リボルト#12 陥落する黄金の楽園 Part4 パーティの参加者は揃ったぜ
※このパートには暴言が含まれています。閲覧にはご注意ください。
「……土具魔ぁ! 俺たちの邪魔をするつもりか!」
目の前に現れたこの憎たらしい敵を見て、俺は怒らずにはいられなかった。
「ったりめーだろう! 貴様らに好き勝手にさせりゃ、この俺様の威厳がどこにあるってんだ!」
土具魔は狂った血眼で俺たちを睨みつけ、相変わらず自己中なことを口走る。どうやら俺たちを通してくれそうにねえな。
「どうしよう、秀和くん?」
後ろにいる菜摘は、緊張した声で俺に次の作戦を求める。
俺たちの目標は、あくまでパワー供給源を破壊することだ。それなら……
「しょがねえ、ここは聡と碧に任せるしかねえな。二人は先に行ってくれ! こいつは俺たちが食い止める!」
「おう、わかったぜ! おまえら、無事にいてくれよな!」
「皆さん、気を付けてくださいね!」
聡と碧は俺の指示を受け、目標の部屋に向かって走り出した。
「あっ、秀和先輩、これを!」
突然に響く碧の声。俺は視線を彼女の声がした方向に向けると、そこから一枚のカードが飛んでくる。
俺はとっさの反応でそれをキャッチした。さっき彼女が使っていたものみたいだ。
「もし何かあったら、それを使ってください!」
「ああ、分かった。ありがとうな、碧」
「いいえ! それじゃ、行ってきますね!」
「気を付けるんだぞ」
俺は碧に別れの言葉を送ると、再び土具魔に目を配る。
「んで、遺言は済んだかぁ? まだならもう少し時間をやってもいいぜ?」
妙に親切な土具魔のセリフに、とてつもない軽蔑を感じる。まるで俺たちは、これからの戦いで必ず負けるような言い方だ。
……ふざけやがって。負けるのはてめえの方だ!
「へっ、てめえこそ言い残すことはねえのか? あの世に行く前になぁ!」
俺は左手の人差し指で土具魔を指さして、負けじと彼を挑発するような言葉を口にした。
「その心配は必要ねえぜ。なぜなら死ぬのは……貴様らだからなぁ゛!!」
凶悪な声を上げながら、土具魔は両手に黒い炎を纏わせた。そして彼は凄まじい勢いで、こっちに突進してきやがった。
「来るぞ、二人とも! 準備はいいか?」
「ああ、いつでもいいさ。相手はかなりの強者だけど、こっちは三人いるからね」
「うん、鋼の大三角の実力を見せちゃおうね! 秀和くん、哲也くん!」
そうだ、何も恐れることはねえ。俺たちの絆の力は、こんな殺戮しか知らない奴に負けるはずがねえ。
待ってろよ土具魔め、今すぐコテンパンにしてやるからな!
「何をブツブツ言ってんだよぉ゛! 大人しくそこで焼かれろやぁ゛!」
あっという間に土具魔の両手の炎が燃え盛り、勝利を確信したかのように奴の笑顔が歪んでいやがる。
「さあ、行くぞ!」
俺たちも迎撃しようと、土具魔に向かって走り出す。
「へっ、自分から死にに来やがったのかぁ! 俺様の思う通りに動いてくれてうれしいぜぇ!」
俺たちの考えも知らずに、勝手に自分の都合のいい方向に解釈する土具魔。
ふんっ、すぐにてめえのその考えが間違っていることを教えてやるよ、このサイコパスめ!
「おらぁ! これでも喰らっちまえええ!!」
土具魔は片腕を上げて、黒い炎の纏った拳を繰り出してくる。ちょうどその時に、盾を構えている哲也は前に出て土具魔の拳を防いだが、あまりにも衝撃が強すぎて少し後ろに押された。
もちろんそんなことも想定済みだ。俺はその隙に奴の側面に移動し、銃を撃った。
だがこんな攻撃は奴に通用するはずがない。銃声に気付いた土具魔はこっちを見もしないで、素早く小さな火花を飛ばして俺の銃弾を弾き返しやがった。
いや、それだけじゃない。奴が飛ばした火花の数は、俺が撃った銃弾の数より多かった。残りの火花は俺の銃に当たってしまい、俺の手はその熱さに耐えきれず、反射的にそれを捨てた。
「おいおい、そんなオモチャで遊ぶなんてつまんねえだろう! もっと俺様を楽しませろや!」
土具魔はまたしてもその醜い笑顔を浮かべ、俺たちを挑発し続ける。
そうか、そんなに遊びてえのか。だったらとことん付き合ってやろうじゃねえか!
