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反逆正義(リベリオン・ジャスティス)Phase One——Ten days in heaven(or in hell)  作者: 九十九 零
第3章 兎蛇の戦編・激化する衝突
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リボルト#12 陥落する黄金の楽園 Part8 土具魔、星となる

「ヒャーハハハハハハァ゛ー!」

 狂気の溢れる笑い声が、この広い空に響き渡る。

 言うまでもなく、あれは土具魔だ。俺は眉をひそめて、奴はまた何を企んでいるのかを確かめるべく、視線を声がしたほうに向ける。すると、俺は思わず目にした光景に驚かずにいられなかった。

 なぜかというと、奴はスポーツカーを暴走させていて、俺たちが近くにいるにもかかわらず、前を横切りやがった。しかもその後、奴の片手が窓から出てきて、中指を立ててやがる。実に腹立つぜ。

 それにしても、あの危なっかしい運転……免許を持ってのかよ、あの野郎。


「なにやってんだ、アイツ? しっぽを巻いて逃げたか?」

 理解不能の行動を見て、聡は軽蔑の目で土具魔の車を見送る。

「いや、あいつのことだ、油断は禁物だぜ。むしろ嫌な予感がするんだけど……」

 ここまで来てネガティブな発言はよくないが、いつ何が起こるのかは分からない。念のためにも、ここは気を引き締めていかねえとな。

 そして、その後に続く展開は俺の予想が正しいことを裏付ける。


「……っ!! 大変です!」

「どうしたの、碧ちゃん?」

 突然息を凝らす碧。一体何に驚くのかを知るべく、菜摘は目を見開いて碧に声をかけた。

「さっき、あの車の運動軌跡を推算してみましたが、その行き先は……」

「ま、まさか……!!」

「ええ、そのまさかです。先輩たちのいる寮なんですよ」

 一瞬、全身に悪寒が走る。ある程度こうなることは予想していたが、まさか本当だったとは!

「マジかよ……!! あの野郎、ふざけやがって……!!」

 怒りに支配された俺は、震える拳を上げた。「目には目を歯には歯を」という言葉は分かっているつもりだが、いざ自分の身に危険が降りかかると、安心していられる余裕もなくなってしまう。

 もちろん、寮の設計者である千恵子も黙っていられないだろう。


「これ以上彼の好きにさせる訳にはいきません! 早く追いかけましょう!」

「ああ、そうだ! 寮を破壊されちまったら冗談じゃすまないぜ!」

 俺は焦って千恵子の意見に賛成するが、哲也の言葉は俺を現実に直面させられる。

「でも、どうやって? いくら走ったところで、君の足じゃ到底あの車においかけられないだろう」

「だったらバイクに乗ればいいだろう!」

「バイクなら、さっき僕たちが突入したビルの前にあるんだぞ。あれだけの距離だ、今から取りに行っても遅いぞ」

「だからって、このまま放っておくわけには……!」

「まあ、落ち着くんだ秀和。今僕が言ったのは、あくまで『僕たちがバイクを取りに行く』場合の話さ」

「ん? それはどういう意味だ?」

 話が見えない俺は、哲也に更なる説明を求める。

「つまり、僕たちの他にも仲間がいるから、その心配はないってことさ」

「あっ、そうか!」

 哲也の簡潔な説明を聞いて、俺は納得して口を開いた。

 その時、遠くからバイクのエンジン音が聞こえる。

「おっ、噂をすれば影だね」

 音を聞いた哲也は、視線を変えて微笑みを浮かべた。

 俺もエンジン音のした方向を見ると、そこには先ほど一階で雑魚を食い止めていた仲間たちがいる。


「うほっ、すげーな! 倒れたビルから逃げられるなんて、とんだ強運の持ち主だな!」

「正人! 無事だったのか」

「当然だろう! まあ、あんまり楽勝だったから、ウォーミングアップにもならなかったけどな」

「おいおい、よく言うぜ……こっちは死ぬほど疲れてるんだぜ?」

「わりぃわりぃ! よし、任務も完了したことだし、帰ってメシでも食おうぜ!」

 まだ隠された危機を知らず、明るい笑顔を浮かべている正人。やべえ、危うく大事なことを忘れるところだったぜ。

「いや、まだ終わっちゃいねえ! あの朝倉の野郎は、車を運転して俺たちの寮を破壊しようとしてやがるんだ!」

「なっ、なんだって!?」

 予想通りに、この衝撃の情報を聞いた正人は目を見開いて、驚きの声を上げた。

「こうしちゃいられねえ! 早く奴を追いかけねえと、俺たちは今日住める場所がなくなっちまうぞ!」

「そいつは聞き捨てにならねえな……よしっ、早くバイクに乗るんだ!」

 正人の顔つきが険しくなり、サイドカーの空席を叩いて合図した。

「おう!」

 俺は勢いで一歩前に踏み出すが、千恵子も後から付いてくる。

「お待ち下さい、わたくしもご一緒にさせて頂きます!」

 その表情は、真剣そのものだ。無理もない、自分の大事な場所を壊されたくないだろうな。

 こうして俺と千恵子は、急いでサイドカーに乗り、シートベルトを締めた。

「よーし、飛ばすからしっかりと座れよ!」

 準備を整えた俺たちと見て、正人はクラッチを離してバイクを発進させた。その猛スピードは、正人の猪突猛進の性格にふさわしい。

 このままバイクは直進して、土具魔の逃げた方向に向かって走っていく。

 しばらくすると、荒野で暴走する土具魔の車が俺たちの目に映った。


「いたぞ! あいつだ!」

 獲物を捕捉した俺は、興奮のあまりに車を指さしながら大声を出す。幸いバイクは車から離れているため、土具魔には気付かれていないようだ。

「で、どうする? あの車を爆破するか?」

 正人は俺に質問を投げ、これからの作戦を確認する。

 本来なら俺はすべての怒りを発散するべく、土具魔ごとにあの車を爆破してやりたいところだが、今まで奴の侮れない力を考えると、そう簡単にいかないと覚悟しておいたほうがよさそうだな。

