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反逆正義(リベリオン・ジャスティス)Phase One——Ten days in heaven(or in hell)  作者: 九十九 零
第3章 兎蛇の戦編・激化する衝突
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リボルト#12 陥落する黄金の楽園 Part3 雑魚の役目は、ただ悲鳴を上げるだけだ

「どう、どう? うまく変装できてるかな?」

 Aクラスのややセレブなマーチングバンド風衣装に着替えた菜摘は、心細そうに自分の身の回りをチェックしている。

「ああ、バッチリだぜ」

 そんな菜摘を安心させようと、俺はそう答えた。

 ちなみに俺が着替えたのは、Eクラスのギャング風制服だった。かなりワイルドなデザインだったが、案外着心地は悪くない。


「その格好、なかなか似合ってるね、秀和」

 哲也に名前を呼ばれ、俺は無意識に彼のほうを振り向く。

「サンキュー。そういう哲也も、すごく似合ってるじゃん」

 Fクラスの制服に着替えた哲也は、高級ホテルにいるような客がよく着るスーツだ。彼の大人しい性格とそのメガネと蝶ネクタイを合わせると、まるで執事みたいだ。

「おお~、すごく格好いいね、哲也くん!」

 そんな哲也を見て、菜摘も思わず拍手して称えた。

「ありがとう、二人とも。ところで、千恵子くんは?」

「千恵子ちゃんの衣装は、ちょっと着づらくて……今は美穂ちゃんが手伝ってるんだけど、そろそろ終わるんじゃないかな?」

 そう言うと、菜摘は先ほど女子たちが着替えていた場所に視線を向ける。

 と、その時に。


「じゃんじゃ~ん♪ おっまたせ~♪」

 さっき寮で着ていた服に戻した美穂は、晴れやかな笑顔を浮かべて現れた。

 そして彼女の側にいるのは、白いオフショルダーのイブニングドレスを着ている千恵子だった。その頬がとても赤く、照れていることが分かる。

 その花嫁のような眩しい姿に見とれた俺は、動揺せずにはいられなかった。

「千恵子ちゃん、すっごくキレイだね……! ねえ、秀和くん、哲也くん?」

「ああ、確かに。まるで絵に描いてあるような美しさだね……うん、どうしたんだ秀和? 身体が震えているよ」

「い、いや、何でもない!」

 やべ、バレちまった! 慌てた俺ははぐらかそうと大声で否定したが、これだと逆効果になることがすぐに分かった。

「あらぁ~? その割にはずいぶん大きな声が出たじゃない」

 そんな俺をからかうように、美穂はまたしても色っぽい声で俺を惑わす。

「う、うるさい!」

 ええい、もうどうにでもなれ。


「あの……皆さん……」

 盛り上がっている途中に、千恵子の弱い声が聞こえる。

「うん? どうかしたの千恵子?」

 美穂は目を見開き、千恵子の方を見やる。

「この衣装は……少し大胆なのでは……ほら、肩のところが開いていますし……」

 いつもの凛々しさがなく、千恵子はもじもじと長手袋をはめた両手を擦る。そのかわいさが溢れる仕草は、またしても俺の心臓を加速させる。

「いいじゃな~い。外国の女優さん、みんなこんな感じなのよ」

「そう、なのでしょうか……?」

 半信半疑の気持ちを抱く千恵子は、複雑な表情を浮かべる。

「そうよ。もっと大胆なのもいるの……よっ!」

「きゃあっ!?」

 不意に響く千恵子の悲鳴は、俺たちの注意を引く。


 なんと美穂は千恵子のドレスの裾をたくし上げ、ビリビリと引き裂いた!

