リボルト#11 忍び寄る黒き霧 Part7 レッド・フォックス
「おいおいおいマジかよ! 確かさっきコイツらのおかげで衝撃が弱まったはずじゃ……」
「それでも15メートルの高さがあるのよ、リーダーさん。こんな繊細な機械じゃ、壊れるのも無理ないって」
「オレは信じないぜ! 気合いでハンドルを握れば何とかなるはずだ!」
そう言いつつ、熱血リーダーは急いで運転席へと戻る。
「やれやれ、また始まったな、正人の『気合論』」
そんな熱血リーダーを見て、灰色髪のクール男子は呆れながら頭を横に振っている。
「ふ、ふんぬ……んぬううううううう!!!」
車の再起動を図ろうと必死にアクセルを踏んでいる正人の鼻から、荒い息が漏れている。それでも車はまったくビクともせず、ただ騒々しい悲鳴を上げている。
「だーかーら、無理だってば」
白目で正人を見ている涼華は彼が無駄な努力させないよう注意したが、根気で何とかしようとする正人の耳には届かない。
「うるさい! 諦めるわけにはいかないんだ! オレたちには、ここに閉じ込められてるみんなを救出するという立派な使命があるんだぜ!」
歯を食い縛る正人はその両手でハンドルを強く握り締めながら格好いいことを叫んだが、無情な現実は彼の努力を無視してそれを台無しにする。
何としても動いて欲しい、と俺たちは熱い視線を放って正人を見守っているが、5分経った後も状況は全然変わらない。
「ぜぇ……はぁ……」
ついに気力を使い果たしたのか、正人はハンドルの上に身を伏せて息を切らしている。
「だから言ったでしょう、無理だって」
ようやく気付いたのか、と涼華は呆れた目付きで正人を見つめている。
「やれやれ、相変わらず痛い目に遭わないと気が済まない奴だな。そんなことしてる暇があれば、さっさとエンジンを修理する……」
クール男子は不機嫌そうに髪を引っ掻きながら、ぼやき始めた。途中で彼は打開策を口にしたが、早くもその提案が涼華に遮られた。
「それも無理ね。エンジンがかなりイカレたから、とても直せそうにないわ」
「……だろうな。あの男がやらかしたことだ、こうなるのも想定済みだ」
「おいおい、またオレの陰口を叩いてるのか!?」
クール男子の言葉に反応し、正人はすぐガタッと立ち上がり車を降りた。さっきの疲れがまるで嘘だったかのように吹っ飛んだ。
「事実を言っただけだ。そもそもお前はあの時勝手にボタンを押さなければ……」
そんな熱くなった正人を見て、クール男子は苛立ちを隠せず非難の眼差しを浴びせた。
「なんだと! オレはただ一刻も早くみんなを助け出したいと思っただけだぞ! それが悪いことなのか!」
「……別に悪いことじゃない。もう少し状況を考えてから行動しろって言いたいだけだ」
「そんなのイチイチ考えられるかよ! 相変わらずオマエはイヤミなやつだぜ、拓磨!」
「なんだと!?」
同じチームの仲間同士のはずなのに、いつの間にか仲間割れして二人の会話が言い争いへ発展した。うちの聡と広多の関係に似てるけど、どこか違うところもあるんだよな。
「ねえ、これ……仲裁に入らなくてもいいのかな?」
いかにもきな臭い雰囲気で心配になった菜摘は、二人を指差して俺たちを不安そうな目線で見つめる。
「いいのよ。いつものことだし」
そんな二人を見て面白がる涼華は、割と平然としている。さすがは同じチームの仲間だけのことあって、かなり慣れてるな。
「本当に大丈夫ですか? このままだといつ喧嘩してもおかしくなさそうですし……」
平和を愛する千恵子も、この一触即発の局面を迎えてさすがに冷静でいられない。
「大丈夫よ。そろそろ『あの子』も来る頃だから」
「あの子……ですか?」
「まあ、見てなさいって」
戸惑う千恵子を余所に、涼華は腕を組ながらドヤ顔を浮かべている。一体これから何が起きるというのだ……?
「ちょっとちょっと二人とも! また喧嘩してるの? もう、いい加減にして……よ!」
いつの間にか正人と拓磨の間に、またしても見覚えのない女の子が一人現れて仲裁に入った。
淡いピンク色の髪を伸ばし、レッド・フォックスのメンバーと同じの青色が際立つゴスロリ風の制服を着ている彼女は、なんとその両手に側面からチェーンソーが飛び出るトランクケースを持っている!
