リボルト#11 忍び寄る黒き霧 Part8 明かされる真実、暴かれる秘密
※このパートにネタバレ及び危ない内容が含まれております。ご注意ください。
正人たちの案内に従って、俺たちは移動部屋の中に入った。しかしその中にはとんでもない光景だった。アパートの個室の広さもあるその空間の中には、数え切れないほどのスクリーンが壁や真ん中の机に配置され、まるで本物かのように画面が飛び出ている。
「すげー! 裸眼3Dかよー!」
こんな先端技術を駆使したものを目の当たりにして、機械好きな聡は思わず叫んだ。まあ、今にしては別に珍しいものじゃないけどな。
「ただの3Dじゃないぜ! 触ると反応してくれるのがコイツの本当の凄いところなんだ!」
「マジで!? それじゃ……」
正人の説明を聞いて、聡はさらにテンションを上げて昂ぶり始めた。
すると聡は、一番近くにあるウサギの映像に手を伸ばした。そのふわふわした頭を撫でてやると、ウサギも気持ちよさそうに自分の頭を聡の手に寄せた。
「うっひょー! マジですげーぜ、コイツ!」
反応を見せてくれたウサギを見て、聡は歓喜の満ちた声を上げた。
確かにこれは凄いぜ。だが彼らは俺たちに見せたいものは、これじゃない気がする。もっと大事な何かがあるはずだ。
「へー、本当に時代も技術も進んでるなぁ。で、まさか俺たちに見せたい『アレ』ってこれのことじゃないよな?」
早く真相を知るためにも、俺は正人に質問を投げた。が、返事したのは涼華のほうだった。
「これであって、これじゃないのよ」
「何だよ、そんな哲学的な答えは」
「ふふっ、言葉通りの意味よ。察しのいいかずくんには、もうお分かりでしょう?」
「要するに、俺たちに見せたいのは別の映像ってことだろう? まったく回りくどいぜ」
「それでも、ちゃんと分かってるかずくんは凄いじゃない。やはり私たちは、相性がいいかもね♪」
俺が正解したことに気をよくしたのか、涼華は俺に顔を向けるとウインクをしてきた。気持ちは嬉しいけど、今の俺にとってこれほどキツい公開処刑はない。
一瞬顔が熱く感じたし、背中から汗が滝のように流れているかのような気分だった。
うう、気まずい。千恵子と菜摘はどんな顔をしていたのかも想像できないし、確認したくもない。
「よし、もったいぶるのもこれぐらいにして、さっさと本題に入るぜ!」
そんな深い事情を知らない正人は指を絡めて鳴らし、真ん中にある机に近付いていく。彼はその上に投影されている映像のボタンを押すと、壁にあるスクリーンの映像が全部消えた。そしてすぐさま彼は一番右の青いボタンを押したら、俺たちの前に立体感の溢れる地球の映像が机の上から飛び出た。
やっぱり最近の技術ってすげえな。映像のボタンなのにちゃんと動くなんて。
こんな感動に耽っているうちに、正人は両手を机の上に叩いて、いかにも何かが始まるかのような物々しい雰囲気を醸し出す。
「さて、いきなりだけど、みんなはここに来た時のことを覚えてるか?」
「ここって……このヘブンインヘル私立学校のことかしら?」
腕を組んでいる美穂は、正人の質問を聞いて自然に応答した。
「ああ、そうだ! 入学する時のバスに乗ると急に加速して、一瞬自分がどこにいるのか分からない状態になっただろう? まるで異次元にいたように……」
美穂の言葉に正人はクイズ番組の司会みたいに盛り上がり、前屈みになって右手の人差し指をビシッと突き出す。
……思い出せば確かにそうだった。俺がここに来た時も、正人が言っていた内容と同じ状況だった。それにさっき正人たちが落ちてきた時も、何の前触れもなかった。もしかして……
