、なんとこいつだった。


「グツグツ……グツグツ……」

 先ほど千恵子が調理に使っていた鍋はずっと放置されているため、過熱によって中身が溢れてしまう。

「あっ、いけません……お粥が……!」

 食べ物を大切にする気持ちが強く出たのか、千恵子は思わず体を乗り出して台所に近付こうとする。

「そこにいてくれ、千恵子。俺たちが何とかするから」

 今の菜摘には慰めが必要だ。そのためにも、千恵子が寄り添わなければならない。

 俺は急いでガスコンロの近くに移動し、零れたおかゆで火傷しないよう、それを避けつつ気をつけてガスを切った。

 さて、ガスを切ったはいいが、この零れたおかゆはどうすりゃいいんだ? 直接触ったら確実に火傷しちまうし……

 そうだ、いい方法を思いついた。


「十守先輩、ムムを呼び出してもらえませんか?」

「ええ、別にいいけど……どうして?」

「ムムの液体を操る能力で、この零れたおかゆを捨ててもらうんです」

「ああ、なるほどね」

 しかし、千恵子は俺の意見に反論を唱える。

「いけません、秀和くん! 食べ物を捨てるなんて……!」

「床に落ちたおかゆを菜摘に食べさせろと?」

「そ、それは……」

「気持ちは分かるけど、少しは状況を考えてくれ」

「はい……分かりました」

 千恵子は少し浮かない顔で、俺の提案を了承した。

 ちょうどその時、ムムも姿を現し、こっちに来てくれた。

「それじゃ後は頼んだぜ、ムム」

「はい、任せてくださいね~♪」

 こうしてムムはお掃除をしている中、俺はもう一度鍋つかみをはめて、鍋を食卓に運ぼうとするが、いきなり鍋が独りでに浮かび上がり、食卓に飛んでいく。

「まったくもう、少しは頼みなさいよね」

 俺は声がした方向に目を向けると、そこには不機嫌そうな顔を浮かべる美穂がいた。

「ああ、わりぃな」

 申し訳なく謝ると、俺は茶碗とスプーンを消毒キャビネットから取り出し、食卓に持ち運ぶ。

「さあ菜摘さん、そろそろご飯にしましょうか」

「う、うん……」

 千恵子は菜摘を起こすと、彼女を支えながらゆっくりと食卓へ近付く。そして俺が渡した茶碗とスプーンを手に取り、おかゆを(すく)って食べさせようとした。


「ふぅ、ふぅー……はい菜摘さん、どうぞ」

 優しい息でおかゆを冷ました千恵子は、スプーンを菜摘の口元に運ぶ。

「あ、ありがとう千恵子ちゃん……はむっ」

 疲れた体をかろうじて動かし、菜摘は口を開けておかゆを口にする。

「いかがでしょうか、菜摘さん? お口に合いますか?」

「う、うん……! とってもおいしいよ、これ! 本当に千恵子ちゃんは、お料理は上手だね~」

 大きなショックを受けて落ち込んでいた菜摘は、ようやくいつもの明るい様子に戻る。その笑顔はまるで太陽のように、この場にいる全員の心を暖めてくれる。

「ふふっ、ありがとうございます。それでは、熱いうちにたくさんお召し上がりくださいね」

 そう言うと、千恵子はもう一度おかゆを冷まして、菜摘の口元に運ぶ。菜摘も何の抵抗もせず、ただひたすらにおかゆを食べ続けた。

 どうやら菜摘はいつも通りに戻ったみたいだ。その微笑ましい光景を目にした俺は、思わずほっとしてため息をついた。


 しばらくして、菜摘はおかゆを一粒残さず完食した。

「ふぁあ……お腹がいっぱいになったら、なんだか眠くなってきちゃったよ」

 さっきの騒ぎで体力を使い果たしたのか、菜摘は大きな欠伸をする。まあ、無理もないか。

「それでは、わたくしがお部屋まで連れて行きましょうか?」

「アタシがやるわ。アンタは後片づけでもしてなさいよ」

「えっ……よろしいでしょうか?」

 美穂の急な申し出に、千恵子は少し戸惑う。

「いいわよ。なんでも自分一人で背負おうとしないでよね。それにアタシたち、チームなんでしょう」

 いつもふざけてるイメージが強い美穂は、まさかこんな真面目なこと言うとはな。やっぱり困っている時こそ、その人の本心が分かるよな。

