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反逆正義(リベリオン・ジャスティス)Phase One——Ten days in heaven(or in hell)  作者: 九十九 零
第2章 ヘブンインヘル転学編・波紋を呼ぶ奇跡
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リボルト#10 轟く雷鳴、怒濤の嵐 Part4 開かれぬライブ

 エレベーターのある倉庫から出ると、いつもの心が休まる光景が目に映る。

 天井から流れる軽音楽のBGM、明るい照明、フードコートから漂ってくる芳しい香り。ついさっきまで俺たちはこの地下で訓練をしていたことが、誰も想像が付かなかっただろう。

「それじゃ、今からご飯を作ってくるから、ちょっと待っててね~それじゃいっこか、ムム」

「うん!」

 相変わらず元気そうなネネは、ムムの手を繋ぐとおもむろに台所に(おもむ)く。あっ、今のはダジャレじゃないぞ!


「あの、もし宜しければわたくしもご一緒に……」

 台所へと向かう二人を見て、千恵子も思わず彼女たちに付いていこうとする。料理人魂が燃えちゃったかな。

「あっ、大丈夫ですよ~千恵子さんも疲れたでしょうし、ここは心置きなく私たちに任せてください!」

「ですが……」

 ムムは手を振るって千恵子の好意を謝絶したが、納得行かなさそうに千恵子は眉間を(しか)める。

 この状況を見て、俺は動いた。


「ほら、千恵子。ここは二人に甘えて少し休んだほうだいいんじゃないか? それにこれからのことについて話もしたいし」

「そうなのですか……畏まりました。それではお願い致しますね、ムムさん、ネネさん」

「うん、まかしといて~!」

 俺の言葉でやっと納得した千恵子は礼儀よくお辞儀をして、食事の調理を二人に任せた。

「よし、それじゃみんなのところに行こうか」

「ええ、行きましょう」

 俺と千恵子は、たくさんの机と椅子が並んでいるフードコートに移動し、空いている席を探すとそこに腰を掛けた。


「ふー、やっと一息付いたぜ」

 座る瞬間に全身に襲いかかる疲労感が、俺の体の動きを鈍くする。思わず背中を椅子に預けて頭を上に向ける。

「そうだね~。今日も色々あったなぁ……知らない人たちがいきなり襲いかかってきたり、地下基地に行って資質(カリスマ)を覚えたり……もうわけが分からないよぅ……」

 だるそうに上半身を机に伏せている菜摘は、あまりの急展開に混乱しているようだ。まあ、無理もないか。

「でもこれで、奴らと対等に戦えるようになるな。ひとまず安心だな」

 腕を組んでいる哲也は、落ち着いた口調で結論を出す。だが彼のことをよく知っている俺は、密かに興奮が潜んでいるのは感じ取れる。

「いいえ、相手は全力を出しているかまだ分かりません。油断は禁物です」

 真面目な千恵子は連日の出来事で精神は緊張しているのか、俺たちに注意を促す。

「確かにそうだな……さっきのイカレた連中、一筋縄じゃ行かなさそうだぜ。特にあのドグマってやつ、要注意だな」

 先程の戦いで奴の不気味な笑いを思い浮かべていると、思わず鳥肌が立つ。これからもあんな奴と戦うことになるんだろうな。

「ああ。ところお構いなしに炎を放ってきたしね。しかも彼も君と同じく、技のバラエティーが豊富だから、気を抜けないな」

 哲也はメガネをぐいと押し上げ、俺の言葉を続けた。ますます気が重くなるぜ。

 そして俺たちの会話に反応して、直己が割り込んできた。


「それだけじゃねえ! あの爆弾野郎も、マジでムカつくぜ! 言いがかりを付けてきた上に、おれに爆弾まで投げてきやがった! これは人間としていかがなものか!」

「覗きをしてるスケベなあんたも人のことを言えないでしょう!」

「うがっ! またハリセンかよ……」

 まるでリハーサルでもしていたかのように、素早いスピードでコントみたいなやりとりをしている直己と名雪。それを見ている俺たちが、不意にクスリと声を出して笑った。

 しかし、そんな喜びも束の間。さっきから頭を埋めている千紗は、何故か急に泣き出した。


「ぐすん……ただでさえあの先生たちは手強いのに、あんな怖い人たちまで敵に回っちゃうなんて……どうしよう……しく……もう、早くおうちに帰りたいよぉ……うえーん!!」

