リボルト#11 忍び寄る黒き霧 Part5 土具魔の狂った哲学と実力
※このパートに暴言が含まれております。ご注意ください。
「俺様の黒炎の餌食になるがいいぜ! 絶世の黒炎・滅魂凶刃ァァァ゛!!!」
相変わらず聞くだけで反吐が出そうなダミ声を上げるイカレ野郎は、二本の腕で左右から黒い三日月形の炎を放ってきやがる。
だがさっきの全力全開と比べると、この技はどうしても見劣りする。小手調べってわけか。
人殺ししか考えていないと舐めていたが、案外慎重なんだな、こいつ。だったら、こっちも実力を温存して応戦しよう。
俺は左手の指を伸ばして、手刀を作る。そこにP2を流し込み、あっという間に俺の左手は紫色の光に包まれる。
「千里の一本槍・紫刃!」
俺は勢いよく左手を振るい、薪を割るように飛んでくる二つの炎を真っ二つ、いや真っ四つに切った。
「へー、なかなかやるじゃねえか! どうやら退屈しねえで済みそうだぜ!」
俺の対応がうまかったのか、イカレ野郎は珍しく俺を褒めた。まあ、どうせ自分が楽しめるかどうかしか考えてないだろうから、全然嬉しくねえけどな。
「そいつはどうも。それよりてめえには聞きてえことが山ほどあるんだけどな」
「ハッ! この俺様に質問だとぉ!? まあいいぜ。どうせ貴様らはいずれこの俺様に殺られちまうからなぁ!」
またしても上から目線の発言をするイカレ野郎。根拠のない自信を発揮し、いかにも自分の勝利を確信したかのようにニヤリしてやがる。
「それに貴様は運がいい。なぜならこの俺様は最ッ高に機嫌がいいからなぁ!」
さっきアジトでたくさんの人を燃やしたからか。まったくもってこの殺人機械は……
「御託はいいぜ。てめえらは一体なにがしたいんだ? 何故そこまで俺たちの邪魔をする!」
モヤモヤした気分を抱えて、俺は苛立った声でイカレ野郎にずっと前から聞きたかったことを口に出す。
するとどうだろう。イカレ野郎は少し驚愕した目付きで俺を凝視すると、突然顔を上げて爆笑し始めた。
「ヒャーハッハッハッハッ! そんなことも分からねえのかよ! 貴様は実に面白えやつだぜ!」
……てめえのような精神異常者が考えてることは誰が分かるかよ。そう思いつつ、俺は思わず放送禁止用語を小声で呟いた。もしこれはアニメだったら、絶対「ピー」の音が入るだろうな。
「それはなぁ゛、この世界を『あるべき姿』に返すためなんだよ゛!」
「あぁん?」
俺の返事も待たずに勝手に話を進めたイカレ野郎の意味不明の言葉に、痺れを切らした俺は思わず不機嫌な声を漏らす。
「へっ、『何言ってんだこいつ』みたいな顔してるなぁ。しょうがねえから説明してやるよぉ!」
まるで台本でも読んでいたかのように、イカレ野郎はスムーズかつ一方的に話を続けた。悔しいけど、俺は今まさにそう考えているのも否めない。コンチキショー……
「貴様らは毎日、平和な人生を過ごしてるよなぁ? 争いも戦いもない人生ばかりに浸ってて、平和ボケになってるんだよなぁ?」
「それがどうしたってんだ? 平和を望むのはステキなことなんじゃねえか」
ますます意味が分からない。こいつは一体何が言いたいんだ? まあ、ここに来てからは、もはや平和のかけらもないけどな。
「本当にそう思うかぁ~? ところがどうだ! 今にも世界に絶えない戦争が溢れて、大混乱に陥ってやがる! それに人々は平和を望むと言いながら、何か暴動やスキャンダルが起きる時も、みんなは興味津々に情報を集めようとしてやがる!」
……こいつ、なかなか痛いところを突いてくるじゃねえか。あまりにも正論すぎて、俺は反論の言葉が見つからない。
「ところで、貴様はよく映画を見るのか?」
「ああ、アクション映画なら結構見てるけど」
ここに来て趣味の話? イカレ野郎の真意が分からないが、ここは素直に答えるしかなさそうだな。
「そうか、それなら話が早いぜ。そこで貴様は気付いたことがあるのか、暴力描写と性的描写に対する規制の差は」
ああー、なるほどな。イカレ野郎のその言葉を聞いた瞬間、俺は何となくこいつの意図が分かるような気がしてきた。って、何で俺はこんな奴の言うことに納得してるんだよ。
