リボルト#12 陥落する黄金の楽園 Part2 荒野を通り抜けろ!
「いってらっしゃいであります!」
正門で待機している可奈子は、俺たちが彼女の側を通った時にいつもの敬礼をして、明るい笑顔を浮かべながら俺たちを見送ってくれた。
俺たちも可奈子の目を見返して、自信に満ちた笑みで返事をする。
「なんとしてもこの戦いは勝たなければな」
勝利と自由への渇望を胸に秘めて、俺はぼつりとこう言った。
そしてポテチを一パック食べる時間が過ぎると、周りの景色が一変した。
さっきまで晴れやかだった空が、あっという間に砂に覆われ、どんよりとしている。吹き荒ぶ風がまるで俺たちを嘲笑うかのように、すさまじい砂嵐と共に俺たちの邪魔をする。
「砂嵐だ! 気を付けろ!」
「ああ、そうだな!」
俺の声に応じて、哲也の表情も険しくなる。これから何かが襲ってくるかもしれないって、そんな気がしてならないからな。
「気を付けてください。これより先はP2反応を多数探知しました」
碧の発言も、俺の考えが正しいと裏付けた。
「ネガコレか……だったら、こっちも容赦するわけにはいかないよな」
俺は側車の中にあるショットガンを手に持つと、こいつを握り締めた。
こんな視線の悪い環境じゃ、射程の遠い銃はほとんど役に立たないだろう。それならやつらが近付いてきたところに、一発で地獄に送ってやろうじゃねえか!
「ハッ、鬼ごっこでもしよーってんのか? おもしれー、付き合ってやるぜ!」
「そんな卑劣な手段を使う連中には、たっぷりと罰を与えてやらねば」
聡と広多も手中の武器を構えて、居場所の分からない敵を仕留めようとする。
いつもなら聡は、「おまえだって姿を消して敵を倒したじゃねーか」とつっこんでいたけど、今は敵を倒したい気持ちが二人の心を繋いだわけか。
……って、そんなことを考えてる場合じゃないな。俺も真剣に敵を迎え撃たないと。
「来ました! 左から3匹、右から4匹です!」
普段とは違う碧の早口が、この場の空気を張りつめた。
「オッケー、このまま配置を変えるなよ。ここで散開したらやつらの思うつぼだぜ」
「おう、了解! チームはやっぱ固めないとな!」
俺の指示を聞いて、正人は爽やかな声で承諾した。しかし、またしてもあいつが口を挟んでくる。
「一番チームワークができてないのはお前だぞ、正人。少しでもそいつに見習っておけ」
「おいおい、今は任務中だろう! 少しはその減らず口のくせを直せよ!」
「何を言おうが俺の勝手だろう」
正人にたしなめられても、拓磨はまったく反省する様子はなかった。
そんな二人のやりとりに呆れていると、乱れる砂嵐の中から何かの影が見える。
四本の足で走っているその姿からすれば、相手は恐らく狼かチーターみたいな野獣だろう。スピードが自慢だから、油断したら間合いを詰められるかもしれないな。
緊張する俺はショットガンの銃弾を装填し、奴らのいる方角に銃口を向ける。
少しずつ、敵の姿がはっきりと現れてきた。その凶悪な目線と牙から放つ光は、まるでナイフのように鋭い。
前に進むはずの野獣が、横に迫ってきた。これは攻撃の予兆か……?
とりあえず、俺はこいつらにやられないためにも、ちゃんと始末しなければな。
野獣との距離は、ついに二三歩まで詰められ、その体型も本物の狼みたいに大きくなる。
よし、今がチャンスだ!
俺はここぞとばかりに、引き金を引いた。すると大きな轟音と共に、たくさんの鉛弾が飛び出て野獣の体を貫通し、もう一匹の野獣も仕留めた。へへっ、まさに一石二鳥だな。
「気をつけて! 右からも来るよ!」
菜摘の大きな声が、俺の少し緩んだ気を入れ直させた。しかし野獣たちのいるところが遠く、ここからだとうまく狙えない。
「ガウウウウウ!!!」
しわがれる野獣たちの叫びから、奴らが長い間に飢えていることが分かる。もし捕まってしまえば、きっとその白い牙に引き裂かれるだろう。
そして突然、一匹の野獣がこっちに飛びかかってきやがった。
だがこっちも半人前だらけのチームじゃない。伊達に訓練を受けたわけじゃないことを、思い知らせてやる!