 大きなスリットから、白いオーバーニーソックスに包まれる千恵子の長くてふくよかな足が覗く。

 やべえ、くしゃみが出そうだ。誰かティッシュをくれ。

「な、何をするんですか、美穂さん!」

 恥じらう千恵子は必死にスリットを閉じて足を隠そうとするが、スリットが太股まで開いてしまったため、くるぶしまでは隠せなかった。

 それに千恵子の顔は、今まで以上に赤くなっている。ううう、写真を撮って保存したいぜ。

「ちょっとした改良よ。だってそのドレス、動きづらそうだし、下手したら転んじゃうかもしれないわよ? だからスリットを開いてあげたわ。なぁに、お礼はいらないわよ♪」

「最初からお礼を申し上げるつもりはありません」

「あらぁ~? すねるなんてかわいいわね~」

「きゃあっ! 急に触らないください、美穂さん!」

「いいじゃない、減るもんじゃあるまいし~」

 こうして、千恵子はまた美穂のセクハラ攻勢に苦戦を強いられた。まだ本番は始まってもいないのに。


「ゴホン! いい加減にしてくれよ、美穂。このままだとバレちまうぞ」

 俺はなるべく理性を保ちつつ、リーダーとしての職務を果たす。

「あらいけない、アタシとしたことが」

 自分のバラ色楽園から現実に連れ戻された美穂は、ようやく千恵子へのお触りタイムを終了させた。

「はぁ、はぁ……ありがとうございます、秀和君」

 疲れているのか、千恵子は吐息を漏らす。その魅惑の声が、またしても俺の理性を乱そうとする。

「いいや、気にするな。リーダーとしての本務を果たしただけだ」

 あまりにもあられもない、もといチャーミングなその姿に俺は直視できず、目を逸らすしかなかった。

「やれやれ、何やってんだか」

 その光景を全部目撃した拓磨は、頭を横に振って溜め息をつく。

「まあ、それって仲のいい証拠なんじゃねーか?」

 ポジティブな正人は、微笑んで俺たちを見守っている。

「ふん、まあな」

 正人とのやりとりを思い出したのか、拓磨は納得した。

「そういえば、妙ちゃんは?」

 菜摘はキョロキョロと、例のファッションフレンドを探しはじめた。確かにさっきから姿が見当たらないな。

「あ、ワタシならここにいるよ~」

 返事が聞こえたが、その声は明らかに妙のものではない。どういうことなんだ?


「あああっ!! あの人は昨日の……!!」

 菜摘の叫びがした方向を見ると、そこにはなんと昨日俺たちを襲った赤目少女がいた!

 くそっ! やっぱりバレちまったのか!

 俺は銃を構えて、攻撃する準備に入った。

 もう少し近付いてきたら、その頭蓋骨(ずがいこつ)をぶち抜いてやる……ん?

