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反逆正義(リベリオン・ジャスティス)Phase One——Ten days in heaven(or in hell)  作者: 九十九 零
第3章 兎蛇の戦編・激化する衝突
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リボルト#13 傷ついた兎と砕けたダイヤモンド Part4 菜摘の気持ち

「おーい、みんなを連れてきたぞ……ってうわぁ!? 菜摘、いつの間に着替えたんだ?」

「待たせたな……ひゃー、すげえぜ! 菜摘、そんなにボインボインだったなんて知らなかったなぁ! それにそのセクシーな腰つき……おぐわ!」

「ちょっと直己、慌てたから急いできてみたんだけど、またそんな呑気なことを……!」

 相変わらずスケベ根性が直らずいやらしい目つきで菜摘を見つめる直己が、名雪のハリセンを喰らう。


「ちょっ、なんなのよこれ!? これ一体どういうことなの!?」

 ロビーからやってきた十守先輩はまったく状況が把握できず、変わり果てた菜摘を見て驚愕する。

「あらあら、特撮ショーかしら? 食後の余興にしては随分と派手なのよね」

 そして静琉先輩もいつも通りの天然っぷりを発揮する。わざとボケてるんですよね、先輩!?

「いえ、あれはどう見ても本物の戦いですよ、静琉先輩! 何とかしないと!」

 普段余裕そうに振る舞っている碧も、さすがにこの光景を目にして焦らずにいられなかったようだ。

「大丈夫かみんな! 怪我はないか?」

 そして慌てる正人も走りながら食堂に入り込んで、心配のこもった声で俺たちの様子を聞く。

「俺たちは大丈夫だ。けど菜摘は……」

 気分が重くなった俺はかろうじて口を開けて正人に返事し、菜摘にいる方向を指さす。


「へー、人が増えてきたね~! いいよいいよ、パーティはそうこなくっちゃ! 私がぜ~んぶかわいがってあげるからねっ! あはははハハハ!!!」

 狂気に近い笑い声を上げた菜摘は、獲物を狩るような目つきで俺たちを見ている。

 だが菜摘は自らこんなことをするような子じゃないと俺は信じている。だとすれば、残る可能性はたった一つしかない。

「間違いねえ……菜摘はきっと、恋蛇団(ウロボロス)の連中に操られているんだ」

「僕も同意見だね。偽物じゃない以上、そう考えたほうが妥当かもしれないね」

 哲也は眉間にしわを寄せながらメガネを押し上げて、俺の意見に賛成した。

「ですが、一体何故そのようなことを……?」

 まだ混乱から抜け出せていない千恵子は、不安そうに質問をする。

「簡単だろう。俺たちを仲間割れさせるに決まってるぜ」

「な、何ですって……!!」

 衝撃の言葉を聞いた千恵子は思わず大声を漏らし、片手で口を塞ぐ。

「僕たちの結束が強くなったのを見て、このような卑劣な手段を使わざるを得ないってことか……実に奴ららしいね」

 哲也は恋蛇団の手口に隠された真実を推理すると、その穏やかな表情も少し怒りを帯びるようになった。

 そして俺たちの会話を遮るように、菜摘は口を挟んできた。


「ねえ、さっきから何をブツブツ言ってるの? パーティの主役を無視するつもり?」

 静まりかえった食堂の中で、菜摘のハイヒールの音がコツコツと響きわたる。さては待ちきれなくてイライラしたのか?

「お、おい! こっちに来てるぞっ!」

「言われなくても分かってるって! どうすりゃいいんだよ!?」

 ギャグコンビの聡と直己は、接近してくる菜摘を見て慌てて不思議な舞を踊り出す。


「こうなったら、一発ぶん殴って眠らせてやるぜ!」

 脳筋派の壊時は、袖をまくって菜摘を殴ろうとする。

「ちょっと、そうはさせないわよ!」

 しかしそれを聞いた美穂は不機嫌そうに壊時の前に出て、彼を阻止しようとする。

「んだよ、ジャマすんじゃねーぞこのデカパイ女!」

「はぁ!? アンタも人のこと言えないでしょうが、この暴力ゴリラ!」

「んだとぉ……!! お前、黙ってきてりゃいい気になりやがって……!」

「あら、何かご不満でも?」

 気の強い者同士が、お互い譲らず目を見合わせている。その四つの眼の間にビームが見えてきそうだぜ。

「落ち着くんだ壊時! お前はこうやって仲間と喧嘩をしたら、恋蛇団(やつら)の思う(つぼ)だぞ!」

「けどよ、このデカパイ女がオレのジャマをしやがって……」

 俊介は壊時を窘めるが、自分の過ちにまだ気付いていない壊時は言い分を通す。

「アンタ、何も分かってないわね! アンタが菜摘の頭を殴って、傷でもできたらどうすんのよ!? モデルにとって顔が命なのよ!?」

 わあ、さすがは美穂、こんな時でもモデルのことを考えてるんだ。職業病って奴か?