「へっ、後悔するなよ……!」
俺はいつものように右手にP2をためて、土具魔に向けて稲妻の槍を連射する。しかしどれも奴に簡単にかわされてしまった。
「ハッハッハッハッ、学習力ゼロだなぁ! この前に俺様が言ってたことを忘れたのかよぉ! 本当に貴様はとんだバカだなぁ!」
土具魔は俺の攻撃を避けながら、余裕そうに俺を嘲笑う。
ふんっ、バカはてめえの方だぜ! 何も考えずに槍を出してるとでも思ってんのか? わざとかわしやすい技を出しててめえの気をよくさせておいて、油断した隙に大技を決めてやる!
そんなことを考えていると、奴は2時の方向に着地した。よし、今がチャンスだ!
「千里の一本槍……」
「へっ、またその技かよぉ! もう飽き飽きだぜ!」
「……射!」
電気の帯びた玉が、扇状に拡散して一斉に前進する。これで避けられねえだろう!
俺の新技を見た土具魔は驚きで目を見開いたが、すぐにその表情は歪な笑顔に戻り、奴も体勢を立て直して反撃を始めた。
「はっ、少しはやるようだなぁ! だがこんな子供騙しの技は、この俺様に通用すると思うなよ!」
そう言うと、土具魔は早くも両手に黒い炎を纏わせ、指先から黒い蛇の形をした細長い炎を飛ばして、俺が出した玉と相殺した。
だがこうなるのも想定内だぜ。奴が炎を飛ばしてきた隙に俺は既に襲の発動を終え、ミサイル稲妻が土具魔の後ろに回ってまた奴に向かって戻ってくる。
「へっ、そう来たか、おもしれえ゛! 強くなった貴様を倒したほうが、俺様の強さを証明できるぜぇ゛!」
それでも土具魔は動揺する様子がまったくなく、その顔には依然としてぞっとするような醜い笑みが浮かんでいる。
奴は床を強く踏みつけると、凹んだ場所から黒い炎の壁が現れ、俺のミサイルことごとく防いだ。
なかなかやるぜ、この野郎。さすがは数千もの命を殺めてきただけのことはあるか、普通の手じゃ通じそうにねえな。
だが、こっちは3人もいるからな。「三人寄れば文殊の知恵」とかいうし、そろそろそれを証明する時が来ようだな……!
「おいおい、貴様の実力はそこまでかぁ!? 少しはやるようになったって期待してたが、大したことはねえみてえだ……なぁ!?」
得意げに俺を見下ろしている土具魔に、異状が起きたようだ。
それもそのはず。なぜなら黒い炎の壁が消えたとたんに、盾を構えている哲也はそいつに体当たりしたからだ。
だが肝心の決め手はまだ出ていない。その役割を果たすのは……
「くそったれ! いきなりぶつけてきやがって……んっ!?」
吹き飛ばされて苛立つ土具魔は、突然視線を床に移した。奴の足元には、赤とオレンジ色のひし形の炎がメラメラと燃えている。
言うまでもなく、あれはこの前の模擬戦で変身した菜摘が考えた技だ。まさかここで活用するとは、菜摘も成長したんだな。
だが菜摘の実力は、俺の想像以上に強くなったみたいだ。あの炎の陣がただ燃えるだけでなく、ひし形の空間の中では光の柱が跳ね上がり、土具魔の全身を覆った。そして次の瞬間に光の柱がドンドン広がっていき、大きな爆発音と共に消えていった。
「うわ~、すげえ花火だな」
「へへっ、どうだった今の? すごかったでしょう!」
俺の賛嘆に反応して、菜摘はドヤ顔を浮かべて返答した。
「ああ、実に菜摘らしい派手な作戦だね」
傍らでこのとんでもない光景を見上げている哲也も、思わず褒めの言葉を口にした。
「えへへ、ありがとうね二人とも」
俺と哲也に褒められて気をよくしたのか、菜摘は今の状況をすっかり忘れて、頬を赤めながら喜びの声を上げた。
もちろん、俺はこの技であの野郎を倒せると全然思っていない。まあ、ある程度奴にダメージを与えられれば、それだけで大きな進歩だ。
「ぐはっ……! 貴様らぁ゛、よくもこの俺様の体に傷を負わせやがったなぁああああ゛!!!」
ついに、独りよがりな土具魔のその顔には余裕の笑顔がなくなり、怒りに歪んだ表情になる。へっ、いい気味だぜ。