 確かに目の前にいるのはあの赤目少女だが、どうも違和感を覚える。あの悪意のない純真な顔付きは、とても昨日のあいつとは思えない。

 それにその手に持っているトランクケースも、妙が使っているものだ。もしかして……

「ああ、撃たないで! 私は妙だよ!」

 武器を構えている仲間たちを見て、妙は慌てて両手を上げた。

「えっ、そうなの!? でも完全に別人に見えるけど……」

 驚く菜摘は、未だにこの事実を信じられないでいる。

 それもそのはず。服装ならともかく、声や顔まで変わっている。もちろん現在のテクニックを駆使すれば出来ないことはないはずだが、あまりにも難易度が高すぎる。

 もちろん、もう一つの可能性がある。それは……


「うふふっ、妙さんの資質(カリスマ)は、他人の姿に化けることですよ」

 妙の後ろから現れた小春は、俺たちに説明してくれた。やっぱりな。

「まあ、あくまで見た目だけで、声や資質(カリスマ)まではコピーできないけどね」

 謙遜する妙は、頭を引っ掻きながら照れている。しかしそんな仕草をあの赤目少女がやるのを見ると、どうしても鳥肌が立つ。

「じゃあ、なんで声が変わったの?」

 菜摘は俺が思ったのと同じ質問を言葉にした。確かに、そこが気になるな。

「ああ、これのこと? それはね……」

 妙は自分の首から、なにやらテープみたいなものを剥がした。色は透明のため、遠くからはよく見えなかった。

「ほら、声が元に戻ったでしょう?」

「あっ、本当だ! もしかしてアレで声を変えたの?」

「うん、そうなんだ。このテープを喉に貼ると、音調を変えることができるよ」

「すごい~けっこう本格的だね!」

「それはまあ、レッド・フォックスだからね」

 菜摘に褒められた妙は、誇らしげに自慢する。


「それじゃ全員揃ったことだし、さっさと殴り込みをかけようか」

「おう、ずっとこの時を待ってたぜ!」

 俺の呼びかけに対し、さっきからずっとウズウズしていた正人は前に走り出した。

「落ち着け、正人。あんまり派手なことをするとまずいぞ」

 行動する前に考える拓磨は、後先を考えない正人を注意する。

 だがそんな言葉に耳を貸す正人じゃない。彼はただただ前に突き進んでいく。拓磨はまたしてもやれやれと、頭を横に振る。

 そしてついに、俺たちは入り口の直前までたどり着いた。両側に電柱があるおかげで、俺たちは身を隠すことができた。

「見張りが二人いるな……まあ、これぐらいはどうってことないか」

 望遠鏡で入り口の様子を見ている拓磨は、余裕そうに状況を説明する。

「よし、作戦通りで行こう。美穂、優奈、出番だぜ」

「オッケー、任せなさい!」

「やる気満々ね、あんた……まあ、そろそろあたしの魅力を、みんなに知ってもらわなくちゃね♪」

 美穂と優奈、二人は自信に満ちた声で返事をした。 

 よし、まずはホテル侵入作戦の大事な第一歩だ。絶対にしくじるなよ……

 色仕掛けの二人は、ゆっくりと電柱から出て、扉に向かって歩いていく。


「待て! 何者だ、お前たちは?」

 左側に立つ真面目そうな見張りは、「侵入者」を見つけて警戒する。

「見たことねぇ顔だな……まさかあっち側の連中じゃないよなぁ?」

 不良っぽい右側の見張りは、二人をなめるように視線を動かす。

「ねえ、そこの格好いいお兄さんたち、この可憐な乙女たちを通してもらえないかしら?」

 ナンパに経験がある美穂は、作り声で二人を誘惑する。

「このかわいいあたしがお願いしてるんだから、ちゃんと通してくれないと、あたし悲しくなっちゃう!」

 ちょっとナルシスト気味の優奈は、自分の髪をいじりながら流し目を使う。

 見張りの二人はこんなラッキーな展開に出会ったことはなかったのだろうか、彼らは緊張と興奮のあまりに顔が赤くなっている。

「べ、別にいいけどよぉ、もーすこしサービスしてくんねぇか?」

 不良っぽい見張りは、手の甲で口元のよだれを拭き、無理な要求を出した。

「おい、何を言っている! 俺たちはそんなことをしてるわけじゃ……」

 そんな彼を見て、真面目そうな見張りは焦ってその提案を拒否しようとする。

「なにいいやつぶってんだよ! おめぇだってドキドキしてるくせに! おらぁ、汗もかいてるじゃねーか!」

「そ、それは……!」

 自分の下心をつっこまれ、真面目そうな見張りは返す言葉が見つからなかった。

「心配すんなって、誰にも漏らしやしねぇって! なぁ?」

「わ、分かった……約束だぞ」

 不良っぽい見張りの誓いの言葉に釣られ、真面目そうな見張りはゴクリと唾を飲んだ。

「ああ、約束だぜ! なぁ、そこのカワイ子ちゃん、もうちっと前に屈んで……ぐはっ!」

 不良っぽい見張りは自分のリクエストをまだ言い終えていないうちに、悲鳴を上げて倒れた。

