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反逆正義(リベリオン・ジャスティス)Phase One——Ten days in heaven(or in hell)  作者: 九十九 零
第3章 兎蛇の戦編・激化する衝突
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リボルト#13 傷ついた兎と砕けたダイヤモンド Part2 楽しい朝食会

「おう、おはようみんな! 邪魔するぜ!」

「「……っ!!!」」

 突然何の前触れもなく響いた声を耳にした俺と千恵子は、慌てて離れた。

 扉のほうを見ると、そこには正人たちがやってくるのが見える。


「おおおおはよう正人。朝から元気だな」

 驚きのあまりに、俺の声が震えている。何としても誤魔化してこのピンチを切り抜けないとな。

「すげえ汗かいてるな。朝練でもしてたのか?」

「おっ、よく分かったな! やっぱ朝は特訓に限るよな! これがないと一日が始まんないぜ!」

「毎日続けてるのか? そいつはすげえ根気だな」

「まあな! けど一つ大きな問題は、特訓した後は物凄く腹が減るってことだぜ……」

「なるほどな。だからこうして千恵子のお料理を嗅ぎつけて、ここに来たってわけか」

「ああ、その通りだ! さすがは秀和、勘が鋭いぜ」

 爽やかな笑顔を浮かべる正人は、俺の推理を褒める。そして、新しい話題を切り出しはじめる。


「それにしても、すげえいい香りだぜ……これは秀和の彼女が作ったのか?」

「千恵子のことか? まあ、そうだけど……」

「やっぱりそうか! 昨日もそう思ってたけど、お前本当にラッキーだな、こんなステキな彼女ができてさ!」

 正人はそう冗談めかすと、肘で俺の腰を突く。

「えっ!? そ、そうなのでしょうか……」

 そしてその言葉を聞いた千恵子は、頬を赤く染めて両手をそこに当てた。

 一見とても微笑ましい光景だが、それを快く思わない人もいる。


「ちょっと、それはどういうことですの、ダーリン!? わたくしのことはステキじゃないとでもおっしゃるつもり?」

 正人の幼馴染みである雅美は、突如甲高い声で正人に質問する。さてはヤキモチかな?

「いや、そういう意味で言ってるわけじゃない! 勘違いしないでくれ!」

 変な誤解を招いてしまったのは予想外だったのか、焦った正人は両手を振ってそれを否定しようとする。

「じゃあ、どういう意味ですの?」

 それでも雅美は納得せず、正人を問いつめ続ける。

「いや、相手のいいところを褒めるのが普通の礼儀だろう! 別に千恵子に気があるとか、そういう意味じゃないから!」

「ふ~ん……ちょっと疑わしいですが、まあダーリンのことですから信じて差し上げますわ」

「ふぅ~、話が分かってくれて助かったぜ」

 赦しを受けて、安心した正人は大きく息を吐く。


「まあまあ、そんなことより、早くご飯にしようよ~!」

 また喧嘩になりかねないとでも思っているのか、大きな荷物を抱えている妙はそそくさと話題を変え、俺たちに食事を促す。

「そうだな。このまま放っておくと、飢え死にするかもしれないからな」

 皮肉屋の拓磨は、相変わらず辛辣なことを言う。いくらなんでも縁起悪すぎるだろう、それ。

「まあ、お腹が空いた後に食べるご飯がおいしいですからね、うふふっ」

 小春はいつも通りにミステリアスな笑顔を浮かべながら、食卓へと近づく。

「That's right! いっぱい動いたし、たくさん食べて体力を回復しないとね! ステーキとかないかな~?」

 手で顔を扇ぐ絵梨香はあちこち汗が流れていて、そのグラマーなスタイルとあいまって健康的な色気を醸し出す。

 そして最後は、俺を翻弄するのが得意なあいつだ。彼女は俺とすれ違った瞬間、俺の耳元でこう囁いた。

「あら、惜しかったわね。あとちょっとだけなのに」

「えっ!?」

 どういう意味だ、それ!? まさか見てたのか、今の?

 俺は追究しようとするが、涼華はまるで風のように、いつの間にか椅子に座っている。

 なかなかやるじゃねえか、おい……君はどこまで恐ろしい存在なんだ、涼華!

