表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
反逆正義(リベリオン・ジャスティス)Phase One——Ten days in heaven(or in hell)  作者: 九十九 零
第3章 兎蛇の戦編・激化する衝突
90/120

リボルト#13 傷ついた兎と砕けたダイヤモンド Part3 闇に染まりし天使

「ん~……みんなおはよ~」

「あっ、菜摘じゃない! 今日は随分寝坊したわね」

 眠そうに目を擦っている菜摘に、美穂は声をかける。

「ふぁ~昨日はあれだけ戦ってたから、疲れちゃうよ……ケホケホ」

「どうした菜摘? 風邪でも引いたのか?」

 咳をする菜摘を見て、俺は心配して彼女の様子を訊く。

「ううん、大丈夫だよ。多分のどが乾いただけかも」

 菜摘は俺を心配させまいと、首を横に振った。

「それでは、お水を持ってきましょうか、菜摘さん?」

 千恵子は優しい笑顔を浮かべながらそう言った。しかし菜摘の返事は……


「え~千恵子ちゃんじゃなくて、秀和くんが持ってきてくれたほうが嬉しいなぁ~」

 予想外の返事に俺は千恵子と、そして哲也と顔を見合わせる。二人とも面食らった表情を見せている。

「どうしたの、秀和くぅ~ん? 早く水を持ってきてよ~」

 俺が動かないのを見てイライラしてるのか、菜摘は子供みたいに駄々をこねはじめた。

「あ、ああ……分かったよ」

 菜摘に催促されて、俺は恐る恐るポットの置かれている場所に移動する。

 それにしても、一体どうしたんだ? 今日の菜摘は、何だか変だぞ……まるで別人に変わったみたいだぜ……

 俺はグラスに水を注ぐと、それを菜摘に持って行く。


「はいよ、水だ」

「えへへ、ありがとう秀和くん」

 菜摘は嬉しそうに笑顔を浮かべると、グラスを手に取り水をゴクリと飲み込む。

「どうだ、これで少し楽になったか?」

「ケホケホ……ううん、まだ足りないみたい」

「しょうがないな……もう一回取ってくるぜ」

「うん、頼んだよ、秀和くん」

 俺は席を立ち、もう一度ポットに移動する。いちいち面倒くさいし、今度はポットも持ってくるか。


『秀和くん、ちょっといいかしら』

 ん? この声は美穂だ……しかし、彼女は俺からかなり離れている場所にいるのだが……

『驚くことはないわ。アタシは今、念話(テレパシー)でキミと話しているの。秀和くんも、心の中でアタシと会話ができるわよ』

 そういえば、美穂は超能力が好きだったんだな。だからこうして口を使わずに俺と会話できるのも無理はないか。

『そうなんだ。で、話ってなんだ?』

『アタシがさっき菜摘の精神波(サイコ・ウェーブ)を覗いてみたんだけど、何かドス黒いものが混ざってるみたいよ』

『何だって!? 何でこんなことに……』

 あまりにも衝撃的な内容に、俺は危うくこの質問を口にするところだった。

『まだ分からないわ。とにかく、気をつけたほうがいいわよ』

『分かった。わざわざありがとう、美穂』

『いいのよ。キミだけじゃなく、菜摘はアタシの大切な友達でもあるからね。それじゃ、また後で』

 こうして、俺は美穂との脳内会話を終え、ポットを持ってくると水をグラスに注ぐ。

「ほら、持ってきたぞ」

「うん! ありがとう秀和くん~」

 菜摘は子供みたいに明るい表情を浮かべ、俺が手渡したグラスを取り水をもう一度ゴクリと飲み込んだ。

 うーん……外見から見ると、特に変わった様子はないみたいだな……気のせいかな?