「おい、どうした!? うわがっ!」

 異状に気付いた真面目そうな見張りはすぐに警戒したが、時は既に遅い。

 倒れた二人の見張りの後ろには、俊介と広多の姿が見える。へへっ、すべては俺の作戦通りだな。


「よし、よくやったぜ。四人ともお疲れさん」

 階段を上って、無事にゴールデン・オアシスの門前に着いた俺は、四人の健闘を褒めた。

「ふふっ、これぐらい当然よ。まあ、秀和くんの作戦がよかったのもあるけどね」

 美穂は余裕そうにウインクをし、自分の容姿に魅力があることを喜んでいるようだ。

「そいつはどうも。よし、さっさと中に入ろうか」

 俺は片手を上げてそれを振りながら、先陣を切った。

 中に入ると、そこにあるのはものすごく長くて広い廊下だった。しかも床も壁も、それに天井も全部金ピカだ。いくらなんでも贅沢すぎるだろう、これ。

 って、今そんなことはどうでもいい。まずはやるべきことをやらねえとな。

 10時方向にはエレベーターがあるが、その手前の2時方向のロビーに奴らが群がっている。

 一応俺たちは変装をしてるから、このまま通り過ぎることができないことはないが、もしその中には俺たちと戦った奴がいれば、絶対すぐにバレてしまうだろう。

 よし、ここはあいつに任せようじゃないか。


「直己、お前の出番だぜ。そのおしゃべりスキルをちゃんとフル活用しろよ」

「へへっ、待ってたぜ! 任せとけ!」

 仕事を割り当てられた直己は意気込みを見せ、迷うことなくロビーに移動した。

「なあなあ、そこのお嬢さん、今は何時かな?」

「何時って、11時28分だけど」

「おっ、すごい偶然だな! ちょうどおれの時計も今11時28分だぜ! これはきっと何かの縁だ、おれと一緒にお茶でもしないか?」

 どうでもいい口実を付けて、直己は女子の手を取った。もちろんその女子は喜ぶはずもなく、眉間にしわを寄せながらもがき始める。

「誰がアンタなんかと……! 気持ち悪いわね」

「まあまあ、そう言わずにさ!」

 それでも直己は諦めることなく、口説き続ける。そんな図々しさを持てるのも、ある意味才能だな。

「おい、いつまで見ている。さっさとエレベーターに行くぞ」

「ああ、そうだったな」

 拓磨に注意され、俺は自分のやるべきことを思い出し、身を動かす。

 しかしそううまく行かないのが現実だ。エレベーターに接近するその瞬間に、何故か直己の体が急に飛んできた。


「うわっ! いってえな……」

 背中を打った直己は、自分の怪我をした部位を強く揉む。

「大丈夫か、直己?」

 そんな彼を見て、心配する俺はその様子を聞く。

「おれは大丈夫だ! それより前!」

 慌てふためく直己は、前を指さす。一体そこには何があるのだろうか。

「てめえ、よくも俺の女に手を出しやがったなぁ……!」

 レスラーが着そうなトゲ付きのボンテージアーマーの男子が、こっちを睨みつける。

 こいつはGクラスの連中か。またしてもとんでもないことになっちまったな。

 だが最悪なシナリオは、まだまだ続く。

「おい、あいつらはどこかで見たことがあるぞぉ!」

 連中の一人が、俺たちがぞっとするようなことを口に出した。

「本当だ! ありゃ、脱兎組(ランニング・ラビット)のヤツらじゃねえか!?」

 あーあ、やっぱバレちまったのか。

「ここに来るとはいい度胸だな! やっちまえ!」

 俺たちの侵入に気付いた恋蛇団(ウロボロス)の連中は、席から立って俺たちに近付いてきた。

 数はざっと70人ぐらいか。分が悪すぎる。

 こうなったら仕方がねえ。強行突破で行くしかない!

「哲也、菜摘、千恵子、聡と碧は俺についてこい! 残りは奴らの足止めをしてくれ!」

 俺はとっさの判断で、自分に同行してもらうメンバーを決めた。


「よし来た! 今度こそは、オレが気持ちよくコイツらをぶっ飛ばすぜ!」

 今までずっと暴れられなかった壊時は、その顔と拳からかつてない輝きを放つ。

 彼は地面を強く踏みつけると、大きな地震が起こり、大地が恐ろしく揺れる。そして周辺の装飾品が倒れ、天井にぶら下がっていたものも落ちてきた。

「うおらぁ!」

 壊時は成年男性の高さに等しい花瓶を持ち上げ、一回転をしてそれを投げた。砲弾のようにまっすぐ飛ぶデカい花瓶は、一気に5人をやっつけた。

「まだまだ、本番はこれからだぜ!」

 もちろんこれぐらいで満足する壊時じゃない。彼は今度長い看板を拾い、それを背中に置くと両腕をその上にかけた。


「たああああああー!!! オレの強さを思い知りやがれぇぇー!!!」

 次の瞬間、彼は全身を回転させながら敵陣に突入する。長く伸びる金属の看板は、パンチのように敵の顔にダメージを喰らわせる。こうして並みいる敵は、高ぶる壊時に薙ぎ倒されていく。