「なあ、哲也、菜摘、君たちはここに来た時もバスに乗っていたのか?」
「ああ、そうだ。リーダーの先駆の言っていた通り、乗っていた時は急に周りが見えなくなって、気が付いたらもうここに付いたんだ」
「そうそう! あの時は興奮してて特に何も考えてなかったんだけど、今にして思えば本当おかしいよね!」
……やはりそうか。この尋常じゃない学校もそうだが、普通に学校に行くはずなのに、何故そこまで不自然な現象が起きるんだ? どう考えてもあやしいぜ。
そして次の瞬間に、俺たちはとんでもない情報を耳にした。
「無理もない。なぜならお前たちがいる場所は地球じゃないからな」
「……へっ?」
何事もないかのように拓磨の口から告げられた驚異の事実を聞いた俺は、思わず情けない声を漏らす。よく見ると、いつの間にか宙に浮かぶ地球の映像の近くには、一つの小さな惑星が姿を現している。
そういえば最初にここに来た時、俺はここは地球じゃないと疑っていたが、まさか本当だったとは。
「簡単に言うと、ここはArtificial Satelliteなんだ~あっ、人工衛星って言ったほうが分かりやすいかな?」
「えっ!? それじゃ私たちって今、宇宙にいるってこと?」
続いて絵梨香が言ったことを聞いて、大声を上げた菜摘。もちろん驚いたのは彼女だけでなく、他の仲間たちも同じく目を見開いた。
「いや、地球も宇宙の一部だからね、菜摘」
こんな時でも哲也は動揺することなく、冷静にツッコミを入れる。
「正確に言えば、『地球外』と言ったほうが妥当ですわね……もぐもぐ……残念ながら」
さっきからずっとハイテンションだった雅美も、少し俯いている。しかしおせんべいを咀嚼する時に発するバリバリした音が、あまりにも目立ちすぎる。おいおい、少し空気を読めよ。
地球でもないのに何故窒息しないのかは謎だけど、あまりにもショックが大きかったので、そんなことを聞いてる余裕がなかった。
「どうしよう……この車も壊れちゃったし、これじゃもう帰れないよ……」
残酷な現実を知った妙は、突然全身の力が抜けたかのようにガクリと体が倒れ込み、両手が地面についた。その顔は垂れた長い髪に隠され、表情が確認できない。
「やれやれ、結局はぬか喜びか」
狼狽えるみんなを傍らで見ている拓磨は、俯いて両目を閉じると溜め息をついた。
「やっぱりあの先生たちと戦わなきゃなんねえのか……まあ、仲間が増えただけでましか」
何とかしてこの絶望的な状況から立ち直ろうと、俺はポジティブな発言をした。
「そうですね! このレッド・フォックスのみんなはとても強そうですし、きっと何とかなりますよ!」
いつも笑顔が絶えない冴香は、変わらない晴れやかな笑みを浮かべてみんなを励ます。
「うふふっ、大丈夫ですよ。ワタシは何とかしますから」
クスクスと落ち着いた笑い声を出した小春は、とても頼もしそうに同じことを言った。何とも不思議な口癖だな。
その時、正人が投げてきた質問に俺は反応する。
「そうだ、さっきお前たちを襲った連中のことなんだけど……」
「ああ、恋蛇団のことか? 俺たちがここから出るのを阻止するために、力ずくで邪魔しに来るかなり厄介な連中だぜ。イカレた奴ばっかりだろう?」
「まあな。んで、実はここに来る前に、ちょっとアイツらのこと、調べておいたんだぜ」
「何だって!?」
正人の衝撃の言葉を聞いた俺は、思わず驚きの声を上げる。今まで俺たちを散々苦しめてきた連中の正体をやっと分かると思うと、鳥肌が立ちそうだ。両手の震えも止まらないぜ。