「どうだ、サイコパスめ? ようやくやられた時の痛みを知ったか!」
そんな負け犬を俺は見下ろして、勝ち誇った声で奴を圧倒しようとする。
「君はどんな過去があって、こんな風になったかは知らないけど、少なくとも殺人は許されることじゃないと思うぞ」
哲也は理性的な口調で、土具魔の邪悪な意識を気付かせている。もっとも、あれぐらいの話で奴の殺人意欲を弱められればの話だがな。
「そうだよそうだよ! あんなひどいこと、絶対にやっちゃダメだって!」
そしてこの状況の深刻さが分からない菜摘は、まるで子供を叱るかのように土具魔を怒鳴りつける。
「はっ、よく言うぜぇ゛! 貴様らだって俺たちとやってることと変わらねえのに、あたかも自分が正しいように言ってんじゃねえぇぇ゛!!」
予想通りに、土具魔の怒りが一層強まった。その血のような赤い眼は、獲物を捕獲しようとする蛇のような怖さだった。
「どういう意味だ? 俺たちをてめえのようなサイコパスと一緒にするな!」
そんなデタラメを言われてはたまったもんじゃねえ。今度は俺が怒って、大声で彼の戯れ言を反論する。
「貴様らはここに来る前に、何人殺してきたんだ? 奴らの悲鳴を聞いた時に、心の中で『気分がいい』と思ったことがねえのかよ!」
なるほど、そういうことか。そんな無意味な苦情、今すぐ崩してやる!
「俺たちは自由のために戦ってるんだ。てめえのようなただ快楽のための殺人とは違う!」
これで土具魔の野郎が大人しく黙ると思っていたが、奴は何かを思いついたかのように話を続けた。
「へっ、自由か……そういえば、ずっと納得できねえことがひとつあるんだな」
「なんだ?」
俺は奴の真意を探ろうとするが、なんと奴が次に言う言葉が俺の心を動揺させた。
「貴様は、確かルールに縛られるのが嫌いだったなぁ」
……っ!? 何故あいつが、俺のことを……いや、そんなはずが……聞きたいことは山ほどあるが、今はそれどころじゃないな。
「そ、それがどうした?」
俺は平静を装っているが、心の中はすでに焦っている。それでも、あいつに隙を見せるわけにはいかない。
俺のしゃべり方でバレてしまったのか、土具魔はニヤリと笑っていやがる。やはり現実はそううまく行かないもんだな、ちくしょう。
「貴様はルールに縛られたくないところは、俺様とよ~く似てるぜ。だったら、あんな奴らとこんなバカげたヒーローごっこをやってねえで、俺様たちと手を組むのはどうだ? もちろん、タダとは言わねえぜぇ」
「ええ!?」
「なっ、なんだって……!」
土具魔の予想外の提案に、思わず驚く菜摘と哲也二人。
へっ、いまさらスカウトかよ。わりぃが、俺の決意はそう簡単に動くものじゃねえ。
「やなこった。俺は今一刻も早くてめえらをぶっ倒して、帰るべき場所に帰りてえだけだ」
「あぁん? なんでだ! 俺様たちのようなフリーダムな人生を送りたくねえのかよぉ!」
案の定、怒り狂った土具魔は荒い声で俺を詰問し、俺たちの考えの違いを知ろうとする。
「いいか、サイコパスめ。『自由』というのはな、何をやってもいいってわけじゃねえんだぜ」
「んだとぉ!?」
「本当の自由はな、秩序のもとにあるものなんだぜ。何も考えずにただやりたい放題をするのは、ただの混沌だ! そう、てめえの名前のようにな!」
ここぞとばかりに、俺は目の前の敗北者を責め立てる。心はまるでたまっていたマグマを噴出した火山のように、気持ちいいったらありゃしねえ。
そこで、俺は突然いいことを思いついた。これにより俺の口元が緩んで、奴を見る目も軽蔑の視線に変わった。
「いや、朝倉英治、とでも呼んでおこうか」
奴は自分の本名を名乗らないのは、きっとその名前が嫌いだからだ。だったらそれを口にして、奴のプライドに泥を塗ってやろうじゃねえか。
思った通りに、土具魔の目つきは一瞬でギロリとなって、俺を睨みつける。
「今、なんつったぁ……?」
ふんっ、効果抜群のようだな。もっと奴の心をズタボロにしてやれ!
