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反逆正義(リベリオン・ジャスティス)Phase One——Ten days in heaven(or in hell)  作者: 九十九 零
第2章 ヘブンインヘル転学編・波紋を呼ぶ奇跡
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リボルト#09 十人十色、適材適所 Part2 資質(カリスマ)の安売りバーゲン

 さっきまで制服姿だった菜摘は、いつの間にか赤いジャケットとショートパンツに着替えて、全身もオレンジ色の炎に包まれてる。風に揺れる炎のマフラーは、その魅力をアピールしようと踊り出す。派手さ723%の格好は、まるでアメコミのヒロインと瓜二つだ。

「おおー、これだよこれ! やっぱり戦うならこうでなくっちゃ! これってまさに、『馬子にも衣装』ってね!」

 宵夜と愛名に続いて自分の能力が覚醒した菜摘は、子供みたいに嬉しそうにはしゃぎだす。

 しかし彼女の成功を祝うはずの俺は、とても釈然としない。


「何なんだ、この資質(カリスマ)の安売りバーゲンは。人が命に関わる時に奇跡を起こして覚醒できたのに、なんかこうして簡単に覚醒されると、どうも達成感が薄れていく気がするな」

 そんな俺のつぶやきに、二人の先輩がそれぞれの見解を述べる。


「あらあら、でもよかったじゃないの。ほら、これから一緒に戦う仲間なんだし、早く身に付けた方が、リーダーのあなたにも色々と楽なんでしょう? それに、人間って不思議な生き物なんだから、何が起きてもおかしくないわ」

「静琉の言うとおりね。あの偉そうな先生たちや生意気な蛇っ子たちにどんな苦戦を強いられたか分からないけど、敵は今も鍛えてるはずだから、まだド素人の君たちには、一刻も早く戦力を身に付けてもらわないと困るのよ。まあ幸いなことに、みんなは飲み込みが早い子ばかりで助かるわ」

「うう……確かに一理ありますね」

 先輩たちの正論に、俺は同意せざるを得なかった。


「あっ、菜摘さんは何か技を出すみたいですよ!」

 モニターから目を離していないムムは、中の様子の変化に気付くと俺たちに声を出して伝えた。

 親友が考えた技を、見逃すわけにはいかないよな。よし、しっかりと見届けようじゃないか。


 菜摘は腕を大きく振り、膝を屈めて準備ポーズを取った。そして彼女は迷わずダミーに向かって走っていく。驚くことに、彼女の走ったところに炎が残っているぞ!

「よーし、いいこと思いついた!」

 走っている途中に、菜摘はニヤリと笑ってそう言った。一体何をするつもりだ?

 それを確認するために、俺はモニターを凝視する目を細めた。


 菜摘はダミーに接近する瞬間に、突然元の進んだ方向から逸れて左に曲がっていく。作戦失敗か?

 いや、まだだ。彼女は少しダミーから離れた場所から右に曲がって、ダミーの後ろに回った。そしてさっっきと曲がった方向とは逆でもう一度それを繰り返すと、菜摘はダミーの真っ正面で止まった。


 よく見てると、ダミーはメラメラと燃え上がる四角い炎の陣に囲まれている。たとえそれが生き物だとしても、簡単に脱出することは不可能だろう。

 しかし菜摘の炎の凄さはそれだけじゃなかった。炎の陣が囲んでいる空間の中もやがて熱い炎に満たされ、無抵抗のダミーを容易く消し炭にしてやった。

 すげえ、あの菜摘がこんな技も使えるのかよ!?


「やったー!」

 お望み通りの派手な技を決めた菜摘は、腕を上げると両足が地面から離れるほどの大ジャンプをした。

「ねえねえ秀和くん、今の見た? すごかったでしょうー?」

 自分の格好いいところは、一番気になる人に見せたいもの。もちろん菜摘も例外ではなく、顔をカメラのほうを振り向いて俺に声を掛けた。


「ああ、ちゃんと見てたぜ。とってもかっこよかったよ」

「ありがとう! えへへ、嬉しいな~」

 まるでコンテストの大賞でも勝ち取ったかのように、後頭部を引っかきながら照れくさそうに笑う菜摘。あまりのあどけなさに、とても戦っている人とは思えない。そう思うと、俺の表情は笑顔から悲しい感じになっていく。


 もしこれからの戦いで、俺は大切な仲間たちを失うようなことがあれば……

 いやいや、何を考えてるんだ俺は! そうならないために、こうして俺たちは戦いに備えてるんじゃねえか!