「知らねーよ、んなこと! じゃあアイツはそのままでいいのかよ!?」

 興奮する壊時は、徐々に近づいてくる菜摘を指さす。

 突然、俺の頭の中であるアイデアが閃く。うまくいくかどうか分からねえけど、今はそんなことを考えてる余裕はねえな。一か八かだ!


「美穂! 君の超能力でどうにかならないか!?」

「えっ? アタシの超能力……そうだわ、催眠術があるじゃない! ナイスアイデアね、秀和くん!」

「いいから早く! もう攻撃を仕掛けてくるぞ!」

 腕を掲げている菜摘を見て、俺も取り乱して大声を出す。

「さあ、悲鳴を聞かせて……ううっ……」

 腕から黒い霧を放ちながら攻撃を仕掛けようとする菜摘は、突然その茶色の両目が水色に変わっていき、攻撃を止めた。やげて彼女の体は力が抜けて、床に倒れ込んだ。

「よし、うまくいったみたいね」

 自分の超能力が成功したのを見て、美穂は安堵して大きく息を吐く。

「ふう、ヒヤヒヤしたぁ……一時どうなるかと思ってたぜ」

 一難が去ったことで聡は椅子に腰をかけ、バンダナの下に隠れている額の汗を拭き取る。

「それじゃ、眠り姫を部屋に連れ戻すとするか。ここで寝てたら風邪を引くしさ」

 俺は疲れを取ろうと首を動かすと、菜摘のいるほうに移動する。

 が、しかし……


 菜摘の目が急にギロリと開くと同時に、俺はとてつもない殺気を感じる。そして次の瞬間、何やら刃のようなものが俺の頭に襲いかかってくる。俺は反射的に後ろに下がり、間一髪でその攻撃を避けられた。

「菜摘!? 催眠されたはずなんじゃ……」

「あれぇ~、美穂ちゃんかと思ったら、秀和くんだったんだぁ~ダメだよ、気をつけなくちゃ」

 まるで俺の質問をはぐらかすかのように、菜摘は勝手に会話を進めた。

 そうか、操られてるから、眠らせても意味はねえってか! くそっ、もっと早く気付くべきだった!

「おいおい! 催眠術は効かねーじゃねーか!」

 立ち上がる菜摘を見て、聡はまた野次を飛ばす。


「だったら、やっぱり殴って気絶させるしか……」

「それだけは絶対にダメよ!」

 壊時は相変わらず力ずくでこのトラブルを解決しようとするが、案の定美穂に反対される。

「じゃあ、どうしろってんだよ!」

「わかんないわよ! わかってたらとっくにやったわよ!」

 こうして解決策は見つからないまま、二人は言い争いを続ける。

「そうそう、その調子その調子ぃ~♪ さぁ~て、そろそろ地獄に送ってあげるね、下劣な女」

 物事が順調に進んでいるからか、菜摘は嬉しそうな声を発し、千恵子を攻撃しようと彼女を見据えている。


「お止めください、菜摘さん! わたくしは、貴女を傷つけたくありません!」

「私を傷つけたくない? よく言うよ……あんたのせいで、私の心がもうボロボロなのよ!」

「な、何故そのようなことを……」

「ふんっ、分かってくるくせに……あの世で反省すればいいのよ!」

 怒り心頭に発する菜摘は片手を開いて前に伸ばすと、そこから黒くて長いムチのようなものが飛び出る。

 もちろん俺はそれを見過ごすわけがなく、千恵子を守るべく彼女の前に出る。

 だが問題はこの後だ。相手は恋蛇団の連中ではなく、俺の大切な親友だ。何の躊躇もなく反撃するわけにはいかない。それにもし反撃したら、菜摘はまた俺が千恵子の肩を持つと拗ねてしまうだろう。

 くそっ、一体どうすればいいんだ……!