「いや、やめとくぜ。あいつは炎に変えられる能力を持ってやがる。下手すれば奴を倒すどころか、かえって奴を回復するかもしれねえ」

「では、一体どうすれば……?」

 まだ答えが見当たらない千恵子は、目を丸くして俺を見つめる。

 もちろん、作戦はすでに立ててある。

「バイクを車に寄せてくれ。俺は直接あいつと戦う」

「へー、なかなかいい度胸してんじゃん、秀和!」

「大丈夫なのですか? さすがにそれは危ないのでは……?」

 笑って俺を褒めてくれる正人に、心配そうに反論する千恵子。返事こそ違うが、どっちも俺を思って言った言葉だろう。

「心配するな。万が一何があったら、正人と千恵子もいるじゃないか。三人なら何とかできるさ」

「へへっ、うれしいことを言ってくれるぜ、秀和」

 俺の答えを聞いて、正人は素直に喜んでいる。だが、千恵子はまだ納得していないようだ。

「いけません! 無理はさせたくないので、怪我をする前提でしたらわたくしは同意しませんよ!」

 千恵子は明らかに俺を責めるような口調で、俺を注意した。その顔には、仲間を守りたいという強い気持ちが感じ取れる。


「おいおい、彼女、やけに心配してるじゃんか。二人は恋人か何か?」

 俺と千恵子の関係がまだよく分からない第三者である正人は、口を挟んできた。

「「えっ!?」」

 あまりにも急だったため、俺と千恵子はほぼ同じタイミングで声を漏らし、顔を見合わせている。

「おっ、その様子だと図星か! 秀和、こんなステキな彼女はなかなかいないから、大事にしてやれよ!」

 正人は俺と千恵子の反応で勝手に判断し、勝手に話を進めた。

 俺としては千恵子と恋人になるのは嫌じゃないけど、今のところはまだそこまで進んでないよな……

「って、今はそんな話をしてる場合じゃねえだろう! 真面目にやれよ!」

 大事なことを思い出した俺は、正人の頭上にチョップを喰らわせた。

「わりぃわりぃ! よし、もうちっと飛ばすから、気を付けろよ!」

 自分の過ちに気付いた正人は笑ってごまかし、アクセルのハンドルを回して加速しはじめた。

 バイクのスピードが早くなったことにより、俺たちは土具魔が運転している車との距離が少し縮まっていく。

 高まる興奮が、心臓の鼓動を激しくする。この一戦で、俺たちの(いばしょ)の運命が決まる。


「秀和君」

「うん、どうした千恵子?」

 千恵子に名前を呼ばれて、俺は反射的に応答した。

「絶対に……無理はしないでくださいね。何かあったら、必ず頼ってください。約束ですよ」

 千恵子は真剣な目付きで、俺の顔をじっと見つめている。どうやら俺は彼女にとって、ただの仲間ではなく、それ以上の存在だと思ってくれてるだろう。なら、俺もその信頼に応えないとな。

「ああ、約束するぜ。俺だって、こんなところでくたばるわけにはいかねえからな」

「そうなのですか。それを聞いて安心しました」

 俺の返事を聞いてほっとしたのか、千恵子は穏やかな微笑みを浮かべた。

 だが安心できるのは、土具魔の野郎を止めた後だ。まだ油断はできねえ。

「そろそろだぞ、秀和。準備はいいか?」

「ああ、いつでもいいぜ。いい加減ケリをつけようじゃねえか……!」

 正人の質問に、俺は当たり前のように返事する。

「おっ、その意気だ! あいつをコテンパンにしてやれ、秀和!」

「ああ、もちろんそのつもりだぜ! そんじゃ行ってくるぜ!」

「気を付けて下さい、秀和君……!」

 よく見ると、いつの間にか土具魔の車がすでに目の前にある。俺は席を立ち、そこに飛び移ろうとする。

 ……さて、やるか。いい加減、この馬鹿げた戦いを徹底的に終わらそうか!