「てめえは自分が人を殺せてすごいと思っているかもしんねえけど、俺たちからすりゃただの負け犬なんだぜ。本当に、てめえは可哀相な奴だな、朝倉ちゃんよ」
「やめろぉ゛! その名前で俺様を呼ぶんじゃねぇ゛!」
俺に挑発され続けて、土具魔の顔色はまるで悪いものでも食べたかのようにおかしくなる。
「はっ! こんなすごい自分に、俗世の名前がふさわしくないってか? 本当に自己愛の塊なんだな!」
「だまれぇ゛……だまりやがれぇぇぇ゛!!!」
土具魔の両目が血走り、全身に黒い炎を纏わせてこっちに突進してきやがる。
へっ、あんなに興奮してるようじゃ、いつものように俺たちの作戦を冷静に対応できそうにねえな。そう思うと、俺は思わず微笑んだ。
その時防衛要員の哲也は、またしても盾を構えて土具魔の突進を食い止めている。彼は膝を屈めてなんとしても押されないように頑張っているが、いかんせん土具魔の力が強すぎてだんだん後ろに下がっていく。
哲也の努力を無駄にするわけにはいかない。俺は素早く走り出して、二人のせめぎ合いに近づける。
俺はP2を自分の両足にため込んでおき、それを稲妻に変化させた。一瞬の強い爆発力が、俺を高いところまで飛ばした。もし天井が低いところにあったら、絶対頭にたんこぶが出来るだろう。
哲也を飛び越えた俺の真下には、あの忌まわしきサイコパスがいる。俺は自分の両手の指を絡め、大きな拳を作った。そしてこれに稲妻を纏わせ、大きく振りかざす。
「千里の一本槍……鎚!」
落下した俺は重力によって加速し、土具魔にヒットした技の威力も強くなる。マトモに俺の技を喰らったそいつは、頭が地面にめり込んだ。へっ、いい気分だぜ。
よし、奴が動けない今のうちに、そろそろトドメを刺してやろうじゃねえか!
「千里の一本槍……空雷柱!」
俺の声と共に、ここから二、三階高い場所から稲妻の柱が降りてきて、外れることなく土具魔に命中した。
黒い炎を帯びている土具魔は、眩しい稲妻の光に包まれていく。そう、何も見えないくらいに。
「やったね、秀和くん、哲也くん!」
勝機が見えてきたのか、菜摘は小躍りして喜びの声を漏らした。
「ああ、やったぞ! この技を喰らえば、そう簡単に立ち上がれないはず!」
しかもあの冷静な哲也も、いつになく興奮している。勝利の渇きが、彼の理性を乱しているのか。
だが誰よりも土具魔を倒したい俺は喜ぶ余裕がなく、依然として険しい顔になっている。
アニメやゲームではよくある、敵にトドメを刺して勝利したかと思われるシーン。「やった」と言えば、敵は必ず何事もなかったかのように立っている。
もしかすると、この法則はこの場合にも通用するかもしれない。嫌な予感がするぜ。
「へっ、すべてはうまく行くと思ったのかよ?」
「……っ!!」
予想通りに、光の中で土具魔の気色悪い声が響く。そしてすぐさまそれが奴の黒い炎にかき消された。
「えええー!? どうしてまた立てるの!?」
「そんなバカな……あんな凄まじい攻撃を受けて、立ち上がるはずが……!」
もちろんこんな光景を見て、驚かない二人じゃない。元気に立っている土具魔を見て、菜摘と哲也は目を丸くした。
「ばーか、俺様はカオスなんだぜ? 常識が通用するわけがねえだろうがぁ!」
土具魔は舌を吐いて、俺たちをゴミを見るような目で見下ろしている。実にムカつくぜ。
だが、それだけで終わりじゃなかった。
「それにしてもちょろいもんだなぁ。俺様がちょっと怒ったふりをしただけで、貴様らは自分の挑発が通用したとでも思って、いい気になったんじゃねえかぁ?」
「なんだと!? じゃあさっきのは……」
土具魔の真意を察した俺は、震えた声で奴に質問する。
「そぉだ、全部俺様のお芝居ってわけだぁ! 俳優に向いてるかもなぁ、がははははっ!」
自分の演技を誇る土具魔は、恥も知らずに大笑いしている。あまりの感じ悪さに、今すぐにぶん殴ってやりたい気分だぜ。
「まあ、貴様が俺の『あの名前』を口にしたのを聞いた時、本気でぶっ殺したいと思ってたけどなぁ。どこでそれを知ったのかは知らねえが」
「……てめえに教える義理はねえ」
「まあ、だろうな。それよりさぁ、このパーティは少し寂しいと思わねえか?」
何の前触れもなく、突然話題を変え始めた土具魔。何か深い意味でもあるのか?