 何の対策も考えられず、俺はただひたすら悩み続ける。

 するとその時、菜摘の出してきたムチは急に曲がり、俺の後ろに回ってしまう。


「しまった!」

 自分が油断していたことに気付き、俺は思わず声を漏らす。そして振り向いた瞬間に俺が目にしたのは、ムチに首を縛られる千恵子だった。

「う、ううう……」

「千恵子!」

 苦しそうにうなる千恵子。そんな彼女を見た俺は、理性をなくして焦り出す。

「ふふふっ、いい悲鳴だね~もっと聞かせて!」

「がはっ!」

 窒息(ちっそく)の苦痛に顔を歪める千恵子の表情は菜摘を興奮させたのか、彼女は千恵子を縛りつける度合いを高めた。

 みるみる千恵子の足は地面から離れていき、宙に浮かび始めた。

 やべえぞ……このままじゃ千恵子が死んじまう!

 菜摘を傷つけたくはないけど、この際そんなことは考えられねえ!

「んんんんんんん……!!!」

 俺は両手で菜摘のムチを鷲掴みにして、それを千切ろうとする。しかし思ったよりかなり硬く、なかなかもぎ取ることができない。

 だがこのタイミングで、予想もしなかったあの男がサポートしてくれる。


「おい、伏せろ」

 何の前触れもなく放たれた、冷たい一言。俺は反射的に頭を伏せるが、次の瞬間に「バーン」と大きな銃声がする。

 頭を上げると、ムチには大きな穴が開いて切れた。俺は振り向いて銃を撃った人物を探す。そこには大きな拳銃を持つ拓磨がいた。

 こいつは驚いた。まさかあの皮肉屋の拓磨が、ここで手助けをするとはな。

「お前は手加減しすぎだ。親友だからって情けをかけていると、結局誰も救えないことになるぞ」

「くっ……」

 拓磨の辛辣(しんらつ)な言葉に、俺は口をつぐんでしまう。それぐらい、言われなくても分かってるぜ。

 それより、千恵子はどうなってるんだ?


「けほ、けほ……!」

 ムチの束縛から解放された千恵子は、自分の口元を手で覆い隠しながら咳をしている。

「千恵子、大丈夫か!」

 焦る俺は素早く彼女のところに走り出し、その具合を確める。

「けほ……大丈夫、です……ご心配ありません」

「そうか、それならよかった」

 千恵子の無事を確認できて、俺はほっと胸を撫で下ろした。

 だが、問題が解決したわけじゃない。


「あああああああああ!!! 痛い、痛いよぅ……」

 先ほどの銃撃を喰らった菜摘は、自分がムチを伸ばしていた手を押さえつけ、苦しそうに悶える。しばらくすると、彼女はこっちに睨みつけてくる。その目には、わずかに涙が光っている。