銀色に光るその鋭い刃物は、どう見てもおもちゃのように見えない。いくら仲裁に入るからって、そのやり方はあまりにも過激すぎるだろう。見てるこっちがヒヤヒヤするぜ。
さすがに喧嘩に夢中になっていた正人と拓磨もその物騒なものを無視できるわけがなく、二人は条件反射でそそくさと後ろに下がった。
「うおい、いきなりなにするんだよ、妙! あぶねーじゃねーか!」
「正人の言う通りだ! もし何かあったらただじゃ済まないぞ!」
妙と呼ばれるピンク色のゴスロリっ子は、二人の非難の眼差しを浴びてその瞳に何かが溢れ出そうだ。
「だ、だって……私はただ、みんながもうちょっと仲良くしてほしいと思ってるだけだよぅ……しくしく……」
「あ、いや、その……」
「やれやれ、これは参ったな……」
突然泣き出す妙の前で、二人はどうしていいか反応に困る。
「大丈夫ですよ、妙さん。『喧嘩するほど仲がいい』って、よく言うじゃありませんか」
その時バスの中から、とてもおっとりした大人しい声が聞こえてくる。まだ他に誰かいるのか?
トン、トン、トン。かかとが階段にぶつかる音は、ゆっくりと響く。俺たちは反射的に音がした方へ顔を向けると、そこには背の高い女性が一人いた。
彼女は月光のように美しい長い銀髪を風に靡かせ、二三層重なったスカート付きのドレスを身に包んでいる。雪みたいに透き通った白い顔には、神秘感が漂う笑みが浮かんでいる。
まるで異国のようなお姫様のようなその姿は、ダンスをする外国人を彷彿とさせる。何という名前だっけ……あっ、そうだ、フラメンコだ。確か口にバラを銜えながら、「オレ!」とか叫ぶ奴か。
「こ、小春ちゃん……」
銀髪姫の登場によって、場の雰囲気は一気に静まり返った。さっきまで泣いていた妙も、泣き止んで彼女を見つめている。
そして小春と呼ばれた銀髪姫は、クスクスと微笑むと話を続けた。
「正人さんと拓磨さんが喧嘩するのは、お互いへの愛情表現なのですよ。もし本気でキライなのでしたら、喧嘩するより無視するのではありませんか」
「あっ、確かに……」
筋の通った小春の理論を聞いた妙は、何かを悟ったかのように目を見開いた。
「ですから、そんなに悲しむ必要はありませんよ。ほら、正人さんと拓磨さんも、握手して仲直りですよ」
笑顔の絶えない小春は、正人と拓磨の手を優しく取って繋がせた。
「さ、さっき悪かった……謝っておく」
「お、オレの方こそ……熱くなっちまってさ」
「はい、よくできました」
謝った二人を見守る小春は姉みたいに、目を細めながらウフフと笑い声を漏らす。
「ほら、だから言ったでしょう? 何とかなるって」
最初から全てが見通しだった涼華は、誇らしげにそう言った。
「ふふっ、何とかしました」
事態が丸く収まったのを見て、小春は片手を頬に当てると穏やかな笑顔を浮かべた。
さて、二人の言い争いが解決した今のうちに、そろそろこっちから話を進めないとな。俺は咳払いをして、みんなの注意を引き付ける。
「オッケー、新参者たち。さっきからとんでもないショーを見せてくれて凄く感動したけど、そろそろ落ち着いて話をしようか」
「あっ、あはは……お恥ずかしいところを見られちゃったね……」
ついに俺たちの存在に気付いたのか、我に返った妙は冷や汗を流して苦笑している。
「それじゃ、まずは自己紹介をするぜ! まだみんなとは初対面だし、これから仲良くなるためにもちゃんとオレたちのことを知ってもらわないとな!」
正人はここぞとばかりに持ち前の熱血リーダー精神を発揮したおかげで、やっと話は本題に入ることができた。そこで俺は、何かデカいことを成し遂げたかのように大きな息を吐いた。
「オレは先駆 正人! 見ての通り、このレッド・フォックスのリーダーだ! これからもよろしくな!」
「おう、俺は狛幸 秀和だ。脱兎組のリーダーだぜ。こっちこそよろしく頼むぜ」
