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反逆正義(リベリオン・ジャスティス)Phase One——Ten days in heaven(or in hell)  作者: 九十九 零
第2章 ヘブンインヘル転学編・波紋を呼ぶ奇跡
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リボルト#10 轟く雷鳴、怒濤の嵐 Part3 貫く信念

 およそ10秒間、このトレーニングルームは痛いほどの静けさに包まれている。どうやらみんなも、緊張のあまりに声が出ないようだ。

 そしてついに煙が散っていくと同時に、俊介の声がはっきりと聞こえてくる。

「やれやれ、まさかここまでやるとは思わなかったな」

 いつも通りの余裕に満ちた声。どうやら命に別状はないみたいだな、よかった。

 よく見ると、俊介の前にはまたしても球体が浮き、シールドが張っている。しかしそのシールドには、ヒビが入っている。もちろん俺はすぐその理由が分かった。


 しかし頭より先に体を動かす壊時には、まだ分からないようだ。

「おお、よく無傷で済んだな、俊介! って、なんだそのヒビは!?」

「弾が飛んでくるのを見てとっさにシールドを張ったが、あまりにも早すぎて、まだシールドが完全に展開する前に当たってしまったんだ。さすがに脆いシールドで防ぐと、すぐに壊れてしまうがな」

 間一髪で俺の攻撃を防いだ俊介は、この短い間に起きたことを冷静に説明する。よくビビらなかったな。

「ひぇ~お前すげーな……オレだったら、ぜってーチビるぜ」

 冷や汗をかいてる壊時は、手の甲で額を(ぬぐ)う。って、チビるのかよ。いくら何でもそれは格好悪すぎるぜ。


 激しい戦いを繰り広げた俺たちの顔には、少し疲労の色が出ている。これに気付いたのか、静琉先輩は手を叩いて俺たちの注意を引き付けてそう言った。

「はーい、三人ともお疲れさまね。今日はここまでにしておきましょう」

 静琉先輩の声を聞いた俊介は、球体を操作して少しずつ下降していき地面に近付いてくる。

 俺はまだ少し物足りないとは思っているけど、気の緩みで突如疲労と筋肉痛が全身を襲うのを感じる。

 まあ、いきなりこんなにたくさんの技を一遍(いっぺん)に出したんだ、無理もないだろう。後でうまい昼飯をたっぷり食べて、どこかでマッサージの機材でも探して体の疲れを癒すとするか。


 ふと腕時計を覗くと、時間は12時51分。さっきの模擬戦でおよそ15分も経ったのか、早いな。そしてたったの15分で、こんなにたくさんの技を覚えるとはな。

「やあ、お疲れさま」

 近くから聞こえる俊介の声に、俺は無意識に視線を彼のいるところに移す。

「おう、お疲れ。さっきは悪かったな」

 俺の乱射で危うく俊介を撃ち落とすところの瞬間を思い出した俺は、申し訳なく彼に謝った。

「いいんだ、気にすることはないさ。むしろ全力で本気を出してくれたほうが嬉しい限りだ」

 それでも俊介は決して怒ることなく、いつも通りに爽やかな笑顔を浮かべている。

「そうか? まあ、こっから出るためにも、中途半端な気持ちじゃ奴らに勝てそうにないからな」

「よく言ったな。その意気で、これからも一緒に頑張ろう」

 そう言うと、俊介は手を差し伸べてきた。俺はその友好の気持ちを受け入れようと、彼の手を握った。

「ああ、そうだな」

 なかなかのいいムードだ。しかし、またしても空気を読まないあいつが物凄い剣幕でやってくる。


「おいおい、さっきからなんなんだよ! 『一本槍』って叫んでおいて、出したのは全部飛び道具じゃねーかバーカ! おかげさまでこっちがどう対応すればいいかわかんねーじゃんか! ちゃんと名前を付けろよ!」