 そんなことを考えている間に、食堂に新しい参加者が登場する。


「おはよう、みんな。今日も賑やかだね」

「あっ、哲也じゃん。よく来たな」

 親友である哲也の爽やかな声に、俺はすぐ反応した。彼に親切な笑顔を見せ、歓迎の言葉をかける。

「まあ、そろそろ朝食の時間だと思って、ここに来たんだ」

「菜摘は? 一緒じゃないのか?」

 いつもなら二人は同時に現れるはずなのに、何故か今日は菜摘の姿が見えない。疑問に思う俺は、哲也に質問する。

「ああ、菜摘は昨日の戦いで少し疲れたから、まだ寝てるんじゃないかな。ノックしても返事がないし」

 哲也はいつものようにメガネを押し上げ、そう答えた。だが、その眉間に僅かにしわが見える。

 何か隠し事があるように見えるが、食堂の熱い雰囲気で影響を受けた俺はそれを気にしなかった。

「そうか。そういうことなら仕方ないな」

「そうだね。もう少し寝かせてあげよう」

 顔を見合わせている俺と哲也は、納得したかのように首を縦に振る。

 と、その時。またしても食堂に足を運ぶ人が増えた。


「おはよう、諸君! 今日もいい天気よね~」

「あらあら十守、そんなに大声で叫ぶと、みんなびっくりしちゃうわよ~?」

「別に驚くことじゃないでしょう、静琉。ただ挨拶してるだけじゃない」

「あれ、先輩たちも来てたんですか?」

「ええ、そうよ。せっかくだから、一緒に朝ご飯でも食べようと思ってね」

「あらあら、本当は自分でご飯を作るのが面倒なだけでしょう、十守は?」

「静琉! あんたね……!!」

 静琉先輩にツッコまれて、またしても焦る静琉先輩。本当に変わってないな、この二人も。


「おはようございます、先輩」

「おはようであります! 今日もいい日でありますね!」

 さっきの先輩たちと打って変わって、幼い声が耳元に響いてくる。言うまでもなく、あの二人に違いないだろう。

「おはよう、碧、可奈子。今日も元気そうで何よりだな。よく寝れたかな?」

「はい、おかげさまで」

「バッチリであります!」

 さすがは若い子、体力の回復も早いな。って、俺だってまだ若いじゃん。何親父くさいことを言ってんだよ、俺は。

「ふぁ~さっさとメシにしようぜ、メシ! もう腹減ってんだよ!」

「相変わらずせっかちだな、壊時。他の人もいるから少しは我慢してくれ」

 大きな欠伸をする壊時とそれを窘める俊介も、食堂に足を踏み入れる。

 となると、残りはあの二人……


「おはようございま~す……ふぁ~まだ眠いれす……」

「また夜遅くまでDVDでも観てたのかしら? 夜更かしは体に毒なのよ」

 やっぱり開発部の二人も来てたのか。席が足りるかは心配だな。

「かなり人が増えてきましたね……ちょっと椅子を持ってきます」

 千恵子もそれを察したのか、予備の椅子が置かれている場所に移動する。

「あっ、俺も手伝うぜ」

 さっき鍋を運んだのを思い出して、俺は思わず体を動かし、またしても千恵子を手助けしようとする。

「じゃあ、僕も一緒に。人手は多いに越したことはないからね」

「サンキュー、助かるぜ哲也」

 やっぱり持つべきものは友だな。肝心な時に役に立ってくれるぜ。

 こうして、俺たちは人数分の椅子を配置する。幸いなことに食卓はそれなりに大きく、スペースを詰めて何とか全部置くことができた。

 そしてちょうどこの時、うちの脱兎組(ランニング・ラビット)の他のメンバーも食堂にやってきた。