「へへっ、早く知りたい、って顔をしてるみたいだな。よーし、そんじゃ早速始めるとするか!」
ドヤ顔の正人はそう言うと、再び机のボタンを弄り始めた。すると先ほどの地球と惑星の映像が消え、代わりに恋蛇団の連中の顔写真が載っているいくつかのプロフィールが浮かび上がった。
こんな大事な局面を迎える俺は、かつてない緊張感に支配され目を見開いて、心臓の鼓動が聞こえるぐらいに息を凝らす。
「まずはこのリーダーっぽいヤツから始めるか……加御栖 土具魔、本名は朝倉 英治。物心が付いた頃から喧嘩や殺人を働き、今まで殺めた生き物の数は4桁を超えているぜ。さらにコイツはここに入学する直前に、寝ている両親をハンマーで殺したらしい」
「なっ……!?」
正人の口から飛び出た衝撃の真実を聞いた俺は、さすがに動揺を隠しきれなかった。ふと周りを見ると、仲間たちの顔にも険しい表情が浮かんでいる。
「そんな……ひどいよ……」
純真な心を持つ菜摘は、とても正気の沙汰じゃない内容を聞くと思わず啜り泣いている。まあ、無理もないか。
「なに考えてんだアイツ! 自分の親も殺すなんて、頭おかしいんじゃねーの!? ゲームと現実ぐらいは区別しろよな!」
「おのれ……唯我独尊、厚顔無恥! 何故あんな人道に反することができるんだ!?」
熱い聡はともかく、いつもクールで無口な広多も何故か血眼になってイカレ野郎の写真を見つめている。
「あいつの考えていることは、常識では計り知れそうにないな……気を付けたほうがよさそうだね、秀和」
「ああ……そうだな、哲也」
哲也からの忠告を受けて、重い雰囲気に包まれている俺が返事するだけで精一杯だった。
それにしても、なんでこんな大きな犯罪をする奴はキツい罰を受けないのは不思議だな……まさかあいつ、自分が未成年だからってやりたい放題できるとでも思っているじゃないだろうな……
「次はこの子だな。蘭青 乱、朝倉 英治に心酔している女子。またの名は『ミス・マンティス』。その美貌に魅了されて彼女に寄り添う男子は、ことごとく殺されたから」
それを聞くと、全身に悪寒が走った俺は無意識に体を竦め、冷や汗を掻いた。
あの赤目少女、あの時に俺を誘惑したのはこのためだったのか。乗らなくてよかったぜ。もし誘惑されたのは俺じゃなくて直己だったら、きっともうあの世に逝っちまったのだろう。
「よかったわね、直己。誘惑されなくて」
直己と深そうな関係を持つ名雪は、イタズラっぽい笑みを零しながら彼を見ている。言っていること自体は問題ないけど、その意味深な笑顔からすると、彼女は直己をからかっているに違いない。
「う、うるさい! いくらなんでも、こんな見え見えの子供騙しに引っかかるおれじゃないぜ!」
「ふーん、どうかしらね」
からかわれて気まずく感じたのか、頬を赤く染めた直己は強がりの言葉を言い放つ。もちろんそんなことは名雪にはお見通しのようだ。
「じゃあ、何でアイツが生きてるの? あの朝倉ってヤツ」
一方その頃、美穂は自分の胸に残る疑問を言葉にして口に出した。まあ、俺には答えはもう見えてるけどな。
「それがな……この子が同じ手口で彼を殺そうとしたら、逆に身柄を拘束されたぜ。あれから彼女はコイツに惚れちまったってわけだ」
「なるほどね……まあ、あんなにめちゃくちゃ強いし、納得できるわ」
正人の答えを聞いた美穂は、呆れた目付きをしながら頷いた。
「さてと、そんじゃ次はコイツか。見手呉 目立、朝倉 英治の右腕」
「出た! あの爆弾野郎め!」
爆弾を投げられてまだ根に持っているのか、写真を見たとたんに直己は早速反応して大声で叫んだ。そして正人は直己が話し終えるのを見て、彼は紹介を続けた。