 理性を保てなくなったのか、ついに千紗は泣き崩れてしまった。顔を覆うその両手の底から、氾濫(はんらん)する涙の川が真珠のようにぼろぼろと零れ落ちていく。

「千紗ちゃん……」

 いつになく悲しそうな千紗を見て、さすがにいつもにっこりとしている穏やかな冴香も憂いを隠しきれない。

 そんな中、優奈の声が焦りと共に一気に爆発する。


「あーあもう、泣かないでよ千紗! ただでさえライブに出られないだけでイライラしてるんだから!」

「ライブ? 何のことだ?」

 もちろんそんな細かい情報を俺は聞き逃すことなく、探偵のように更なる情報を引き出そうとする。

「実は私たち、ここに来る前にライブを開催することになるはずでした」

 優奈の代わりに、トリニティノートのリーダーである冴香は俺の質問に返答した。そして一番のファンである菜摘は、すぐさまそれに反応して話を続ける。

「ああ、もしかして例の『トライアングル・ワールド』のことかな?」

「そう、それそれ! 場所もスケジュールも全部決まってたのに、あのバカマネージャーのせいですべてが台無しよ!」

 マネージャー? ますます謎が深まるな。


「いきなり『キャラ作りのためにここで勉強してこい』って言って、大事なライブの前にもかかわらず無理矢理ここに転学させられてきたんだわ! もう、あいつ一体なにを考えてるのよ!」

 腹を立てている優奈は爆発した火山のように、今まで我慢してきた不満を絶え間なく吐き出してきた。

「ええー!? ひどいよそれ! 本当に大人たちは勝手なことをするんだよね……」

 期待していたライブを見られないことを知った菜摘は、目を丸くすると頬をむすっと膨らませた。


 まったく菜摘の言う通りだな。現に俺たちも、大人たちのワガママな思いを満たすためにここに送られたんだし。呆れて言葉も出ねえぜ。

「ですが、一体何故そのようなことを……?」

 千恵子が口にしたのは、この場にいる誰もが考えている疑問だった。確かに、あの時点でアイドルたちを学校に送り込むのはどう考えても不自然なんだよな。

 すると、いつの間にか黙り込んでいた千紗の口からとんでもない言葉が飛び出る。


「きっと……見放されたんだよ」

「えっ?」

「きっとわたしたちは、見放されたに違いないよ! わたしたちより凄いアイドルグループを見つけて、その子たちを気に入ったマネージャーさんはわたしたちを荷物だと思って、ここに送り込んだんだよ!」

 絶望感が伴う重い雰囲気の中で、千紗は睨みながらそう叫んだ。その顔に浮かぶのは恐怖か、それとも憤怒か。

「い、いい加減なことを言うんじゃないわよ、千紗!」

 あまりにも信じがたい話を聞いて、いきり立った優奈は立ち上がり、千紗に負けないほどの声を放った。


「ゆ、優奈ちゃん……?」

「あたしたちは、一緒にここまで頑張ってきたのよ!? 三人で最高のライブを開いて、ファンのみんなを喜ばせるんじゃなかったの!?」

「そ、そうだけど……でも……」

「なのにあんたは、ここでそんな弱音を吐くなんて……見損なったわ!」

「ひゃっ!」

 千紗の弱い返事をものともせず、強気な優奈は凄まじい勢いで両手で机を叩き付けた。その大きな物音は千紗の耳元まで響き、驚きのあまりに彼女は跳ね上がった。

「そうよ、所詮あたしたちは平凡な高校生! ちょっと歌っただけで武道館や紅白なんかに出られるなんて夢の話! いくら頑張ったって、有名な芸能人に勝てっこないわ! どう、これで満足でしょう?」

 自棄(やけ)になったのか、優奈は柄にもなくネガティブなことを言い始めた。あんまにも辛辣(しんらつ)な内容に、千紗はまたしても泣き崩れそうになる。

「そ、そんな意味で言ってるんじゃ……」

「ううん、絶対そういう意味で言ってるでしょう! そうよ、あたしたちは見捨てられたのよ! 身勝手な大人たちにね! 親も事情を知ってるのにまったく止めようとしないなんて、きっとグルなのよ……」