「もうあの方一人でよいのではなくて? もぐもぐ……」

 何の危機感もないこの光景を見ている雅美は、机のおつまみをつまみ食いしている。どれだけ食いしん坊なんだ、こいつ。

 しかし、ここはあくまで敵の本拠地。たった70人が全戦力とは思えない。

「ふんっ、これで勝ったとは思うなよ!」

 俺の思った通りに、増援が上から降りてきた。ちなみにここの天井がかなり高く、真ん中に床がない階はいくつもある。まさにホテルそのものだぜ。


「へへっ、ここはオレの出番だな! まだウォーミングアップも済んでなかったしさ!」

 同じくさっきからずっとウズウズしてたまらない正人も、指を鳴らしながら前に出る。

「ああん? なんだテメェ……うあぱ!」

 柄の悪そうな大柄な男は、まだ発言が終わらないうちに頬が変形し、体が宙を舞った。正人の方を見やると、その義手から煙が出ている。

 すげえな。あんな自分より図体のデカい奴を、拳一つでそこまでぶっ飛ばせるとは。

 この白熱な戦いに見とれている時に、ある声が俺を現実に連れ戻す。


「いつまで見ているんだい、秀和。これは試合じゃないぞ」

「そうだよ、秀和くん! 早くしないとまずいよ!」

「行きましょう、秀和君。もうあまり時間はありません」

 後ろを振り向くと、そこにはエレベーターに行く準備が出来た仲間たちだった。

「ああ、そうだったな。わりぃな、待たせちまって」

「いいえ、気にしないでください。私もちょうど今、聡先輩とエレベーターのハッキングを終えたところです」

 碧のいつもの落ち着いた口調は、俺の不安を少し和らげてくれた。

「コイツ、カードをスキャンしねーと上に行けねーシステムになってるけど、大したもんじゃなかったな!」

 ハッキングの作業を済ませた聡は両手を腰に当て、ニヤリと笑っている。

 「直接カードを奪ったほうが便利じゃん」ってつっこみたくなるが、きっとエンジニアとしてのプライドが許さないだろう。


「そういえば、何階に行けばいいんだ?」

 エレベーターの中に入った俺はボタンを押そうとするが、行き先が分からず戸惑ってしまう。

「えっと、このビルのパワー供給源は13階にあります」

 碧は手中のデバイスを弄り、迅速に必要な情報を俺に与えてくれた。

「13か……なんだか嫌な予感がするな」

 軽い強迫症にとらわれている哲也は、この不吉な数字を聞いて顔色が一変する。

「大丈夫だって、きっとうまくなるさ」

 そんな彼を励ますべく、俺は手を哲也の肩に置いて、激励の言葉を送る。

「うん、だって私たち、今まで色んな困難を乗り越えてきたんだもんね!」

「ええ、菜摘さんのおっしゃる通りです。ここで諦めては、自由が手に入りませんもの」

 菜摘と千恵子も、前向きな声で俺たちを励ましてくれる。

「おう、よく言ったなみんな! さーて、あのムカつくやろーどもを吹き飛ばそうぜ!」

 聡は手中にある携帯をもてあそびながら、不敵な表情を浮かべた。

「こうして表に出るのは久しぶりですが、微力ながら頑張りますね」

 碧のいつもの眠そうな目付きもなくなり、その顔には勝利を確信したかのような自信が溢れている。

 こうしてる間に、エレベーターは目的地に到着し、「ティン」と音を鳴らした。

 そして扉は徐々に開いていき、向こう側の様子を見せていく。

 予想通りに、待ち伏せの敵は大勢いた。やはり現実はそううまく行かないものだな。


「おい、いたぞ! いたぞぉぉぉぉぉー!!!!!」

 恋蛇団(ウロボロス)の連中の一人はエレベーターにいる俺たちの気配に気付き、大声で奴の仲間たちに知らせた。

「あぁん? やっと現れやがったなぁ……全員まとめて叩き潰してやる!」

「はっ、たった6人かよ! オレたちも相当、なめられたもんだな……」

 その声に反応した敵は、おもむろに体をこっちに向けてくる。あの余裕そうな口調や身振りから、あいつらはこっちの人数が少ないからバカにしてることが分かる。