 そんなことを考えているうちに、いつの間にか元の姿に戻った菜摘は床に倒れ込んで、力が抜けた顔をしている。

「うわ、もうダメ~疲れたよ~」

 菜摘は力の限りにそう漏らした。さっきのアレでかなりの精神粒子サイキック・パーティクルを使っちまったのか? まあ、あれだけ派手な変身や技だし、初めての覚醒にしては割といいほうなんじゃないかな。

 しかしどうやら、先輩はまだこの結果には満足できないようだ。


「さ~て、ウォーミングアップも済んだことだし、そろそろ本格的の腕試しといこうかしらね」

 十守先輩は仲間たちの更なる成長を密かに期待し、両手を擦り合わせるとキーボードを弄り出した。

 するとどうだろう。さっきまでサンドバッグのように散々いじめられてたダミーは、なんと恐ろしい猛獣に変貌したぞ!


「ひゃあ! なにこれ!?」

 不意打ちを喰らった千紗は、すぐさま体が震え始め、足が竦んで尻餅をついた。


 それもそのはず。ライオンの姿を持つそれが、誇らしげに自分の(たてがみ)を揺らし、雷鳴のような咆哮で周りにいる者たちを威嚇している。その恐ろしい雰囲気が、昨日のサバイバルバトルのイヤな光景を思い出させる。


「やっぱり普通のダミーだと、なかなか緊張感が出てこないわよね。人間は極限状況に置かれるとどれほどの潜在能力(ポテンシャル)を発揮できるか、この目で確かめさせてもらうわよ」

「でもこんなのにやられたら、一溜まりもないですよ!?」

 必死に敵の攻撃を躱そうと右往左往している名雪は、大声で気掛かりを叫ぶ。


「あらあら、それなら大丈夫よ。ちゃんとダメージを喰らわない仕様にしてあるから、思う存分戦っていいわ」

「そ、そんなこと言われたって……よっと!」

 静琉先輩の優しい言葉遣いで何とか安心できたが、殺気の溢れるライオンの前じゃ到底理性を保つことはできない。

 それでも直己は機転を利かせて、逃げている途中で何もなかったはずの空間でブロックのような足場を生み出して、猿のように上に登っていく。


「へへっ、おっさき~!」

 全力で走っていたライオンはとっさの策略に反応する余裕もなく、頭がまともにブロックにぶつかってしまった。しばらくしてようやく体勢を立て直したものの、鋭い爪を持つ野獣もツルツルした壁に登ることができず、ただひたすら腕を伸ばして拙いジャンプを繰り返しているだけだった。


 一方直己のほうは、ブロックに座りながらコミカルな動きをしているライオンを見下ろし、ゲラゲラと嘲笑っている。

「へ~、やるじゃない。うまく回避したわね」

「おれの作戦は、『ヤバいやつに見つかったら即逃げ』だ! マトモに戦うだけ無駄なんだよ、こういう時は。そして……」

 直己はウインクしながら得意げに先輩に返事すると、急に彼の目付きが鋭くなり、まるで獲物を捕獲している狩人(かりうど)のようだ。

 彼の視線を追うと、さっきまで威勢のよかったライオンが、いつの間にか疲労で息を切らしている。


「……弱ったところで一気にトドメを刺す!」

 その言葉を放った瞬間、直己は既に両手に鉄の(チェーン)を巻いて、ブロックから飛び降りた。重力の作用で彼の落下速度も早くなり、みるみるライオンに近付いていく。

「はああああああぁぁぁ!!! これでもくらいやがれ!」

 勇ましく声を上げる直己は、鉄の拳(アイアン・フィスト)をライオンの頭上から素早いスピードで下ろし、ハンマーのようにそいつを地面に叩き込んだ。うわ、何とも痛そうなパンチだ。