「ふんっ!」
タイミングを伺っていた哲也はいつも腕に装着している盾を掲げて、襲ってきた野獣を受け止めた。
次の瞬間に野獣の全身が青い光に包まれ、物理定律に反して明後日の方向へと飛んでいった。
「まあ、こんなところかしらね」
両手を上げて指をゆらゆらと動かしている美穂は、余裕の笑顔を見せる。彼女がはめている手袋には、野獣が包まれていたのと同じ色が光る。
「おお、ナイスコンボだね! すごいすごい~!」
そのうまい連携を目にした菜摘は、拍手しながら過剰なリアクションで二人を褒めた。
「まだよ! 次はアンタとアタシの番ね、菜摘!」
「うん! 行くよ美穂ちゃん!」
さっきからスポーツバッグを漁っていた菜摘は、美穂に目線を送りながら元気な声で返事した。
そして彼女が言い終えると、スポーツバッグからたくさんの釘が刺さっているボールを取り出し、それを野獣に向けて投げつけた。
「えいっ!」
その掛け声に応じて、美穂は再び手を上げた。
「はああああ!!!」
すると今度は釘ボールが赤い光に包まれ、あっという間にそれがデカくなった。
かわす準備ができてなかった二匹の野獣が、そのデカい釘ボールに潰され、黒い霧となって消滅した。
「やったー! 大成功だよ~」
意外な成果を成し遂げて喜んでいる菜摘は、側車でジャンプを繰り返した。
「もう、はしゃぎすぎよ、菜摘! 危ないからちゃんと座って!」
そんな子供みたいな動きをする菜摘を見て、美穂は思わず呆れた顔するも、親友としての忠告をしてあげた。
「美穂さんの言う通りだよ、菜摘さん! 落ちちゃうかもしれないよ!」
菜摘のいる側車を運転している妙も、顔色が変わって慌てた表情になる。
「ああ、そうだった! ありがとう美穂ちゃん、妙ちゃん!」
自分の過ぎた喝采に気付いて、菜摘は大人しく座った。
「油断大敵だ。左右にはまだ一匹ずつが残っているぞ」
広多はあきらかに遠距離攻撃に不向きな大鎌を構え、俺たちに注意した。
だがそんな言葉に耳を貸さないのは、こいつだけだ。
「へっ、たかが普通のザコだ、そんなの楽勝だぜ! オレ一人でもよーゆーだ!」
俺の予想通りに、またしても聡が粋がる。彼は手中のスマホをいじり、緑色に光るギザギザリングを左側の野獣に向けて発射した。音速に飛ぶそれが早くも野獣の身体を切り裂き、奴は黒い霧と化した。
「へへっーん、どんなもんだ……あれ?」
得意げに笑う聡は、いきなり顔色が変わった。それもそのはず、なぜならその間に右側の野獣が聡に飛びかかった。
「うわぁぁぁー!! やめてけれー!!! まだ死にたくねーよぉぉぉぉ!!!」
自分の死を確定したのか、聡は情けなく涙を鼻水と共に垂らした。さっきの威風は一体どこへやら。
そしてその時、大きな紫色の三日月が突然現れ、最後の一匹を真っ二つに切り捨てた。
「だから言っただろう。油断大敵と、な」
冷たい視線を放つ広多は、まるで聡の無謀を咎めるように彼を見つめている。
「ぎくっ!」
その視線の冷たさを感じた聡は、きっと全身が縮み上がる思いをしただろう。
「何はともあれ、これで一件落着だな」
すべての敵を撃破したことを知り、俊介は穏やかに微笑む。
「オレたちの出番はなしか……ちぇ、全然おもしろくねーぜ」
一方ストレスを発散できなかった壊時は、腕を組みながら不満を零す。
しかしその時、無情にも俺たちの安心感をハンマーのように砕く現実が訪れてしまった。
「大変です! 後方からP2反応を大量に探知しました!」
「何だって!?」
碧が伝えた悪夢のような情報を俺は、条件反射で大声を漏らした。
だが、これ以上の悪夢が更に待ち伏せている。
「かなりの数です……100体……いいえ、およそ300体です!」
「おいおい、マジかよ! こんな数だとすっげー不利じゃねーか!」
さっきのアレでトラウマになったのか、さすがに聡もゲームでの余裕を無くしたようだ。
こいつはまずいぜ。たとえ雑魚とはいえ、300体相手じゃ数が多すぎる。もし奴らを倒せたとしても、恋蛇団の連中をやっつけるための弾薬や気力が足りなくなる。
こうなれば逃げるのが得策だが、俺がしゃべる前に誰かが口を挟んだ。
「これは戦うしかないな! よし、バイクを止めるぞ!」