「コイツはかつて彼女持ちだったが、自分の凄さをアピールするために迷惑事件を500以上も起こし、『光栄の軌跡』と称して写真をアルバムにまとめたり、ネットに投稿したりしてるぜ」
「マジで!? あいつ彼女いたのかよ!?」
信じられない事実を聞かされた直己は、再び落ち着きを無くして大きなリアクションを取った。
「まあ待て、話はこれからだ。ある日目立は自分で撮った写真を彼女に見せたが、案の定早速振られちまった。その件彼はずっと彼女のことを恨み、彼女が新しい彼氏とデートしていた途中で二人を攫い、自作の爆弾で殺しちまったんだ」
「なっ……! そんなこともできるのかよ、あいつ!」
直己は驚きの声を上げたが、もちろん驚いたのは彼だけじゃなかった。
もはや良心も理性もモラルの欠片もない、ただ狂気しか感じられないその内容がこの場の空気を凍らせ、俺たちの心臓はまるでジェットコースターに乗せられたかのように不規則に揺らぐ。
その時、俺はとあることを思い出す。さっき隠れ家で奴らのアジトを見ていた時に、あの爆弾魔は確かベッドの上で「とんでもないコト」をしてたよな……もしかしてこれと何か関係があるんじゃないのか? とりあえず聞いてみよう。
「なあ、正人。あの爆弾魔の彼女って、なんていう名前だ?」
「えっと……ちょっと待っててくれ。あった、振新 愛未っていう名前だぜ」
……やっぱりそうか。確かさっき爆弾魔が「とんでもないコト」をしてた時も、「マナミ」って言ってたよな。
もし俺の推理が正しければ、あれは自分の彼女への未練でやったことなのだろうか……? 本当に度し難い奴だな……
「ちなみにさ、アイツがやった迷惑事件ってどんなのだった?」
興味津々なのか、聡はそんな質問をした。まったく物好きだな。
「そうだな……ピンポンダッシュしたり、警察にイタズラ電話したり、掲示板で嘘予告したり、走る車に石の詰まったペットボトルを投げつけたり、観覧車を登ってターザンみたいに大声で叫んだり……あと公然猥褻とか。とりあえずキリがねえぜ」
正人は一つずつ爆弾魔の罪状を述べるが、途中で嫌気が差したのか、彼の顔色がだんだん悪くなっていくのが見える。
「うわ……どうりでドン引きするワケだぜ、アイツの彼女は」
そしてその答えを聞いた聡は、あたかもさっきの質問した自分がバカだと言わんばかりの冷めた表情を浮かべた。
「ふんっ、よくここまで生き延びたな、この屑風情が」
不機嫌そうに腕を組んでいる広多は、まるでゴミを見るような目付きで爆弾魔のプロフィールを見据えている。
ただ広多の言葉は、何となく俺の心を動かした。良識を持った人ならではの「正義感」って奴か。
「ああ、まったくその通りだな」
俺は広多の視線の先を追い、彼の発言に同調した。この世にも、こんな想像を超えたクレイジーな奴がいるもんだな。
この後俺たちは、残りのメンバーを一通りチェックした。金のために銀行強盗や詐欺も惜しまない山ガール・「金梨 真寿司」、世界が自分のためにあると思いこむ中二病小柄女子・「テスラ・アインシュバイツ」、小さい時にブラック・オーダーに育てられ彼らを家族として見なすゴリラ大男・「家泰 五鋭」、生まれ付きで不幸体質を持つビビリ君・「南渡 才賀」、子供の頃に両親が離婚して自棄になった女子力ゼロ・「闇窓 加路利」、掲示板でやたら他人の悪口を書き込む長身番長・「黒影 業」、中学生の時にキャバクラで働いて男性に嫌悪感を抱くようになったギャル・「金玉 シャルロット」。
「な、なんかヤベーヤツばっかだな、おい……」