 そして事実も直己のパンチの強さを証明し、倒れたライオンはそのまま霧のように散っていき、チョコ一つ食べる間で姿は完全に消えた。


「へー、あんた、意外とかっこいいところあるじゃない」

 いつも直己にツンツンしてる名雪も、珍しく彼のことを褒めた。

 しかし彼女のありがたい言葉を、直己はいつもの減らず口で台無しにする。

「へへっ、まあな! まあ、覗きがバレて名雪から逃げてると思えば、どうってことないさ」

 そして真面目な名雪も直己の冗談を真に受け、火を点けられたガソリンのように燃え始めた。


「あ、あんたね……それって私が野獣のように恐ろしいってこと!? もう、前言撤回よ! 後で絶対にボコボコにしてやるんだから!」

「やべっ! 名雪は野獣と違って、美少女を殴るのはおれのルールに反するぜ……こりゃ参ったな」

「いい加減にしなさいよ! みんなの前でそんなハレンチなことを言うんじゃないわよ!」

「なんで? 美少女だと褒めてるんだぜ、いい加減察してくれよ」

「それがハレンチだと言うのよ! まったく鈍感なのね……」

「名雪に言われたくないな」

 いつの間に、この空気が直己と名雪二人の言い争いに支配されてしまった。


「はいはい、痴話喧嘩はこれぐらいにして、目の前の敵に集中しなさい……ぷふふ」

 十守先輩は二人を軽く注意したが、手のひらで口元を遮っているその仕草から、密かに笑っているのがバレバレだ。

「だ、誰が痴話喧嘩を……きゃっ!」

 恥ずかしさのあまりに名雪は反論しようとするが、空気を読まない敵の襲撃がそれを許してくれなかった。

 しかし敵が、これが名雪の資質(カリスマ)を覚醒する引き金になるとは、知る由もなかった。


「もう、人は真面目な話をしてるのに、邪魔するんじゃないわよ……!! えい!」

 右手に分厚い本を持っている名雪は、左手をかざした。するとそこから魔導波のようなものが出現し、ライオンに飛んでいくと爆撃が起きた。次の瞬間に見えたのは、少しずつ立ち上がる(けむり)だった。

「う、うそ!? 今ので出来たの?」

 思わず目を疑う現象に、名雪は何度も自分の左手を確認した。真面目な彼女が初めて見た超現実的な魔法を信じるには、まだ少し時間がかかりそうだ。


「あらあら、まさかあんな形で資質(カリスマ)が覚醒するなんてね……あの二人、脈アリだと思わないかしら、十守?」

「ふふん、あたしはいい感じだと思うわよ。これからも要注意ね、静琉」

 先輩の二人が、ひそひそと耳打ちをしているが、マイクのせいで完全に聞こえてしまう。なかなか物好きな人たちだな、やれやれ。

 もちろん当事者である名雪もそれを耳にしてしまい、頬だけでなく耳元まで赤くなってしまう。


「ちょっと先輩、聞こえてますよーー!!」

 名雪のその一言で、場の空気は一瞬にして笑い声に満ちていた。もはや今の状況を忘れてしまうぐらい、明るくなっていく。

 そう、この生き地獄である学校のことさえもな……

十守「ああ~、やっぱ青春っていいわね。あたしもあんな感じの学生生活を過ごしてみたかったわ~」

静琉「十守はまだ若いし、まだまだハッスルできるわよ」

十守「そうそう、ハッスルハッスル……って何言わせるのよ!」

静琉「あらあら、十守が勝手に言い出したんじゃない。ねえ、お二人さん?」


直己「お、おれは何も聞こえてないっす」

名雪「とぼけないでよ! ……はい、確かにそう言いました」

静琉「あらあら、素直でいい子ね。さすがは見込んだだけのことあるわね」

十守「しーーずーーるーー!! またあんたのせいであたしがひどい目に……!!」

静琉「あらいいじゃない。意外な一面を見られると、人気ポイントがアップするのよ」

十守「じゃああんたの意外な一面は何なのよ!」

静琉「あら、知りたい?」

十守「そりゃ決まってるでしょう! いい加減教えなさいよ!」

静琉「本当に知りたい? 考え直したほうがいいわよ……後悔する前に」(ギラリ)

十守「ごめんなさいやりすぎましたすみません」(土下座)


名雪「あ、あの先輩、一体何者なの……」(ブルブル)

直己「普段はおっとりしてるのに、怒るとマジでこえーぜ……けど逆にそれはそれでいいんだよなぁ……そそるぜ」

名雪「この変態! そこで直りなさい!」(ハリセンで叩き込む)

直己「ぐはっ!」

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