「ひどい、ひどいよ秀和くん……どうして私を止めようとしたの?」

「どうしても何も、菜摘はやってはいけないことをやってるからに決まってるじゃんか!」

「……そんなにその女がいいわけ? 私じゃダメってこと?」

 菜摘はゴミを見るような目つきで床に座っている千恵子を見下ろすと、真っ直ぐに俺の目を見つめている。

「やっぱり妬いてるのか、千恵子のこと」

「うん、そうだよ。だって、すごく悔しいんだもん……」

 菜摘は少し涙に(むせ)ぶと、話を続けた。

「私のほうが秀和くんと付き合いが長いのに、秀和くん、ここに来てたらずっとあの女と一緒だもん!」

「それはそうだけどさ、俺は別に菜摘のことを……」

「ウソを言わないで! 私見たんだよ、昨日の夜、秀和くんとあの女がキスしたところ」

「えっ?」

 突然菜摘の口から飛び出た衝撃の言葉に、俺は思わず驚愕の声を漏らす。


「寮の廊下で見たんだよ。確か秀和くんがいきなりあの女を抱き締めて、キスをしたんだよね?」

「そ、それは……」

 問いつめられた俺はなんて返事すればいいか分からず、緊張のあまりに目を逸らしてしまう。

「とぼけてもムダだよ! あの時、哲也くんは私の側にいたよ。もちろん哲也くんも、その瞬間を目撃したからね」

 更なる衝撃の情報を聞いた俺は、驚きのあまりに口を大きく開けて、哲也に質問する。

「そうなのか、哲也?」

「ああ……こうなってしまった以上、もう隠しても意味はないみたいだね。菜摘の言っていることは本当だよ」

 やっぱりそうだったのか……道理で今朝哲也が食堂に入った時、あんな難しい顔をしていたわけだ。

「君と千恵子くんがキスしたのを見て、菜摘は自分を部屋に閉じこもり、一晩中泣いてたのさ」

 なるほど……菜摘が遅くまで起きたのは、これのせいだったのか。確かにつじつまが合うよな。

 そういえば、昨日千恵子と部屋に戻る途中で、「バタン」って大きな物音が聞こえた。あれは菜摘が部屋の扉を閉めた時の音だったのか……!

 俺は自分の推理に集中していると、他のみんなからもとんでもない情報を提供し始めた。


「ああ、オレも見てたぜ。すっげー熱かったよな、二人ともは」

「えっ!? 正人も見てたのかよ!?」

「オレだけじゃないぜ。こいつらも目撃したってさ」

 正人は親指で、レッド・フォックスのメンバーたちのいるほうを指さす。すると彼らは一斉にうんうんと、頭を縦に振る。

「……マジで?」

 苦し紛れに、俺はかろうじて声を出した。とんだ恥をかいちまったじゃねえかよ、おい!

