リボルト#09 十人十色、適材適所 Part3 目覚しい成果を遂げる者たち
さて、他のみんなの様子はどうなってるかな?
俺はもう一度視線を哲也のいるブースが映っているモニターに移すと、彼はライオンの激しい攻撃を受け、盾を構えてそれを防ぐだけで精一杯だ。
防戦一方の彼は反撃の糸口が掴めないと思われたが、次の瞬間に起きる出来事がその状況を覆す。
「おっと、なかなかの暴れん坊だね。残念だけど、君が暴れられるのもここまでさ」
哲也は余裕そうな言葉を言い放ちながら、盾を持っていない手でメガネを押し上げている。こいつはいつもこんなクールなのは知ってるけど、まさかこんな時も落ち着いているとは驚いたぜ。
で、哲也の対策はどんなものだろうか?
気になっている俺はモニターを凝視していると、さっきまで余裕綽々だった哲也の目付きが突然鋭くなり、足も地面に食い入るようにしっかりと踏み込んでいる。どうやらあいつも、ようやく本気を出すみたいだな。
だが模擬戦用のライオンも、ただの好戦的な動物だけじゃなさそうだ。そいつは哲也の体勢を崩そうと、一歩後ろに下がると前に飛びかかり、哲也の盾を飛び越えて彼を直接に攻撃するようだ。
しかしその攻撃も哲也に読まれていたみたいで、彼の思うつぼにハマったライオンを見てその口元が緩んでいる。
「ふふん、やはりそう来たか。でも悪いけど、それも僕の作戦通りさ」
自信に満ちた笑顔を浮かべている哲也は盾を掲げた。しかしその盾は、先ほどと様子が違う。青い光沢を帯びているそれが、金属とは異なる魅力を感じる。
そして次の瞬間に、その盾に包まれている青いオーラが拡散し、衝撃波のようにライオンに飛んでいく。滞空しているライオンはその突発的な攻撃を防ぐこともできず、ただ衝撃波に飛ばされただけの運命を受け入れるしかなかった。
だが哲也の攻撃はそれだけで終わらなかった。彼は軽やかなステップでライオンに接近し、さっきのダミーと同じ方法でそいつに容赦ない追撃をした。
重傷を負ったライオンは悲鳴を上げ、そのまま霧のように散っていった。
なるほど、敵が攻撃した時に漏れた精神粒子を盾に吸収して、それで衝撃波を出したってわけか。インパクトは菜摘より少し劣っているものの、敵の油断を誘いやすくていいかもな。
うん? ちょっと待てよ……精神粒子を……吸収?
突然脳裏に閃いた発想が、俺に新しい可能性を与えてくれる。高まる期待も俺の心臓の鼓動を加速させていく。この方法をうまく使えば、敵の精神粒子を利用して逆転できるチャンスが生まれるかもしれないぞ。
とりあえず、まずは哲也から情報を聞き出さないとな。
「おい哲也、さっきはどうやってP2を盾に吸収したんだ?」
「そうだね……盾に吸収したというより、僕は一旦自分の体に吸収してからP2を盾に覆わせたって感じかな。さっきのライオンが僕の盾にぶつけてきた時に、P2のようなものが飛び散ったんだ。それを見た僕は何とか使えないかと思ったら、そのP2がひとりでに飛んできて、一瞬力が溢れるような気がしたんだ」
哲也は少し俯くと、先ほどの戦いでの一連の出来事を回想してその詳細を教えてくれた。どうやら彼も無闇に戦っているわけじゃなさそうだな。
「あっ、そうそう、言い忘れてたわ。他人から漏れているP2は、誰でも自分の体内に取り込むができるのよ」
そして計ったかのように、十守先輩の口からとんでもない情報がちょうどいいタイミングで飛び出る。
「ええ、マジで!? そんなのってありかよ!?」
聡はそんなおいしい情報を聞き逃すわけがなく、ライオンの動きをスマホで生み出したカッターで止めながら大声を出して自分の驚きを示す。
「でも、吸収できるP2の量は人それぞれ違うから、あんまり吸収しすぎるとかえって自分のものまで漏れちゃうから、そこは注意してね」
十守先輩が教えてくれた情報を、静琉先輩が補足してくれた。なるほど、この裏技が利用できる時間や場所は限られてるってわけか。
「まだ一つ大事なことを忘れてますよ。もし負のP2を大量に吸収してしまえば、感情に悪影響が出て戦いに集中できなくなる可能性もありますので、くれぐれもご注意を」
碧の口調は淡々としているが、その内容の重みはちゃんと感じ取れている。そのやる気なさそうな目付きの裏には、一体なにが秘めているのだろうか。
「つまり、あの恋蛇団の連中のP2を無闇に吸収しちゃダメってことか」
「ええ、そうなりますね」
俺は自分の推論を述べると、早くも碧に同意された。正に諸刃の剣ってやつだな、これは。
「ふん、そんな面倒な事をするまでもあるまい。その前に奴らを殲滅すればいいだけの話だ」
そんな時に響いたのは、広多の変わらない冷たい声だった。俺はモニターを覗いたが、そこには広多の姿はない。モニターの故障なのか、それとも……
捕らえるべきの獲物を見つからないライオンは、頭を左右に動かして焦りを見せている。しかし次の瞬間には、どこからともなく現れた銀色に輝く逆さまの鎌の刃が、ライオンの首に襲いかかる。
不意打ちを喰らったライオンは、凍り付いたかのように目の前の鎌を凝視し、身動きが取れなくなった。
自分の勝利を確信したのか、さっきまで姿が見えなかった広多はかくれんぼを終え、冷たい目線でライオンを見下ろしている。
「ふん、いくら鋭い牙や爪を持っていようが、こっちの姿が見えなければ大した脅威にはなるまい」