「オレたちの縄張り(らくえん)を壊そうとは、いい度胸だな! 二度とここにこれねえよう、たーっぷりといてぇ目にあわせてやらぁ!」

「そうだそうだ! 自分がここに住めないからって、ヤキモチしてんじゃねーよ!」

「あの男三人は直接やっつけて、女はいただくとすっか!」

「へっ、いい提案だな! そうしよーぜ!」

 話の内容は、どんどん下劣になっていく。反吐が出そうだぜ。よく見ると、他のみんなも嫌悪の表情が顔に出ている。


「悪いけど、俺たちはてめえらが思うほどヤワじゃねえから」

 俺は拳を鳴らして、怒りに満ちた顔付きになる。

「はっ、二度もオレたちの大切な場所に侵入してきたくせに、よく言うぜ!」

 同じくいきりたっている聡は、怖い笑顔を浮かべて、例のギザギザの輪を生成するアプリを起動させた。

「もう、私だって怒る時は怒っちゃうんだから!」

 純真な菜摘は、自分の素直な気持ちを言葉にして表現した。

「あなた方の目に余る非礼な行為、これ以上見過ごすわけにはまいりません」

 千恵子の声は低いものの、その静かな怒りは十分に感じられる。鞘にしまっている刀の刃は、彼女の鋭い眼光のように眩しい。

「目には目を、歯には歯を……ですよ。よく覚えておいてください」

 碧は指でカードらしきものを挟み、大人びた雰囲気を漂わせる。

「論理的には、僕たちは彼らに勝つのは無理だろうね。だけど……」

 分析家の哲也は、お得意の論理話を口にして、またしてもメガネを押し上げた。

 そして、次の瞬間。

 何の前触れもなく衝撃波が出現し、一番前の敵を吹き飛ばした。

「結束の力さえあれば、僕たちの絆はこいつらよりずっと固いさ」

 哲也は盾を装着している腕を下ろすと、自分の言いたいことを補足した。それは今までにない格好良さだった。


「先にやりやがったな、テメェ! だったらこっちも手加減しねぇからなぁ! 行くぞオマエら!」

 後ろにいる連中はヒステリックに叫び、こっちに向かって走ってくる。

「バカめ、一直線に走りやがって……!」

 あまりにも単調すぎる陣列(フォーメーション)を見て、俺は思わずニヤリと笑う。こいつは俺の千里の一本槍にちょうどいいぜ。

 このビッグチャンスを逃すわけにはいかない。俺はすでに使いこなしたこの資質(カリスマ)を繰り出し、敵を一網打尽する。

「千里の一本槍!」

 俺は誇らしげに自分の技の名前を高らかに叫ぶと、稲妻の槍は憎らしき敵に向かって飛んでいき、一番前の奴に当たる。すぐさま電光が後ろにいる連中どもを貫通し、全員に命中した。

「「「「うぎゃああああーーー!!!!」」」」

 敵はギャグのようなバカげた大声を出して、ぐったりと倒れた。へっ、ざまぁみやがれ。


「ハハッ、もらったぜ!」

「なに!?」

 しまった!後ろにもいたのか!

 あまりにも急な出来事なので、これで重い一撃を喰らうのかと思えば、俺と敵の間に哲也が割り込んできた。彼は素早く盾を構えて、敵の攻撃を完璧に防いでくれた。

「サンキュー、哲也。助かったぜ」

 俺はしり目で後ろにいる哲也を見て、彼に礼を言った。

「気にすることはないさ、秀和。言っただろう、君の背中は僕が守ると」

「ああ、ちゃんと役目を果たせたみたいだな」

 俺と哲也は戦いの興奮に耽っているその時に、聡は俺たちに声をかけた。

「おいおい、気を抜くなよ! まだ戦いは終わってねーからなぁ!」

 聡は指先から出てくる工具(ツール)でスマホで作成したギザギザリングを回しながら、哲也が防いだ敵を倒した。そしてもう一人の敵が前に出ると、聡は腕を大きく振りかぶりリングを飛ばして、そいつを切りつけた。

「頑張れよ、聡! お前がゲームで発揮してた実力をうまく使いこなせ!」

「ああ、もちろんだぜ! まあ、こんな雑魚相手じゃ、肩慣らしにもならねーけどな!」

 俺の励ましに対し、聡は元気よく返事をしてくれた。志気が上がる彼は新たなリングを作って工具(ツール)に引っかけておくと、敵の多い場所に向かって走っていった。

 さて、女子組の方はどうなんだ?