熱血漢の正人は熱い声で自分の決意を言葉にすると、バイクのスピードを落とし始めた。
「おい、何をする気だ!?」
あまりにも唐突な発展に、俺は慌てて大声で質問する。
「見れば分かるだろう! ヤツらが来るのを待って、一網打尽してやろうぜ!」
正人の迷いなき返答を聞いて、俺は呆れて言葉も出ない。なんて無鉄砲な奴なんだ。ここは何としても前進させるように説得しないと。
「いやいや、おかしいだろう! 大体俺たちは向こうに行って、攪乱する予定じゃねえのかよ!? こんなところで雑魚の相手をしてる暇はないぞ!」
「大丈夫だって、オレにはいい考えがある!」
そう言うと、なんと正人はハンドルを左に大きく回して、Uターンをしやがった。
「おいおい、本当にやる気か?」
「当たり前だろう! ここで逃げたら格好悪いぜ!」
慌てた俺の声に対して、正人は熱いながらも落ち着いた口調で俺に返答する。
そしてこのまま、バイクは雑魚軍団に向かって突進し続ける。距離が縮むにつれ、雑魚たちの姿も少しずつ大きくなってくる。
この状況だと、正人を止めるのは無理か。俺は仕方なく右手にP2を溜めておき、タイミングを計って千里の一本槍で奴らを仕留めてやるぜ。
しかし、俺の心配はただの余計だった。
正人は義手を開くと、腕を前に伸ばした。
「よっしゃ! これでも喰らえ!」
正人がそう言うがはやいか、彼の義手から小型爆弾のようなものが飛び出て、地面に落ちる瞬間に大きな爆音と共に砂が巻き起こされ、あたり一面が砂嵐になった。
そして砂嵐が去ると、そこにいるのは深い穴にハマって出られなくなる雑魚たちだった。
「へへっ、うまくいったな! ほら、言ったとおりだろう? 大丈夫だって!」
「あ、ああ……」
予想以上の効果を見て、俺はただ呆気に取られて何も言えなかった。
もうあの雑魚たちは追ってこないだろうし、俺も資質を出す必要はないか。というわけで、俺は右手に溜めていたP2を消した。
雑魚たちを始末した正人は、まるでラスボスでも倒したかのように喜び、バイクをもう一度Uターンしてみんなに合流することにした。
「まあ、ダーリン、今のはとても格好よかったですわ!」
正人が好きでしょうがない雅美は、両目の輝きを放ちながら彼に見とれている。
「Well done! よくやったね、正人!」
同じく傍らでさっきの光景を目撃していた絵梨香は、親指を立てて正人を褒めた。
「やれやれ、銃や兵器を使うのが邪道じゃなかったのか?」
拓磨は相変わらず首を横に振って、正人の行動に対して文句を漏らした。
「あれは一対一のマイルールだろう! あれだけの数の相手に、拳だけじゃ勝てないぜ!」
「それを聞いて安心した。どうやら思ったほどの馬鹿じゃなさそうだな」
「相変わらず嫌味なヤツだな、お前は」
正人はいつものセリフで拓磨に返したが、怒る様子はまったくない。
「そいつはどうも。ほら、さっさと行くぞ」
拓磨はハンドルを回し、エンジンをかけて再び前進した。
「おい! おいてくなよ!」
正人も負けまいと、拓磨を追いかける。残りのレッド・フォックスのメンバーたちも、二人の後を追う。
敵もいなくなったことで、この後の行程はかなり順調だった。
およそ10分後、俺たちはついに殺風景な荒野を通り抜け、街道らしき場所にたどり着いた。
言うまでもないが、そこにあるのはまたしても目を疑うような光景だった。
「うわぁ~! すっご~い!」
先に賛嘆の声を上げたのは菜摘だった。それはまるで、童話の世界に迷い込んだ子供のようなリアクションだ。
無理もない。なぜならここにある建物のほとんどが高層ビルであり、とても値段が高そうな材料で出来ているからだ。俺たちのいるところとは大違いだ。
そしてその中では、天辺までそそり立つ金色のビルが3本もある。まさにこの前にサテライトの映像で見たやつだ。
それにしても妙だな。こんな豪華な場所なのに、俺たち以外誰もいない。これってまさか、奴らが俺たちが来ることを……
「すげーな……一体いくらかかってんだよ、これ!」
今までこのような贅沢な建物を見たことがないのだろうか、両目がビルの色に染まった聡は大きな声で叫んだ。
「まあ、お前が一生働いても、1平方メートルを買えるのがやっとだろう」