「はあああああー!!!」

 俺は足に力を入れ、大ジャンプして土具魔の車上に飛び移った。

 そして土具魔は物音に気付いたのか、早速黒い炎を飛ばしてきやがった。って、よく運転席から車上に炎を飛ばせるな。一体どういう原理だよ。

 それはそうと、この炎を喰らうわけにはいかねえよな。俺は車体の左側に飛び降りて、必死にトランクを掴んで落ちないようにする。

 このままだと炎は後ろにバイクを運転している正人に当たっちまうが、幸い彼の反射神経が鋭く、横に移動して炎を避けることに成功した。

 おっと、見てる場合じゃなかったな。早くドアを開けて中に入らねえと。

 俺は急いでドアを開けて、車内に入った。土具魔の位置を確認した瞬間に、有無を言わせずそいつの頭を掴み、ハンドルにぶつけた。クラクションが刻むリズムは、何とも言えないギャグ感を放つ。

「こんにゃろ、こんにゃろ! ふざけやがって!」

 さっきの戦いを思い出すと、俺の怒りがまた燃え上がって、手加減という言葉を忘れさせる。


「よくも俺たちの寮を破壊する気だな! まずはてめえに痛い目に遭わせてやる!」

「があっ! があっ! 貴様、俺様のかっこいい顔を傷つけやがって!」

「知るかよ、そんなこと!」

 俺は土具魔の抗議を聞き入れず、奴の頭をハンドルにぶつけ続ける。

 ついに土具魔の怒りも限界を超えたのか、奴はシートを倒して俺に接近してきやがった。

「そんなに殺し合いがしてえのか、あぁん!? いいぜ、貴様の望み通りに楽しませてやる!」

 それを言ったとたんに、土具魔はすかさず黒い炎を出した。俺は間一髪で避けるが、窓のガラスは砕け散っていった。

 俺も負けじと拳に稲妻を纏い、右フックで土具魔の顔に一撃を喰らわせた。効き目があるものの、奴は怯えるどころか、かえって興奮してやがる。

「ククク……ダメだ、全然ダメだぜ!」

 恐ろしい笑みを浮かべながら、土具魔は突然俺の胸ぐらを掴んだ。

「さあ、一緒に燃え尽きろやぁ゛!」

 そう叫んだ土具魔は、何の前触れもなく全身から黒い炎がほとばしり、この車内の空間を覆い始める。

 くそっ、なんだこの暑さは……! サウナでもこんなに暑くねえぞ!


「おいおい、どうしたぁ!? 貴様の実力はそんなものかぁ!」

 自分の資質(カリスマ)に慣れた土具魔は、黒い炎を物ともせず、俺を挑発する。

 一体どうすればいいんだ……? 土具魔を止めなければならないけど、このままだと俺は灰になっちまうだろう。さっき千恵子と約束もしたし、ここは無理をするわけにはいかねえ。

 それに、俺はもうこいつをやっつけるいい方法を思いついたし。

 そうと決まれば、そろそろ行動に移らないとな。俺はドアを開けて、車から飛び降りた。ふう、暑い暑い。

 その時に、遠くから土具魔の声が聞こえてくる。

「へっ、少し骨のある奴かと思ってたら、結局ただのチキンかよ! 貴様は後で、俺様に燃やされた大事な場所でも眺めてるがいいぜ!」

 相変わらずムカつく奴だな、おい。だが、てめえはこれ以上車を走らせることができなくなるぜ。


 「ボン!」

 大きな爆発音と共に、車は空中で縦に回転した。後部に燃えている赤い炎は円の軌跡を描き、その迫力を物語る。続いて車は地面に落ち、ドンと重みのある音が響く。

 あいつは確か、シートベルトを付けていないはず。あの回転の仕方だと、並大抵の人間ならとっくに死んでいただろう。そう、「並大抵の人間」ならな……

 俺は車に接近して中の様子を確認しようとするが、音に気付いたのか、荒野からまた新たなネガコレが姿を現し、車に近づいていく。もしかしたら獲物を探しているのかもしれない。

 あれだけの野獣に囲まれていれば、きっと生き残れるはずもないだろう。俺は無駄な戦いを避けるため、車の様子を確認するのをやめ、俺を拾いに来てくれた正人のバイクに乗った。