「濡れ場などは、ほとんどモザイクがかかったり、適当な描写をしただけですぐ場面を変えたりしてごまかしてやがる゛! 新たな生命を生み出すにも関わらずなぁ゛!」
テンションが高くなったのか、イカレ野郎は攻撃することを忘れて、大げさな手振りで演説を始めやがった。しかしその内容は無駄に面白くて、俺まで夢中に聞き入ってしまった。
「それに対して、人を殺すシーンは、よほどグロテスクじゃねえ限りほとんど処理されてねえ゛! 爆発、銃殺、肉弾戦、数えりゃキリがねえぜ! さあ、ここまで言えば、俺様の言いてえことは分かるだろうなぁ゛~?」
完全に我を忘れたイカレ野郎は、片目を大きくして恐ろしい表情を顔に浮かべる。俺は既に答えが分かったが、あえて黙ってあいつの言い分を聞くことにする。
「それはなぁ゛、人間は平和に塗れた退屈な人生がキライで、心の底で刺激を求めているワケなんだぜぇ゛! だからこの世界は戦いは絶えず、常に混沌に包まれている! 貴様らが求めている平和や秩序など、この世界には必要ねえんだよぉ!」
やはりな。そうやって屁理屈をこじつけて、自分の「悪」を正当化しようとしてるのか? 笑わせてやがるぜ!
「だからって人を殺していいってわけか? ふざけやがって! もしこの世界はてめえ一人しかいなったら、うまいものも食えねえし、こうして学校を通って言葉を話すこともできねえだろうが!」
「その心配はいらねえぜ。どうせ人間は殺し切れねえほどにうじゃうじゃいるからなぁ。その中から俺様に服従する奴だけを生かして、俺様だけのために従わせてやるよぉ!」
ふぁぁぁっ!! なんなんだこいつはぁぁ!? 非常識にもほどがあるぜ!
もうこうしちゃいられねえ。手遅れになる前に、一刻も早くこいつを始末しなければ……!!
そう考える俺は、力の限りにP2を両手に集め、目の前にいるこの悪の支配者を倒そうとする。
「おっと、やる気か? けど本当にやってもいいのかぁ~?」
「ど、どういう意味だ?」
イカレ野郎の意味深な言葉を耳にして、俺は思わず眉間にしわを寄せる。何だか嫌な予感がするぜ。
「ハッ、これだから熱血野郎は馬鹿だぜ……貴様の後ろを見てみろよぉ!」
イカレ野郎の指示に、俺は一瞬躊躇う。もしかしてそれは俺の油断を誘うための作戦かもしれねえ。
「う、ううう……」
しかし仲間たちの呻き声は、俺の神経を刺激させる。もうこれ以上考えてる暇はねえ。
後ろを振り向くと、そこにいるのは地面に倒れている仲間たちと、何事もなく余裕そうに立っている恋蛇団の連中だった。
な、なんじゃこりゃ……完全に一方的な戦いじゃねえか!
「ククク……フハハハハハァ゛!! 少し腕が上がったみてえだからちっと期待していたが、やっぱ大したことはねえなぁ゛!」
イカレ野郎はムカつく挑発の言葉を響かせ、俺を焦らせやがる。
くそ……そんなバカな! 資質を習得したから、てっきり奴らと立場が同等になったと思って安心したのに、まだ実力が足りねえってのか!
……いや、それもそうか。昨日資質が覚醒したばかりの俺はともかく、何しろほとんどの仲間たちは身に付けてから一日も経ってねえし。
うん、待てよ? 俺たちより早く経験を積んでいた真実の標の人たちはどうなんだ?
心配になった俺は辺りを見回すと、十守先輩と静琉先輩はそれぞれ自分の武器を手に取り、五本の大刀を器用に捌いているゴリラ大男と苦闘している。
「くっ、なかなか強いわねこいつ……これはちょっとキツいかも……!!」
「あらあら、この子いい筋肉してるわね……焼いたらおいしいのかしら?」
「ちょっと静琉! 今はそんな呑気なことを言ってる場合じゃないでしょう!」
……おいおい、こんな時も漫才かよ。本当にこの二人の芸人魂に参ったぜ。
「ごめん秀和くん! あとは自分でなんとかして!」
俺と目が合った十守先輩は、とっさにそう叫んだ。まああんなデカい図体をしてるんだ、無理もないか。やれやれ、やはり頼れるのは自分だけってことか……うん!?