「よう秀和、今日はいい朝だな!」

「おせえよ! あとそれもう何回も聞いたぞ、聡!」

「何だよ、そんなこえー顔して! オレはただ挨拶してるだけなのに、なんで怒られなきゃなんねーんだよ?」

 わけも分からず俺に怒鳴られた聡は、不満そうに俺に文句を言う。

 だが俺が答える前に、この男が出てくる。

「ふん、見て分からないのか。ボスは仕事をして疲れているのに、お前は今起きたばかり。それは怒られてもおかしくないはずだ」

 まるでお約束かのように、広多はしょんぼりしてる聡の後ろから姿を現し、彼を嘲笑う。

「おまえ、また分かったような口を利きやがって!」

 そして聡はいつも通りに広多の挑発に乗り、(かんむり)を曲げる。

「はいはい、二人はそこまでにしときなさい! こんなことで時間を無駄にしたら、ご飯が冷めちゃうわよ!」

 風紀委員の名雪は、二人の間に割り込んで仲裁する。まったく物怖じしないその強気は、とても女子とは思えない。

「ふん、風紀委員に免じて今回は許してやろう」

 広多は大人しく黙るが、聡は依然として調子に乗る。

「どうした、ビビって声も出ねーのかっ、このセレブ野郎! バカバーカ!」

 もちろんそんな子供じみた言動を取った聡には、ハリセンのお仕置きが与えられる。

 そういえば、直己以外に名雪のハリセンに叩かれたのは、こいつは初めてだな。


「ぐわっ!」

「何バカなことを言ってるの! バカを言ったほうがバカなのよ!」

「ふん……自業自得だな」

 広多は鼻で笑うと、食卓に向かって歩き出す。

「あっ、待ちやがれ広多!」

 ご機嫌斜めの聡は、広多のあとを追いかける。

「まったく、世話が焼けるわね……風紀委員としての苦労も気付いて欲しいわ」

 呆れた名雪は、腕を組んで白目で二人を見つめる。

 だがそれだけで終わりじゃない。なぜなら、もっと世話が焼ける奴がいるからだ。


「そうだよ、そんなに無理をしたら、せっかくのかわいい顔が台無しだぜ!」

「直己……あんた……」 

 相変わらず女子を口説くのがうまいな、直己の奴。これ以上変なことさえ言わなければ……

「それに、生理も来なくなっちゃうしさ!」

 ……あっ、こりゃ終わったな。

「余計なお世話よー!!!」

「えうあ゛っ!」

 怒りMAX状態の名雪は、全力でハリセンをスイングし、直己の顔にストライクした。その結果として、直己の頬には大きくて赤い痕がついた。

「もう、信じられない! 男子がそんなことを軽々しく口にするなんて!」

「き、聞いてくれ名雪! おれは別にそういう意味じゃ……」

「もう知らない! 最っ低!」

 顔を赤くして逆上する名雪は、床に倒れている直己を放置し、この場を離れた。


「……いい加減懲りろよ、お前」

「なあ秀和、一体なにがいけなかったんだ?」

 直己は虚ろな目で俺を見ながら、弱々しく俺に質問する。

 全然問題視してないのか、こいつ。

「知るかよ。それぐらいは自分で考えろ」

 直己の言動に呆れた俺は彼の質問に直接答えず、遠回しに返事をする。どうせ教えても、すぐ調子に乗って忘れるだろうし。

「そ、そんなぁ~」

「ほら、行くぞ。みんな待ってるから」

 俺は手を差し伸べて直己を起こし、食卓に向かう。

 たくさんある席の中で、俺の目標はたった一つ。そう、それは千恵子の隣だ。まだ空いてるかな?