マフラーに隠れて見えない広多の口元から出た彼の声は、依然として温度が感じ取れない。それだけ敵への憎しみが強いってわけか。
俺の考えを裏付けるかのように、広多は鎌を引き上げた時の力はとても強く、空を切る一閃と共にライオンの頭が体から離れた。
「ふむふむ、姿を隠して敵の油断を誘い、タイミングを計って致命的な一撃を与える、か……これもこれでなかなかいい作戦ね」
広多の一連の動きを目に焼き付けた十守先輩は、あんなショッキングな光景を見てもまったく怯えず、しきりに頷きながら広多のプランを賞賛した。
そしてその時、例のごとくあの男が口を開いた。
「おいおい、たかが模擬戦だろう、ちょっとやりすぎじゃねーか?」
あんまりにも過激なトドメの刺し方に、思わず文句を言う聡。とてもゲームで派手な技を使って敵をなぎ倒す人が言うようなセリフとは思えない。
「模擬戦でも、本気で臨まなければいつかやられてしまうぞ。そんな大事なこと、ゲームで学ばなかったのか?」
俺の思惑通りに、広多はキツい言葉を聡に投げかけた。それを聞いた聡は、動揺した弾みに体を震わせている。
「クッソ、言い返せねー……少しくやしいけど、確かにアイツの言う通りだな」
がっくりと肩を落としている聡は、落ち込んでいる表情を顔に浮かべているものの、いつもの強がりを言わずに広多の指摘に賛成した。
「そんなことを言ってる暇があるなら、目の前にいる敵を仕留めたらどうなんだ?」
それでも広多は勝ち誇った様子をまったくせず、常に戦友を戦いに集中させることを心掛ける。
「い、言われなくても分かってるって!」
まだ自分のブースに残っているライオンを思い出した聡は、少し焦り気味の返事をした。
よく見ると、会話に夢中で攻撃の手を緩めている聡は、既にライオンに何度も引っ掻かれている。ダメージを受けない仕様だからまだ大丈夫だが、もしこれは実戦なら、聡はとっくにあの世行きだっただろう。
「ああったく! おまえもいい加減にしやがれよ! クソ、こうなったらオレも……!!」
あまりにもしつこい攻撃でうんざりしている聡は、もの凄い勢いでライオンの爪をどかすと、両手のひらを上に向けて鷹の爪のように指を曲げた。
「オレの本当の力を思い知れ! 『ツール・ハンド』!」
聡がそう叫んだ次の瞬間に、とんでもない展開が始まった。なんと彼の十本の指から、様々な工具が伸びた。ドライバー、ドリル、レンチ、ハンマー、カッター、ノコギリ、ピック……あとは名前がよく分からないやつだ。
「うおおおおおお!? おいおい、マジかよ!? オレはただ考えただけで、マジでこんなことが起きたのか!? ありえねーぐらいすげーぜ、これ!」
初めて見た自分の資質に、聡はいつもより高いテンションになって浮かれている。手のひらを開いたままでそれをじっくりと見て、興奮した大声がモニターのスピーカーを通して、トレーニングルームの隅まで届く。
「よーし、オレの資質が覚醒した以上、おまえなんかはもう怖くねーぞ! くらいやがれ、超絶無敵電光石火アルティメットスマーーッシュ!!」
相変わらずダサい必殺技の名前を叫びながら、聡は不思議そうに見つめているライオンに向かって走り出す。いよいよ決着が付く時が来たな。
聡は両手を上げ、まるで手術でもしているかのように指の工具を自在に操った。瞬く間にライオンの体は分解されていき、ただP2が霧のように漂っている。
「ハハハッ、どうだ見たか! これがオレの本当の実力だぜ!」
お調子者の聡は、自分の成果を見せびらかそうと誰もが聞こえるほどの笑いを出した。心から素直に喜んでいる人もいれば、やれやれと頭を横に振る人もいる。まあ、俺は腕を組みながら静かに微笑むことにするか。
「おい、はしゃぎすぎだぞ、氷室」
「べつにいいじゃねーか! せっかく秀和みてーに、念願の資質を習得したのにさ! これは喜ばずにいられねーぜ!」
広多の注意にもかかわらず、完全に我を忘れた聡はまだ余韻に浸っている。かたわらから見れば、二人の関係は兄弟と間違えてもおかしくないぐらいだ。
「まったく、お前という奴は……」
さすがに広多もこれ以上口に出す余裕がなく、ただ呆れることしかできなかった。
その微笑ましい光景を見た俺は、思わず口元を緩めてくすっと笑った。
だが目を疑うような奇跡の連続は、まだまだこれからだった。なにしろ、まだ資質が覚醒していない仲間たちがいるからな。
聡「ワハハハハーー!!! マジで気分いいぜ~!」
広多「いつまでそんな間抜けな真似をするんだ、氷室」
聡「そんなことはオレの自由だろう! いちいち聞くなよ!」
広多「実戦でもそんなことをしてみろ。命を落とすことになるぞ」
聡「ハッ! この資質さえあれば、オレはもはや無敵だぜ!」
広多「駄目だな……完全に浮かれている」
秀和「言い方が悪いからこうなるんだよ。いいか聡、ちゃんと経験値を積んでレベルを上げていかないと、これから高いレベルの敵の前じゃゲームオーバーになっちまうぜ」
聡「あっ、確かにそうだな! 気を引き締めていかねーと!」
秀和「ああ、その調子だぜ聡。これからも頑張れよ」
広多「……なるほど、そう来たか。やはり病人を治すには、ちゃんとした薬を使わないとな」
聡「おい、誰が病人だよ! 失礼なヤツだなー」