「じゃあ、後は頼んだぜ、千恵子」

「ええ、お任せください」

 こうして俺たちは千恵子を残し、眠そうな菜摘を部屋まで連れて行く。疲れていたからか、菜摘は布団に入ったとたん、思いの外早く眠りについた。

 そんな彼女の赤ん坊みたいで無邪気な寝顔を見つめながら、俺たちは複雑な気分を抱く。

 操られていたとはいえ、ついさっきまで菜摘はあんなに血相を変えて、人を殺すようなことをしようとしたなんて、誰が想像できただろうか。


「秀和くん、ちょっといいかしら」

 そんなことを考えている中、美穂は俺に呼びかける。その顔付きは、明らかにいつもと様子が違う。

「どうした、急に改まって」

 彼女の険しい表情に釣られて、俺も思わず眉間にしわを寄せる。イヤな予感しかしねえけど。

「ここじゃ話しにくいわ。二人っきりで話したいの」

「けど、菜摘は……」

「ここは僕に任せてくれ。二人はゆっくりと話してくるといい」

 菜摘を心配する俺に気を配り、哲也は自ら菜摘の介抱を申し出る。

「悪いな、哲也。それじゃ任せたぜ」

「ああ、安心していいさ。それじゃまた後で」

 哲也に別れの挨拶をすると、俺と美穂は誰もいない廊下の片隅に移動した。


「ここなら誰もいないな……で、話って何だ?」

「さっきのことよ。キミ、最近千恵子とかなり仲がよくなってるじゃない」

 さり気なく聞こえる美穂の言葉は、何故か深い意味がこめられているように感じる。

「……何が言いたい?」

 緊張しているせいか、俺は直接に応答せず、あえて彼女の本音を引き出すことにした。

「確かに、今回の件の張本人はあの恋蛇団(ウロボロス)の子だけど、キミにも責任があるってことなのよ」

「どういう意味だ、それっ! 俺が千恵子と仲良くなるのがいけないってことかよ!?」

 美穂の言葉を耳にして、俺は動揺を隠しきれない。

 俺と千恵子が仲良くなることが、この事件の要因の一つかもしれない。けど、だからって俺を責めるのはおかしいだろう!

「違うっていうの? キミは菜摘が、自分のことが好きだってことを分かってるって言ってたけど、ほんと、な~にもわかってないわよね」

「どういうことだ?」

 話が見えない俺は、美穂に説明を求める。

「はぁ……まさか本当に分からないなんてね……いいわ、教えてあげる」

 美穂は咳払いをすると、俺にとんでもない秘密を口にする。


「あの子はね、キミが思ってるよりキミのことを思ってるわよ。1年の時、アタシたちが知り合ってから、毎日キミの話をしてたのよ」

「そ、そうなのか……?」

 菜摘は俺のことを大切に思ってくれるのはよく分かっているつもりだ。ただ、そこまでやるとは思わなかった。

 俺の反応を見ると、美穂は「やっぱりね」と言わんばかりにため息をつき、話を続けた。

「ええ、そうよ。菜摘が中学の時にいじめられたところに、キミと哲也くんに助けられたことを何でも話してたわ。耳にタコができちゃうぐらいにね」

「そ、それは悪かったな」

「謝るトコはそこじゃないでしょう。って、話に戻るけど、毎回菜摘がなんて言ったか分かる?」

「さあな……まさか俺と結婚して、俺のお嫁さんになるとか、そんな子供じみた話じゃないだろうな?」

「ええ、そのまさかよ。でもそれだけじゃないわ。あの子は、キミのことを『ヒーロー』って慕っているのよ」

「マジかよ!?」

 予想はしていたが、まさか本当に当たってしまうとは。まあ親友だし、これぐらいは分からないと親友失格だな、俺は。


「ふーん、どうやら伊達(だて)に親友になったわけじゃないみたいね。褒めてあげるわ」

「そりゃどうも。まあ、菜摘は単純だから、ある程度は推測できるけどな」

 しかしノリでこの言葉を言った俺は、早くも墓穴を掘ってしまう。

「へー、菜摘は単純だから、浮気しても気付かれないと思ってるのかしらぁ~?」

「いやだから、そういう意味じゃ……!」

 恐ろしい……美穂の質問は、まるで矢のように心に突き刺さるぜ……!!