「どうした、急に話を変えて」
「おいおい、そう焦るなよ。貴様らに是非とも会いたいとせがんだヤツがいるからな、心優しいこの俺様が連れてきてやったってわけだ」
「なに? 誰だそいつらは?」
「へっ、すぐに分からせてやるぜ! おい貴様ら、出番だぜ!」
土具魔が大きな指パッチンをすると、向こう側から二つの人影が現れる。
「ふんっ、どうせまた大したことない雑魚だろ……なっ!?」
俺は必死に自分の強がりを見せようと笑っていたが、あの二人の姿を確認したとたん、ついにその強がりもガラスのように砕け散った。
「……っ!? あ、あれはまさか……!!」
「う、うそでしょう……なんであの二人が……」
哲也と菜摘も、表情が強張って固まった。
無理もない。何故なら、あの二人は俺たちの黒歴史に大きく関わっていたからだ。
「よう、久しいなぁ……秀和。会いたかったぜ」
土具魔より背の高い男性は唸り声を立てながら、獲物を捕獲する獣のような目つきで俺を見つめていやがる。
そいつは今籠 凶牙、俺が中学の時にこいつと一緒に悪さを働いていた連中だ。そう、要するに不良ってやつだ。哲也と菜摘のおかげで既に足を洗っていたが、奴があまりにも俺に強い思い入れを持っているため、一時俺に付きまとう時もあった。そして、哲也と菜摘を恨むことも。
「凶牙……まさかここで、こんな形でてめえに再会するとはな……」
「まったくだぜ。どうだ、もう一度オレとあの頃に戻らねえか?」
「いきなりそれかよ。言っただろう、もうあんなくだらねえことを繰り返したくねえって」
「へっ、『くだらねえ』、か……よく言うぜ。あの時のおまえは、ものすごく楽しんでたくせによぅ」
「俺はてめえと違って、ずっと過去に生きるつもりはねえからな」
「ふざけるなぁ! 過去がなけりゃ、どうやって今を生きるってんだ!?」
反発する俺の言葉に、逆上する凶牙。そしてこの場面に見かねて、この男が動く。
「過去と違う道を選んだのは、より幸せな人生を送りたいからさ」
哲也はいつも通りにメガネを押し上げ、クールな目線で凶牙の目を見返した。
そんな哲也を見て、凶牙の目はさらに怖くなる。
「光橋哲也ぁ……!!! テメェが、テメェさえいなけりゃ、秀和は今もオレと一緒に楽しい生活を過ごせたというのに!!! あの頃のようによぅ……」
感傷に耽ったのか、凶牙は突然顔を上げて、その両目から涙が零れ出ている。そしてすぐさま奴は哲也を睨みつけた。
「ぶっ殺す……今度こそ、絶対にぶっ殺してやるぅ!」
憎しみを帯びた声を上げ、凶牙の周りに強い風が吹き荒ぶ。どうやらあいつも、資質を覚えたようだな。
だが、パーティの参加者はもう一人いる。
「ちょっと~、あたくしのことを忘れたのではなくて?」
「……っ!! この声は……」
何の前触れもなく、突然に響く女性の声。そしてそれを聞いて、菜摘は驚く。
ワイン色の髪が目立つそっちの女性は他の誰でもなく、かつて菜摘をいじめていた張本人、次戸 召愚弥だ。
額から鼻まであるその傷跡も、今にもはっきりと残っている。女子にとって見られたくもないものだが、あれは奴の自業自得だ。憐れむ価値もねえ。
「あらぁ~? そこにいるのは菜摘ではなくて? 随分と雰囲気が変わりましたわねぇ」
お嬢様言葉を使って上品そうに見えるが、あれはあくまで仮の姿だ。奴の本性はこんなものじゃねえ。
「あ、ありがとう……とでも言うべきかな?」
俺と同じことを考えているのだろうか、菜摘は不安そうな顔を浮かべている。
「あんたはいいわよね……それに比べてこのあたくしがぁ! あんたのおかげで、この醜い傷跡がいつまで経っても消えやしねぇ! どうしてくれんだ、ゴラァ!」
もう少し粘るのかと思っていたが、奴は早くも本性を現しやがった。彼女も凶牙と変わらないほどの怖い表情になって、自分の傷を指さしている。