「そ、そうだな……とても人間が成し遂げられる業とは思えねえぜ」
様々なヤバい過去を持つヤバいメンバーたちのプロフィールを見た俺たちは、全身に戦慄が走る。人数は10人とそれほど多くないが、もちろんこれだけは全員じゃないのは目に見えている。それにさっきの戦いで、俺たち脱兎組と真実の標をも圧倒するほどの力を持っていることも明らかだった。
新しい仲間が加勢してくれるのはありたがいけど、正直これで状況が覆せるとは思えない。
だがらといって、ここで諦めるわけにはいかねえ。諦めたらすべてが終わるからだ。こうしてみんなと出会うのも何かの縁だし、どうせなら最後まで頑張らないとな。
こうなると、やるべきことは一つだけだな。
「よーし、決めたぜ。明日は奴らのアジトに行って、『挨拶』でもしてやろうじゃねえか」
「「「「「えええええっーー!?」」」」」
予想通りに、俺の提案を聞いて一部の人は驚き出した。まあ、その理由はある程度分かるけどな。
「や、やめようよ狛幸くん! 相手はあんなに強そう、じゃなくて強いから、わたしたちじゃ絶対にかなわないよ~!」
引っ込み思案の千紗は、必死に両手を振って俺の計画に異議を唱えた。よほど怖いんだろうな。
「怖いのは分かってる、千紗。だけどこのまま放っておくと、あいつらは調子に乗ってまたやってくるぞ。それでもいいのか?」
「で、でも……」
俺はなるべく納得の行く理由を述べたが、千紗はまだ思い止まっている。困惑の中で、俺は自分の頭脳をフル回転させた。
そういえば、彼女はさっき長身番長と出会った時に、物凄く慌てていた。それに隠れ家でインターネットに繋がった時も同じような反応をしていた……まさかとは思うが、ひょっとして……
人のイヤな思い出を掘り返すのは性に合わねえが、ここは真実を知るためには我慢するしかないか……
「もしかして、あの黒影って奴が怖いのか? 弱みを握られたりとか……」
「……っ!!!」
図星なのか、千紗は一瞬今までにない恐ろしい表情になった。拡大する暗い瞳孔、聞いてるこっちが冷や汗をかくほどの息遣い、波のように歪んだ唇。こりゃ何か事情があるに違いないな。
「ちょっと千紗、それホントなの!? 何でそんな大事な話を、あたしたちに教えてくれなかったわけ?」
「そうだよ千紗ちゃん! 私たち友達じゃない!」
もちろんこの話を聞いた優奈と冴香も、無視するはずがなかった。二人は両側から千紗に迫りつつ、真剣な眼差しで彼女を見つめている。
「ち、違うよ二人とも! わたしはただ普通に死ぬのが怖いだけで、弱みを握られたりしてないよ! もーう、考えすぎだよ、狛幸くんは」
秘密が暴かれるのが怖いのか、千紗はあっという間に顔付きを変え、平気を装っている。
そうか、彼女もアイドルだったな。今までそんな一面を見たことがなかったから、油断してたぜ。
「そうなの? ならいいけど……」
そして優奈は何も疑わずに、千紗の言葉を信じた。さすが二人の友情は固いものだな。
それはそうと、本当に俺が考えすぎたのか? どう考えてもなんか裏がありそうだけど……
「ウソついてるわね、あの子」
突然後ろから、美穂の小さな声が聞こえてくる。その顔にはいつものふざけた雰囲気がなく、まるで別人になったかのように真剣だった。
「やっぱりそうか。んで、また例の第六感って奴か?」
「まあね。何考えてるかは知らないけど、ただごとじゃなさそうだわ。あの子の脳内にある精神波に、大きな乱れが感じるわ」
「そうなのか……わざわざありがとうな、美穂」
俺は周りにバレないように、小声で美穂に感謝する。