「今のはヤバかったな、秀和」

「そうだな。一時どうなるかと思ってたぜ」

「お怪我はありませんか、秀和君?」

「ああ、大丈夫だ。ちょっと体中はまだ熱いけど、まあサウナみたいなもんだ」

「それにしても、さっきの爆発はなんだったんだ? 車が暴走しすぎて故障でもしたのか?」

「いや、そいつは違うな。あれは俺が碧からもらったカードを使って、術式を発動させたからだ」

「術式? 魔法みたいなものか?」

「ああ、そんな感じだ。色んな種類があるみたいだけど、どうやら俺がもらったのは炎を呼び出す能力らしいぜ」

 さっきは車を爆破しないとか言ってたけど、あの緊急状態じゃ手段は選べないし、何しろカードに記載されている術式が分からなかった。時には臨機応変も必要だな。

「なるほど、だから車が爆発したのですね」

「ああ、碧のおかげで助かったぜ。後であの子には感謝しねえとな」

「オッケー。で、これからはどうする?」

「奴のアジトに戻ってもしょうがないし、このまま寮に帰ろうぜ」

「了解! いやー、やっぱミッションを遂行した後は気分がいいぜ! 腹減ってきた~」

 達成感で気が緩んだのか、正人は満面の笑みを浮かべている。


 だが俺はまだ安心できない。あの土具魔のことだ、そう簡単にくたばるわけがないだろう。

 俺は気を引き締めて土具魔を迎え撃とうとするが、結局寮に戻るまでは奴が追ってくることはなかった。

「よう、お帰り諸君! 見たわよ、君たちの活躍を。なかなかでかしたじゃないの」

 俺たちの帰りを待っていた十守先輩は、手に持っているスマホをしまい、俺たちの健闘っぷりを褒めてくれた。

「あらあら、まさかあんな高いビルを二本も壊したなんて、随分すごいわね~外に出たら、解体工事のお仕事でもできるんじゃないかしら」

 静琉先輩は相変わらず、おっとりした口調で恐ろしいことを言っている。

「お、お疲れ様であります! ところで、他の皆さんはどこでありますか?」

 可奈子はいつものように俺たちに敬礼をすると、まだ戻っていない仲間たちの行方を確認する。

「俺たちはちょっと急ぎの用事で先に帰ったんだ。他のみんなは多分、まだ帰ってくる途中なんじゃないかな」

「そ、そうでありますか」

 可奈子は目を丸くしながら俺を見つめて、ほっと胸を撫で下ろした。

「はい。これでしばらく、あの方々も大人しくしてくれるでしょう」

 千恵子はそう答えると、優しい笑顔を浮かべて場の雰囲気を和ませる。


「それはよかったですね~。またあの人たちに襲われるんじゃないかなって思ったら、心配でなかなか寝付きません」

 傍らで会話を聞いているムムも混ぜてきて、心に秘めている思惑を打ち明かす。

「もうムムったら、心配性なんだから! あんなロクデナシの連中は、アタシたちの相手なはずないでしょう!」

 一方ネネは恋蛇団の存在をまったく気にせず、強気に二つの拳をぶつけ合わせている。

「さてと、激しい戦いも済んだことだし、体が疲れてきたぜ……さっさとシャワーを浴びてくるか」

 俺は左手で右肩を揉みながら、寮に入ろうとする。

 ……だがしかし、俺の予想と裏腹に、戦いはまだ終わってはいなかった。

「あっ、見てください! 空から何かが落ちてきます……!」

 冴香の驚く声を聞いた俺は、反射的に振り向いて空を見上げた。それを見た瞬間、俺は思わず目を見開いた。

 あれは隕石のようなものだが、周りが黒い炎に包まれている。間違いない、あれは土具魔だ。

「ちっ、あの野郎……!! どんだけしつこいんだよ!」

 土具魔の執念深さに呆れた俺は、苛立ちを我慢できずに舌打ちをするとこういった。

「みんな逃げろ! こっちに近付いてくるぞ!」

 この光景を見ている正人も、ただぼっーとして見ているだけでなく、仲間たちに避難指示を出した。それを聞いた俺たちは慌てて後ろに下がり、何とか土具魔による襲撃を避けることができた。


「フハハハハハハ……!! どうだ、俺様の華麗な登場にビビったかぁ!」

 立ち込めるほこりの中で、土具魔の不気味な笑いが響き渡る。あまりにも視界が悪く、シルエットしか見えないが、奴がおもむろに立ち上がるのが分かる。

「てめえ、あのネガコレたちに食われたはずじゃねえのか!」

 何となく答えが分かっているが、俺の口が勝手に意味のない質問を投げてしまう。

「はっ、あんな雑魚風情が、この俺様に勝てるとでも思ってんのかぁ!」

 やっぱりそうか。相手はこの俺を何度も苦しめたんだ、今更野獣ぐらいでやられるわけがないよな。

「そんなことより、俺を心配する暇などあったら、まずは自分の心配をしたらどうなんだ?」

 一陣の風と共に、土具魔の周りのほこりが吹き飛び、奴の凶悪な表情も露わになる。それを見た俺たちは、気を引き締めて戦闘態勢に入った。


「約束通りに、貴様らの大事な場所を破壊しに来たぜぇ! そして一人残らずぶっ殺してやる! ハハハハハハハハハハ……!!!」

 狂気に染まった土具魔は、とても人間とは思えない言葉を口にしやがった。そんな奴の言動は、もはや悪魔に等しい。

「させるかよ! いい加減諦めろ!」

 俺の怒りがまだ収まりきれず、土具魔を指さして怒鳴り付けた。その声が、奴に届くはずがないと知りながら。

「諦めるわけねえだろうがぁ! せっかくここまで来たんだぁ、思う存分楽しまないと損じゃねえかぁ!」

 案の定、土具魔の野郎はそう簡単に引き下がるはずもなく、自分の欲望に忠実なことを言ってやがる。

「てめえ、またそんなことを……やっぱりいてえ目に遭わせねえと大人しくならねえようだな……!」

 俺は前に出て奴を止めようとするが、突然体が疲労感に襲われて重くなり、思う通りにうまく動かない。


「秀和君、大丈夫ですか!?」

 俺の変わった様子を見て心配になった千恵子は、側に駆けつけてくれた。

「ああ、まあな……どうやらさっきの戦いは、本当にキツかったみたいだぜ……」

「それは大変ですね……一体どうすれば……」

 打開策に悩む千恵子に、返されてきたのは土具魔の乱暴な声だ。

「おいおい、もうくたびれたのかよぉ!? もう少し楽しめると思ったのに、実に残念だぜぇ!」

 奴はそんなことを言っているけど、体に浮かび上がる傷跡が奴の強がりを物語っている。

「ならばこのオレが相手だ! お前のような悪党を、許すわけにはいかないからな!」

 正義の味方である正人は、この状況を見ても怯えることなく、前に出て土具魔の野望を阻止しようとする。

「あぁん、なんだ貴様は? ヒーロー気取りかよ?」

 初対面のことを忘れたのか、土具魔は不愉快そうに苛立つ表情を見せる。そのぞんざいな言いぐさも、いかにも悪党らしい。


「オレは先駆正人だ! お前のような悪いヤツらを始末するのがオレの使命だ!」

「名前なんて聞いてねえよ! どうせ貴様のような弱虫が、すぐに俺様の炎の餌食になるからなぁ!」

 そう言うと、土具魔はすかさず黒い炎を手のひらに発生させ、正人に攻撃を仕掛けはじめた。

絶世の黒炎(エルスラグマ)ァァァー!!!」

 土具魔の甲高い声と共に、黒い炎を帯びる玉が正人を目掛けて飛んでいく。そして後ろにいる俺たちを配慮しているのか、正人は避ける様子もなく、土具魔の攻撃を受け止めようとする。