 いや、油断するわけにはいかない。精神波が黒いってことは、何か心理的な問題を抱えているかもしれない。

 とはいえ、いきなり単刀直入に「最近何か辛いことでもあったか?」って聞くのもちょっとな……ここはやはり様子を見ておくか。


「あっ、お粥がなくなりましたね……新しくお作りしますので、少々お待ちくださいね」

 鍋の中を確認した千恵子は、それを手に取ると台所に戻り、再び調理を始める。

「そうだ、菜摘さんの分はまだだったね! はい、どうぞ」

 荷物の中に残る最後のパッケージに気付いた妙は、それを取り出して菜摘に手渡す。

「なぁに、これ?」

「私が徹夜して作った、脱兎団(ランニング・ラビット)の新しい制服だよ! 気に入ってくれたら嬉しいな~」

「ありがとう妙ちゃん! 開けてもいいかな?」

「もちろん! 早く試着して感想を聞かせて欲しいな」

「やった! どれどれ~」

 菜摘はパッケージを開けようとするが、何故か両手が不自然なほどに震えている。

「あれ? どうしたのなつみん?」

 そんな細かいところを見逃さなかった愛名は、菜摘を見て質問を投げる。

「い、いや~あまりにも興奮しすぎて、つい手が震えちゃって……」

「そっか! 確かなつみんは、衣装が好きだもんね」

 菜摘の説明を聞いて、愛名はあっさりと納得したようだ。しかし……


『ウソをついてるわね、菜摘』

 またしても美穂の声が聞こえて、俺は無意識に気を引き締める。

『それってどういう意味だ、美穂?』

『さっきあの子の精神波は一瞬、大きく揺れていたわ。どうやら葛藤してるようね』

『葛藤? 何のことだ?』

『そこまでは分からないわよ。でも、ただごとじゃないのは確かみたいね。とにかく気をつけて』

『そうか、分かった。ありがとな』

 参ったな、こりゃ。どうすればいいんだ?

「おお~、かわいいジャケットだね!」

 そんなことを考えていると、菜摘はすでにパッケージを開けて、中の服を広げた。

 それは黒いファー付きで、少し短めの赤いジャケットだった。もちろん、トレードマークであるウサギのワッペンもちゃんと付いている。

「ありがとう妙ちゃん! 大事にするからね」

 大喜びする菜摘は新しい服をあてがいながら、妙に感謝の気持ちを述べる。

「えへへっ、どういたしまして~。気に入ってもらえて、私も頑張った甲斐があるんだよ」

 菜摘の無邪気な笑顔を見て、妙も影響を受けて表情が明るくなる。

「それじゃ、早速着てみるね! ねえねえ秀和くん! 似合う、似合う?」

 菜摘はウキウキと新しい服に袖を通すと、まるで子供みたいに俺に話を振る。

「ああ、とても似合ってるぜ」

 さすがに似合わないと言ったら落ち込ませてしまうから、ここは無難に答えよう。まあ、実際に似合うけどな。

「えへへ、秀和くんならきっとそう答えてくれると思ったよ~!」

 あまりにも嬉しかったのか、菜摘はいきなり俺に寄りかかってきて、頭を俺の胸に埋めた。

「おい、菜摘!? いきなりどうしたんだ?」

「だって、すごく嬉しいんだもん~」

 菜摘はいつになくとろけた声を上げる。やはり今日の菜摘はどこかおかしいぞ。

 そしてこの場面を目撃したみんなは、野次を飛ばしてくる。


「ヒューヒュー、熱いぞ秀和! 二股をかけるとは、おまえもなかなか隅に置けねーじゃねーか!」

「ずるいぞ秀和! もう千恵子がいるっていうのにさ!」

 聡と直己は、またしても空気を読まずに大人げないことを言いやがる。っていうか、いつの間に復活したんだ、直己?