「えいっ! やぁ! はあー!」

 刀を持っている千恵子は、見事な剣術で敵を薙ぎ倒していく。銀色に光る刃が、悪に染まる魂たちに裁きを下す。

 その怖いものなさそうな鋭い目つきは、彼女の強い決意を示している。

「へー、なかなかやるな」

 そんな凛々しい彼女を見て、俺は思わず感嘆する。だがもちろん、残りの二人の健闘も見逃すわけにはいかない。

「この一撃を……受けてください!」

 これは碧の声だ。そういえば、まだ彼女の戦い方を見てなかったな。そもそもあの子はオペレーターなのに、戦えるのか? だとしたらすげえな。

 碧の声がした方向を見ると、彼女は指で挟んでいたカードを飛ばしている。

「へっ、こんな紙くずを飛ばしてくるなんて、大したことないわね!」

 女性敵の一人が、碧が投げたカードを見て不敵な笑いを浮かべる。

 確かに一見すればただのカードだが、あの碧のことだ、きっと何か策略があるはずだ。

 すると次の瞬間に、とんでもないことが起きた。


 なんと碧が投げたそのカードから青い閃光がほとばしり、そしてすぐに魔法陣らしきものが現れ、バスケットボールほど大きな玉が飛び出る。

「ちょっと、ウソッ!? なんであんな紙くずが……うわあああああああ!!!」

 さっき碧を小馬鹿にした女性敵もこのような事態を予想できなかっただろう、彼女は碧の攻撃をかわす余裕もなく、マトモにそれを喰らった。

 その結果として、敵の体はホームランのように遠くまで吹き飛び、他の敵に約七、八人ぶつかった。あの場面は、まさにカオスそのものだ。

 そんな絶景を碧は見物する暇もなく、その隙をついて彼女はもう一枚のカードを投げた。


「へっ、同じ手が二度と通用すると思うんじゃないわよ!」

 先ほどの大規模な殺傷力を見て警戒したのか、カードが飛ぶ先にいる敵が横に移動して、攻撃を避けようとするが……

「ふふっ、油断しましたね」

 碧の口元には、小悪魔っぽい笑みがこぼれる。やっぱりそれも想定内か。

 碧の攻撃を無事に避けた敵は、着地する瞬間に足が虎ばさみに挟まれ、身動きが取れない。噴き出る赤い血液が、その言葉にできない苦痛を物語る。

「ぎゃああああああああ!!!」

 さらにその耳が割れそうな悲鳴を聞いて、俺の心のどこかが悦びを覚える。

「ぷぷっ」

 敵の後ろにいる菜摘は、口を抑えながら笑いを堪えている。やっぱり彼女の仕業か。

「さて、今度こそトドメを刺してあげましょう」

 一方碧もニヤリと笑い、動けない敵を追撃しようともう一枚のカードを投げた。今度はカードが赤く光り魔法陣と共に火の玉が出現し、敵に向かって飛んでいく。

「うわあああああああ!!!」

 足が固定された敵は火の玉を避けられるはずもなく、全身が業火に焼かれた。それでも奴は地面に倒れることもなく、虚ろな目で天井をぼんやりと見ている。


「ナイス連携ですね、菜摘先輩」

「うん! それにしてもすごかったね、碧ちゃん! なに今の?」

資質(カリスマ)ですよ。『マトリックス・スクエア』っていう名前です。投げたカードにはチップが入っていて、その中に記載している術式を発動するのです」

「よくわからないけど、なんだか魔法みたいですごいね!」

「まあ、大体はそんな感じです」

 菜摘の褒め言葉で気をよくした碧は、得意げに微笑んでいる。

 さて、残りの敵を始末しないとな……あれ?