 正人はまだ体験したことがないから分からないかもしれないが、あいつの攻撃は半端なく強い。あんな攻撃を真っ正面から受け止めようものなら……


「危ねえぞ正人! 早く避けろ!」

 この後の展開は、とても考えられない。無駄な犠牲が生まれないためにも、俺は思わず大声で正人を注意した。

 しかしそれでも正人は避けない。それどころか、彼は膝を屈めて拳を握り締め、土具魔の出した火の玉を防ごうとする。

 何やってんだよ、正人! これはサッカーの試合じゃねえぞ!

 焦った俺は正人を引っ張ろうとするが、いかんせん力が体に入らず、動くことすらままならない。もう、ここまでなのか……!

 恐怖のあまりに、俺は目を閉じてその悲惨な光景を見ないようにするしかなかった。


「……ボーン!」

 大きな爆発音と共に凄まじい強風が起こり、俺たちの顔や髪に当たっている。しばらくして、それが治まると俺はゆっくりと目を開き、正人の様子を確認する。

 だが俺は目にした光景に驚かざるを得なかった。なぜなら、そこにいるのは正人だけではなかった。

「まったくもう、あたしたちの縄張りで暴れるなんて、いい度胸してるじゃない! ねえ、静琉?」

「あらあら、その意見には賛成するわ、十守。悪い子には、ちゃ~んとオシオキ、しておかなくちゃね」

 正人の前には、ファイティングポーズを決めている十守先輩と静琉先輩がいる。そして正人本人は、まだ状況が掴めず、唖然としている。

「そこの君……えっと、正人くんだっけ? 早く下がりなさい! 巻き込まれてあたしたちに殴られても知らないわよ!」

「いや、オレも一緒に戦うぜ! こんな悪党を放っておくわけにはいかない!」

 十守先輩は後ろを振り向いて、親切に正人を危ない目を遭わせないようにするが、熱血漢である彼は下がろうとせず、依然として戦う意志を見せている。

 その時、静琉先輩は正人に近寄って、こう言い出した。


「あらあら、元気のいい子だわ。でもあなたたちはさっき十分頑張ってくれたし、今はちゃんと休んでおいてね。後は先輩たちに任せちゃえばいいから」

 静琉先輩の声はとても優しく、思わず甘えたくなるぐらいだ。

「そうか……分かった。けど、キツくなったら無理はしないでくれよ!」

 正人は二人の好意に甘えて、拳を下ろして後ろに下がる。それでも彼は油断することなく、いつやってきてもおかしくないであろう土具魔を警戒している。

「よう、遺言は済んだかぁ? もう待ちくたびれたぜ……さっさと始めろや、最後の殺し合いをなぁ゛!」

 ずっと空気扱いされていた土具魔は痺れを切らし、再び凶悪な笑みを浮かべて虐殺を始めようとする。

 もちろん、先輩たちは奴の思う通りにはさせないだろう。

「ええ、そうね……そろそろ終わりにするわよ、こんなふざけた戦いをね!」

 十守先輩はいつの間にかメリケンサックを両手にはめて、ガンガンとぶつけ合わせている。

「あらあら、やる気満々ね、十守。私も頑張っちゃおうかしら」

 静琉先輩も俺の知らないうちにムチを手にしており、撫でるように弄んでいる。

「へっ、準備ができたようだなぁ! さぁ、この俺様が一瞬であの世に送ってやるよぉ゛!」

 ドスの利いた声を唸りながら、全身に黒い炎を纏って二人へと突進する。


「来るわよ、静琉!」

「ええ、見れば分かるわ。それじゃお先にどうぞ、十守」

 目付きが鋭くなった十守先輩に対して、静琉先輩はまったく動じず、いつものように落ち着いている。

 二人と土具魔の距離が、だんだん縮まっていく。そろそろ白熱した戦いが見られるぞ。

「おーーーりゃああああああああぁ゛!!!! さっさとくたばるがいいぜ、このクソアマどもがぁ!」

 虐殺の快感に溺れた土具魔は禍々しい赤い瞳を光らせ、牙を剥く。あの生き生きした様子だと、とても先ほど激しい戦いをしたとは思えない。

 だが十守先輩も半人前じゃない。彼女はそんな土具魔を見て、怯えて逃げ出さずに構えはじめた。

 ……そして、次の瞬間に。


「はあああああ!!!!!」

 十守先輩の大きな掛け声と共に、彼女の全身から黒いオーラが発生し、何とも言えない威圧感を放つ。さすがにあの土具魔もビビったのか、奴は突進を止めて一歩後ろに下がった。