 俺は千恵子のいるところに移動すると、なんと彼女はわざわざ一脚の椅子を食卓の下に隠している。そして俺が接近したのを見ると、それを出して俺の前に置いてくれた。

「はい秀和君、ここにお座りください」

 おいおい、そこまでするのかよ……やべえ、感動して涙が出そうじゃねえか。

 俺は恐る恐る椅子に座って、千恵子の顔を見つめる。そこには、とてつもなく優しい笑顔が浮かんでいる。その美しさは、正に天使そのものだった。

 続いて千恵子は、二回拍手してみんなの注目を引きつけてこう言った。

「それでは、皆さんも揃ったことですし、そろそろご飯に致しましょうか」

 そう言い終えるがはやいか、彼女は食卓に置かれている茶碗を手にして、一人ずつおかゆを分配する。

 俺の分は最後まで回ってきたが、何故か俺の茶碗だけが他のみんなより一回り大きい。もちろん、中に入っているおかゆの量も比較的に多い。

 そして、これを口実に俺を困らせる奴らが湧いてくる。


「あっ、ずるいぞ秀和! オレたちよりデカい茶碗を使いやがって!」

「もう千恵子ったら、最近秀和くんをヒイキしすぎっ! あっ、二人はもしかして……」

 食いしん坊な聡と優奈は、俺の異常に大きすぎる茶碗を見て、不満を漏らす。優奈に至っては、思考が飛躍していきなりとんでもないことを言い出した。

「確か、最近どうも二人の関係がアレなのよね……そろそろ白状したらどうかしら?」

 恋愛話に興味津々な美穂は意味深な笑顔を浮かべながら、目を細めて俺と千恵子を見つめる。

「そ、それは……」

「ウソついてもダメよ。アタシには分かるから」

 緊張する俺はなんて答えればいいか考えている途中に、美穂に釘を刺されたせいで思わず口をつぐんでしまう。

 さすがはエスパー、恐るべし。


「まあ、千恵子は美人だしお料理も上手だから、狛幸くんが好きになるのも無理もないわよね」

 友美佳は片手で頬杖をついて千恵子を見つめながら、彼女を褒め称える。

「友美佳さん!? な、何をおっしゃるのですか!?」

 いきなりそんなことを言われて、千恵子は驚いて大声を出す。

「いや、それだけではない。まるでサキュバスのような、その魅惑の体つき……さてそなたは、使い魔のような何かかな?」

「えっ?」

 宵夜の相変わらず意味不明な言葉に、千恵子は返事に戸惑う。となると、ここは通訳の出番だな。

「ちえちえのナイスボディは、生まれつきなのかな~って」

「そ、それは……なんて申しましょうか」

 愛名は難なく宵夜の言葉を分かりやすくしたが、その意味を理解した千恵子は顔を赤めて、視線をそらした。「知らないほうがよかった」とでも思っているのか?