 と、その時。優奈がまだ愚痴を零している途中に、またしても机を叩く音が響く。その無言の抗議はあんまりにも唐突で、沸き上がる優奈も口を閉じた。

 音の源を探すと、なんとそこには意外な人物が。


 ……広多だ。握り締めている彼の片手は、机を叩いた反動によって赤くなっている。その冷たい視線から、わずかに怒りが感じ取れる。

「な、なによ!」

蛙鳴蝉噪(あめいせんそう)だ。そんなことで悩んでいる暇があるなら、とっととその努力をここから出るために使ったらどうだ? せっかく身に付けた力だ、無駄には出来んぞ」

 おお、こいつは驚いたぜ。まさかあの一匹狼の広多は、こんなすげえことを言うとはな。どうやら彼も少しずつ、チームワークを覚えるようになったみてえだな。

 そしてこの好機(チャンス)を逃がさまいと、冴香も勢いに乗って会話に割り込んだ。


「そ、そうですよ! 広多さんの言う通りです! 私たちはここから出るために、こうして先輩たちから何とか資質(カリスマ)を覚えたんじゃないですか! もっと前向きに考えましょうよ!」

「うう……ちょっと悔しいけど、確かにそれも一理あるわね……よぉし、今度あいつらに会ったら、この優奈ちゃんがボッコボコにしてやるわよ!」

 冴香のポジティブ発言に感化されたのか、徐々に優奈は落ち着きを取り戻して、いつもの調子に戻った。


「さっきはごめんね、千紗。ひどいこと言っちゃって」

「う、ううん……気にしないで。わたしも少ししっかりしなきゃだね」

「そうそう、その調子! 二人は仲直りしてハッピーですよ!」

 冴香は優奈と千紗の間に入り、両手を二人の肩に置くと頭を埋め、自分の頬で二人の頬と擦り合わせた。

「もーう、本当に冴香はこれが好きなのよね~。でも悪い気がしないわ♪」

「ふわぁ……冴香ちゃんのほっぺ、あったか~い!」

 そんな女子たち特有のスキンシップを見ている菜摘は、両手を合わせながら顔を赤めてじっと見つめている。愛用のデジカメを出すことも忘れるほどに夢中だ。


「いいなぁ~こういうのって、憧れちゃうなぁ……うわぁ!?」

 そんな菜摘は、誰かに引っ張られて驚きの声を出す。どういうことなのかは大体想像が付く。

「サプラーイズ! どう菜摘、アタシに抱かれてる気分は?」

「もう、美穂ちゃんったら~抱き締めるのはいいけど、先に言って心の準備させてよ~」

「それはダメよ! サプライズじゃなくなるじゃない!」

「あっ、それもそっか」

 不意に美穂に抱かれている菜摘は、幸せそうに寝たふりをしている。なんて微笑ましい光景だ。

 

 しかし何の前触れもなく響く哲也の声に、俺は思わず鳥肌が立つ。

「どうだい、秀和。僕たちも抱き合おうか?」

「冗談はやめてくれ、哲也。肩だけは寄りかからせてもらうぜ」

「ああ、構わないさ」

「そんじゃ、お言葉に甘えさせてもらうぜ」

 全身に襲う疲れを癒そうと、俺は哲也の肩にもたれた。

秀和「ところで、メシはまだか……腹減ったぜ」

菜摘「あっ、いい香り! これはカレーかな……いけない、お腹がぐうう~って鳴ったよ!」

千恵子「もう、食いしん坊なのですね、菜摘さんは。クスクス」

菜摘「だって~、さっきの模擬戦で体力をたくさん使ったから、これぐらいは普通だよ! ううう、お腹が辛いよぉ……」

美穂「でもこれってダイエットにもなるんじゃない? 何キロ減らせるかしら」

菜摘「5~10キロぐらいいけるんじゃない?」

美穂「多すぎるわよ! こんなに減らせるなら苦労はしないわよ!」

菜摘「そうだね~、モデルをやるのも楽じゃないよね~」

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