 視線を十守先輩のほうへと戻すと、彼女の周りの黒いオーラが徐々に形を変えていく。あのたてがみや牙からすれば、どうやらあれは獅子のようだ。

 ん、まさか十守先輩も憑依獣(パラサイト・ビースト)を……!? いやいや、そんなまさか。

「随分と生意気な口を利いてるじゃないの……だったらあたしも手加減する必要はなさそうね!」

 十守先輩は少し膝を屈めると、獲物を捕獲するような鋭い目つきで土具魔を凝視する。

「さぁて、あたしが黒獅拳(こくしけん)で、ぎゃふんと言わせてやるわよ!」

 黒獅拳? 聞いたことのない言葉だな……どうやら、俺と土具魔の憑依獣とは違う資質のようだな。

「へっ、俺様みてえな憑依獣かと思ったら、ただの偽物かよ! 貴様のような雑魚が、この俺様に勝てるわけが……」

「はああ!!」

 土具魔が格好付けている途中で、十守先輩は手のひらを開き、前に強く押し出す。するとそこから強風と共に、バスケットボールの大きさもある弾が土具魔に直撃した。

「ぐわはっ!? や、やりやがったな貴様!」

 自分のことを一番大事に思っている土具魔は、自分が傷つくことに怒りを覚えたようだ。

「ふふん、どうかしら? あんまり相手をバカにすると、こういう目に遭うわよ」

 まともに攻撃を喰らった土具魔を見て、十守先輩は得意げに笑っている。

 だが、土具魔はこれぐらいで動揺するはずがない。むしろ奴を興奮させることになるだろう。


「そうかよ……ククク、少しはやるじゃねえかぁ! こいつは退屈しねえで済みそうだぜ!」

 予想通りに、土具魔はまたしても怖い顔つきになって、激しい戦いを期待しているようだ。

「おらぁ、次はこっちの番だぜぇ!」

 土具魔は片手に黒い炎を宿し、反撃を図っている。

「そうはさせないわよ!」

「ぬぅ!?」

 十守先輩は前に踏み出し、土具魔との距離を詰めようとする。そしてそのメリケンサックには、いつの間にか黒いオーラで出来た長くて太い針のようなものが何本か伸びている。

 攻撃される危機に晒された土具魔は反撃を止め、守備の体勢に転じた。致命傷は免れたものの、何メートルも飛ばされたその様子じゃ、かなり有効だったみたいだな。

 ただ、十守先輩の攻撃はこれで終わりじゃなかった。

「まだまだ行くわよー!」

 十守先輩は自分の両手にオーラを纏い、それを獅子の頭の形に変えた。そして彼女は更に前に突進し、土具魔に反撃の隙を与えないよう絶え間なく攻撃し続ける。

「はああああああああああー!!!」

 十守先輩は勢いよく叫んだ後、雨のように土具魔に攻撃を浴びせ続けている。土具魔は為す術もなく、ただ腕をあげて防御するしかない。

 このままだと勝ち目はあるかもしれないと密かに期待していた俺だったが、現実はそううまくいかない。


「けぇ、いい気になるんじゃねぇぞ、おらぁ!」

 土具魔は機嫌悪そうに顔を歪めると、またしても全身を炎に変化させた。

「ちょっと、またその卑怯な手を……!」

 突然の出来事に、十守先輩は眉をしかめる。そして次の瞬間に、彼女の後ろにはいくつかの黒いの火の玉が燃え上がり、やがて集まって人の形になる。

「へっ、かかったなぁ! これからは俺様の番だ……ぐわぁ!?」

 土具魔は不敵な笑みを浮かべて反撃に移ろうとするが、水に掛けられて情けない悲鳴を漏らした。

 そういえば、何だか涼しい気がする。近くを見ると、千恵子はまたあの新しい資質を発動しているのが分かる。

「ムムさん、加勢をお願い致します!」

 千恵子は後ろを振り向いて、ムムに合図を送った。

「はい、任せてください~!」

 ムムは元気な敬礼をし、明るい声で千恵子に返事をした。


「参ります……蒼碧(そうへき)清水漣(せいすいれん)!」

 千恵子は中指と人差し指を立て、まるで忍術を発動しているかのように雫を作り出す。そしてあっという間に雫が集まり、竜の形になっていく。