「きっと千恵子さんは普段からおいしいものをたくさん食べてるから、あんないいスタイルになったに違いないですな~あーあ、羨ましいです……」

 両手であごを支えている茉莉愛は、いやらしい目つきで千恵子を眺めている。

「きゃあっ! ど、どこを見ているのですか、茉莉愛さん!?」

 茉莉愛の視線に気付いた千恵子は、慌てて腕で自分の体を隠す。


「くうー、てっきりおれが最初に彼女ができると思ったのによ、抜け駆けはずるいぜ、秀和!」

 プレイボーイである直己は、片手を握り締めながら、それを震わせている。その目に浮かぶ涙は、悔しさの証なのか。

「悪かったな! そんなに悔しかったら、努力ぐらいでもしろよ、直己!」

「してるさ! 毎日諦めずに名雪の部屋で待ち伏せしたり、シャワーを覗いたり、ラブレターをドアの隙間に挟んだり……」

 直己の衝撃発言を聞いて、俺たちは思わず仰天した。

 そして名指しされた名雪は慌てふためき、大声で直己を止めようとする。もし直己は少しでも名雪に近い席に座っていたら、きっとまたハリセンに叩かれるだろう。

「す、ストォォォォォーーップ!!! あんたなんてことをしてるのよ!」

「そうだよ! お前、それ努力の方向が違うだろう! まるでストーカーじゃねえか!」

「ストーカーなんて、人聞きの悪い言い方するなよ! こ、これは俺なりに愛の形を……」

「ダメよそんなの! 不純異性交際禁止!」

「なんでこうなるんだよ!」

 名雪の断固拒否の態度を見て、直己は挫けて食卓に倒れる。

「「「あはははは……」」」

 食堂は一気に笑い声に包まれた。直己には悪いが、俺もその笑い声に釣られて思わず噴き出してしまった。


「いや~、相変わらずお前のトコはおもしれえ連中ばかりだな、秀和!」

 向こう側に座っている正人は、爽やかに大笑いをしている。やっぱり余所の人から見てもこんな風に思うのだろうか。

「あははは……そいつはどうも」

 俺は苦笑いしつつ、こう返すしかなかった。

「はいはい、変なこと言ってないで、さっさとご飯を食べるわよ! 千恵子も何か言いなさいよ!」

 ついに見るに見かねたのか、名雪は大声で俺たちの会話を遮った。さては照れてるな。

 そしてその時に、空気を読まずに言ってはいけないことを言ってしまったのはこの男。


「あっ、ごまかしたな! さては恥ずかしくて……ぐわっ!」

 突然響く直己の悲鳴。なんと名雪はハリセンを投げつけて、外すことなく直己に当たった。その攻撃を喰らった直己は泡を吹き出し、床に倒れた。

「そ、そうですね……ほら皆さん、早く食べないとご飯が冷めてしまいますよ」

 この衝撃的なシーンを目にした千恵子は、びくっとして俺たちに食事を促す。その発言を聞いた俺たちは何も言い返せず、大人しく食事を取ることにした。

 約20分後、俺たちは食事を終えた。一部の連中はロビーに行ってくつろいでいるが、俺は他のメンバーたちと食堂に残り、後片づけに取りかかっていた。


「う~ん、やっぱ食事のあとにする家事は最高よね~!」

 ピカピカになった食堂を見て、友美佳は背筋を伸ばして体中の疲れを取ろうとする。

「そうですね! 何だか頑張った甲斐があったような気がします」

 冴香も食堂に負けないほどの明るい笑顔を浮かべ、努力の喜びを述べる。

「みんなお疲れさま~そんな頑張ってる脱兎団ランニング・ラビットのみんなに、これをプレゼントするね!」

 妙はそう言うと、さっき持っていた大きな荷物を探りはじめる。もしかして「アレ」ができたのか?