「正直、さっき菜摘が操られてた時に言ってたこと、ほとんど本音だと思うわ。精神波(サイコ・ウェーブ)を見るのが怖いから、あえて見なかったけど」

「本音って、菜摘が千恵子に妬いてるってことか?」

「ええ、その通りよ。恋する乙女の気持ち、甘く見ない方がいいわよ」

 嘘だろう……あの言葉は、くそビッチが菜摘を操っていた時に言わせたでまかせだと思っていたのに、そうじゃなかったのかよ。

「キミは舞い上がると、すぐ周りが見えなくなっちゃうから、これから気をつけることね」

「あ、ああ……分かった」

 美穂にドヤ顔を見せつけられて、俺はその気迫に押されてしまう。なんだ、この上から目線は。

 だがその笑顔が続くのも、僅か数秒しかなかった。


「最後に、一つ忠告してあげる」

 いつの間にか美穂は俺の側に寄ってきて、低いトーンで俺の耳元で囁き始める。

「キミは千恵子と仲良くなるのは勝手よ。だけど、もしこれ以上菜摘を泣かせるようなことをしたら、アタシ絶対許さないから」

 その氷のような冷たい声が、俺の全身を凍り付かせる。何か逆らえない力が、ナイフみたいに俺の首にかけたような気分だ。

「………………」

 返事が見つからないまま、俺は口をつぐむことしかできなかった。静まり返る廊下の中で、ただ美穂の足音が響く。

 ふと頭を下げると、服に付いているウサギのワッペンが俺の目に入った。俺はそれを触り、物思いに耽る。


 俺たちは、これまでいくつも困難を乗り越えてきた。その度に勝利の喜悦に酔いしれて、俺たちを打ち負かすものなどはないと思い込んでいた。

 それに「鋼の金剛石(ダイヤモンド)」は、「俺たちの絆は固い」という意味を込めて付けたはずだった。にもかかわらず、この絆がこんなにもあっけなく砕かれてしまうとは……情けないったらありゃしねえぜ。

 いや、待てよ……?

 そもそもこの騒ぎは、恋蛇団の陰謀だったんだ。なのに俺はこうして落ち込んで、自分を責めている。こんなのっておかしくねえか?

 今頃奴らは、俺たちの醜態を喜んでいるに違いねえ。特にあの土具魔は、きっと腹立たしい顔をしてるだろう。

「ふざけやがって……ふざけやがって……!」

 突然怒りがこみ上げてきた。胸の中は、炎に燃やされたような気分で熱く感じる。それに、握りしめた両手の震えが止まらない。


 恋蛇団(ウロボロス)……てめえらは俺たちの絆を壊せたといい気になってるだろうが、そいつは違うぜ! むしろ俺たちは、てめえらを倒す決意がより強くなったぜ……!

 ……決めたぜ。次こそ、恋蛇団の連中を全員叩き潰してやるっ!

 闘志を燃やした俺は、次の作戦を実行するべく体を動かす。

秀和「もう頭に来た……あいつらは絶対に容赦しねえぜ!」

美穂「ええ、そうよ! アタシのかわいい菜摘に、あんなひどいことをしてくれちゃって……必ず後悔させてやるわよ!」

哲也「ああ、僕もそれには賛成だ。衝動に駆られるのはよくないけど、さすがにここまでされると、あまりにも目に余るさ」

聡「そうだよそうだよ! 今オレの気分は、ゲームでPKされるより腹が立つぜっ!」

優奈「パンツ食い込んでる? やっぱり聡はいやらしいわ~」

聡「ちげーよ! プレイヤーキルって意味だよ!」

広多「ふんっ、無理して分かりにくい言葉を使ったからだ」

聡「分かりにくくねーよっ! ああー、マジ腹立つぜ!」

直己「だったらその怒りをバネに、やつらを殴りに行こうぜ!」

聡「ああ、そうするさっ! よーし、目かっぽじってよく見てろよ!」

広多「馬鹿か貴様は……そんなことをしたら目が潰れるぞ」


秀和「おいお前ら、また話が脱線してるぞっ! ったく、こんな真面目な話をしてるのに……なあ、千恵子?」

千恵子「ええ、そうですね……菜摘さんがあのように弄ばれていたと思うと、今にも怒りが抑え切れそうにありません」

優奈「本当、ひどい話よね! 二人の関係に付け込んで、あんなことをするなんて、信じらんない!」

雅美「そうですわ! このような下劣な手段を使うなど、言語道断ですわ!」

十守「これは許しがたいわね……あたしの後輩に手を出すなんて、いい度胸じゃない……!」(ピキピキ)


秀和「よし決めたぜ! 武器や用品を準備して、明日に備えてちゃんと作戦を練るぞ!」

全員「おっー!!!」

秀和(さーて土具魔とあのくそビッチ、どんないてえ目に遭わせてやろうか……ふふふふふっ……)

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