 俺は二人にツッコみを入れようとしたが、なんと菜摘が先に口を出す。

「勝手なことを言わないでくれる?」

 この冷たい一言が、俺たちを威圧する。いつものあの明るい菜摘が、まさかこんなことを言うとは思わなかった。

「「お、おう……」」

 菜摘にキツい目つきで睨まれ、聡と直己は一瞬にしてビビり、大人しく黙った。

「ちょっと失礼するね」

 ご機嫌斜めの菜摘は、席を立ってこの場を後にした。

「一体どうしちまったんだろう、菜摘は? 普段はあんな感じじゃねーのにな……」

「そうだな……もしかして生理のせいか?」

「いい加減生理から離れろよ、このドスケベが!」

 さすがに聡と直己も、菜摘の異状に気付いたみたいだ。……会話の内容は少しアレだけどな。

 俺は視線を菜摘のほうに向けると、彼女はお料理を作っている千恵子の近くにいる。


「ねえ千恵子ちゃん、手伝っちゃってもいいかな?」

「あら、菜摘さん。大丈夫ですよ、一人で出来ますから」

「そうなんだ~気を遣わなくてもいいのに~あっ、スプーンを取ってくるね」

「ええ、わざわざありがとうございます、菜摘さん」

 スプーンを取りに行く菜摘に、千恵子は微笑みを浮かべる。

「はい、どうぞ……あっ!」

 銀色のスプーンをうっかり落とした菜摘は、驚きのあまりに声を上げた。

「大丈夫ですよ、わたくしが拾いますから」

 そう言うと、千恵子は腰を曲げてスプーンを拾い上げようとする。

 一見何の変哲もない光景だが、その裏にとんでもない陰謀が隠されていることが、あの時の俺たちには知る由もなかった……

 その時、何故か菜摘は一瞬ニヤリと不気味な笑みを浮かべた。そして二歩下がって、何やら探し物をしているようだ。

 何と、彼女が手にしたのは包丁だった!

 突然不安がよぎる。菜摘はそんなことをするような子じゃないと信じているが、さっき美穂が言ってたことも聞き捨てならない。

 そしてその不安も、次の瞬間に彼女が発する言葉によって確信へと変わっていく。


「殺してやるぅぅぅー!!!」

 包丁を手にした菜摘は、血相を変えるとそれを掲げ、千恵子の背中に向けて刺そうとする。

 全身の神経が刺激された俺は前に出て菜摘を阻止しようとするが、あいにく距離が遠くて、とても間に合いそうにない。

 だが包丁が千恵子に刺さりかけたその時、突然包丁が赤い光に包まれてその動きを止めた。俺は意識的に後ろを振り向くと、美穂が片手のひらを開いているのが見える。


「何をしてるの、バカ菜摘! アンタ自分のやってることが分かってんの!?」

「邪魔しないでよ、美穂ちゃん……! この下劣な女を、私がこの手で消さないといけないんだからぁ……!!」

 菜摘は歯を食い縛りながら、仇敵でも見てるような目つきで美穂を睨みつける。

「えっ、菜摘さん!? これは一体どういうことですか!?」

 大声で菜摘の暴行に気付いた千恵子は、まだ状況を把握できずに目を見開く。

「俺たちもサッパリなんだ! とにかくそこから離れるんだ、千恵子!」

「何ぼさっとしてるのよ、千恵子! 早く逃げなさいよ!」

 慌てる俺と美穂は、千恵子を逃げさせるよう促す。

「は、はいっ!」

 緊張しているせいか、千恵子は少しぎこちない足取りで菜摘との距離を離す。


「おいおいおいおい! どうしちまったんだよ、菜摘は!?」

「やはり生理が来たんじゃないの? ほら、あんなにイライラしちゃってさ!」

「だから、いい加減生理から離れ……」

「うるさいぞお前ら! 今はそんな話をしてる場合じゃねえだろう!」

 苛立つ俺が、相変わらず漫才を抜かす聡と直己を責め立てる。

「おまえがリーダーなんだろう? どうすればいいか言ってくれよ!」

 ったく、こういう緊急事態には弱いけどな……それでも何とかしないと!

「聡と直己はロビーにいるみんなを呼んでこい! 残りは菜摘を大人しくさせるのを手伝ってくれ!」

「お、おう! りょーかいだぜ!」

「オッケー、任せとけって!」

 俺の指示を受けた聡と直己は、すかさず身を翻してロビーへ向かう。

 さて、あとはどうやって菜摘を止めさせるか、だな……


「あああああああー!!!」

 怒り狂った菜摘は血眼になって、美穂の超能力を振り解いた。

「落ち着け菜摘! 何があったらみんなに相談しろよ! 話を聞くからさ!」

「やだやだやだぁ! どうせ秀和くんには私の気持ちが分からないもん!」

 駄々をこねる菜摘は、まるで子供みたいに包丁を振り回している。

「だから、それを言わないと分からないって!」

「いいよ、そこの下劣な女を殺してからね」

「菜摘さん……どうしてそんなことを……」

 千恵子は悲しそうな目で菜摘を見つめるが、菜摘は軽蔑(けいべつ)の目つきで見返す。

「私の名前で呼ばないでよ、このアマが」

「っ……!!! そんな……」

 あまりにもひどい仕打ちに、千恵子は大きく動揺して体勢を崩した。

「菜摘、さすがにそれは言い過ぎだろう! 早く謝るんだ!」

 俺は菜摘の無礼を(たしな)めるが、菜摘がこう返事した。


「あーあ、やっぱりあの女の肩を持つんだ。そうやって弱者のフリをして同情を引くつもり? 白々しいよね」

「菜摘! いい加減にしろ!」

 他人を見下ろす態度を取る菜摘を見て、俺の怒りがこみ上げてくる。

 一体どうしちまったんだ、これ……? こんなの、俺の知ってる菜摘じゃねえ!