 だが、公開処刑の羞恥プレイはまだまだ終わらない。

「あたしたちも見てたわよ。周りの安全を確認しようとサテライトの映像を覗いたけど、まさかあんなことをしてたなんてね~。やっぱ、青春っていいわね!」

 十守先輩は俺をからかうように、自分が見ていたことを口にしながら、俺の肩を叩く。

「どうでありますか、先輩? やっぱり『きす』というのは、気持ちよかったでありますか?」

 まだ恋も知らない可奈子は、目を輝かせて俺に質問を投げてくる。頼むから勘弁してくれよ……

 そして天然さに定評のある静琉先輩は、千恵子にとんでもない質問をする。

「ねえ千恵子ちゃん、彼に舌を口に入れられた時の気分はどうだったの? 恥ずかしい?」

「はい、恥ずかしいです……って、舌を入れられたなんて、そ、そんなことはしておりません!」

 恥じらいのあまりに、千恵子の頬がとっくに赤く染まっている。そんな彼女は手で顔を隠しながら、静琉先輩に翻弄されてしまう。


「あら~、痴話喧嘩に悩むなんて、ヒーローも色々大変なのよねー。まあ、人間だもの」

「うあああああああああ!!!!!」

 秘密を覗かれたことを知った俺は、頭を抱えてしゃがみ込む。

 絶望した! あの時はてっきり俺と千恵子しかいないと思ったのに、まさかこんなにもたくさんの人に見られちまったなんて!! 穴があったら入りてえぜ……

 そして菜摘の声が、俺たちを現実に引き戻す。


「これでもう、言い逃れはできないよね」

「菜摘……」

「私が秀和くんのことが好きってこと、知ってるよね? なのに、どうして……」

 悲しみの満ちた菜摘の声が、ナイフのように俺たちの心を切り刻む。返す言葉も思い浮かばないぐらいに。

「まあ、大体想像がつくよね。そりゃ、私はあの女のようにキレイじゃないし、スタイルもよくないし、お料理や家事も上手じゃないし……」

「菜摘さん……」

 自分の欠点に気付く菜摘は自信をなくし、俯きながら卑下(ひげ)する。

「でも秀和くんへの気持ちは、誰にも負けるつもりはないからっ! だから……」

 菜摘はそう言うと、またしても周りに黒い霧を放ち始めた。それと同時に強い風が起こり、俺たちを吹き飛ばそうとする。


「私の恋を邪魔する奴らを、全部排除してあげる! もうこの世界には、秀和くん以外何もいらないからっ!」

 怒りの感情に支配された菜摘のP2(ピー・ツー)が暴走したのか、彼女の瞳が紫色に変わり、禍々しい雰囲気を漂わせている。

 まさか、ついに大技を繰り出すつもりか……!? そうはさせねえぜ! けど、菜摘を傷つけるわけにはいかないし、一体どうすれば……


「秀和くん!」

 突然、十守先輩の叫び声が聞こえる。

「あっ、はい! 何ですか?」

「あの子を止める方法を思いついたわよ、よく聞きなさい!」

 大事な予告を聞いた俺は、内容を聞き逃さまいと耳を立てた。そして十守先輩は作戦が菜摘にバレないよう、俺の側に来て耳打ちをする。

「あの子は今、体内に負のP2が溢れているのよ。そこで君が正のP2を流し込んむことで、あの子の正気を取り戻せるわ」

「俺のP2じゃないとダメなんですか?」

「そういうわけじゃないけど……ほら、あの子は今他のみんなに警戒心を持ってるでしょう?」

「それもそうですね……分かりました。それで、どうやってP2を流し込むんですか?」

「簡単なことよ。君が菜摘を元に戻したいという気持ちを強く持てば、正のP2も君の気持ちに応じて生まれてくるわよ。で、その次なんだけど……」

 十守先輩は次の手順を言おうとするが、何故か急に言いよどむ。

 まさか、何かリスクでもあるのか? 命と引き替えとか、そういうアニメではよくある話とかじゃないよな……


「君はあの子に口付けることで、P2を流し込まなければならないわ」

「へえっ!?」

 先輩が話した方法に、俺は思わず驚きの声を上げる。

 口付けるって……こんな大勢の目の前で? しかも昨日キスした千恵子もいるのに? 呪いをかけられたお姫様を救う王子かよ、俺は!

 ただでさえ千恵子とキスしたことがバレたのが死ぬほど恥ずかしいのに、これ以上俺を恥ずかしい思いをさせるってのか! ダメだ、何とかしねえと。

「せ、先輩……冗談ですよね? 実は他の方法もあるけど、あえて一番恥ずかしい奴を俺にやらせるとか、そういうつもりなんですよね?」

 俺はわらにも(すが)る思いで新たな打開策を求めるが、十守先輩に白い目で見られてしまう。


「君ね……もう少し度胸があると思ってたのに、ここで恥ずかしがってどうすんのよ! あの子があんな風になってるのに、助けられないっていうの?」

「いや、そういうわけじゃ……」

「だったら行きなさいよ! キスするだけであの子を助けられるんだから、君にとっておいしいことなんじゃない!」

 うう、他人事だと思って……ったく、こうなったら自棄だ。何しろ俺のせいで起きたことだから、ここは男らしく責任を取らねえとな。

「ああ、分かりましたよ! やればいいでしょう!」

 少し苛立(いらだ)った声を発した俺は、菜摘に向かって進む。

 だが、ただそのままキスするわけにはいかない。まずは菜摘の昔の記憶を掘り起こして、油断した隙を狙わないとな。

 それなら、こいつを使うしかないな。

 俺はポケットにある携帯を取り出し、彼女との繋がりを探す。


「待っててね秀和くん、もう少しで私たち二人だけの世界が作れるから……!」

 まだ呪縛(じゅばく)から解かれていない菜摘は、依然として狂気の満ちた発言をする。

 だが俺には分かっている。本当の菜摘は、こんなひどいことをしないと。彼女は今も、心の中で苦しんでいるはずだ……!

 そろそろ、この茶番を終わりにしてやるぜ!


「菜摘、これを見るんだ!」

 俺は菜摘に画面がよく見えるように、携帯をかざした。

「なに? 今いいトコだから邪魔しない……で……」

 菜摘は最初にイヤそうな顔を浮かべたが、画面を見たとたんに目を見開き、驚きの色を見せる。

 無理もない。なぜなら画面に映っているのは、俺と菜摘と哲也三人が中学の頃に撮った卒業写真だからだ。

「菜摘、覚えてるか? 俺たちが中学を卒業した時のこと」

「あっ……あっ……」

 何かを思い出したのか、菜摘は震えた声を漏らし、目も泳ぎ始めた。どうやら効いたみたいだな。

「あの時は、俺たちはそれぞれの夢を語ったり、未来への憧れを抱いたりもしてた。いつか立派な人間になれるようにな」

「うっ……ぐうう……!!!」

 刺激を受けた菜摘は頭を抱え、心の中で葛藤しているようだ。そんな苦しそうな菜摘を見るに忍びないが、ここは心を鬼にしねえと。

「最初にここで菜摘と哲也に出会えて、正直嬉しかったんだ。また一緒に思い出を作れるってさ。でもな、このままじゃ夢を叶えるどころか、お互いはただ傷付け合うだけなんだ。菜摘だって、そんなのイヤなんだろう?」

「うううっ……がああああ!!!」

「確かに俺は千恵子のことが好きだ。けど菜摘のことも、ちゃんと大事に思ってる! 俺があげた第二ボタン、ちゃんとしまってるよな?」

「う、うん……ああああああ!!!」

「菜摘はとても優しい子なんだ。誰よりも純粋な心を持ってること、俺は知っている! だから頼む、もうこんなことを止めて、元の姿に戻してくれ!」

 普段言えるはずのない胸に秘めていたことを、出し惜しみせず全部ぶつけてやった。さあ、答えを聞かせてくれ、菜摘……!