「いいのよ、アタシだって、この脱兎組の一員だし」
「ふん、たまにはいいことじゃないか、君も」
「ちょっと、『たまに』は余計よ」
さて、どうしたものか……千紗が嘘を付いたのは分かったけど、だからってここで明かすのか? いや、いくらなんでもそれは残酷すぎる。ここは一旦様子を見ておこう。
「あははは、そうみてえだな。わりぃわりぃ、いきなり変なことを言っちまって」
俺はとりあえず間違えたフリをして、申し訳なさそうに頭を引っかいて謝った。
「もう、リーダーなんだから、話す前にちゃんと考えてよね!」
「へいへい、これから気を付けるぜ」
あーあ、優奈に怒られちまったぜ。でもまあ、これを我慢するのもリーダーの仕事か。
「あっ、そういえばアジトに侵入する作戦のことだけど、具体的な企画はどんな感じなの?」
ずっとこの状況を見守って黙っていた菜摘は、俺に質問を投げてきた。
「どんな感じって……今日言ってたのと大体同じだぜ。あっでも、一旦レッド・フォックスにも説明しておいたほうがよさそうだな」
俺は記憶を辿って、今日隠れ家の会議室で思い付いた作戦をレッド・フォックスのメンバーたちに説明した。
「へ~、あいつらは意外とすげえトコに住んでんな~。壊しちまうのはちょっともったいないけど、派手にやるのはキライじゃねえぜ」
ゴールデン・オアシスのことや俺の作戦を聞いた正人は、ワクワクして両手の指を鳴らしている。
「そうか、そいつは心強いぜ。だけど、ここからはあいつらのアジトまでかなり遠いらしい。それに荒野には色んな危ねえ奴もウロチョロいるんだ、歩いていくわけにもいかねえぜ」
俺はさっきの作戦会議で、千紗に指摘された部分を話した。これさえ解決できれば行動できるけどな……それにこの車のエンジンも壊れて動けないし、どうにかならないのか……
「ああ、それなら大丈夫だ。こんなこともあろうかと、この奥にはバイクを何台か載せてある」
拓磨の口から、とんでもない情報が飛び出る。それを聞いた俺たちはまるで宝くじでも当たったかのように舞い上がる。
「おお、マジかよ!? ソイツは助かるぜ!」
喜んでいる聡は、いつにも増して興奮している。
「ああ、これで少しは楽になれるはずだ!」
正人の熱い声が、俺たちの背中を押してくれる。
「ふう……これでようやく一安心だ」
俺は両目を閉じると、頭を上げて大きな一息を吐いた。だが広多の一言は、またしても俺に気を引き締めさせる。
「安心するのはまだ早いぞ。これはまだ終わりではなく、ただ始まりに過ぎんからな」
「そ、それもそうだな」
俺は頭を下ろし、苦笑しながらそう返した。
「はーい、ちょっといいかな?」
聡の作ったプライベート・サーチャーが撮った映像を見ている妙は、突然手を挙げて俺たちに声を掛けた。
「うん? どうした妙?」
妙の声に反応し、正人は聞き返す。
「この生徒たちが着てる制服……制服でいいかな? デザインは私たちや脱兎組のみんなと全然違うから、このまま行くと多分すぐバレると思うんだ」
「あっ、そうか!」
「だから、そこに行く前にこの映像に映ってる制服を作っておこうと思うの」
「なるほど、俺たちを知らない連中もうまく誤魔化せるってわけか……考えたな、妙」
「まあね。これは変装の基本中の基本、なんだからね」
拓磨の賞賛の言葉に、妙はドヤ顔で少し得意げに語る。あざといぞ。
「というわけで、このカメラは少し借りてもいいかな、氷室さん?」
「ああ、もちろん大丈夫だぜ! こんなかわいこちゃんの要求、断るわけねーじゃねーか!」