 いや、待てよ……もしかしてこいつは菜摘じゃないとしたら……? そうか、そういうことか! なるほど、分かってきたぞ!

「そうだ、さてお前は偽物だな! 俺たちを惑わすために、菜摘に化けた恋蛇団(ウロボロス)の連中に違いねえぜ!」

「偽物? 私は菜摘じゃないってこと?」

「ああ、その通りだ! さっさとその化けの皮を剥がしやがれ!」

「ち、違うもん……私、本物だもん……」

 怯える菜摘の偽物は縮こまって、体が震えながら涙を浮かべている。ふんっ、真相を突き止められてビビってやがるぜ。

「まだしらばっくれる気か! いいぜ、じゃ俺が自らやってやるよ!」

 正当な理由を見つけた俺は、何の後ろめたさも感じずに彼女に接近し、両手をその顔に伸ばす。

「さあ、本物の菜摘の居場所を教え……ん?」

 俺の指が菜摘の「偽物」の顔に触れた瞬間、自分の感覚を疑わずにいられない。

 何だ、この感触は。柔らかくて気持ちいい……って、偽物じゃなかったのか!


「お前、本物なのか?」

「だから、さっきから言ったじゃない……ううぅ……」

 俺に疑われて気を悪くしたのか、菜摘はしくしく泣き出す。

 だが、最悪のシナリオはまだ始まったばかりだ。

「やっぱり、あの女のせいで秀和くんがおかしくなっちゃったんだね……」

 菜摘は俯くと周りに黒い霧を放ち、禍々しい雰囲気を漂わせる。

 うん? 待てよ、この黒い霧はどこかで見覚えが……

「いいよ、分からせてあげる。あんな女なんかより、私の愛がもっと強いことを!」

 そして菜摘は頭を上げたとたん、黒い霧の流れが早くなり、やがて一陣の風と化す。

形態変換トランスフォーメーション無限大の愛(インフィニティラブ)!」

 黒い霧が爆発するかのように消え去ると、そこにいるのはコスプレみたいに華やかで露出の高い、黒と紫の色で彩った装束を身に包んでいる菜摘だった。


「さあ、始めましょう……パーティはまだまだこれからだからね!」

 不敵な笑いを浮かべた菜摘は、ジロリと俺たちを見据えた。あまりにも鋭い視線に、俺たちは固まって動けずにいる。

 戦いに辛い思い出は付き物だと分かっているが、まさかこんなに早く来るとは。とはいえ、この困難から逃避するわけにはいかねえよな……


 どうする? 俺は一体、どうすればいいんだ?

 答えの見えない問題(めいろ)の中で、俺はたださまよい続ける。

秀和「くそっ、なんてこった……一体誰が菜摘をこんな風に……」

美穂「許せない、絶対に許せないわよ……アタシのかわいい菜摘にこんなひどいことをするなんて!」

聡「いや、おまえのもんじゃねーし」

直己「そうさ! やっぱりこのおれがコクるのが一番……うがはっ!」

名雪「あんたドサクサに紛れて何バカなことを言ってるのよ!」


広多「それにしても、二人の女性の運命をここまで翻弄するとはな……お前は意外と罪な男だ、秀和」

秀和「今は難癖をつけてる場合かよ? 確かに俺には関係があるけどさ……」

涼華「あら、これは見逃せない展開ね。続きが気になるわ」

秀和「涼華! お前またそんな呑気なことを……昼間のドラマじゃねえぞ、これ!」

涼華「私だって人間だもの。恋の行方ぐらい興味があるわよ。あわよくば……」

秀和「あわよくば?」

涼華「あの二人が共倒れして、私がかずくんをいただいちゃう、なんてこともありえるわね♪」

秀和「うわっ、一番腹黒い奴はここにいた……」

千恵子「それは絶対に駄目ですっ! わたくしこそ、秀和君に相応しい恋人です!」

菜摘「ううん、違うもん! 私のほうが秀和くんと付き合いが長いんだから!」


哲也「さて、どうする秀和? ちゃんと決めておかないと、これからは大変なことになるぞ」

秀和「言われなくても分かってるよ……ああ、どうしたらいいんだよ、これ……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