正人が差し伸べてきた、腕まである長い籠手を装着している格好いい右手を俺は握り締めた。
しかし、その感触はどうも違和感があった。人肌の特有の温もりがあるものの、感じたのは金属のような硬さだった。もしかすると、これは……いや、ここは言わないでおこう。
「俺は副リーダーの伊集院 拓磨だ。こんな暑苦しい奴がリーダーで申し訳ないけど、まあ仲良くしてやれ」
拓磨は身に付けているたくさんの銃を弄りながら、側にいる正人を親指で差して小言を零す。その瞬間に正人は少しイラついた表情で拓磨を一瞥したが、特に何も言わなかった。
「わたくしはダーリン……ではなく、リーダーの幼馴染みの児玉 雅美ですわ! 華麗かつ優雅に敵を潰すのはわたくしの美学ですわ! おーほっほっほっほ!」
様々な宝石をちりばめている衣装を輝かせる茶髪のお嬢さんは得意技である高笑いを上げたが、それを聞いている俺たちは気まずくて返事に困っている。
「Nice to meet you! アタシは二階堂 絵梨香! イギリスからの留学子女で、趣味はアクション映画だよ! よろしくねー!」
ロケットランチャーを背負っているおてんばガールは、先ほどと変わらない明るい口調で自己紹介をした。なるほど、帰国子女か。道理で英語がうまいわけだな。
「万作 妙です! レッド・フォックスではスタイリストをやってるけど、いざとなったらそれなりの戦力にもなれると思うの! えっと、これからもよろしくね!」
ピンク色髪のゴスロリっ子は礼儀よく敬礼をして名乗ったが、とある単語が菜摘の興味を引いた。
「スタイリスト? それって衣装や髪型のコーディネートをする人なんだよね?」
「う、うん、そうだけど……」
両目から眩しい光を放っている菜摘を見て、その真意が分からず少し戸惑う妙。
「私、端山 菜摘っていうんだ! モデルのたまごとして頑張ってるの! これからもよろしくね、妙ちゃん!」
意気投合の人が見つかったのか、ハイテンションになった菜摘は妙の両手を握ると上下に揺らしている。
「う、うん……よろしく! えっと、菜摘さんでいいかな?」
妙は頷いて返事をしたが、未だにその表情はちょっと固い。
「うんうん、大丈夫だよ! わあ~、うれしいなぁ~」
まるで有名人にでも出会ったかのような気分で、菜摘の笑顔はいつもより幸せそうだった。
その時に、聡の質問が交ざってきた。
「なんでスタイリストが、こんなところにいるんだよ? 別に銃器を扱うとか、そういうすげーことをしてるわけじゃねーだろう?」
それを聞いた美穂は不機嫌そうな顔になって、聡にこう答えた。
「アンタね、こんなことも分からないの!? 変装よ、変装! 例えば敵のアジトに入り込んで情報を収集する時に、バレないように姿を変える必要があるの!」
「そ、そんな深い意味があるのか……!」
美穂の分かりやすい説明のおかげで、ゲームばかりやってる聡も早く理解できた。
「ふふっ、その通りですよ。やはり普段オシャレに心掛けている女子には分かりやすいですね」
銀髪姫の小春は片手を頬に当てながら、さっきと変わらないおっとりした笑顔を浮かべている。
「えっと、貴女は……?」
小春と引けを取らないほどの美しさを持つ千恵子は、まだ自己紹介をしていない彼女に問い掛ける。
「あっ、申し遅れました。ワタシは月高 小春と申します。以後お見知り置きを」
自己紹介を終えた小春は、スカートの裾を持ち上げるとお辞儀をした。その身振りはまるでお姫様のようだ。
これでレッド・フォックスの自己紹介が終わったかな……うん?
「ちょっと、私のことを忘れてないかしら~?」
どこからともなく、涼華の不満そうな声が聞こえる。
あっ、しまった……涼華とは前に知り合ったから、つい省略しちまった……
「まあいいわ。前に知り合ったことだからつい省略したと思うでしょうし、許してあげる」
おい、何故俺の考えてるが分かるんだ!?