俺はイカレ野郎のいる方向を振り向くと、思わず驚きの声を漏らした。それは何故かというと、あのイカレ野郎の顔はいつの間に俺との距離が縮んで、今にもぶつかりそうだからだ。
そしてそんなイカレ野郎の悍ましいの顔に気を取られていると、突然とてつもなく凄まじい痛みが俺の体に走った。
「ぐわっ!?」
肉体の苦痛に抵抗できず、俺は為す術もなく悲鳴を上げた。殴られるのって、こんなにも痛かったのか。
「バーカ、どこ見てんだよ! 敵の前で余所見をしてるとは、いい度胸してんじゃねぇか!」
悔しいけど、確かにこいつの言う通りだ。何で俺はこんな危険な奴の前で目を逸らしたんだよ!
「今までは遊び半分で貴様に付き合ってやったけどよぉ、もういい加減俺様も飽きてきたんだぜ! だからもう手加減はなしだぜ! 今すぐ、この場で貴様ら全員を……」
イカレ野郎はかつてない気迫を放ち、それを感じた俺の体は緊張した神経に支配され震え始めた。これこそこいつの本気なのか……!
「貶す! 泣かす! 焦がす! 倒す! 崩す! 壊す! 犯す! 潰す!」
テンポのいい言葉と共に、イカレ野郎は容赦なく炎の包まれたパンチを俺に浴びせやがる。あまりにも速いスピードのため俺は反撃する余裕もなく、ただひたすらマトモに灼熱の拳を喰らうだけだった。
それに伴う痛みは、俺の体を蝕み続ける。薄れていく意識の中で俺の名前を呼ぶ声がかすかに聞こえるが、もはや返事する気力すらなくなった。
「そして……殺すぅぅぅぅ!!!!」
「うわあああああああ!!!!!!!」
理性を完全に失ったイカレ野郎は、最後のアッパー決めて俺を吹き飛ばした。地面に倒れた俺の体は俺の言うことを聞くことができず、今できることはただ空を眺めることだけだった。
そしてイカレ野郎の近付く足音が聞こえてくる。トドメを刺しに来やがるのか……?
「へっ、やっと大人しくなりやがったか。それじゃそろそろ、この俺様が貴様に地獄への片道切符をくれてやるよぉ!」
イカレ野郎は恐ろしい血相を浮かべ、片手に黒い炎がメラメラと燃えていやがる。何の反撃手段もない俺は、ただ歯を食い縛って痛恨の表情を浮かべるしかなかった。
くそっ、ここまでなのか……!? まだ17年しか過ぎていない俺の人生には、この時点で終止符を打たれるのはまだ早いだろう!
俺、いや俺たちにはまだやりたいことや、守らねえといけねえものがたくさんあるんだ! こんなところで、やられるわけには……!!
しかし幸運の女神はまだ俺たちを見捨てなかった。新たな奇跡が、またしても降りかかってきてくれた。
そう、この場にいる誰もがこの戦いの結末が決まると確信する、その瞬間だった。
「うおおおおおおおおぉぉぉーーー!!!!!」
遠くの空から響く、聞き覚えのない誰かの叫び声。それが後ほど俺たちを救ってくれる人のものだと、あの頃の俺たちにはまだ知らない。
かろうじて頭を動かすと、目に映るのは大きくて四角い何かだ。下に付いている丸いやつは車輪か。
どうやら空から落ちてくるものはバスみてえだ……えっ、バス!?
菜摘「ど、どうしよー! このままじゃ秀和くんがやられちゃうよー!」
千恵子「落ち着いてください菜摘さん! 空から何かが落ちてきました、もしかしたら援軍かもしれません!」
広多「そううまく行くか? 逆の可能性もあるかもしれんぞ」
直己「おいおい、ポジティブに行こうぜ! あいつらだって援軍がいるんだ、きっとおれたちを助けてくれる仲間に違いない!」
土具魔「けっ! 邪魔が入りやがったか……だがこれで俺様の標的が増えるってわけだぁ! さあ、もっと俺様を楽しませろやぁぁぁ!!!」
秀和(大丈夫かこれ? あの角度だと、俺に直撃しそうなんだけど……)