 周りをよく見ると、敵はすでに全部倒れている。まさかと思うが、もしかして……


「もう、遅すぎんだよ、秀和! こんなレベルの雑魚、もうオレたちは片付けたんだぜ!」

「仲間の様子が気になるのは分かるけど、戦いは常に集中が大事だぞ?」

 残りの敵を倒した聡と哲也は、俺の後ろに左右から俺の肩を叩いた。大きな成果を得られなかった俺は、気まずくてなんて言えばいいか分からない。

「わ、わりぃ……今度は気を付けるぜ」

 悩んだ末に、俺は素直に謝るしかなかった。はあ、恥ずかしすぎるぜ。

「さあ、あまり時間がありません! 急ぎましょう!」

 少し焦っている千恵子は、俺たちに声をかけて更なる行動を促す。

「ああ、そうだな!」

 そんな彼女の声を聞いて、俺は思わずその提案に同意した。

 しかし足を動かそうとするその時、またしても邪魔が入ってきやがった。


「おい! こっちにいるぞ!」

 新たな追っ手だ。数は約15~20人とそれほど多くはないが、片付けるには少し骨が折れそうだ。だからといって、このまま無視するわけにはいかねえ。

 くっ、どうすりゃいいんだ……?

 ちょうどその時、千恵子は動きを止めた。

「ここはわたくしが食い止めます! 皆さんは早く先へお急ぎくださいませ!」

 千恵子は刀を構え、俺たちの後ろに立ち止まる。

「ダメだ! そんなの危なすぎるぞ!」

 大切な仲間を、一人に置き去りにするなんてありえない。俺は振り向いて、焦りのこもった声で千恵子の考えに反対する。

「それは存じております。ですが、こうして戦っている間にも、相手はパワー供給源への防衛を固めているはずです!」

「けど……!」

「それでも、わたくしの実力が信用できないとでも?」

 千恵子のこの一言で、俺はこれ以上反論する余地がなくなった。しょうがねえ、そこまで言うのなら、もう遠慮はしないぞ。

「分かった。気を付けてくれよ」

「ええ、それぐらい当然です」

「さあみんな、さっさと急ぐぞ!」

 俺は千恵子を信じて、ここは彼女に任せた。だったらここで迷う暇があったら、俺たちの自由のために先に進まないと。


「おう! 途中でへばんなよ、副リーダー!」

「気を付けてね、千恵子ちゃん!」

 他の仲間たちの熱い応援が、俺たちが少しずつ築いた絆を示している。

 長い廊下を渡ると、俺たちはとある広間にたどり着いた。


「さて、肝心のパワー供給源はどこだ?」

 周りを見渡しても破壊すべきターゲットが見当たらず、俺は苛立ちを隠せない。

「左の部屋です! あそこの廊下を渡って、行き止まりの扉の奥にあります!」

 さすがは碧、早くも重要な情報を教えてくれた。

「よし、早速あそこに行って、アレを破壊すれ……」

 希望の光が見えて俺は喜ぶが、やはりそう簡単にいかないのが現実だ。


「させるかよぉっ!」

 聞くだけで全身の神経が逆なでしそうな声と共に、あの忌まわしい黒い炎が飛んできやがった。幸いこの空間が広いため、俺たちは難なくかわすことができた。

 しかしこの後起きることは、俺の予想を遙かに超えた恐ろしい展開だったとは、あの時の俺には知る由もなかった……

秀和「ちっ、やっぱり現れやがったか!」

土具魔「あったりめーだろう、俺様が貴様の宿敵なんだぜ? ここで現れねーでいつ現れるっていうんだよぉ゛!」

聡「おい! 会話中に攻撃するなんて卑怯だぜ!」

土具魔「ヒキョーもなにも、戦いには情けなんざいらねーんだよっ! そうだ、俺様一人相手じゃ退屈だろうと思うから、ちっと仲間を連れてきてやったぜぇ゛!」


連れA「よぅ……久しいなぁ、秀和」

秀和「なっ……!? てめえは……」

連れB「あたくしのことを覚えてるかしら、菜摘? この傷のこと、忘れたとは言わせねえぞコラァ!」

菜摘「う、うそっ!? あの人まで……」

哲也「どうやらこれはかなりきつい戦いになりそうだね……色んな意味でさ」

秀和「くそっ……あんまり気乗りはしねえけど、やるしかねえか……」


土具魔「さあ……もっと絶望しろや……そしてその絶望の中で俺様の犠牲になるがいいぜぇ゛! ハハハハハハハハハァ゛!」

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