今まで女子たちに散々翻弄されてきた聡は、こんなかわいい美少女に親切な声を掛けられたことは多分初めてだろう。それで聡の奴はつい調子に乗って、口を滑らせたのかな。
「も、もう……いきなりそんなこと言われても、困るじゃない……」
そして褒められた妙の頬は、リンゴみたいに赤くなり、視線は明後日の方向に逸れる。
「そ、それじゃまた後で!」
カメラを抱えたまま、妙は慌ててどっかに消えていった。
「やれやれ、お前もなかなかやるじゃねえか、聡。まさか初めて出会った女子を口説くとはな。まったく隅に置けない奴だぜ」
一連の経過を見てきた俺は、聡をからかった。
「いや、そういうつもりじゃねーけど……でもまあ、こんなかわいこちゃんが彼女になってくれたら、それはそれでいいかもな! はっはっはっは!」
聡は最初戸惑っていたものの、すぐに開き直って大笑いをした。
「ふんっ、もし誰かがお前の恋人になるとしたら、それは彼女にとって一生の不幸になるな」
聡を小馬鹿にする発言だ……もしかしなくても広多だ、これ。
「おおい! その言い方はねーだろう、広多!」
「事実を言っただけだ。お前のようなゲーム好きは、どうせ彼女ができてもゲームばかりに夢中になって、デートどころじゃないだろうな」
「ぐわっ! くっそー、それでもおまえのような仏頂面よりはマシだぜ!」
「何とでも言え。俺にはそういうの必要ないからな」
「お前らな……」
いつもと違う話題で盛り上がる二人を見て、俺は苦笑するしかなかった。
恋バナで顔を赤めている人たちが大勢いるこの空間の中で、まったく聞く耳を持たない奴が一人いた。
「よっしゃ! そんなことよりトレーニングだ! 体を動かさないと何だかウズウズしちまうからなぁ!」
発言したのは熱血漢の正人だった。どうやら彼にとって恋よりもっと大事なことがあるみたいだ。
「トレーニングですか? そしたら隠れ家にお越しくださいね。ジム機材が多数揃えており、模擬戦もできちゃいますよ~」
「そうなのか! 早く連れて行ってくれ!」
ムムの紹介に釣られた正人は、喜びの表情を顔に浮かべるとさっさと彼女の後ろに付いていく。
「それじゃ、俺たちも行くとするか」
こうして俺たちは妙が衣装を作っている間に、明日の作戦のために軽く訓練をこなした。
雅美「もう、『そんなことより』って……相変わらずダーリンは鈍感ですわね……でも、そんなダーリンもス・テ・キ……ですわ♥ 」
絵梨香「雅美ちゃん、またのろけてる……」
涼華「まあ、いいじゃないの。ところでかずくん、キミの意中の子は誰かもう決まったの? まあ、もちろんこの私なのよね」
秀和「!?」
菜摘「違うもん! 私に決まってるよー!」
千恵子「いいえ、お二人とも。秀和君に相応しいのは、このわたくしですよ」
涼華「ううん、争っても意味がないわ。ここはやっぱり、かずくんの意見を聞いたほうがよさそうね」
菜摘「ねー、秀和くん! やっぱり私のほうがいいよね!?」
千恵子「いいえ、このわたくしです!」
涼華「まあ、答えなくても分かってるわ。きっとこの私に違いないわ」
秀和「なんだこの無限ループ……キリがねえぞ」
哲也「やれやれだね……もうすぐ奴らと戦うというのに、まだこんな話をする余裕があるとはね……本当に女子は僕の想像を超えるぐらいすごいよ」
秀和「感心するとこはそこかよ! てっきり『君は隅に置けないね』とか言うと思ってたぜ……」
哲也「言って欲しかったのかい? こういうことを言ったら、君は確実に混乱すると思うけどね」
秀和「気を使ってくれたのか……まったく君は大した奴だぜ」
哲也「あはは。まあこれでも親友だからね」
秀和「はっは……言えてるぜ」