「ゴホン。それじゃ改めて自己紹介をするわね。私は蝶野 涼華、レッド・フォックスの一員よ。特長は『かずくんのことを知り尽くしている』ことよ。まあ、これからもよろしくね、うふふっ」
……相変わらずインパクトのある発言だな。おかげでうちの連中の開いた口が塞がらないぜ。
「おい、いくらなんでもそれはちょっとまずいだろう……」
「私のことを忘れた罰よ」
「うぐっ……わ、悪かったよ」
涼華のたった一言で、俺は反論する余地がなくなった。
「さて、次はそっちが自己紹介する番だな!」
そして何事もなかったかのように話を進めた正人。恋には興味がないのか、こいつ。
その後俺たちも一通り自分の名を名乗り、今起きている状況を整理し始めた。
「なあ正人、助けに来てくれたのは物凄くありがたいけど、エンジンが壊れたんじゃしょうがないよな」
「うう、情けねえ……あの時オレはもう少し落ち着いてれば……本当に申し訳ねえ!」
俺の指摘に自分の非を感じたのか、正人は悔しそうな顔を浮かべて籠手を付けている右手を握り締め、ギシギシと音を立てている。
そんな正人を俺は慰めてやろうとした時、突然の掛け合いに俺は思わず視線を移す。
「万策……」
「……尽きたか!」
涙を浮かべている妙と小春が、跪いて互いの手を取り合い空を見上げている。
「何やってんだ、君たち?」
「あっ、これは私と小春ちゃんの持ちネタなんで、気にしないで!」
俺の質問を受け、慌てて照れ隠しに笑う妙。あー、なるほどな。よく聞くと二人の苗字と発音が同じだし、だからあんなネタを作ったのか。それにしても、まさかこんなところにもお笑い芸人精神の持ち主がいるとは。
「それでしたら、わたくしたちの寮に住ませるのはどうでしょうか? 空いているお部屋なら、まだたくさんありますし」
困っているレッド・フォックスのメンバーたちを見て、千恵子はこんなアイデアを口にした。
「おっ、それいいな! どうだ、正人?」
「いや、ダメだ!」
「えっ? なんでだよ?」
俺は快くそれに賛成したが、何故か正人は右手を開いて拒否の意思を示した。
「オレたちはお前たちの救出に失敗した上に、寮まで借りてしまうなんて……そんなの、申し訳ないじゃないか!」
あー、なるほどな。借りを作りたくないタイプなのか。こいつは参ったぜ。
「いやいや、ここは好意を受け取ろうよ! さすがにここで野宿するわけにはいかないしさ!」
ここで絵梨香は正人の考え方を変えるべく、彼に声を掛けた。
「いや、だけどよ……」
まだ悩んでいる正人を見て、この男が動く。
「じゃあ、お前一人だけこの車の中に住めばいい。俺たちは暖かいベッドでポカポカ、お前は寒い風に吹かれてガタガタ」
「あっ、ズルいぞそれ! それじゃオレも中に……アッ!」
「やれやれ、やっとその気になったか。最初から素直にそう言えばよかったものを」
自爆した正人を見て、拓磨はニヤリと笑った。さすがは同じチームの仲間、よく相手のことが分かってるな。
「よかった、これで一件落着ですね」
そんな微笑ましい光景を見ている千恵子も、キレイな笑顔を浮かべた。
「それでは、リーダーさん。住処も決まったことですし、そろそろ『アレ』を皆さんに教えたほうが宜しいのでは?」
いつの間にか立ち上がった小春は、またしても神秘的な笑顔を浮かべて正人に意味深な言葉を放った。
「おお、そうか。話し込んでたから、すっかり忘れちまったぜ!」
「なんだよ、『アレ』って?」
話が見えない俺は、正人に質問する。
「まあ、オレについてくれば分かるぜ! あっと驚くようなことを見せてやるよ!」
「まったく、そこまでもったいぶるなんて、よほど凄いことなんだよな?」
苦笑しながら、俺は車の中に入ろうとする正人の後を追う。他の仲間たちも俺に倣う。
「うへへ、さてはグラビアアイドルのギリギリ写真集かな?」
「そんな訳ないでしょう! 相変わらずスケベね……」
途中で聞こえる直己と名雪の会話は、俺たちを笑わせてくれた。
それはそれとして、さてと、一体何を見せてくれるのかな……?
聡「それにしても、『レッド・フォックス』か……なんだかスパイみたいでカッチョーいいぜ! くぅ、痺れる!」
秀和「まったくだぜ。どうせならそっちの学校に入りたかったな……」
正人「おいおい、精鋭になるのも楽じゃないんだぜ? 毎日ハードな訓練スケジュールを見るだけで気が遠くなるぞ?」
哲也「それでも、君たちはこうして困難を乗り越えてエリートになったじゃないか」
正人「それはな……オレたちには守りたいものがあるからだ!」
雅美「きゃあ~! やっぱりダーリンは格好いいですわぁ~!」
拓磨「その割りにはよくヘマをするがな。いい加減足を引っ張るのを止めてくれよ?」
正人「おいおい、またそんなことを言うのか? 相変わらずイヤミなやつだぜ、お前は!」
拓磨「なんだと!? 俺のこのスナイパー銃の餌食になりたいのか?」
正人「ああ、撃ってみろよ! このショットガンで返り討ちにしてやる!」
妙「ちょっと、喧嘩はやめてよ~!」
絵梨香「そう言いつつガトリングガンを撃ちまくってるんだけど!」
小春「あらあら、相変わらず激しいのですね、妙さん」
涼華「今日もレッド・フォックスは通常運転ね……うふふふっ」