このまま彼女は菜摘を罵倒するとで思いきや、次の瞬間になんと奴はとんでもないことを口走りやがった。
「まあ、そんなことより、あんたがたぶらかしてる男子たちは相変わらず元気そうですわね。もう何回ヤラレたのかしらねぇ~?」
「なっ……!?」
「何ですの、その驚いた顔は。もしかしてまだしてなかったのかしら? 遊んでそうな格好をしてるのに、案外ウブなのですわね、うふふっ」
召愚弥の奴は片手で口元を隠しながら、クスクスと菜摘を嘲笑っていやがる。嫉妬する女の姿は、何とも憎たらしいんだ。
「おいてめえ、さっきから聞いてりゃいい気になりやがって!」
俺の怒りは限界を超えて、召愚弥に向かって大声で叫んだ。
「まあ、怖いですわ~殿方ともあろうものが、か弱い乙女に声を上げるなんて!」
召愚弥は自分の両腕を抱えて、怖がる演技をしていやがる。他の人を騙せても、俺たちにも通用すると思ったら大間違いだぜ。
「か弱い乙女とは、よく考えた嘘だね。そんな人が他人をいじめられるとは思えないが?」
「ぐう……!!」
俺の代わりに、哲也が召愚弥に反論してくれた。ふんっ、奴の歪んだ顔を見てると、実にいい気分だぜ。
そしてこの時、忘れかけていた「奴」の声が。
「おいおいおいおいおいおい! 貴様ら、昔話はまだ済んでねえのかよ?」
土具魔の声が、明らかに苛立っている。聞いてるこっちまでムカついてきたぜ。
「こんなくだらねえことで時間をムダにしてる暇があれば、とっとと殺し合いを始めろや! そのためにここに来たんだろう、なぁ!?」
まるでパーティの司会者でもなったつもりで、土具魔は勝手に仕切り始めやがった。
それにしても、なんという運命のいたずらだ。今この世でもっとも会いたくねえ二人、いや三人が目の前にいるとはな……
土具魔の言うことを認めたくはねえが、確かに今の俺には、あの三人を全部始末してやりたい気持ちでいっぱいだ。
そう、あの忌まわしき「黒歴史」を断ち切るためにもな……!
「さあ、パーティの参加者は揃ったぜぇ゛! そろそろ始めようじゃねえかぁ、殺し合いゲームをなぁ゛!」
土具魔の狂気を帯びた言葉と共に、新たな戦闘の始まりは告げられてしまった。
だが、絶対に負けるわけにはいかねえ。仲間のためにも、自由のためにも、そして正義のために……!
土具魔「ククククク……待ちに待っていたこの時が、ついにやってきたぜぇ゛! 俺様はもうワクワクして待ちきれねえぜぇ! ガハハハハハァ゛!」
秀和「うるせえぞてめえ! さっさとてめえらをぶっ倒して、このふざけた戦いに終止符を……うわっ!」
凶牙「おい、相手を間違えてねえか? テメェが戦うべき相手はこのオレだ!」
召愚弥「いいえ、このあたくしですわよ! このキレイな顔に傷を負わせてくれたこの恩を、お返ししないといけませんわねぇ~!」
秀和「くそっ! 一気に三人も相手じゃキツすぎるぜ!」
哲也「大丈夫さ。君は一人で戦っているわけじゃないぞ、秀和」
菜摘「うん、そうだよ! 私たちもそばにいるからね!」
秀和「サンキュー、二人とも……そんじゃ、鋼の大三角の実力を、見せてやろうじゃねえか」
哲也「何だか、少年漫画っぽい熱い展開になってきたね」
菜摘「あはは、確かにその通りだね! よーし、負けないからね!」
凶牙「へっ、うぬぼれてんじゃねえぞ! オレはもう一度、秀和とあの輝かしい昔へと戻るんだぁ……!」
召愚弥「いいえ、このあたくしが、あたくしの過去を壊した三人をまとめて始末して差し上げますわよ」
土具魔「難しいこたぁいいんだよ! 俺様はただ人の苦しみが見たいだけだぁ゛! ガハハハハハ゛!!!」
秀和「ふざけやがって……調子に乗るんじゃねえええええ!!!」