腕を組んで俯いている広多は、冷ややかに鼻で笑うとそう答えた。
「ムカつくぜおまえ! 御曹司だからって調子に乗りやがって!」
もちろんそんなことを言われて喜ぶ聡じゃない。彼は舌打ちをすると、捨て台詞を吐いた。
「おいおい、喧嘩はそれぐらいにしとけよ。もうすぐ目的地に着くから、ここで騒いだら奴らにバレるぞ」
俺はリーダーとして、二人の言い争いを止める。二人も聞き分けがよく、すぐに黙ってくれた。
やれやれ、もう何回目だよ、これ。
バイクは金色のビルに少しずつ近付いていき、スピードも徐々に落ちてきた。ついにビルから約500メートル離れたところで、バイクは完全に停止した。
「これが『ゴールデン・オアシス』か~こうして近くで見ると、ますます住みたくなってきたぜ!」
己の欲望に正直な直己は、ビルを見上げながら両目から輝きを放つ。
「だがそこは、悪党どもが屯している場所だ。破壊しなければな」
同じくビルを眺めている俊介は、眉間にしわを寄せている。いつもの爽やかな笑顔はどうした。
「へっ、要は邪魔なヤツを全部倒せりゃいいって話だろう! こんなの朝飯前だぜ!」
脳筋派の壊時の口元が緩んでおり、彼は何を考えているか全部顔に書いてある。
「さて、そろそろ変装の準備をしようか」
哲也は座席の中に詰め込んであった着替えを取り出し、俺たちに次の行動を促した。
「よし、やるか!」
俺もバイクから降りて、適当に一着のジャケットを羽織った。
「それじゃ、アタシたちも行こっか、菜摘」
「うん、美穂ちゃん!」
先に降りた美穂は菜摘の手を取って、彼女がバイクを降りるのを手伝った。
「おお、お二人はお着替えですかな?」
何かに反応した直己はさっと二人に接近し、いやらしい笑みを浮かべている。やれやれ、下心が丸見えだぜ。
するとその時、いつものように「彼女」が現れる。
「なーおーきぃぃぃぃ!!!」
「ひゃい!?」
「あんたね、いっつもいっつもこう! どうしてそんな恥ずかしいことが簡単に言えるのよ! もう、このハレンチ!」
名雪は高い声で怒鳴りながら、懲りない直己を罵る。その手中にあるハリセンは、何度も直己の頬に往復ビンタを喰らわせる。
「や、やめてくれぇぇぇ……」
いつもより激しい攻撃のせいか、直己の口から血液の混ざった泡沫が噴き出る。うわ、目も当てられないぜ。
「おい名雪、それぐらいにしておけよ。こいつが倒れたら作戦がダメになるぞ」
「ふん、リーダーに免じて、今回はこれで許してあげるわ」
俺の指示で、名雪はやっと直己への攻撃を止めた。しかしその時、直己の頬は既にリンゴのように赤く腫れ上がっていた。ああ、可哀想に。
「それじゃ気を取り直して、早く変装を済ませようぜ。着替え終わったらまたここに合流してくれ」
これ以上時間を無駄にするわけにはいかないと思い、俺はみんなに自分のやるべきことを口にした。
そしておよそ5分後、変装を終えたみんなはバイクが停まった場所に戻った。
菜摘「い、いよいよだね……ついに本番の戦いが来ると思うと、なんだかドキドキしちゃうね……」
哲也「ああ、僕も同じ気持ちだ。だがここで引くわけにはいかないよね」
千恵子「何としても、わたくしたちの自由を取り戻さなくては……!」
秀和「よし、その意気だみんな。そろそろこのふざけた茶番に、終止符を打とうぜ」
土具魔「くくく……俺様もなめられたもんだなぁ゛……まさかそれぐらいの実力で、この俺様を倒せるとでも思ってやがるのかぁ゛!?」
秀和「土具魔……また会えたな、てめえ」
乱「ふっふっふ……ワタシもいるわよぉん♥あら、まだ生きてるの?なかなかしつこいわね、アナタ」
千恵子「何を考えているかは存じませんが、これ以上は好きにはさせません!」
土具魔「へっ、こうでなきゃ面白くねえぜ゛! さあ、俺様のためにその命を捧げやがれ!」
乱「土具魔様の命令は絶対よ! 死にたくなかったら、大人しく言うことを聞くのよ!」
秀和「矛盾してるじゃねえか……まあいい、一気に蹴散らすぞ!」
菜摘「うん、がんばるよ!」
哲也「どこからでもかかってくるといい……僕たちの絆なら、あんな奴らに負けるはずがないさ」
千恵子「そうですね……見せて差し上げましょう、わたくしたちの実力を!」