「おっ、何ですの? もしかしておいしいお菓子かしら?」

「No no no! アタシの予想からすると、main dishはこれからかもしれないよ! アツアツのビーフステーキとか!」

「いやいや、さっき食べたばかりでしょう! 本当によく食べるね、二人とも……」

 食いしん坊な雅美と絵梨香は両目を光らせるが、早くも妙にツッコまれた。

 そして妙は、ぶつぶつとそう呟いた。


「私もたくさん食べたら、あの二人みたいないいスタイルになれるのかな……」

 約10センチ以上の身長差もある二人を、妙は羨ましそうな眼差しで見つめる。やれやれ、女の子も色々大変だな。

「で、プレゼントってなにかしら? 早く見せてよ」

 痺れを切らした美穂は、妙を催促する。

「あっ、ごめんね! はい、これだよ!」

 急かされた妙は、慌てて中身を出す。それは黒いファー付きの赤い服だった。


「まあ、とても素晴らしい衣装ですね」

 それを見た千恵子は微笑み、褒め言葉を口にした。

「えへへ~、ありがとう千恵子さん。徹夜した甲斐があったよ~」

 自分が苦労して作ったものが認められて、妙は喜びの声を上げる。

「ん? 僕を呼んだかい?」

「いや、呼んでないから」

 突然、哲也はボケをかます。「徹夜」という言葉に反応したのか。

 まあ、それはそうと、まずは妙に言っておかないといけないことがあるからな。


「お疲れ、妙。悪いな、昨日はこんな無理な相談に乗ってくれてさ」

「ううん、気にしないで! 服を作るのが好きだし、これぐらいは平気だよ」

「あら、人使いが荒いわね、かずくん。給料が出てるのかしらね?」

「だから悪いって言ったじゃん……人の話を聞けよ」

 涼華はまたしてもこのタイミングで口を挟んできて、意地悪そうに俺をからかう。

「えっ? この服って、秀和くんが妙ちゃんに頼んだの?」

 さっきからずっともじもじと両手を擦っている千紗は、ようやく今日初めての発言をした。

「まあな。前からずっと思ってたんだけど、俺たちが今着てる制服って、この学校のものだよな」

「それが何か?」

 話が見えない優奈は、俺に更なる回答を求める。

「それはつまり、俺たちはまだこの学校に屈服してるってわけだ。反抗精神を固めるためにも、まずは外見から着手しないとな」

「うーん……何だかわかるような、わかんねーような……」

 聡は首を傾け、腕を組んで難しい顔を浮かべる。やはり彼には難しかったか。

「要するに、俺たちの決意を見せるために、これからは俺たちの服に着替えるということだな? 実に名案だな」

 一方広多は、俺の言いたいことを理解したようで、しきりに頷く。


「ああ、そういうことだ。話を戻すけど、みんなそれそれの衣装はデザインが違うから、ちゃんと名前を確認しろよ」

「オッケー! あっ、このウサギのワッペン、かわいいね~」

「赤き地獄の業火に包まれながらも、自由を求めるために走ることを諦めることはない……実に我らの心境をうまく表現した絵図だな」

 最初に自分の衣装を手にした愛名と宵夜は、すでにパッケージを開封して細部をチェックしている。

「まあ、脱兎団だからな。そういう細かいところも、ちゃんと拘らないとな」

「うふふっ、さすが秀和君、気が回りますね」

 千恵子は口元を抑えながら、俺のことを褒めてくれた。やべえ、一瞬ドキってしちまったぞ。

 だが、何事も順調に行くわけじゃない。


「ねえ秀和くん、ちょっといいかしら?」

 発言したのは美穂だった。彼女は自分の新しい服を無造作に弄りながら、少し不満そうに頬を膨らむ。

「どうした美穂? 何か問題でも?」

 彼女のことだから大体想像が付くが、念のため一応聞いておこう。

「いや~、問題っていうか、なんで服を作る前にアタシたちに相談してくれなかったのよ? 色合いやデザインの希望とかさ」

「だって、そんなことしたらサプライズになんないじゃん。それに……」

「それに?」

「赤と黒の組み合わせは王道だぜ。これだけは譲れない」

 俺はドヤ顔を浮かべて、自慢げにこう言った。

「そういえば、キミは今日も黒と赤の服を着てるわね……本当、そのセンスには感服だわ。まあ、別にイヤってわけじゃないけどね」

「それならよかった。てっきり文句を言うのかと思ったぜ」

「そんなことしないわよ。妙が一晩頑張って作ってくれたんだし、これ以上贅沢を言ったらこの子にも失礼でしょう?」

 美穂は少し苦笑いをして、尻目で妙を見やる。

「あはは、気を遣わせちゃったみたいでごめんね、美穂さん」

 自分の作った服に満足してもらえないことを残念に思っているのか、妙は少し申し訳なさそうに謝った。

「いいのよ。まあ、気持ちのこもったプレゼントなら、何でも喜ぶわよ。ありがとうね、妙」

「み、美穂さん……」

 感謝の気持ちを示そうと、美穂はウインクをした。それを見た妙は、嬉しそうに笑っている。

 さて、俺の服はどれだ? 早く着てみたいぜ。


 俺はパッケージを一つずつ手に取って、名札を確認する。こうして俺は難なく自分の名前が書かれたものを見つけることができ、それを開けて服を取り出す。

 おっ、黒いファーが付いた赤いジャケットだ。正に俺好みだぜ。早速試着してみるか。

 ふう~あったけえな、これ。夏だとこれを着るのがキツいかもしれないけど、これから寒くなるだろうし、季節的にはちょうどいいかもな。

「あら、とっても似合っていますよ、秀和君」

 後ろから千恵子の声が聞こえる。俺は後ろを振り向くと、そこには新しい服を着替えた千恵子がいる。

 俺のと同じく黒いファーの付いた赤い服だが、千恵子のは彼女にふさわしい和風の上着のため、とても華やかに見える。

「ありがとう、千恵子。そっちもすごく似合ってるぜ」

「そうでしょうか……お褒めのお言葉を頂き、誠にありがとうございます」

 千恵子のタメ口に慣れたせいか、そんなにかしこまらなくてもと言いたいところだが、まあここには他のみんなもいるし、ここは我慢しとこう。

 こうして、他のみんなもそれぞれ自分の新しい衣装を手に入れ、その喜びに浸っている。

 その時、何やら人影が食堂の入り口に(うごめ)く。

友美佳「あら、誰が来たのかしら? もしかして……」

秀和「止めるんだ、友美佳。これ以上言うとネタバレになっちまうぞ」

友美佳「またメタ発言!? っていうか、今まで何回もここでネタバレしてたじゃない!」

秀和「いや、今回は違うぞ。何しろこの話のキーパーソンだし、ここでバラしちまったら面白くないぜ」

哲也「でも、よく思い出して欲しい。まだここに来ていない人はたった一人。論理的に考えれば、ここに来る人は『あの人』しかありえないのさ」

秀和「もう答えを言ってるようなもんじゃねえか」

靄「そうよ。読者のみなさんも、その生まれつきの推理力を使えば、きっとその人物を推測できるはずよ」

秀和「さすがにそれは大げさすぎないか? まあ、いいか」

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