「スプリング・タクト! えい~♪」

 ムムは手中の指揮棒を振り、千恵子の作った水竜を操りはじめた。なるほど、実にいい連携だな。

 操られた水竜は、土具魔を目掛けて飛んでいく。奴に接近した瞬間に、巨大な水竜はその体を包み込む。

 溺れている土具魔は焦りのあまりにもがき苦しみ、その水竜から脱出しようとする。

 はっ、ざまねえな。やっぱ炎には水で消さないとな。

「おや~、逃げるつもり? そうはいかないよー!」

 必死にもがく土具魔を見て、ネネは何かを思いついたか、イタズラっぽい表情を見せている。

 ネネは片方のローラースケートに点火し、自身を中心に高速回転を始めた。それにより周囲は強い風が起こり、俺たちは目と閉じざるを得なかった。

「そぉーーーれっ!」

 ネネは回転を止めると、すさまじい竜巻が水竜に向かって前進して、土具魔ごと巻き上げる。渦巻きに吸い込まれたため、奴の思い通りに身動きが取れなくなる。

 しばらくして水竜と共に竜巻が消え、土具魔は地面に落ちる。見るからにはかなり痛そうな場面だが、土具魔相手じゃどうしても同情心が湧かなくなる。


「ぬぅぐわあああああ!!! な、なぜだ……! この俺様が、ここまでやられるとはぁ……!!」

 土具魔は自分の傷を押さえながら、やかましい声を立てた。その赤い血眼に見えるのは負けた悔しさか、それとも俺たちの大事な居場所を破壊できなかった怒りか。

「てめえが、一人で何でもできると思ってんじゃねえよ」

「んだとぉ!?」

 俺の答えを聞いた土具魔は、怒り心頭に発して俺に反発する。

「もし俺が一人でてめえらに戦いを挑んだら、恐らく俺はとっくにやられちまっただろう。だがこうして仲間たちと協力し合うことで、予想外の成果が出た」

「貴様、一体何が言いてえ!」

 焦って理解能力が衰えたか、土具魔は発狂した野獣みたいに俺に吠えた。

「要するに、俺とてめえの差は仲間を大事に思うかどうか、それだけだ。すくなくとも俺は、仲間をコマ扱いしたりしねえよ」

 勝ち誇る俺は土具魔の弱まった精神をも打ち砕くように、容赦なく追撃の言葉を口にした。

 すると土具魔は立ち上がり、こっちに睨みつけてきやがる。どうやらまだ諦めていないみてえだな。


「うるせえ、貴様に何が分かる! この世は力こそすべてだぁ! 力のねえヤツは、他人に捻り潰される運命しかねえんだよ!」

 怒り狂った土具魔は、再び全身に黒い炎を纏い俺たちに攻撃を仕掛けようとする。

「うおおおおおおおおー!!!」

 そのすさまじい雄叫びには、俺たちをぶっ潰す決意がこもっているのが分かる。とうとう本気を出したか。

 だが、それでも優勢がこっちに傾いていることに変わりはない。そろそろ決着をつけようじゃねえか。

「もうこれ以上、貴方の好きにはさせません! 蒼碧の清水漣……!」

 自分の大切な寮を守るために、千恵子もいつもより張り切って、土具魔に更なる攻撃を仕掛ける。

 しかし、同じ攻撃が通用しないのはこの男だ。


「またそれかよ! いい加減飽きたぜ! 絶世の黒炎(エルスラグマ)蒸水焔ミルスティア!」

 土具魔は空を見上げて意味不明の技名を叫ぶと、黒い炎が丸い輪っかに変化し、奴を包囲している。

 するとどうだろう。なんと水竜がその炎の輪っかに触れた瞬間に蒸発し、蒸気と共に消えていく。

「ば、バカな……!!」

 予想外の事態が起きて、俺は思わず驚愕した。

「ククククク……ヒャーハッハッハッハッハァー! どうしたぁ、そんな驚いた顔をしやがって! まさか炎が水に勝てるとは思わなかっただろう! 水が炎を消せれば、炎だって水を消せるんだぜ!」

 事が自分の思い通りに運んだからか、土具魔はまたしてもあの気色悪い笑い声を発し、俺たちを挑発した。

 くそっ、もし今の俺には力が残っていれば、今すぐ奴の顔面にパンチを一発ぶち込んでやりてえぜ……!