 はぁ~、やれやれ。こんなことで一々キレるなよ。と、そう思った俺は思わずため息をつく。

「壊時、君は授業でよく寝るタイプなんだろう」

 俺は壊時に反論しようとするが、先に俊介が爽やかな声で意味深な言葉を口にした。

「な、なんでそんなことがわかるんだよ……!!」

 そして俊介の推測が当たったのか、壊時は大きく仰け反り、顔から驚きの表情がはっきりと見える。

 慌てる壊時を見て、俊介はニッコリと答える。

「いいか、壊時。『一本槍』というのは、『一つの手段や方法だけを押し通すこと』なのさ」

「な、なんだってぇー!!」

 初耳の情報を聞いた壊時は、頭を抱えて仰天した。これで壊時は納得すると思いきや、次の瞬間に彼はまたしても不思議そうにこっちを見ている。


「……いや、ちょっと待てよ」

「ん? どうかしたか、壊時」

「俊介、今『一つの手段や方法だけ』って言ってなかったか?」

「ああ、そうだが」

「アイツ、さっき新しいパターンを3つも出したじゃねーか! 最初のヤツも含めたら4つだぜ! やっぱおかしいじゃねーかバーカ!」

 壊時は初めての授業を受けている子供のように、質問責めを続けている。

 しつこい気もするが、その鋭い着目点に気付く壊時の素直な感性も大したものだ。

「まあまあ、ただの名前だし、そこまで気にする必要は……」

「るせぇ! お前には聞いてねーんだよ、俊介!」

 俊介は壊時をなだめるも、あっけなく一蹴された。

「おい、どうなんだよ新人! なんとか言ったらどうだ?」

 さーて、どう答えればいいんだ、これ……


「まあ、これも戦術の一つだぜ。槍と言えば本当に槍を出すのって、バカバカしすぎるじゃないか? 敵を(あざむ)くのも、生き残るための術だからな」

「マジかよ……それって汚くねーか?」

「戦いでモラルを追求するのは、自殺行為に(ひと)しいことなんだぜ。それに、敵だって勝つために手段を選ばないだろう?」

「た、確かにそうだけどよ……じゃあさ、『一つの手段や方法』はどう説明するんだよ? お前さっき何回も新しいパターンを考えたから、矛盾してるじゃねーか!」

「矛盾してないぜ。形こそ違うけど、実はやることは同じなんだ」

「ど、どういうことだよ……?」

 話が見えない壊時は、目を大きく見開いてまたしても質問した。いいだろう、それならとことん付き合ってやろうじゃないか。

「もっと分かりやすく説明すれば、どれも『ド派手な技を使って、自由を勝ち取る』ことだ。いくら技を変えたところで、俺の目標と信念は変わることはない。これなら理解できるかな?」

「う、うーん……なーんか分かったような、分からないような……」

 俺の話が少し深かったせいか、壊時は難しい顔をしながら腕を組んで俯いている。


「なるほどな。君のその稲妻は、そんな素晴らしい信念がこもっているのか。まさに槍のように真っ直ぐ貫いているな」

 なんとなく理解できているように見える俊介は俺に心を打たれたのか、彼は明るい笑顔を浮かべ、片手を俺の肩に置いた。

「やめてくれよ、恥ずかしいだろう」

 相変わらず褒められるのに慣れていない俺は、少し照れくさそうに鼻をかいた。

「何を言っている。君が持っている信念だ、もっと胸を張ってもいいぞ」

「そうか。俊介がそう言うのなら、お言葉に甘えさせてもらうぜ」

「ああ、そうするといい」

 いつの間にか、俺と俊介の会話が弾んでいる。哲也がこの場面を見たら、ヤキモチしないだろうな。

 そしてずっとこれを見守っている十守先輩は痺れを切らしたのか、マイク越しの彼女の声が少し呆れているように聞こえる。


「はいはい、親しくなったのはいいけど、まずはあそこから出てくんない? これでも凄く電気がかかるわよ、無駄遣いはやめてね~」

「あっ、すみません、今出ます!」

 我に返った俊介は、慌ただしく返事をし、そそくさと訓練ブースを出ようとする。俺と壊時は彼のあとを追う。

 扉を開けて外に出ると、いつもの面子が揃う。とんでもない成果を身に付けた俺を見て、みんなの顔には驚きと喜びの色が出ている。


「お疲れさま、秀和くん! 今の見てたよ、凄かったねー! まさか一気にこんなにたくさんの技を出したなんて!」

 先に声を発したのは菜摘だった。彼女の双眸(そうぼう)から放つ憧れの目線は眩しすぎて直視できない。

「ああ、マジでかっこよかったぜ! 今回もたっぷりいい映像を撮ったぞ!」

 いつになくハイテンションの聡は、自慢の自製機械をかざすと高らかに言った。

「なかなかやるじゃないか、秀和。僕もちゃんと君の背中を守れるように頑張らないとな」

 そして俺を守ることを誓った哲也の口調は落ち着いているものの、その中にこもっている情熱は容易く感じ取れる。

「ありがとうな。俺はここまで頑張れたのも、みんなのおかげだけどな」

 仲間たちからの熱い言葉を受け取った俺は、軽く頷いて感謝の意を示す。そして俺はすぐさま真剣な顔に変えて、大切なことを伝える。


「けど、本当の戦いはまだまだこれからだ。どんな相手が出てくるかは分からない。資質(カリスマ)を身に付けたからといって、勝利が決まったわけじゃないからな」

「ふん、当然のことだ。これぐらいで浮かれていては、いつか足を掬われるぞ」

 返事したのは広多だ。冷ややかだが力強い彼の声が、俺の心を動かしている。


「ああ。それに……」

「それに?」

 俺が続けた言葉に、菜摘は首を傾げる。

「さっきの模擬戦で腹が減っちまってな……そろそろ昼飯にしないか?」

 俺は片手を腹の上に置いて、力が抜けた声で言った。こんなにキツく感じたのは、去年の体育祭以来か。いや、この模擬戦に比べたら、体育祭なんてもはや足下にも及ばないか。


「それでは、一旦地上に戻って休憩に致しましょうか」

「いいね~、それ賛成! もうクタクタだよ~」

 千恵子の提案を、菜摘は(こころよ)承諾(しょうだく)した。

「それでは皆さ~ん、私についてきてくださいね~♪」

 ムムのかわいい癒しボイスに導かれた俺たちは、何も考えずにトレーニングルームを後にした。

 こうして俺たちは、模擬戦を終えてショッピングモールに戻ることにした。

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