「……けて」

「えっ?」

「助けて、秀和くん! 私、ずっと操られてたの! やりたくもないのに、体が勝手に動いちゃう! だからお願い……早く助けてっ!」

 ついに菜摘は呪縛に打ち勝って、本当のことを教えてくれた。その涙は、間違いなく本物だ。

 その言葉、ずっと待ってたぜ……怖い思いをさせちまってすまねえな。

「ああ、いいぜ……今助けてやるっ、菜摘!」

 俺は携帯をポケットにしまい、何も考えずに菜摘を抱き締めた。そして、十守先輩の言われた通りに彼女をキスする。

 よし、このまま正のP2を流し込めば……んっ?


「邪魔はサセナイワヨ……!」

 どこからともなく、聞き覚えのない声が響く。そして口元には何やら違和感が……!

 くっ、なんだか急に気分が悪く……まるで魂が吸い取られるみてえだ! まさか菜摘の中にある負のP2が、今度俺の体に侵入するつもりか!?

 だがてめえは相手を間違えたんだ。こんな強い絆を持つ俺は、てめえなんかに負けるもんかよ……!

 菜摘から漏れる負のP2には、なにやら顔みたいなものが姿を現した。さてこいつが本体だな……!


「菜摘の中から……出てきやがれぇ!」

 俺はその本体を掴み、すべての怒りを込めてそいつを床に投げつけた。これでもう大丈夫だろう。

 すると黒い霧がもう一度吹き出て、菜摘が元の姿に戻る。

「菜摘! 大丈夫!?」

 ずっと菜摘のことを心配していた美穂は、慌てて彼女のところに駆けつける。

「けほ、けほ……だ、大丈夫だよ、美穂ちゃん」

 体に残る負のP2を出しつつ、自分の無事を伝える菜摘。それを見た美穂は、安心して大きく息を吐いた。

 さて、菜摘の中に侵入した犯人は一体誰か、この目で確かめねえとな……そして、この手で叩き潰してやる!

菜摘「けほ、けほ……!!! ハァハァ……」

美穂「菜摘いいぃ~! お帰り!」

菜摘「あっ、ありがとう美穂ちゃん……」

美穂「具合は大丈夫? どこか痛いところはない? 胸が小さくなったりしない?」

菜摘「だ、大丈夫だよ……そんなに心配しなくても」


秀和「ふぅ……やっと菜摘が元に戻れた……ヒヤヒヤしてたぜ」

千恵子「ええ、ご無事で何よりですね……正直、わたくしはまだこの衝撃から抜け出せておりません」

菜摘「千恵子ちゃん……ごめんね、私があんなひどいことを言っちゃって」

千恵子「お気になさらないでくださいませ、菜摘さん。貴女のせいではありませんよ」

菜摘「で、でも……」

哲也「千恵子くんがああ言ったから、菜摘もこれ以上自分を責める必要はないさ」

秀和「ああ、俺たちは友達なんだろう? それに、鋼の金剛石(ダイヤモンド)ってチーム名も忘れちゃいけないぜ」

菜摘「秀和くん、哲也くん、千恵子ちゃん……本当に、ありがとう……うわああ~ん!」

秀和「いいぜ、そのまま泣き出してしまえ……イヤなことを、すべて忘れればいいんだ」

千恵子「菜摘さん、とても辛そうですね……今までずっと気付いてあげられなかった、わたくしたちもいけないのですね」

哲也「誰にだってミスはするさ。二度と同じ過ちを繰り返さなければいい」


???「ウガガガガガガガァァァァ……」

秀和「あっ、そういえばさっき菜摘の中に入ってたあいつ! そろそろ正体を現しやがれ!」

千恵子「菜摘さんにあんな酷いことを……決して許しません!」

哲也「僕たちの大切な仲間に手を出したらどうなるか、教えてやろうではないか」

秀和「ああ……やってやるぜ!」

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