 しかしその時、思わぬ切り札が打って出た。


「あらあら~、私のことを忘れてないかしら?」

「ん?」

 土具魔は声のした方向に視線を向けるが、そこには誰もいない。代わりに奴が気付いたのは、自分の足に絡みついた縄のようなものだった。

 そして次の瞬間に、奴の体は不規則な動きをして、近くにある木に飛んでいきぶつかった。

「ぐはっ! き、貴様……! よくもこの俺様を……!」

「あらあら、まだしゃべる余裕があるのね。それじゃ、もっと可愛がってあげなくちゃね」

 ムチを握っている静琉先輩は、片手を頬に当てながら、依然としておっとりした口調で話している。

 土具魔はまたしても炎に変化して逃げようとするが、なぜか今回はうまくいかないようだ。

「ちくしょう、どうなってやがる!」

「あらあら、逃げるつもりなの~? 私のご褒美はまだ終わっていないのに、悪い子ね~」

 そう言い終えると、静琉先輩はムチを握っている手を大きく振り、土具魔を地面に叩きつける。

「ぐわああああ!!!」

「まだまだ、これからよ~」

 こうして静琉先輩は、笑顔を浮かべながらムチを振り回し続け、絶え間なく土具魔にダメージを与えていく。

 静琉先輩の優しい声とは裏腹に、やっていることが恐ろしい。その笑い声と土具魔の悲鳴が、とてつもない違和感を醸し出す。

 そのためこの場にいる全員は、例外なくあっけに取られている。そう、静琉先輩の親友である十守先輩も含めてな。

「静琉……あんたがそんなキャラだったとは思わなかったわ……」

 よほどショックを受けたのか、十守先輩は思わずこんなことを口走る。

 確かに、これは同感せざるを得ないな。本当、静琉先輩は敵じゃなくてよかったぜ。これからはあまり怒らせないほうがよさそうだな。


「ちょっと静琉、みんな怯えてるから、さっさと終わらせてよね!」

「あらあら~、残念だけど、そろそろおしまいにしようかしら」

 十守先輩に注意されて、静琉先輩は残念そうにため息をついた。まだやり足りてないのかよ。

「ああ、早く……終わらせてくれっ! もうこれ以上は……耐えられねえんだよ!」

 まさかあの土具魔がこんな情けないことを言うとは、夢にも思わなかった。

「はい、そぉ~れ♪」

 静琉先輩は呑気な声を出すと、ムチをさっきより素早く振り回した。しばらくそれを続けるとムチの動きを止めて、土具魔を空に放り出す。

「うおおおおおおぉぉぉぉー!?」

 まるでロケットのように飛んでいく土具魔は、為す術もなく空に消えていった。アニメなら悪役の捨て台詞が聞こえるのだが、現実じゃそうはいかないよな。

 邪魔者が消えたことによって、俺は緊張を解し、ほっと胸を撫で下ろす。そして寮を大事にしている千恵子の険しい表情も少し和らいだ。


「ふぅ……一件落着、ですね」

「ああ、そうだな」

 千恵子の安心した笑顔を見て、俺も無意識に微笑んだ。

「お~い! みんな無事かー?」

 突然、遠くから誰かの叫び声が聞こえてくる。あれは聡だ。

 俺は声のした方向に視線を向けると、そこには他の仲間たちがいる。


「ああ、大丈夫だ。お帰り、みんな」

「あれ、あのイカレ野郎はどこにいったか?」

 バイクから降りた聡は、あちこち土具魔の姿を探している。

「残念だったな、ついさっき星になって消えてったぜ。もう少し早く来ていたら、あいつの間抜けな姿が見られたのにな」

「マジかよ!? くぅー、見たかったぜ~」

 一番のクライマックスを見逃してしまい、聡は悔しそうに頭を抱えて文句を言う。

「大丈夫よ、後で隠れ家(セーフハウス)に戻って映像を見ればいいわよ」

 ここで十守先輩は、嬉しい情報を提供してくれた。それを聞いた聡は、すぐに元気を取り戻して大喜びする。

「おっ、さすが先輩ッス! 気が利くなぁ~」

 そして同じくバイクから降りた哲也も、俺の側に来てくれた。


「今日はお疲れ、秀和。作戦はうまくいったようだね」

「君もな、哲也。まあ、最後は俺じゃなく、他のみんながやってくれたんだけどな」

「それも君の作戦があったからこそだ、秀和。もしこの最初の一歩を踏み出せなかったら、ここまでやってこれなかったかもしれない」

「まあ、それもそうか。とりあえず、俺を信じてくれてありがとうな、哲也」

 俺は哲也に感謝の気持ちを伝え、手を出した。すると哲也は笑ってこう返した。

「ははっ、何を今更。もし僕は君を信じていなければ、最初から君と友達になるつもりはなかったのさ」

 哲也は暖かい言葉をかけると、俺の出した手を握ろうとする。だが、俺と哲也の手の間に、第三の手が入ってくる。

「ふふ~ん、私もいるんだよ~今日は大勝利だったね! みんなお疲れ様!」

 菜摘は明るい笑顔を浮かべながら、俺と哲也の手を重ねてきた。その温もりが、一層強まった気がする。

「ああ、菜摘もお疲れだな。なかなかいい戦いっぷりだったぜ」

「えへへ~まだまだ頑張らないとね!」

 俺に褒められて照れているのか、菜摘は舌を出して照れ隠しに笑った。

「皆さん、お疲れ様です。今日の打ち上げ用のお料理も、腕を振るわなくてはなりませんね」

 千恵子は晩メシのことを考えていながら、俺たちの会話の輪に入ってきた。

「お疲れ、千恵子。って、まだ気が早いじゃないのか?」

「いいえ、そんなことはありません。今はもう午後4時です。これだけ人が多いと、お料理を作るのも一苦労だと思います」

「それじゃ、私も手伝うよ~!」

「ふふっ、ありがとうございます。それじゃお言葉に甘えさせて頂きますね、菜摘さん」

 千恵子は微笑んで、菜摘の好意に感謝する。うーん、やっぱり俺はこの喜ばしい雰囲気は大好きだな。


「さ~て、邪魔な奴も消えたことだし、そろそろ打ち上げといきますかっ!」

「イエーイーーーー!!!!!」

 十守先輩の提案に、俺たちは賛成の声を上げた。そして俺たちはこの場を後にし、いつものショッピングモールへと向かう。

菜摘「いやぁ~、勝った後はやっぱり気分いいよね~」

秀和「そうだな。こういう時に限って、めしはいつもよりうまく感じるぜ」

哲也「その気持ち、とても分かる気がするよ。また昔を思い出すな」

秀和「おい哲也、その話はもう言わない約束だろう」

菜摘「そうだよ! せっかくのいい雰囲気を壊しちゃダメだよ、哲也くん!」

哲也「ははは……すまない。浮かれてつい口走ってしまったんだ」

千恵子「秀和君たち、昔は一体何があったのでしょうか? 気になりますね」

秀和「あっ……話せば長くなるさ。また今度話すぜ」

千恵子「そうなのですか。かしこまりました、またご機会がありましたら是非お聞かせ下さい」


碧「みなさん、お疲れ様でした」

秀和「おっ、碧か。さっきのカード、ありがとうな」

碧「いいえ、お役に立てたようで何よりです」

菜摘「ねえねえ碧ちゃん、今度は私にも使わせてね、あのカード!」

碧「あっ、はい……でも先に言っておきますが、下手したら大変なことになりますよ?」

菜摘「大丈夫大丈夫! そんな細かいことは気にしないの!」

碧「いいえ、気にしたほうがいいと思います……」


秀和「やれやれ、相変わらず怖いもの知らずだな、菜摘は」

哲也「そうかい? 僕はただの無邪気だと思うけどね」

千恵子「ふふっ、皆さん本当に面白い方々ですね」

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